『つよきす Full Edition』レビュー ゴキブリをかばう前代未聞のヒロインに腹筋が震える

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 *前半は作品紹介、後半は感想。

  

 

1)可憐でお淑やかなヒロインなんてものは存在しない

 

あなたはゴキブリを庇い立てるヒロインに出会ったことはあるだろうか? 私は『つよきす』をプレイするまでただの一度もお目にかかったことはなかったし、これからも出会うことはないと思う。

だって、あの、黒光りする生物だぞ? 

見つけたら即刻悲鳴を上げながら殺虫スプレーを撒き散らし残骸をゴミ箱にいれるのすら嫌悪を催す存在を、例え、一時でも守りぬいたヒロインなんてそうそうお目にかかれるものではない。物語至上、一体何人の女の子がゴキブリを庇い立てる暴挙に走っただろうか。(もちろん相応の理由はあるのだけど)

 

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――『つよきすFull Edition』(CandySoft-きゃんでぃそふと-)

 

そんな「ヒロイン」という像からどこまでも掛け離れたヒロインが登場するのが本作であり、強気で勝ち気でわがままで――一筋縄ではいかない――女性陣が待ち構えているのも『つよきす』の醍醐味である。

可憐でおしとやかなヒロインなんてものは存在しないのだ。存在するのは何かにつけて主人公をしごく上級生(体育会系)、主人公を手駒として扱う生徒会長、滅茶苦茶口が悪い幼なじみ、ガンをつけてくる後輩などなど。

彼女たちによって男性主導の男女関係は終焉を迎え、女性主導の男女関係がはじまっていく……というと大げさだけど女性の立場が強い作品である。

 

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 ――http://www.candysoft.jp/ohp/01_products/tuyokiss/chara/character.html#nagomi

 

一見すれば、癖の強そうな女性ばかりなのでストレスのかかる物語なのかな?と疑心暗鬼になってしまいそうだが、これが最高なのである。

女性に主導権を握られるというのは尻に敷かれるのと同義ではあるが、合意の上ならば安心感に変わる。気軽に甘えられるということでもある。まるで「姉と弟」のような、その延長線上のような恋愛。案外これはこれでいいものだなと気付かされた。

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『ランス03』レビュー 正直おすすめできない作業作業RPGだった。(9417文字)

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1)なぜランス03はこんなにも作業ゲーなのか

 

『ランス03 リーザス陥落』(以下ランス03)をプレイしたものの、序盤から終盤までひたすら「作業」感の強い作品だった。楽しむとは縁遠いゲーム設計であり、面白いか?と聞かれれば面白くないと答え、おすすめできるか?と問われればおすすめできないという返事になる。

こうなった最大の原因は「自由がない」ことに尽きると思う。

本作はRPG+ADVと銘打たれており、ストーリーに沿いながらカード形式のダンジョンを探索し敵と戦うシステムを採用している。つまり①ADVパート、②コマンドパート、③MAP移動パート、④ダンジョン探索パート、⑤バトルパートによって『ランス03』は形作られている。

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物語における『視点取得限界』を考える(24463文字)

*Charlotte』『アオハライド』『プロポーズ大作戦』『いろとりどりのセカイ』『Re:ゼロから始める異世界生活』『恋色空模様』『はつゆきさくら』のネタバレ注意。  

 

 

視点・取得・限界

 

いずみの氏が言う『視点取得限界』について考えたくなった。

 

togetter.com

 

上記事は一言でいえば「劇中の視点と読者の視点は違う」というお話だ。

例えば『W.L.O.世界恋愛機構』の主人公・黒田祐樹を見て「どこが平均より劣っている男の子なんだよめちゃくちゃイケメンじゃん」という言う者はいるが、それはあなたから見える黒田祐樹の姿であって、劇中にいるキャラクター達から見える姿ではない。

例えば漫画で使用されるトーンを指して「こんなグレーな肌の人いないよ」と言う者もいるが、それはあなたの視点であって漫画世界の視点ではない。

例えばADV特有の皇帝液射出時における白画面フラッシュを指して「こんな現実で起きたことないわ」と言う人はいるが……あの、もういいよね? 何で私はこんな馬鹿げたことを説明をしければいけないのだろう。

つまり「劇中の見え方」と「自分の見え方」を区別できず、理解できない者がいるということであり、そしてそれは情操教育が育まれてこなかったせいではないか? という内容になっている。

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レビュアーは返り血を浴びる覚悟がなければならない。しかしそれを自覚したレビュアーほどやめていくのだ(2305文字)

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*「レビュアー=作品を語る者」と本記事では広く定義する。

 

 

レビュアーもまた評価を下される身である

 

作品に感想・批判・評価を下していくレビュアー。一見すれば作品を<従>にし自身を<主>にするその在り方は、お気楽で威勢のいいように見えるかもしれない。

しかしレビュアーもまた、他の読者によって評価を下される身なのである。

 

例えばW.L.O.世界恋愛機構で「どこが主人公平均以下の人間なんだよイケメンじゃねーか」と否定すれば「劇中視点ではなく自分視点でしか物語を捉えられない鰯頭」と否定されるし、はつゆきさくらに「ナツユメナギサみたく考察できる要素がなかったのがダメだった」と評価を下せば「本作もまたナツユメナギサと同じくらい考察すべき点はあるのにそれに気づけないのはお前に読解力が無いからだ」と評価を下され、こなたよりかなたまでに「なんで能力バトルを最後まで続けなかったんだよ」と批判すれば「作品が描きたいものとお前が見たかったものをごっちゃにするな」と批判されるし、Charlotteに「伏線回収できていない」と怒鳴れば「作品の筋しか楽しみ方を知らない豚野郎!」と怒鳴り返される。

NOeSISは哲学要素を含むのだから文章が難しいのは当然だと主張すれば、「こんな薄っぺらい浅学非才な作品を哲学だと語るとはいかにあなたが哲学を学んでいないのか分かりますね」とか「まさかこの駄文が駄文であることすらも分からないんですか?ろくに本も読んだこともなければまともなノベルゲームもやってないんでしょうネ」とド突き回されカチンとくるものの実際その通りで愛読書が『恋空』だったら死にたくもなる。

 

 

何かを「いい」と褒めただけでその程度の作品を「いい」と思えるなんて可哀想……何かを「悪い」と否定しただけでその作品の価値に気付けないなんて可哀想……という視線に晒され続ける地獄がここにはある。

もちろんお粗末な考察を提出すれば「お前がやっているのは今後の予測展開だろうが」と馬鹿にされるし、amebaブログ特有の「1,2行書いたら段落空け」でだらだら要領を得ない文章を書いていれば頭悪い人なんだなと思われ、未プレイ者の好奇心をくすぐれない作品紹介を書けば「Wikipediaをコピペしたようなこれが作品紹介とか勘弁してよw」と嘲笑されるのである。

2016年にもなってVNI形式のレビューを上げれば「気持ち悪い」と一蹴され、そのVNIレビューに管理人が擬似人格として出張れば「気持ち悪い」と唾を掛けられ、否定されたことに根を持ってじゃあ見るなよと怒り出せば「駄サイクルお疲れ様」と冷えきった目で見つめられるものだ。

そういったあらゆる否定に怯えてあらゆる作品に高得点をつけていれば、「目が腐っている」「作品批判する力もないのかこの人」と見下されるのも日常茶飯事。よくいるでしょ?そういう日和見なレビュアー。低評価をつけないのが美徳だとでも思っている哀れなレビュアー。

10年レビュー活動を続けているにも関わらず文章力が壊滅的で小学生が書いたのか?と指摘されるようなテキストサイトとか、物語の読み込みがてんでダメでダメダメで新しい視点を切り開くことも出来ないアニメブログとか、規範批評しか知らない多くのツイッタラーとか。

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