累計800,000ダウンロードされた『NOeSIS』の文章レベルが低くてGiveUpしたお話
(1)NOeSIS 感想
2016年2月に『NOeSIS〜嘘を吐いた記憶の物語〜』(以下NOeSIS)をプレイしたのだけれど、その文章力の低さに思わず投げ出してしまった。結局、全4章中1章しか読み進められなかった思い出がある。
ノベルゲームにおける「文章」を「物語を牽引するオブジェクト」と定義すると、『NOeSIS』はその牽引力の低さによって表現されている「物語の中身」「世界観」に触れる前にストレスを憶え拒絶してしまうものになっている。プレイヤーを物語の最奥まで引っ張ってくれるはずの牽引オブジェクトはその役割を果たさず、むしろ、躍起になってこちらの読みを妨害してくるようでさえあった。
例えば、これは妹ちゃんがパロールについてお話している所。
――千夜の章前編/NOeSIS〜嘘を吐いた記憶の物語〜
もしかしたらこれだけでは、「別段普通じゃない?」とか「ちょっと日本語が不自由だけど読めるよ」とか思うかもしれない。私もそう思う。けれどサブリミナル効果よろしく大量に積層したこのテキストを読むとなると潜在意識下に負荷がかかって読めなくなっていくのだ。一つ一つの文章のレベルがどうのこうのというよりは、全体としての文章の牽引レベルが低いと言うとしっくりくるだろうか。
本当に読み進めるのが辛かった。今まで「文章」を原因にして「途中で作品を放り投げる」ことはなかったんだけど『NOeSIS』はうーん……ってなってしまった。今からでも再プレイするか?……と考えるものの↑の文章を数分読んでやっぱムリ。キツイ。それくらい『NOeSIS』は作品外形(=文章)がストレスなので、作品がつまらないつまらなくない以前の問題なのである。
逆にいえば、この文章そのものを別チームが書き直したり、あるいはアニメ化という映像作品によって作品外形を別物へ換装したならば楽しめちゃうことだってあるかもしれない。
繰り返すが、私が不満を憶えたのはその「作品外形」なのである。物語の中身には言及していないし、物語の中身に言及できなくしたテキスト自身を指摘している。
私に合わなかっただけなのかなーと思いつつ、どうもそういうことではなさそうなのでそこらへんも語っていきたい。
……
というか、そもそも『NOeSIS』って何?
(2)『NOeSIS』(ノエシス)って?
『NOeSIS』はクラシックショコラによって制作されたフリーノベルゲーム、またはそのシリーズ名である。
現在
- 『NOeSIS〜嘘を吐いた記憶の物語〜』
- 『NOeSIS02-羽化-』
この2つが公表されておりWindows・Android・iPhoneにて無料でプレイできる。さらに『NOeSIS -嘘を吐いた記憶の物語- 』はガンガンONLINEでのコミックス化、小説化、ドラマCD化されておりフリーゲーム大賞2011では大賞を受賞しAndroidのDL数は累計80万*1を超えたとのことだ。
DL数・メディアミックス・高い評価を見ればわかるように、本作は人気ノベルゲームと言っても過言じゃないだろう。
↓
(いずれのコメントも[2016/02/12]で最前列に表示されているもの)
Androidアプリレビューでは7954件★★★★(4.7)であり、フリーゲーム夢現における総合得点は90.7点*2を獲得しておりその実力の高さは伺える。
しかしErogameScape(批評空間)においては中央値/平均値「61/63」が指し示す通り、その評価は芳しくない。上述した2サイトの高評価が疑わしく思えるほどにやや低め。
中央値 61
平均値 63
データ数 26
標準偏差 16
最高点 98
最低点 30
giveupした人 5(17%)
積んでる人 2(6%)――NOeSIS -嘘を吐いた記憶の物語- ErogameScape(2016/02/12のもの)
(批評空間に投稿されたコメントを一部抜粋)
50点
(GiveUp) 序盤からウケ狙い一切無しのピュアピュアで、クソマジメで、それでいてものすごく自然体な中二病の嵐であえなく撃沈。だって誰と何を喋ってるのかわかんないんだもんw中二病は中二にとっては間違いなくカッコイイ訳で、つまりAndroidのユーザー層とは対象年齢的に合致するのかもしれないが、最低でも18歳以上のエロゲプレイヤーにとっては厳しいものがあると思う。ネタでやってるなら良かったんだけどね。
55点
Android 界隈で話題になったフリーウェア。Windows版も有。テキストは「リアル鬼ごっこ」級。概して日本語がおかしい。言い回しに強い違和感を覚えること多々。しかし某所の高評価が示すように、ホラーとしての臨場感や読者を惹き込む力等、褒められる箇所も多々あって、その極端な玉石混淆ぶりが当作の評価をとても悩ましいものにしている。携帯小説的な突飛な設定や展開、テキストが容認できるなら、作品を楽しむことができるのではないだろうか。尚Windows版には改行エラーによって不正終了する致命的なバグがあり、作者による修正も有志によるパッチも現状見込めない為、そちらのプレイにはユーザー側での自己解決が必要とされる。※追記。ver.1.11にて件の箇所のbugfixを確認。4ヶ月放置だったがようやく…。
ギブアップした身だが頷ける所は結構ある。文章・日本語がおかしいと感じるのは私だけではなくわりと普遍性あるものなのだろう。確かに酷いもの。
そして上でも語られているが、Androidレビューを利用する「Androidユーザー」と批評空間を利用する「エ口ゲ批評空間ユーザー」の評価の差は、そのサービスを利用しているユーザー層。
つまり『消費市場』の違いではなかろうか。
(3)消費市場が異なることで評価もまた変わる
以下の記事を読んでほしい。(太字は私が付けた)
参照→価値は “消費市場” にあり - Chikirinの日記
では、先進国は何を売りにするのか?
先進国は「消費市場の成熟度・洗練度合い」を売りにするんです。
典型的なのが、昔良く使われた「全米が泣いた!」という映画の宣伝コピーです。
これは、「アメリカは映画消費大国であり、アメリカの観客は長年にわたり、数多くの映画を見ている。その観客がみんな泣いたのだから、この作品は感動大作である」と言いたいわけですね。
「カンヌ入賞作品」という言葉も同じです。
カンヌ映画祭が認めた映画は、元々の製造国(映画の製作国)がどこであれ、ヨーロッパの“意識高い系”の知的階級が認めた映画だと認定されます。
上記記事は「先進国は製造国ではなく消費市場を売りにしよう」というお話であり、目には見えない『消費市場』がいかに価値があるか分かる内容になっている。ここでは国ごとの特定媒体の消費市場に焦点が置かれているが、それはなにもたったひとつものというよりは国内における散らばった市場の平均的・総合的なものなのだと思う。
例えばノベルゲームといっても商業なのか、同人なのか、フリーゲームなのかといった具合に販売形態はそれぞれであり、そこからBL、百合、抜き、泣き、鬱、ハーレム、寝取られ、シナリオゲー、萌えゲー……といった具合にジャンルは多種多様であり、消費するユーザーもまた異なっている。ひとえに「ノベルゲームを消費する」といっても、そこにはそれぞれの消費市場が存在しておりそこで売れる作品ないし売れない作品嗜好される作品ないし嗜好されない作品と大きく違ってくるはずだ。
踏まえて『NOeSIS』がAndroidユーザーに高評価でエロゲ批評空間ユーザーに評価が芳しくない理由も、これ説明がつくのかもしれない。
1つ目は、求められているものの差。
序盤しか『NOeSIS』をプレイしてない私は正直何も語れないのだけれど、Androidユーザー層にHITするものがあって、逆に批評空間ユーザー層には無かったのではないかと考える。
2つ目は、消費市場の成熟度の差。
アメリカは映画消費大国だからこそその観客が泣いた作品は見る価値がある――という価値が生まれるように消費市場の成熟度が高い(=消費するユーザーの目利きが厳しい)と粗雑で稚拙なコンテンツは受け入れられなくなっていく。逆に消費市場が成熟していない場合はレベルの低いコンテンツでも受け入れらていくようになるだろう。ここを一言でいえば、コンテンツに求める水準が高いか低いかに尽きる。
この流れで語るならば、つまり、Androidアプリ消費市場ではノベルゲームを数本しかやったことがない・質のいいノベルゲームに触れたことがないユーザーが付ける点数だからこそ『NOeSIS』は高評価になり、逆にエ口ゲ批評空間消費市場は数十・数百本ノベルゲームをプレイした人たちが付ける点数だからこそ厳しく・目利きされるために低評価になってしまう。
特に批評空間の点数構造だと自分が今までつけてきた点数の比較――Forestは100点にしたからギャングスタ・リパブリカは98点にしとこうかなみたいな意識――が働きやすく、かつ過去につけた点数が他ユーザーにオープンになっている所がより作品の点数付けを厳しくさせる環境にあると思う。(ただ批評空間で中央値が高得点な作品がイコールで目利きされたものかは甚だ疑問な場合もあるけど、少なくともAndroidアプリ評価場よりは厳しいと思う)
「求められるコンテンツの差」「消費市場の成熟度」この2つが混ざり合った結果として、Android消費市場とエロゲ批評空間消費市場ではADV『NOeSIS -嘘を吐いた記憶の物語-』の扱いが違うのではないだろうか。
*追記
2016年2月に観たときにはなかった(フリーゲーム夢幻に掲載されている)紅月氏のNOeSISレビューを見つけたので、引用してみたい。
(前略)
・シナリオ、ストーリー
ギャルゲーや18禁ゲームの溢れている昨今、こんなシナリオやストーリーは見飽きています。
どこかで見たような主人公、どこかで見たようなヒロイン、どこかで見たような敵。
それ自体はいいんです。様々なゲームや漫画が溢れている現在のこの業界で、新しいキャラクター性を生み出す方が難しいですから。
ただ、私が一番気になったのは読者に全然優しく無いことです。
小難しい話を並び立てて作者(とゲーム内のキャラクター)だけが理解して先に進むあの感じ。
非常に気持ち悪く不愉快でした。
終始置いてきぼりを食らったような感じで進めてわけもわからず終わったような印象です。
本当は星1つにしようと思いましたが、日常パートととりあえず話が完結している事で+1です(中略)
・オリジナリティ
特に物珍しさは感じませんでした。
しかしながら、ギャルゲーに手を出して間もない人には目新しく感じるかもしれませんね。
私はギャルゲーも18禁ゲームも手を出していますので、こういう設定やキャラクター性は見飽きています。
・総評
フリゲという媒体で出したことで注目が集まり、マーケティングに成功した良い例ではないでしょうか。
普段こういうゲームをプレイしたことの無い層に、物珍しさから受け入れられたのではないかと思います。
こんなの有料で出せばワゴン行きのクソゲーです。
金払いたい人も居るようですが、私はこのゲームに金を掛けるのは絶対に御免です。
他にもっと面白いゲームあるので、そっちに金払ってやります。
過剰な評価のされている作品であると私は思います。
今このゲームが面白いと言ってる人は、おそらく名作や神作に出会ったことが無い人ではないかと思います。
今後名作といわれるギャルゲーや18禁ゲームをプレイすることで全然違う見解になると思いますよ。
「キャラクターだけが理解して物語が進行する」様子は私にも心当たりがあって、この記事の冒頭でも言っている「文量牽引力の低さ」「日本語のおかしさ」が由来なんじゃないかなと思う。理解させる気がないとかそういうことではなく、恐ろしいくらいにレベルの低さが理解を遠ざけているテイストになってしまっている。正直いってそこそこいくらかの小説・物語読んでいれば本作は駄文といって差し支えないレベルである。
そして氏の言うとおり、確かに陳腐な造形のキャラクターだらけであり、正直食傷気味というのも私も感じられた。そこに何かしら前衛的要素が加えられたわけでも、ディティールを拘り抜かれたわけでもないし、単純に魅力的な登場人物とは言い難い。紋切り型の人間像を眺めているのは辛かった思い出だ。
好きな人には悪いんだけど、これ携帯小説『恋空』『Deep Love 〜アユの物語』と同じで、読者が育っていない――ノベルゲーム(≒ギャルゲー)を全然知らない人達に――Android/フリゲ市場でたまたま運良くHITした作品のようにしか思えてならない。
おわり
さてそんな『NOeSIS -嘘を吐いた記憶の物語-』はフリーゲームなので、もちろん今からすぐにプレイできる。
リンク貼っておきますので、興味あればどうぞ。
この記事呼んでる読者さんは、本作の「文章牽引力」、気になるのかならないのか気になる所。どうですか?
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メディアミックスのこの量。
*1:NOeSIS 嘘を吐いた記憶の物語 - 漫画 - ガンガンONLINE | SQUARE ENIX
*2:2016/02/12時において149レビューでの総合得点