人口の激減にともない「労働力」も激減の道を辿っていた。
もちろん人間だって手をこまねいたわけではなく、自らと同じ姿の生き物――亜人――を試験官から生成することで労働力の補填を狙ったのである。そうしてあらゆる仕事が亜人に流され、危ない仕事も亜人に任せるようになった現代。21XX年。
亜人がいっぱいになったこの世界で、主人公・亜人でお送りするのが人間性追求ADV『Humanity』*1である。
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本記事は、複数√のうち1√をプレイできる「Humanity 一本道エディション(体験版)」の感想。
Humanity(一本道エディション)の感想
先述したように『Humanity 一本道エディション』(以下Humanity)は、試験管で生まれた亜人たちが人間の労働力となり、道具のように扱われている世界のお話だ。
やはりそこには人間からの差別や確執があったり、人間と亜人の差はどこにあるのか?と悶々したり、"人間性"とは何か?を追求していくのかなと思いきや全然ないのである。
劇中では「昔、亜人はこういうふうに差別されていた」とか「亜人はこちらの校舎に入ってきてはだめだろう」とか「俺たち亜人だからなー」みたい主張はそこかしこにあるのだが、『Humanity』はそんな世界の事情なんてどうでもよさそーっに少年少女のお馬鹿な日々しか描かない。
くる日くる日も頭がゆるい作蔵とオカマな連がワイワイ騒いでいるのをやれやれと傍観する与一の三人+αがドッジボールして、金魚育てて缶けりしてご飯食べてランプの魔人を呼ぶ毎日なのである。シリアスな展開なんてどこにもない日常!日常!日常!のフルココンボ状態。本作が謳っている「人間性追求」はほぼ無いときた。
ただし、欠陥品(=亜人)である自分たちがこの島で誰にも見咎められないことや、この島自体の不可解さについて与一が思考していることから、もしかしたら神林永遠子√や夏木えみ√ではしっかり「亜人世界」や「人間性」の意義を描いているのかもしれない。
なにが彼女を変えているのか。ずっと気になっている。
作蔵や蓮。
俺たち三人だってそうだ。
いつから叫び、走り、飛ぶように遊ぶようになったのか。
歯車として作られたはずなのに、
日を追うごとに歯車とは似ても似つかない、
不格好な部品になりつつある。決して良い兆候じゃない。
なのに、誰も止めない。
止める人間もいない。この島は、どうも本土とは違う。
一体なにを考えているのか。
なにを企んでいるのか。背後になにがあるのか。
やめよう。
少しくらいうるさい亜人がいても悪くない。
少しくらい金魚と犬が好きな亜人がいてもおかしくない。
そう思うことにした。
――与一/Humanity
だが、 少なくとも一本道エディションでプレイできる鷺洲彩√に至っては本当に、ただの、日常ゲーとなっている。
もしかしたら本編に収録されている別√も鷺洲彩√と同じく、その世界観が100%生かされることはなく、どこまでも「日常」を魅せるものなのかもしれない。(実際どうなんだろうか)
とはいえ、それでいいのかもしれない。
世界の現状、成り立ち、自分らの境遇などお構いなしに日々の営みだけを送り続けるというのはある意味新鮮で、なんだか私にはおかしみさえ覚えたからだ。「私達が生きている場所ってMacroじゃなくてMicroだよね? だったらMacroな世界なんてホントはどーでもいいし大事なのは今立ってる場所じゃん」という感じに。自身の先天的属性が他者から差別される風潮にあろうとも、今この時間は楽しく笑っていられているのだ。世界から亜人が迫害されていようとも自分と周りの友人たちにその被害は出ていないのだから、一体何を気に病む必要があるのか? 問題の因子はあろうとも問題自体は起こっていないのに何を思い煩う必要があるのか? そういうことだ。
そして時にお腹を抱えて笑ってしまう本作はそれはそれで悪くないのかもしれないなと思えてしまう。神林永遠子を落とし穴にはめようとした時の与一の噓告白シーン、あれはホント最高だったよね。ずっと笑ってたよ。(作蔵と蓮の連携プレイがにくいw)
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もし難点を言うのであれば、この「一本道エディション」(体験版)をプレイして、1700円ちょっとの製品版を買うか?と聞かれれば買おうと思わない所か。
製品版に含まれている別√でもまた鷺洲彩√と同じく日常(+スパイスとしての亜人世界)という類似した内容であれば、購入意欲がそそられないし、この体験版ではその可能性が高いと思えてしまい、別に読まなくてもいいのかなー……と。
もしこの体験版が、先述した与一の引用文「島の不可解さ」を引き金として、「亜人の世界観」「与一たちの不可思議な現状」を色鮮やかに膨らませていた所が垣間見えたのならばその限りではなかったように思う。
確かに。私は「外世界の事情を無視して日常を送り続けること」に価値を憶えたが、それを残りの√でも見たいかと言われればそうではないのだ。
(とはいえ鷺洲彩√のEDの胸が暖かくなる感じは好きでした。はい)
了.
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*1:シナリオ:はと.音楽:はと