HOLY BREAKER!感想―理解が及んでしまえば、もう終わりだ

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否定的な態度を取っているので注意。

 

HOLY BREAKER! 感想

 
あなたが私に対して容易してきた批判文句は一通り言ったことにしましょう。シナリオが致命的につまらないとか、屏風のように戦闘が薄っぺらいとか、そういうこと全部ね。だから前置きは以上。本題に入りましょう」―――グレッチェン・ルイーズ・モーガンばりに億劫な部分をカットし、私が最も言いたいことをぶつけたいと思う。

つまり「理解が容易すぎて、容易すぎる為に、終わってしまう物語」について。

"十支の武器" と呼ばれる伝説上の武器全てを手にした者はこの世界を征し、破壊することができる。そんな言い伝えを便りに武器を集める安倍晴歌、それを阻止する天舞ミナセ、その争いによく分からないまま乱入してしまう主人公を起点としたのが『HOLY BREAKER!』である。

私はこの世界観を提示された時に思ってしまったのだよね。「理解しえる」と。本当にありきたりな物語だと思ったし、今ではありふれたアイテム争奪戦で、そして最後までその予感を超えていくものは(ミナセの過去以外)無かった。

九十九は姉を取り戻すべく非日常へ足を踏み入れ、敵である安倍を倒すためにミナセと共闘することになる。そしてミナセとの半同居生活を描きつつ、交錯するように安倍一味らの戦闘を描いてはラストにはささやか謎を詳らかにし閉幕。

大雑把にいえばそういう物語。そしてそういった「要素」はもう単なる既知でしかないわけだ。私にとって知っている。分かっている。把握しえるパーツ。さらに言えばその「要素」の「描き方」も質の悪いアルコールを飲んでいるかのように不味く、口腔に流し込むのすら嫌になってくるレベル。*1

それは物語構造という意味合いだけではなく、キャラクターの心情も含まれる。何を考えているか、何を想っているか、そこに対しても探し求めるべく「謎」は無い。

そんなふうに「要素」「描き方」どちらも目を見張るものがなく、どちらも既知の集まりであれば――それが本当に『既知』かどうかは関係がない――物語というのは終わってしまうのだなという感想に至った。

つまり「理解」というのは良いことばかりではなくて、対象から未知や好奇心というものが失われてしまう状態なのだ。知らないからこそ笑える、分からないこそ興味をそそられる。理解できないから美しいと思える

しかし分かってしまえばもうそこまでだ。
分かってしまえばそれまでなんだ。

はじめてそのことを理解したときの感動はひとしおかもしれないが、その後はすっぱりその事を忘れてしまうに違いない。だってそこには「謎」がないのだから。「謎」がなければ見向きなんてしないから。

レベルを99にして、裏ダンまで制覇、全てのアイテムを蒐集し、全てのミニイベントを見たやり尽くしたRPGでそれ以上一体何をやれというのだろう? 伝説の剣で草刈りでもすればいいのか?それとも裸でラスボスを倒せばいいか? そんな心境に近い。

犯人が分かったミステリー小説の続きを待ち望むだろうか? 遺族の後日談や、探偵と助手の無意味な会話劇を願うだろうか? 最初は楽しく読めるかもしれないが何の殺人事件も起こらないことに段々と嫌気が差して読むのをやめてしまわないだろうか。少なくとも目をつむってしまう自信が私にはある。

これは「なぜ世界に謎は必要なのか?」という問いによく似ている。もしも世界からあらゆる謎が駆逐されれば、人々は退屈で退屈で困ってしまうだろう。好奇心は満たされないどころかそもそも発露さえしないし、知的欲求は収まるべき鞘がないためどこにも行くことが出来ない。

やがて既知に囲まれ暮らすことに苦痛を覚え、生活はグリザイユへと一変するのだ。それが死ぬまで一生続き、それは、退屈の毒に冒されながら生きる魔女とさして変わりはないだろう。

それと同じように、既に知っていること、もう何度も見てきたこと(=要素/描写)は物語が閉幕する前に(その観測者にとって)その物語は終わってしまうのである。それが私のホーリーブレイカーの感想。プレイ数分でその作品への理解が及んでしまい、その時点で私の中で"終わって"しまった作品である。

――こういう時痛感するよね。

猫箱を安易に開いてはいけないし、開いてしまったら大切に仕舞われた"心臓"を刳り殺す覚悟がなくてはいけないと。つまり、それは自ら理解の扉を開かんとすることで、謎が消えるということ。謎を殺すということ。

本作に至ってはそんな「意志」を用いるまでもなく、オートでその状態に至ってしまったということになる。自動的に。たった数分読めば把握できる物語なんて、もう私には耐えられない……。

あぁフェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラの気持ちが段々分かってきたということなのかな。最悪。それ最悪。にしたって本作の練度は低いとは想うけどさ。

 

 

 

extra:余分なもの

(*1)

例えばそれは開幕のバトルシーン。二人の魔女の戦闘は、テキストの野暮ったい描写によってその勢いは死んでいくのである。

 

見えるのは、真白い光と、蒼黒の炎のせめぎ合いだ。

花嫁を彷彿とさせる乙女の如き衣装に身を包む少女の手からは、目も眩むような、稲光が。

闇夜を編み込んだ神の如き衣装に身を包む少女の手からは、蒼い月の夜に溶けていきそうな、蒼炎が。

放たれ――激突し、そして弾ける。
ビリビリと空気が震え、草樹が揺れる。

閃光と爆音で、視覚と聴覚が痺れる。
土埃が舞い散り、視界が奪われる。

続けて聞こえてくるのは、連続的な金属音。
続くも、どこか澄んだ音が続く。
二人が何かを打ち付け合っている。

土埃が静まるのを待つのがもどかしい。

だが、

焦られないように心を落ち着けて、時が過ぎるのを待つ。
じきに、視界が確保される。
その頃には耳の奥の異音も、もう残っていない。

 

――漆黒の魔女と純白の退魔師/HOLY BREAKER!

 

こんなレベルの低いテキストを今時読むとは思わなかった。

もっさりした描写が延々と綴られるだけで、異業の戦闘の迫力を表しきっているわけではないし、その緻密さが却ってうざったくなっている。

ま た戦闘の合間にちょくちょく安倍晴歌は敵対者(=ミナセ/九十九)と会話しはじめるのだが、やたらと説明くさい。まるで自分の話を聞いている聴衆が別にいるかのように何故自分は戦わなければいけないのか、天舞ミナセとは何者なのか、自分の動機は如何なるものかを事細かに説明するのだが、こういった会話運びも本当に稚拙。

 

「早々にお会いできて、光栄です。しかし、如何な私でも、まさか初日からあなたに来て頂けるとは思ってもみませんでした」

白い少女が、右手と左手に持つ鎖を見せつけるように掲げる。蒼い月の下で、二本のそれが清く銀色に輝く。

「ミナセは、戦う意味を見いだせない」

「漆黒の魔女の言葉とは思えませんね。
世界に呪詛を撒き散らす災厄の化身。
あなたこそ、永遠の咎人だと言うのに」

「私は、あなたと戦い、そして討ち果たし、武器を奪うことを望んでいます。私にとって、戦う意味は十二分にあります」

「…もっとも、まだ目覚めたばかりで寝ぼけているのかもしれませんが。そういうことならば、私が目を覚まして差し上げます」

 

――漆黒の魔女と純白の退魔師/HOLY BREAKER!

 

いくら安倍さんが自分の力を過信し、驕っていたとしても、通販番組のマイケルのようにペラペラと聞いてもいないのに説明し始めるのはお安い悪役ポジションにしか見えなくて辛い。

なにより彼女が喋れば喋る分だけ戦いは止まるし、ミナセは喋る時必ず「ミナセは……」と頭に自分の名前を持ってくる子なので応答すれば尚更にテンポは悪くなってしまう。

地の文が「急」。セリフが「緩」。それならばメリハリが出るのかもしれないが地の文もセリフも「緩」であればこういう  "もっさもさ"  した戦闘になるのは無理はないという気はする。

さらにもうひと押しして、『詠唱』について。

 

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――漆黒の魔女と純白の退魔師/HOLY BREAKER!

 

天舞ミナセは大技を放つとき

"天は地に還り、地は風を産み、風は火と踊る 
蒼龍の吐息が、人の子に一時の安息をもたらさんことを"

ないし

"風は火と踊り、火は水と競い、水は地を穿つ
蒼龍の息吹は、人の子の想いに寸暇の眠りを与えん"

と叫んでは攻撃を繰り出す。

この『詠唱』は本来ならば白熱した戦闘シーンの中で勢いが止まるものとして、そして次の盛り上がりにおける"タメ"に相当する部分だと思われる。強風がぴたりと止めば、「なんだ?風が止んだ?」と引っかかりを覚えさせることが出来るし、その勢いのなさが次シーンの期待として働くことになる。

それはミナセ詠唱時における場の流れを断ち切る・三連カットインからも見て取れるのではなかろうか。

 

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――漆黒の魔女と純白の退魔師/HOLY BREAKER!

 

ただしそれは戦闘描写に勢いがあり、会話のテンポが弾んでいた時に発揮するものである。本作のように「戦闘描写はもっさり」「掛け合いももっさり(一人やたらと物事を説明し始める)」となれば、天舞ミナセの『詠唱』はよりバトルシーンを"重く"させてしまうだろう。

そして残念ながらこれは終盤まで続く。続くんだよ最後までな……。つまり戦闘が映える世界観にも関わらず、基本的に戦闘に勢いがないのが本作なのである。炭酸が抜けたコーラのように緊張感はなく、驚くほどつまらない。一つ一つが悪いのではなく、あらゆるものが凡作の域を出ない結果としてこのような形になってしまったように感じる。

物語の基本骨子になにか問題があるとか、矛盾があるとか、障害が発生しているわけでもない。ただ『HOLY BREAKER』という世界の描き方が悪い。バトルはもちろんだが、日常シーンも(が丁寧だ)物足りなく、キャラ描写も表面的なものに留まっているのもそれが一番の要因だと考える。

ホリブレやると、物語って要素ではなく「描き方」が肝要だよねって分からせてくれる作品だと思う。

 

 

いたる絵

すこし外在的なお話。

今回『ホーリーブレイカー』をプレイしてて思ったのは、いたる絵というのは――グラフィックの塗りも影響するのだろうけどそれを踏まえて――人間味がないというか、外郭だけというか、空っぽの印象が強い。伽藍堂。あんまり生きている感じがしない

違う言い方をすれば「神秘的」である。浮世離れした感じを受けるというか……西洋的なドールっぽい雰囲気というか……分かるかな?……。

だからそういった「外郭」だけのキャラに何が必要かというと、「中身」となる。物語という「中身」が埋まることで「神秘的だけど人間味あふれるキャラクター」という存在ができる絵のように私は思っているわけね。

逆にその「中身」が「中身」足り得ない時、うまく魅力を発揮できないのはないか? 単体イラストだけではいたる絵は存在できないのではないか? 。まあ錯覚かもしれないけど。

 

 

ミナセの三つ編み

 彼女の三つ編みを見ていると、「おしゃれしたいのかな?」と思ってしまう。というのも三つ編みって正直おしゃれではないし、髪型としてはださいと私は感じてしまうのだけど、それでも「髪に装飾を施す」という意味では三つ編みもやはりおしゃれの一種だろう。

ミナセ的にそこらへんどーでもよさそーだけど、毎朝、ちゃんとセットしていたりするんだろうか。だとしたらちょっと萌え。一番可能性が高いのは彼女的には儀礼的、宗教的な意味があるのかなっては想う。

 

 

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