果つることなき未来ヨリ考察―『描かない』を描いたアイラ√がただただ美しい―

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*ネタバレ注意

"Life of" (はつみら個別考察)

 

これは描かない√である。

謎は謎のままに終わるし、知りたいことを知ることはできない。なぜオリバーは裏切ったのか? なぜキュリオはアイラを殺そうとすのか?――それらは明確に表現されることはついぞ無かった。

けれど「描かない」ことでより深くそれを知ろうと思える。分からないからこそ分かりたいと思うし、理解できないからこそ手を伸ばそうとする。

しかしもしも「描いて」しまったらそんな事は露程も思わないだろう。黒猫が犬族を裏切った理由を「知ろう」なんて思わない。「分かりたい」なんて思わない。分からないからこそ求めようとするのだ。

 ――きっとそれはシャオリア族の『知の探求』とよく似ている。

欲したら最後、手に入れるまでどんなことも惜しまない生き方。分からないことを分からないままにしておけない根源的な欲求。渇望。願い。でもそれは『怖い』からこそ求めるものでもある。

 

アイラ「こうしてキャラバンを抜け出して、色んなところ見て回ってるけど…なんでそんなに色々知りたがるんだ? 役に立つのか?」

キュリオ「んー、そうだなぁ……」

キュリオ「怖いから、かな」

アイラ「怖い」

キュリオ「……ん、知らないことが怖いの」

キュリオ「知っていれば死ぬときに後悔しないでしょ? ああ、ああすれば良かった、こうしていたらどうなったんだろう? とか、そんな最期は嫌」

――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

そう知り得ないことは怖いのだ。不安になる。

逆に知っていれば安心する。落ち着く。

だからシャオリアに限らずアイラも「なんで?」と問いかけたし、リースも「なんで?」と、プレイヤーも「なんで?」と判然としない真実を手中に収めようとし続けた。

 

アイラ「なんで、そんな、こと―――ッ!!」

キュリオ「そうそう、分からないことはすぐ聞く、頭を使わないアイラちゃんはそうでなくちゃ」

キュリオ「でもね、あたし、あんたのそういうところは嫌いだった」

――果つることなき未来ヨリ(共通√)

 

そして、なぜ、オリバーさんがあんなことをしたのか。何を考えていたのか……

――リース/果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

この暗闇に光が与えられることはなかったのは、アイラ√では『真実』をこのように語るからだ。

"真実" とはなんだろうか。

揺るぎないものか。
代えがたいものか。
偽りのないものか。

はたまた、人の数だけある "信念" とも置き換えられるものか。

己が納得できる、手の届く範囲の、目には見える、理解の及ぶ、一言で説明できる、揺るぎない、代えがたい、偽りなき、この世界にゆいつのもの――。

だとしたら、真実は万能でありながら存在しない。

世界を己という枠に落とし込み、理解という足かせを嵌めた時点で、それはもう消えている。

理解し得ないから、真実たり得る。

真実とは――――。

 

――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

ここでは『真実』を「己が理解できた瞬間から真実たり得なくなる」とし、「理解し得ないからこそ真実足り得る」と定義される。

どういうことか?

アイラと晴眼がお喋りするシーンを思い出して欲しいのだが、二人はそれぞれに族長・ファルについて述べ合う。しかしアイラから見たファルと、晴眼から見たファルは異なり、晴眼は「アイツは嘘つきだ」と評するものの「それは私の物語じゃないな」とひらりとかわす。

例え両手いっぱいに事実を積み重ねたとしても、アイラからすれば "アイラが見ていた" ファルこそがファルなのであり、晴眼からすれば "晴眼が見ていた" ファルこそがファルなのである。

 

アイラ「ま、それこそ本読んだときの感想と一緒だよ。アンタが語ったのは、アンタの物語、アタシに関係はあっても、アタシのじゃない」

晴眼 «実がない、ということか。くっそ、干し肉食ってる馬鹿面下げた雌犬が一等真理に近いったぁ、どんな皮肉だ»

アイラ「真理か真実かはしらないけどね、結局、自分の経験でしか物語は語れないさ」

――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

二人の供述が異なっていることからも、互いに『ファル』を完全に理解していたわけじゃなく、さりとて互いに筋が通る見方を提示しているから間違いとも言いにくい。

ならば真実とは、ひとつではなく、複数あるもの。そう考えるようになる。

しかし晴眼は「"やめろ。その論は聞き飽きた。種族の数だけ、観測者の分だけ真実が存在する。その真実は唯一ではなく、集合体が生存のために無意に導き出した最適解。その種にとって、もっとも都合の良い世界への回答。それが真実というつもりか?"」と遠回しに否定した。

それを聞いたアイラはこう結論を下す。

 

アイラ「むしろ…ガッチガッチに硬いもんじゃないとダメなのかね、真実ってのは」

アイラ「理解できる程度のもの、触れられる程度のもの、枠に収まる程度のもの」

アイラ「だとしたら、そんなものを追い求めるのは、時間の無駄じゃないかねぇ」

晴眼 «――無駄?»

アイラ「だって、どうせ自分を通るんだろう?」

晴眼 «―――!»

アイラ「朝焼けの色みたいなもんだろ、そこにあるだけのものって感じの」


――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

 つまり、旧来の考え方である「真実とは一つである」から→観測者によって見え方が異なるのであれば「真実は複数ある」から→見え方によって真実が移ろうならば果たしてそれは真実と呼べるのか?から→「真実とはただそこにあるだけのもの」という論が展開された。

アイラから言わせれば、"自分を通した" 時点で、晴眼が求めるような唯一無二の真実ではないということだろう。

観測者によって見え方が異なるのは、対象を己の枠に当てはめて理解したからであり、理解したからこそ言い分が違えるのだ。ならば真実を『ただそこにあるだけのもの』と定義したとき、理解とはそれを遠ざける行為に他ならなくなる。

「理解し得ないからこそ真実」というのはそういうことだ。

であるならば、ファルがしてきたことはただ"そこ"にあったものとして享受する以外にないということでもある。

彼女がどんな人間で、何を考え、想っていたのかは観測者によって変質するものの、彼女が存在したことは揺らがない。ただそこにいた『ファル』それこそが『真実』ではないか、と。

――だからこそこの√の様々な『答え』は包み隠され、明瞭にはされず、理解できないものとして描かれるのだ。

『ファルの生涯』『オリバーの裏切り』『逆沼から抜け出してきたキュリオ』『右目を失ったリース』『髪が黒に染まったアイラ』『ウルロキオン・エフィル』etc

それら "わからないもの" を常に突きつけられ、不安だからこそ探し求めるものの、手に入らない。けれど手に入れられないからこそ逆説的に『真実』を可視化させた物語。理解できてしまったら『真実』ではなくなるから、明確な答えを示さず、事実だけを描きづつけるのである。

 

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――果つることなき未来ヨリ

 

こうも言える。

真実を「理解の及ぶたったひとつのもの」と捉えると、真実とは求めるものになり、やがては憎むべきものになってしまうと。

現にアイラはキュリオが裏切った理由を求めた。だって分からなかったから。知りたかったから。教えて欲しかった。けれどいつまで経ってもアイラに分かる言葉として教えてはもらえなかった。

キュリオが返す答えにアイラは納得できない。納得できなければ憎むしかなくなる。

アイラ「そして、いなくなった。それでもアタシはアイツを憎めなかった。ずっと、どうしてって悩んでた」

アイラ「恨まなくて済む理由を、ずっと考えてた」

アイラ「でも、わからなくて、アイツを憎んだ」

アイラ「いや、アイツ風に言えば、わからないフリをして簡単な結論に飛びついてた」

アイラ「理解を放棄して、人生を単純にして完結させていた」

一郎「他人の考えなど、そうそうわかるものではない」

アイラ「そうだね。なのに、わかりたがった。納得したがった。ただの無い物ねだりさ」

アイラ「このまま、無い物ねだりを続けて、残り半分の寿命を使い切るのか――そう思ったら、すごく寂しくてね」

アイラ「…その寂しさを埋めるために、また憎んだ。わからないことを無視するように、憎んだ」

 アイラ「アイツを恨んで、憎んで、生き損なった」


――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

「わからないもの」というのは「怖い」からこそ「わかりたがる」。そして真実が唯一無二だと考えるならば絶対にあると決めつけ「求め」るようになる。

しかしそれが明確に示されない時、己が望む答えを得られない時、当人にとって「わからない」状態はずっと続く。その状態は辛いからこそ当てのない答えを求め続け、最後は何もかも憎むしかなくなってしまう。理屈じゃない。ただそうなってしまう。

これはセリカ(=フードの女性)もそうだった。

 

フードの女性「…………ずっと、疑問でした」

フードの女性「なんで、あんな……顔で、逝ったのかなって」

フードの女性「好きな煙草を吸ってたからかな――って」

フードの女性「でも、あの人、煙草を吸うとき、いつも辛気くさい顔してて――」

フードの女性「だから、納得できなくて――――」

アイラ「――なにもわからなくなって、誰かを憎んだ」

 

――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)


セリカも「ダモンの死に様に納得できなくて」アイラ達を殺そうとした。そこに合理的な理由はなく、わからないから、わかりたかったから憎むしかなかったのだ。

シガーケースを受け取ったセリカが憎しみを手放したことからも、ダモンの敵討ちのためにやってきたのではなく、真実を求めた故の行動だったのが伺えるだろう。

また彼女が憎しみを手放せたのは、シガーケースの香りによってダモンが満足そうな顔で逝ったことを受け止められた(=つまり『実感』によって真実を『朝焼けの色みたいなもの』だと理解できた)から答えを求めなくなった、そう考えている。

あるいは彼女にとって最も納得のいく答えを得られたから、真実の探求をやめたのかもしれない。

しかしもしもアイラが『シガーケース』を手渡さず、『言葉』だけで説明していたらセリカは納得できただろうか? 

 「アイツは軍人らしい最期を迎えたと聞いているよ」とか「一郎から聞いた話なんだけどね……」と語ったところで、そもそもアイラはダモンの最期を見届けたわけではないし、人づてに聞いた話で絶対解を求める人間の心を動かすことは出来ないだろう。『言葉』ではきっと納得できない。

では何故、セリカの態度は一転したのか?

やはりそれはダモンの愛用したシガーケースを"見"たこと、それがレフレリアキャラバンに"あ"ること、それが放つ"香"り――そういった『ただそこにある』実感が彼女の中にどうしようもない納得を生んでしまったのではないだろうか。

筋道通った答えを提示されたからではなく、『ただそこにあるもの』を受け止められたから、彼女は絶対解を求めなくなったのだと。

 

「……ん。アイツは、最期まで軍人として仕事をしたと聞いている」

「――ふん、適当なことを」

「――――かもね」

「?」

立ち上がった黒髪に、思わず構えてしまう。

「安心しな、ちょっとコレを取りたかっただけさ。ほら――」

そう言って、机の上に差し出したのは――。

「これは――どうして――」

「ウチの旦那が預かったものだ。……こんなものを敵に渡すなんて……多分きっと、満足して、逝ったんだろうね」

「――――」

 

――アイラ、フードの女性(セリカ)

 

ケースを手に取る。

鼻をつける。

ああ――これだ。

「――臭い」

いや、違う――。

「こういうときは…香ばしいって、言うんでしたっけ…」

――フードの女性(セリカ)/果つることなき未来ヨリ

 

 『真実』が今まで語ってきたものであるならば、キュリオの「世界はとてもいいところで、憎んで過ごすにはアタシたちの命は短すぎる」という言葉はこういうことなんじゃないだろうか?

・世界(=ただそこにあるだけのもの)はとてもいいところで、憎んで過ごすには(=ないものねだりをするには)、アタシたちの命は短すぎる。

つまり『真実』を誤認するなと。目に映っているもの、人の温かさ、心臓の鼓動は『ただそこにあるもの』で追いかける意味なんてない。言葉にしたり理解した瞬間に『真実』から遠ざかってしまうし、求めれば求めるほど何もかも憎まずはいらなくなるのだと。

そう考えればアイラがセリカにこの言葉を贈るのも、共通√でアイラはキュリオに何度も質問していたのに個別√に入ってから全くしなくなったのも頷ける。

――『真実』とは求めるものではなく、朝焼けの色みたいなもので、ただそこにあるだけのもの、だから。

 

 「世界はとてもいいところで、憎んで過ごすにはアタシたちの命は短すぎる」

 「――まあ、受け売りだけどね。アタシはようやく、その言葉に追いつけた」

 

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――アイラ/果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

そんなお話がとても美しい。

なんて美しい物語なんだろう。

この√がただただ好きで好きで堪らないし、一冊の本にして毎日持ち歩きたいくらいに素敵なお話だと思う。これを読めたことに感謝しかないしありがとうと言いたい。本当に、本当にありがとう。

だが、なぜこんなにも美しいのだろうか。描かないことを描いたから? 真実の一連の過程を『体験』にまで昇華させたから? 『戦争』において真実を求めることの虚しさがわかるから?――きっと "なぜ" なんて問いかけるのは無意味なことなのだ。理由なんて求めなくていいし、理解できてしまったら、理解できる程度の枠組みに収められただけに過ぎないのだから。

私が語ってきたこ言い分でさえ、この√の『真実』から程遠いものに違いない。己を通し、解釈し、言葉にしてしまった時点でそれはもう別物なのだ。アイラ√が描いてきた『真実』とはゲームをプレイする以外に到達できないということでもある。

だからこの√を「語る」というのは「考え察する」というのは、コレほどない野暮なことで無粋なことだ。どの物語よりも、この物語だけはよりそう感じてしまう。

アイラ「こうしてると、鼓動がきこえるだろう?」

一郎「ああ、感じる」

アイラ「アタシは、コレを止めたくない。ただそれだけだよ」

 

――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

(了)

 

感想レビュー・他記事

 

 

 

 

 心に残った言葉

 

 

「さっきからグチグチと泣き言ばっかりなんだい、大の男が女々しいんだよ」

「器だぁ? 原因だぁ? 全部が全部、自分の理解の及ぶ範囲に置いておきたいだけの屁理屈じゃないか!」

「生きていたい、生かしてやりたい、そのために頑張る。それだけだろーが!」

「今日は誰かにもらった1日だ! みんなね、そんなくだらない悩みに使ってもらうために死んだんじゃないよ!」

「自分に酔ってないで、さっさと目ぇー醒ませってんだよ! んで、今度は誰かに1日を与える!」

「その繰り返しでいーじゃないか! なんで全部、国とか組織任せなんだよっ、ハンッ!」

――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

 

「みんなそーだろ。法も掟も、全ては偉い人間からのお願いで、それが野に放たれてそれなりの形になって、みんなそれぞれ折り合いをつけていくもんだって」

「ま、なんと言われても、ファルはファルだ。それは代わらない」

«とんだ思考停止の偽善者だな»

「だからって、どうしようもない過去を持ちだして、なにも言えない死人をああだこうだって格付けし直すのかい?」

「今までありがとう、でも、他の人が本当のあなたを教えてくれたの、それが許せないから死んでるけど恨むね、ってかい?」

「その方が、相当拗じくれていると思うけどね」

――アイラ、晴眼/果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

ファル「何事もそう。結果が見ているからと省略すれば、道を踏み外します」

ファル「ひとつひとつ段階を踏むのは、心のためなんですから」

――果つることなき未来ヨリ

 

 

キュリオ「で、実際に出来たことがあるニャ? 今も、あたしの肺は朝露の香りを吸い、手は草を摘み、目は闇夜に星を見つけられる」

――果つることなき未来ヨリ

 

 ミスカ「怒りというのは、死ではなく思い出に反応するものなんですヨ」

――果つることなき未来ヨリ

 

 

キュリオ「わかってるから言ってるの」

アイラ「…なんで、アタシのことをアタシよりわかるっていうんだよ」

キュリオ「だって、きっとアイラよりアイラのコトを見てるから」

――果つることなき未来ヨリ(アイラ√)

 

 

  「憎しみは生きる力になるかもしれない、足を前に薦める力になるかもしれない」

「でも、命の土台にはなり得ない」

「いのちは、そうはできてない」

――キュリオ/果つることなき未来ヨリ

 

 

「憎しみは劇薬だ。人を簡単に曖昧にする」

――アイラ/果つることなき未来ヨリ

 

 「"あたしたちは、歯車になって初めて生きるということを正しく理解できる。歯車にもなったことがないヤツが、笑わせるんじゃない"」

――キュリオ/果つることなき未来ヨリ