「ファタモルガーナの館」感想_これで救われるんですか?(4811文字)
満足度:★★★(3.5)
わたしくはこのお屋敷の女中、
ここで起きた様々な事件を知っております。
旦那さまにお屋敷の歴史をお見せいたしましょう
プレイ時間 | 25時間 | ||
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面白くなってくる時間 | ~~~……うーんどうだろうなあ…… | ||
退屈しましたか? | していない | ||
おかずにどうか? | 使えない | ||
お気に入りキャラ | ―― |
公式HP│ファタモルガーナの館 - Novectacle ノベクタクル -
「ファタモルガーナの館」のポイント
・「観劇」に近いため傍観者としてただただ劇をみるタイプのADV
・舞台は魔女がすむ「モルガーナの館」に主が現れるところからはじまる。
・音楽はとても良く、貴族社会の雰囲気にマッチしている。
ただ "没入感" "のめり込む" 感じがありません。これは『ファタモルガーナ』が観劇タイプのADVだからでしょう。主観目線に価値を置いている人は注意です。
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<!>ネタバレ注意。本編に触れていきます。
今回はあんまり乗り気な記事じゃないです……。
憎むことは罪悪ではない
結局のところ事の真相を暴いたからといって、モルガーナに起きた事実はもちろん変わらない。
信じていた人間に裏切られ、片腕を切り落とされ身体を刃物で切り刻まれた。有象無象の屑の利益のために血を流し続けて、そうして家畜のように死んだだけだ。
……ねえ?
ヤコポ達の真実を知ったからどうだったっていうの? 彼らになんらかの同情の余地があったからなんだっていうの? ヤコポが実は奴隷の青年だから?だからなに? あん?
そんな真相が数百年もの間、人を憎しみ続けてきたモルガーナの癒やしになるのか、ならないだろ。なるわけないんだよ。ミシェルがやったことは彼女の目的を"消失"させただけだ。
誰かを憎しみ続けるという行為に疑問を覚えさせ、その感情の向かう先を失くしただけだ。
こんなの「誰かを憎むことは罪悪だ」という綺麗事のまんまじゃないか。違うんだよそうじゃない。人を憎むことで救われることだってあるんだよ。自分が受けた痛みをしかるべき相手に受け止めてもらうことで、救われる想いがあるんだ。
もし誰かを憎むことにまで罪悪を感じてしまったら、それこそモルナーガには救いがない。
だからこそ人格分裂を引き起こしてまで、自身に内在する「聖女」概念を切り離し、魔女となったんだ。魔女になって憎む権利を得て、復讐し続ける機会を欲した。それのなにがいけない。どこがいけない。
モルガーナという女の子の救済を望むのであれば、憎むことを否定するのではなく、憎むことを肯定してから始まるんんじゃないか?
彼女の憎悪がおさまるのがいつか分からないのは確かだよ。
数百年、数千年ながい時間が必要になるのかもしれない。でもそんなの当たり前じゃないか、モルガーナはボロ雑巾のように扱われ、虫けらのように死んだんだ。
メル達を憎んで当然だろ、恨んで何がわるい、復讐を望んでなにがいけない?! 殺して壊して毀してバラしてぐちゃぐちゃに傷めつけるとしうその気持ちを理解できないのならモルナーガの心を全然判ってないってことだ。
メル達を数百年、数千年復讐し続けてやっと見えてくるものもあるはずだと私は思う。その境地に至って、振り返ってこそ、憎悪の価値と意義に気づけることもあるんだよ。
そして、そこでようやく復讐を自身の手で終わりにすることができたんじゃないのか。
「不思議ね、彼らを解放すると……気が楽になる面もあるのに―――自分が一番悪人あるようにも思えてくるわ」
「……彼らを許すことで、自分を許すことにもならないか」
「…………。
でも、すべてを許したら……。
私がしたことは何だったというの……。」
「…………。
次の……一歩を踏むための、ものだったんじゃないか」
「…………。
あなたは許せるというの。あなたを虐げた女、あなたの主張を蹴った次兄、あなたを殺した長男、あなたを認めなかったあまりか、火を放った母。それだけではないわね、あなたに罪を被せた村人―――そしてあなたの愛する女を強姦した父もよ」
「…………。」
「許せるというの」
「…………。もし……彼らに、贖罪の意志が……あるのなら」
「…………。なかったら……どうするの。もう一度あなたを痛めつけにきたら、どうするの」
「……それは……。
…………」
――ミシェル、モルガーナ
このあとミシェルは黙りこむんだが、当たり前だ……許せるわけがない。
ミシェルの立場にたったとしても、許せるものと許せないものがあるし、もちろんモルガーナの場合だってそうだ。
けれどもミシェルは、自分とジゼルを館から解放する為に、その過程としてモルガーナ自身の憎しみを強引に終わらせてしまった。そこには利己的な想いしかない。
……結局さ……ミシェルはモルガーナのことなんか思っちゃいない。モルガーナを助ける助けるいいながら、どこまでも自分の為の行動なだけだったんだよ。*1
モルガーナは最後まで誰かを許さなかった。
メル、東洋人、ヤコポを許さなかった。彼女の凄惨な人生は 、3人の真実を見せた程度で "そんな程度" では癒されるわけがなかった。彼女の失われてしまった人生はずっとそのままなんだ。
そして救いを来世に賭けた。現世では満たされなかったことを、次の世へと持ち越しただけだった。
ジゼルとミシェルの2人も同じで、現世では果たすことができなかった愛の続きを来世へと持ち越しただけだ。
私にはこれにとても違和感がある。
なぜ現世で救われなかった自分の救済方法が来世なんだ? だって私たちが生きているのは"ここ"じゃないか? ここに"立って"、ここで"生きて"いる。もしこの生で満足できなかったら、来世へと持ち越すのか?*2嫌な記憶も不幸も不和も不信もすべてすべての記憶を保持し、魂に刻み、来世へと蘇りまたそこでもまた「人生が満たされるか/満たされないか」を求め続けるのか? ふざけんな。
来世で魂が救済される行為を是とするなら、今、その瞬間の、「生」は無価値に近い。だって「次」があるんでしょ? その次の次の次もあるんでしょ? 次の次の次の次の次の次の世界があるんでしょ? だったら自分が今、ここで、精一杯生きる理由がないじゃん。
ダメだと思ったらリセットボタンを押すみたいに死ねばいいし、悲劇が起こったらすぐ首に包丁をぶっさせばいい。「私が戦う場所はここじゃない」と、そう嘯きながら。
来世を信じるってことは、今を諦めたってことだ。モルガーナやミシェルの結末を思えば、来世という概念に信仰してしまうものなのかもしれない。でもね、それでもだ、それでも救済されるとしたら、次の世ではなく、その中間地点である「モルガーナの館」だったんじゃないか?
来世に賭けるのではなく、モルガーナの館で今まで満たせなかったことを満たし続けても良かった。失った愛も、失った平穏もすべて満たしそして全てが充足したあとに、館を去ればいい。悲惨な生前を「でもそれでも自分の人生は良かったよ」と思って消滅するほうがよっぽど救われると思うんだよ。*3
来世があったところで、報われなかった前世はそのままだということになる。復讐という気持ちになんのケリもつけないまま、来世にいったところでモルナーガは本当に救われるんだろうか? 来世で前世の記憶を思い出してしまって、そこでも許せないという想いを抱き続けて生きてしまうんじゃないか。
…………。
……。
「来世がある」ことを信じ続けることがとても気に食わない。気に入らない。だって生きることは一度きりじゃないか。それが来世になればすべて満たされるとでも、人の苦悩も愛もそんなに簡単なものなのか? 生きて蘇れば救われるのか?!!
すごく幸せですね
すごく幸せな風景
あたしにはまぶしすぎる。みんなこんな時間に生きているんだ。いいですね羨ましいです。
ここから消えたらやり直せますかね。こんな当たり前の幸せを私は受け入れられますかね
記憶も失って性格も変わって、なら出来ますよね?
でもだったら生まれ変わるってなに。それはもう私の人生じゃない。別の誰かの人生よ人生はあたしにとってたった一度のもの。それはここに、たった一つしかない。これがあたしの人生。誰にも託せない、奪いもできない人生
押し付けることも忘れることも消すことも踏みにじることも笑い飛ばすことも美化することも何もできないありのままの残酷で無比なたった一度の人生を受け入れるしかないんですよ
先生わかりますか。だからあたしは戦うんです、戦い続けるんです
だってそんな人生
一生受け入れられないから!!!
失なった人生を肯定できなかった者がいる。乾ききった生涯を満たしたいと望むものがいる。『Angel Beats!』では死後の世界という場で生前の願いを叶え、『はつゆきさくら』では狂気し続けることで人生の意味を復活させた。
それは「今を生きている延長線上の世界」だからこそ、綺麗なんだよ。今を生きて頑張って頑張ってひたすら頑張ってやっと手に入れたものだから彼らの生涯は光輝くんだよ。きらきら舞う風花のように。
でも来世を望むってことは、たった一度きりの「生」を何度も何度も捨てる行為に等しい。そんなものに一体どれほどの価値があるんだろうね。答えられる人がいたら答えてよ。さあ。
「花は枯れるのにどうして美しいの?
造花は見分けがつかないほど精巧でも どうして美しくないの?」――右代宮真里亜
(終)
ちょこっと感想
絵は「動」で
それぞれ別の良さがありますけれど、写真が静であるならば、絵画は動なのです。
絵画は……描かれた者たちの「今」も映し出すのですよ。
―――女中
なぜ写真が静で、絵が動なのだろう? 写真は現実を(歪みを残し)切り取るものだが、絵は観念の世界のものを現実に再現するような媒体だよね。イデアに手を突っ込んでいるような感じ。
けれど……写真だって「動」と見えるときは私はあるし、……どういうことなのかよくわからない。なぜ写真と絵を区別するのだろう。
恋を知らなければ
恋を知ってこそ、大恋愛の物語に重みが出てくるのです……。
――女中
もし「恋」という感情を知らなければ、この世界がこんなにも恋に溢れているのか不可解だろう。音楽、絵、小説、映画、詩……どこにかしこも誰かが誰かを想う気持ちで満ちている。人が人であるゆえにその感情はとてつもなく大きく莫大なものだからこそ、誰もかしこも恋愛を口ずさむ。
そして「戀」の感情を知らなければ、戀を知っている人の気持ちを解すことは難しいんじゃないだろうか。
大切なモノにには名前を与えよ
彼は自分のことを、べステアと名乗りました。不思議なものですね。名前を知ると、彼の存在が、特別なものになったような気がします
――女中
名前はラベル付けという使用方法ではなく、「価値の区別化」にも大きく働いている。なにか大切なモノがあったら、自分で考えて自分でつけた名前を容易するのも一興だよねと。
心象風景に手を突っ込んで気に入った色を取り出して、その色をもってまた新たな何かを自分色に染めていく。それはきっととても魅力的。
だから「あだ名」や「名付け」にはとても深い意味があるんじゃないかな。自分という領土を拡大化していくような感覚を味わえるでしょ? そうでもないかな?
自分にとって価値あるものに、自分の為の「名前」をあてがう。その行為でよりそのモノの価値が高まっていく。
獣と人間の境界線
しかし……、人と獣の境界というのは、本当はどこにあるのでしょう?
――女中
人はどういうものだと規定することから始まる。どうしよう……人間はなにをもって「人間」としようか。
数多の思想によって人が人であるそのゆいつの絶対性みたいなものは、ばらばらなのだけれど、それでも私が信じている「人間」とはなんなのだろうか。
―――恋することで家具は人になる
―――狂気し続け観念の扉を開けるのが人である
―――観念と実体を同時に見れるそれが人である
この三つの共通点はどれも「感情」に起因する。たぶん私は「感情」あるものを人だと認めている。それも本能に類する情ではなく、「狂気」と「愛」といった複雑な概念に価値を置いている。
そこらへんが獣と人の違いじゃないかなと。
("魂の重さ" とかにはあまり価値を置いていない気もする。これは人間の絶対の意志や人の精神性の強度といったものに)
共感という力
「いえ……、すみません、悪気はなかったのです
私は他人の情緒を理解する力が欠けていますから……」
「他人に共感できないのです」
――モルガーナ
他人に共感できない……というのは、モルガーナという少女は「世界に自分1人だけで生きている」という感覚なんだろう。
他者に共感、他人の気持ちが理解できないというのは、「自分」が相手に存在しないことに繋がる。自分の気持ちを相手に届けられないという不信からくるんじゃないか? 人は本質的に自分の気持ちを相手には届けられないし、相手の感情を的確に理解することも不可能だ。でもね「相手の気持ちが理解できた」と錯覚できるのもまた人なんだよ。そしてこの錯覚ができないのってもうただの……地獄すぎる。
「相手が自分と同じ気持ちを抱いているんだろうなー」という共感が、自分は一人ではない孤独ではないという感覚を生み出しやすい。……ああそうかこの人も "最果ての荒野" 側の人間だ。
―――もし荒野に1人だけ存在していたとしたらどうする?
―――もし世界に1人だけで生きろと言われたらどうする?
人は究極的な孤独に耐えられるか? というのがこの問いである。
もちろん無理だ。人間はそういうふうには作られれていない。そういう精神構造を獲得できる環境にいない。
情緒を芽生えさせた後に、"誰もいない"場所で生きるとしたらそれは狂うことでしか生存を可能にできない。
他者と言葉を交わしても、他者が身近にいようとも、他者に共感できないんだとすればそれは最果ての荒野にいるのとなんら変わりない。
<参考>
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