ゆのはな(PULLTOP)
季節は冬。
外に出ればぶるぶると震えてしまう寒さが待っている。手はかじかみ、吐き出す息は白い。手のひらで溶け出す六花を見てはやっぱり冬なんだなあって実感する。すると「この気温は堪えるでしょ?」と声をかけてくれる人がいて「ほら、こっちきなよ」と家に誘われる。
そこはどこか賑やかで、暖かい。実際に部屋の隅々まで暖房が効いており、さらにこたつも完備。卓上にはどんと大きな鍋。見知らぬ人間とぬくぬくしながら(なぜか)わいわいと肉とかネギとか豆腐をつつきあい、酒を呑む。「至れり尽くせりだね」と見つめると「趣味なんだ」と返される。「赤の他人と食事をするのが?」「それも含めて」、とわけもわからない会話にお互いなんとなく笑ってしまう。
『ゆのはな』は、そんな人との奇妙な縁に微笑んでしまうような、ある冬の暖かい物語であった。
バイクで事故った草津拓也を助けたのは、ゆのはという土地神。青年は救命費と祠の修繕費を神に払うべく『ゆのはな町』でバイトをする中で、いろいろな人と出会い、いろいろな人と一緒に笑ったり泣いたりする。時には気付きを得ることだってあるだろう。
伊東わかばは「外の世界」に目を向けはじめ、桂沢穂波は「諦める」ことを止め、高尾椿は「何が好きか」を改めて問い直し、ゆのはは「生前の怨嗟」に向き合った。
そこには重厚なテーマも、驚愕すべきドラマティックな展開も、哲学的な問答さえない。あるのは彼らが一生懸命物事にあたり、精一杯生きること。そして最後には幸せにくるまれて終わるのみ。
特にゆのは√は物語の流れを無視した――ゆのはは拓也の前で消滅するもののラストでは二人は旅を続ける――幸福的な終わり方であり、それはなんというか、高尾椿が書く小説のようでもあった。
ハッピーエンドを望む者にはハッピーエンドを授ける、そんなEndingだったと思う。
椿「でも、判らないんだ。何が実のある物なのかが」
椿「まぁ、それでも、判らないなりに書こうとはしたんだ。でもさ、うまくいかない」
椿「説教なんかしたくないし、他人に信じこませたい信念も理念もないし、かといって不幸をえぐりだすような話もイヤだ」
拓也「でも、そんな話、読者は読みたがっているんですか?」
椿「どうだろうね……読みたくないかもね」
拓也「ならいいじゃないですか。そんなの無理に書かなくても」
椿「でも、読みたいものだけを与えるのも、作家としてどうかって言われるんだ。たまには現実を突き付けた方がいいんでは、とね」
椿「私はさ、ハッピーエンドが好きなんだ。キャラが自分から不幸になりがたってない限り、なるべくハッピーエンドにしちゃうんだ」
拓也「俺もハッピーエンド好きですよ。まぁハードボイルドでは、下水に転がる死体になるヤツも多いですけど」
椿「いいよねハッピーエンドは。
でもこの現実から見るとウソくさい」
――ゆのはな・椿√
拓也「みんなすごく面白かったです!! 読み終わっちゃうのが、さびしいと思うくらい」
椿「でも、私の書いている話って……。ジャンルも滅茶苦茶だし……」
拓也「だって、椿さんは書きたいから書いているんでしょう? ジャンルなんてどうでもいいじゃありませんか」
椿「それに……どんな話を書いても……。ハッピーエンドしか書けないし……」
拓也「どのおハナシに出てくる主人公も、幸せになって欲しいな、友達になりたいな、と思えるキャラばかりでしたよ」
拓也「そんなキャラが一生懸命精一杯のコトをして、物語の最後に幸せを掴んだからって、なにがいけないって言うんですか?」
拓也「無理矢理不幸にする方がおかしいですよ。だから、椿さんだって、ハッピーエンドにするんでしょう?」
――ゆのはな・椿√
『ゆのはな』は神あり、恋愛あり、伝奇要素ありありの情緒的な作品である。だから思うに、これは物語の雰囲気を"吸い込む"ように読み、凍える息を"吐き出す"ように体感することが出来るといいのではないだろうか。
積極的に解釈することで物語の価値が見い出される作品ではなく、感じようとすることに価値が見い出される作品であると。
そして私はそういう作品好きだ。
ゆのはなの好きなシーンは例えばこういうの
『ゆのはな』で好きなシーン、色々思ったシーンを箇条書きしていく。
・「冒険はね、気付いたときに始まっているものだよ」と伊東みつ枝さんがこっそりつぶやくシーンとか好き。それもわかばちゃんの√ではなく(確か)穂波√で言うんだけど、そうだよね……うんそうなんだ……冒険は意気込んでするものではなく踏み出した後に振り返ってみたら「そうか私は冒険していたんだな」と気付くものってのはよくわかるお話だ。うんうんって頷いていた。
・わかばちゃん√で「外ってこーーんなにも広いんですね!」って気付きを得て笑っているわかばちゃんが可愛くて可愛くてすごい。こんなにもきらきらした表情が世の中にはあるのかっていうくらいにきらきらしていて////ってなる。人は自分が見渡している日常を「世界」と取り上げるけれど、それはもちろん限定的なものにすぎない。もちろんそう分かっていても「実感」として理解するのは難しいことだってのもわかる。そしてそこに気付いた時の一回性はワクワクドキドキなのだ。
・わかばちゃん√のいちゃらぶ感…最高じゃないですかこれ……。◯っちの濃度が低めなのが(いつもの私とは裏腹に)少しだけ残念だけれど、こういう控え目で(手にぎにぎ)時に大胆な(おやすみキッス)なのは好き好き萌え。
・あとラストの拓也の下宿先に「来ちゃいましたー」シーンが、なんかいいよね。青空をバックに外の世界に一歩踏み始めた感じがさ。そのコントラストが堪らなくいい。
・穂波√の◯っちの濃度が全√ぶっちぎりで高くて何いいいい?!となるけど、情感が高くてこれはこれでアリだ!
・こういうぷくーっとしている不機嫌系な妹(系)女の子って好き。でもなぜだなぜそう感じるのだろ。
・文章が読みやすいのも『ゆのはな』の良いところだろう。ストレスに感じなく、なおかつ心地よいのは有り難い。
・ゆまゆまのうっとうしさ……うっとうしいです!でも別に嫌いじゃないぞ! 嫌いじゃないけどうっとうしいことに変わりはない。毎回滝のようにわかばちゃんの妄想を垂れ流し続ける彼女に私は一体何を感じろといえばいいのですか。
・ゆのはの守銭奴THEケチ! けちんぼすぎるぞこの娘。あのですね人にはモチベーションがあるのですから拓也の仕事へのモチベを管理するためにはある程度のお小遣いも渡しといたほうがいいと思うんです。日給をすべてお賽銭されたらやる気なくしますよ。でもあれ拓也毎朝ハッピーで不満なさそうだぞ・・・あれ・・・。
・わかば√・椿√の「ゆのはが帰る」シーンはじーんとする。あとゆのは√の「拓也と旅するゆのは」も遠大な世界を感じられていいよね・・・。
・椿さん。彼女は小説に取りつかれている人で、それゆえに苦しんでしまう。それは一見すれば「椿さんは考えすぎなんだよ」と言いたくなるものかもしれない。でも私ははその気持ちがとてもわかる。わかるのでそんなこと絶対いいたくなかった。
・椿さんの全体的にお話はうるっとこざるをえない。「あかねがバイバイ」するイメージが私にはあって、それはある一面では幸せなことだけれど、ある一面では寂しい出来事だ。役目を果たしてお別れするのってもうどうしようもなく嫌だけれど、まあ仕方ないよね、ここまで来たんだ、見送ろうじゃないか、と思っている自分さえいる。こういう「自分の中にいるキャラクター」のお話って私は弱い。
椿「書き終わった日、さびしかったな。もうあかねのコトを書くことはないんだって」
拓也「続編とか書かないんですか?」
椿さんは首を振った。
椿「書いてる間に、大学の時の色々について、気持ちの整理がついちゃったからね」
拓也「でも、編集から続編書けとかって言われませんか?」
椿「言われるけど無理さ。わたしの頭の中から、あかねはばいばいしちゃったから」
――ゆのはな・椿√
このあと椿さんは「あかねのオカゲで、私が見たかったハッピーエンドを見せてもらえたんだよ」と言うのがほんと胸にくるものがある。なんだろ私はなに言ってんだろな。でもそういう感覚を同期できる。物語を書く意義*1がここにあって、物語を語ることで救われる気持ちを知っているからかもしれない。
・椿ルートのラスト。「ゆのはな」の小説を書く椿さん。物語が物語に収束されるこの構図すっごい好き。そして煙草が似合いすぎる女性は大好きなので椿さん好きー!(でも煙の匂いは嫌い)
・というか『ゆのはな』は全√のラストの「読後感」いいよね。椿・穂波・わかば・ゆのはそれぞれ「爽やか」で「あたたかい」終わり方だなって思う。
・公式HPちょろっと見てみたら、ゆのはな町最強王座決定戦(人気投票)http://www.pulltop.com/vote04/index.cgiでゆのはが一位だと……!? それも3位4位とは圧倒的じゃないかwhy! ゆのはは嫌いじゃないですけどそこまで好きでもなかったので何故という衝撃。椿さん!!
(了)
プレイ時間 | 23時間くらい | ||
---|---|---|---|
面白くなってくる時間 | 10分ほど | ||
退屈しましたか? | していない | ||
おかずにどうか? | とても使えるはず | ||
お気に入りキャラ | 椿・わかば・穂波 |
公式HP│- PULLTOP - 『ゆのはな』
ギャルゲー・関連記事
そういえば私は「大吉パック」を買ったんだけど、↑の三作品全部入りを買ったほうがお得だったなとすこし後悔。1作品はプレイ済みだけど、2作品は未プレイならばこれでも良かったのではないか。