*Steam版(全年齢)を購入。18パッチは当ててないのでその前提でどうぞ。
(あと今回書き方(ないし書く立場)を変えてみたので以前の書き方が好きな人はあまり好ましくないかもということで一応注意)
(1)コロナ・ブロッサムは面白い?(総評)
『Corona Blossom』は空から落ちてきた金属生命体・アルネと出会い、暮らし、そして――故郷の宇宙へ返そうとする物語。Vol1では主人公・大崎景次がそう決意したところに、宇宙海賊・リリが現れて閉幕した。
一言でいえば丁寧な作品ではある。登場人物だけが事を理解しずんずん話しが進むなんてことはなく出会いは出会いとして、日常は日常として、ハプニングはハプニングとして過不足なく表現されている。のちの(Vol2以降)に繋がるであろう"仄めかし"をのぞけば描写に対する不安感はない。
同様にキャラクターの内面も "すとん" と腑に落ちる描き方も悪くない。
例えばあのシーン。アルネが唐突に「故郷へ帰りたい」という発言は、それまで何の兆しがなかったものである。だって彼女には過去がないから。過去がなければ過去を言及なんて出来ないから。だから突飛すぎてプレイヤーは置いてけぼりになることも大いにあっただろう。
しかしそれまでに『迷子』について景次と母親が何度も触れることで、アルネの気持ちは大分理解しやすいものとなっている。
「このまえ、迷子になったのより、ひとりぼっち?」
「街のデパートも大きかったね。おそらはもっともっとおっきいの」
「あ――――あうぁ」
「だあーいじょぉーぶぅっ、怖がらないで。景くんがどこにいたって、おかーさんが見つけてあげる」
――幼少時代の景次。母/『Corona Blossom』Vol.1
繰り返される『迷子』の会話は景次がアルネを故郷へ返す決意に繋がってくるものだが、裏を返せば「迷子になったときの気持ち」を知っているから、彼は迷子になっている者を導こうとするのである。
「迷子=アルネ」と見做すならば、この回想シーンは彼の気持ちを描いているようで、その実アルネの気持ちも同時に描いていることになる。よくわからな い場所でひとりになる心細さ。さみしさ。怖さ。そんなとき係の人に見つけてもらったときの嬉しさは、きっとアルネにも通じずるものなのだと。
母親との回想(=『迷子』についての会話)を積み重ねるほど、自ずとそれはアルネの気持ちへと変換されていく下地があれば、一見唐突な「故郷へ帰りたい」というアルネの発言も「そっかそうだよね……」と受け止められものになるのではないだろうか。
また景次が両親を失った経緯、嫌いな機械弄りを生業にしたこと、この2つを描くことで大崎景次とその母の「会いたい人に会いたいと思う気持ち」「戻るべき場所に戻りたいと思う気持ち」をあらわにし、それらをアルネ自身が「ケージと同じ気持ちだよ」と関連づければアルネが抱く "帰るべき場所に帰りたいと思う気持ち" を我々は容易く取得できるようになっている。
「………………………………会いたいよぉ……」
「ごめん、景くん、おかーさん、噓ついちゃった。会いたい、あなたに会いたい。今すぐ抱きしめてあげたい。家に、帰りたい。あなたの居る家に」
――景次ママ/『Corona Blossom』Vol.1
「――だから、俺はこの仕事を続けてる。苦しくても」
「だって、完全に機械から離れてしまえば、父さんたちとの思い出を否定しまう気がしてさ」
「……だから、こうして中途半端なまま機械いじりをしているんだよ」
――大崎景次/『Corona Blossom』Vol.1
「アルネも、帰りたい。大事な仲間たちにあいたい。感じるの。ケージみたいに、すごく会いたいって気持ち、アルネの中にも同じものがあるってわかった」
――アルネ/『Corona Blossom』Vol.1
そんなふうにキャラクターの心情を丁寧に、やさしく描き出すのがコロナブロッサムの魅力だなと思う。(こういう柔らかい筆致いいですよね)
また本作はE-moteによる立ち絵技法を駆使しており、つまりあらゆるキャラクターは実際に「動」きはじめる。それは水平だけに留まらず、前後に挙動したり、『猫耳』といった外部パーツもぴこぴこと動作するなど立ち絵演出の細かさを見せた。
――Corona Blossom Vol.1/FrontWing
見てもらえれば分かる通りひとつひとつのテキストに合わせて表情はまばたき、髪は揺れ、胸も揺れる。そんな身体動作にボイスも同期されるとなれば尋常じゃない制御労力が必要と思われるが、本作において雑な仕草は見当たらないときた。
どの場面もいい感じにアニメ化され、このまま突き詰めていくと私達が思い浮かべる『TVアニメ』の質で立ち絵が動く日も近いのではないか? そんな予感を抱かせる出来になってる。(とはいえ私はEmote否定派だけども)
物語描写、キャラクター、動的演出――どれをとっても手堅く、丁寧なつくりだと思う。ダメ出しする所は(私的に)ない。
……しかしだからといってそれが「面白い」とは限らない。
確かに『コロナ・ブロッサム』に不足はない。雑さもない。ただし平坦ではあるのだ。盛り上がる所が手巻きのオルゴールが奏でる音色のように「ゆったり」としている。アルネと出会う衝撃的なシーンは最低水準には届いているものの突き抜けるほどの衝撃さはないし、町民を襲う花火防衛シーンも張り詰めるほどの緊張感なんてものはない。もちろん宇宙海賊・リリが名乗りをあげるシーンはVol.1における "オチ" でありクライマックスなのでもっと盛り上がってもよさそうなものだが、「そうだよねリリがやったんだよね。知ってた」くらいのインパクトしかもたらさずエンドロール。
シーン毎の強弱が乏しいのだ。(極論すれば)常に「平凡な日常」状態。スピード感ゼロの時速20Kmをキープな安全運転。けれど別にこれが悪いとは言わない。"そういう"作品なのかなとも思う。「日常」が前傾したような作品だとすればなるほどなと思えるからだ。
故に「シナリオの質」を求めている人には合わないし、あまりにもあまりなオーソドックスストーリーでもあるので(その視点からすれば)つまらないない作品に分類されてしまうだろう。
逆に「キャラクターの可愛らしさ」(ななかまい原画なので約束された勝利)、「日常雰囲気が終始漂う作品」「現在のE-mote演出レベルを知りたい」と一点突破型に求める人には得るものがあった作品だったんじゃないだろうか。
プレイ時間はおよそ4時間で、Steam版ならば980円で購入可能。ロープライス+ローボリュームによる「この値段ならばこんなものかなあ」という体験を味わってみるのも一興といえば一興かもしれない。
ちなみに私は『Vol2』は買わないと思います。
私的満足度:★★★(3.2)
疑似客観視:★★★(3.1)
(記事はまだ続く)
(2)感想
総評とは別項目でラフな感想を書きたい欲求。ということで切り分け。
アルネCGいいなあ
まずどう考えても「暴発する花火を背景に立ち向かうアルネCG」の良さ。あれはいいよね。すごい。すごいいい構図だよ……。
花火が荒れ狂う感じがちゃんと出てる。そこに小さな意志をもった存在が立ち向かおうとする感じがガンガン伝わってくる。サブタイにlittle braverとか名づけたい。いやま"braver"だとCGの意味が変わってきちゃうのでちょっと違うんだけど。
私こういうの弱いんだよなあ……。
ヘッドホン女子
霧島茱萸子のヘッドホンスタイル、イイ!
ヘッドホンつけてるくみちゃんの魅力すごい。でもなぜそう感じるのだろ? ただヘッドホンをつけいているだけなのに。謎だ。もしも無かったら魅力は減ってしまう気がする。
恋人関係になっていないのに■■とは一体?
Steam版では"そういうシーン"はないのだけど、パッチを当てるとたり、そういうシーンが挿入されているとのこと。パッケージ版はそれ込の値段でしたっけ。
とはいえVol1(全年齢版)では誰とも「付き合う」兆しが全くないのだよね。志乃さんも茱萸子もアルネも「恋人」関係にまで発展していないのに――発展するかも未知数な感じが満ち満ちているのに――この時点で当該シーンがあるということは一体全体どういうことなんだろ。
Ifストーリー的なものだったり? 確かにそれはありえるかも。あるいは無理矢理恋人関係になってるのを見せられて即セッ久というお話だったならばあまりにも……ムードもなにもないよねえと思いつつ。
ダメ出しはないと言いつつ
「ダメ出しはない」と総評で言いつつ、今ひとつ思い出したので書き残しておきましょ。
結論から言えばテキストボックスの使い方が悪い。テキストボックスの大きさのわりに「文字が小さい」んだよね。余白がすごいことになってる。
↓
――Corona Blossom Vol.1/FrontWing
小さい文字って読みにくいので可読性が下がってしまうのがもったいないなと。
あと文字が小さいこの状態でルビをふるとより小さい文字がふりがなとして表示されるので、画面に接近しないとなにが書かているか判らなくなる。(私の視力にも問題がある?確かにあんまりよくない)
たぶんこれは「メインテキスト」と「サブテキスト」を設定できる――メインを日本語、サブを英語表示なんてことも可能な――システム的な問題も絡んでいるのかもしれない。
通常はサブテキストはOFFにして、メインテキストを母国語で読むと思うのだけど、同時に表示することもできる。
でもそうすると文字は上段・下段と表示されるので(文字数が倍以上になるので)そのための「余白」なのかな?と
↓
――Corona Blossom Vol.1/FrontWing
これは短い文章。 くひひひ。これを見たら「なにこの余白?下段表示でも関係ないじゃん」って感じだけど、長い文章は当然テキストボックス内を圧迫するのである。
↓
――Corona Blossom Vol.1/FrontWing
とはいえそれでも余白はあまる程度に収まるので……本当一体なんなんだろうねこれ。
うーんペケ。ペケペケである。
「立ち絵がぐりぐり動く」というやる気のないタイトル
やる気がない。やる気がないに尽きる。コロナブロッサムを語るとき「Emoteで動く」って別に優先度高いもんじゃないし、とはいえじゃあなにを語るかといえば『クリシェ』『具象性』についても触れたかったんだけど……いつか語りたいねと思いつつ。思いつつ。いつかいつかシンドローム。
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