『冬は幻の鏡』 感想。 3人の視点から織り成すマルチADV (4407文字)

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満足度:★★★(3.6) 



「性衝動と暴力衝動を垂れ流しにしてもいい人間と、普通の人間が楽しく生きていくことなんかできないんだって、バ~カ」 

 


<!>マルチルートADV

  プレイ時間   38時間
  面白くなってくる時間   1時間
  退屈しましたか?   しませんでした
  おかずにどうか?   (絵がダメ。でも文章はエ口い)
  お気に入りキャラ    ――――

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原画 相良匠 , 宗介
シナリオ 渡辺僚一
音楽 SHIM(TGZ SOUNDs)
その他 木緒なち(ディレクター・制作総指揮)

公式HP│ 冬は幻の鏡

 

「冬は幻の鏡」のポイント

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・謎だらけの7日間を、「3人の視点」で解き明かしていく!
・ 世界観が厚い
・  無料ノベルゲームなので、ぜひこの機会に

 


<!>ここから本編に触れていきます。ネタバレ注意。

 

 

 

 

 

 

 

差別と残虐的思想が根本にあるんだよ、人間には

 

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幽霊が見える人間と、幽霊そのものを認識できない人間。
幸せを望む人間と、死を望む人間。
もしくは幽霊で溢れていた。




・幽霊を殺し嬲り犯す「鈴夫」「道明」「三原」。
・幽霊そのものである「皐月」「仁科」。
・どこまでも一般人な「小太郎」「和歌奈」、
・一般人となんら変わらないが死を望んでいる「音早織



彼女たちを観ていて思うのが、「人間だと思える要素ってなんだろうね?」ってこと。

幽霊は生物学的に人ではない、けれど「人間」として私は観れる。皐月も仁科ゆうも、『人間』だとそう思える。構成する体の物質が違くても、透き通ったり、他の人には見えなくても、彼女たちは人だよと。


でもじゃあ、どこにその差があるんだろうか?  

そしてこの疑問はなにも「人と幽霊」だけじゃなくて、「人と人」の関係でも同じことが言えると思う。

目の前にいる人間をどうして「自分と同じ存在」だと観ることができるのか? なぜ優しくしたり、話しかけたりするんだろうか?

私にある根本的な価値観だとうまく把握できないのだけれど、人類の歴史を紐解けば、自国ではない他国のものは「人」ではないとして、殺してもいいとされてきたと思う。
植民地やj人種差別はその例、財産を平気で奪い、自分たちの益のために、家畜のようにこき使い、用がなくなれば殺す。 非道に残虐に、でもきっと心を傷めない。なぜなら「人間」だと見ていないから。

 

 

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同じ「種族」に虐殺や強奪を平気で出来てしまう。それはもう「相手を自分とは "違う" 別のもの」として認識しているから起きるだと思う。

 

立花鈴夫が、平気で、女の幽霊を拉致監禁して、犯し、殺したのもそれだし、道明が自身の衝動を抑える為に、無害な幽霊を殺したのもそれ。

三原は言う「幽霊を犯しつくして殺すっていうのは、本当に楽しいですよ」と。極めつけは、仁科ゆうの言葉。

 

 

 

「結局、性衝動と暴力衝動を垂れ流しにしてもいい人間と、普通の人間が楽しく生きていくことなんかできないんだって、バ~カ」

――――仁科ゆう


要するにね、もう「人と人」でさえも、おまらは断絶してんだよ!!ってことです。自分と「違う」人間を、人間と思えないだろアァん?! って。

でも極々一人握りの者たちは、本質的に自分とは違う幽霊を「人間(=自分と同じ)だと思える」ことに成功している。 

 


鈴夫と和歌奈。

道明と皐月。

ゆうと三原。

音とジョンソン。


彼らは、自分と違う存在でも「同じ」ものとして相手を観て、接している。なぜ彼らはそんなことが行えるのか? そして 



他者を【人間】だと思えるにはなにが必要か?」 と。


私の答えとしては、究極的に突き詰めると、好きという感情があるからです。


例えば、鈴夫は和歌奈に告白する。自分は幽霊を犯して殺してきたこと、和歌奈を絶望に染め上げようとしていたこと。

今はそんな気持ちを持っていないと鈴夫はいうけれど、実際こんなこと言われたら、相手をもう「自分と同じ人間」だと思えるのは不可能ですよ。

和歌奈は、この国でごくごく普通に暮らしてきて、ありふれている価値観を身につけてきた。犯罪はよくない、人殺しはだめ、友だちには親切に。そういった倫理観を養ってきた。

でも鈴夫の倫理観とはもう全く違う。人間相手にはやっていないけれど、幽霊に対して平気で殺人レイプを行ってきた人なんだよ。無理でしょ? 私は無理だよ。理解がすごく難しい。自分と同じ人間に見れない。もう全然違う生き物のように見える。 価値観がズレすぎていて、同じものに見えない。


でもさ、和歌奈はこう言うんだよ。

 

こんなふうに酷いことを言われたって、鈴夫が酷い人間だってわかっても、やっぱり、私は鈴夫のことが好きなままだ。

――――
和歌奈

 

そして、「鈴夫は私が知っている鈴夫と全然変わっていなかった」とも。これを私には、和歌奈は「好き」という感情を持ち合わせることが出来たからこそ、鈴夫を「人間だと」思えた。自分と同じように笑い泣く存在だというふうに "視" れたと思うんですね。 


これは和歌奈達だけじゃなくて、道明と皐月、ゆうと三原もそう。道明はなぜ道にいる幽霊は殺せるのに、皐月は殺せないのか?(殺すことを我慢できるのか)、三原は子ども幽霊を殺したけど、ゆうにはしないのか? 何故音早織は、ジョンソンに殴られながらも抱きついたり、お腹が空くからといって弁当を持ってきたのか?


全部全部「相手が好き」だから。


そいつのことを気に留めているから、大好きだから、だから____そいつを人間として扱うことができる

 

 

「なんで、御堂も立花も相手が違う存在だと知っているのに、ああも堂々としているのだろう?」

――――仁科ゆう

 

好き、だからだよ! 相手に好意を持つ、ただそれだけで本来「違う」部分、幽霊だとか種族だとか国だとか言葉だとか肌の色だとかそういったことは全て! 瑣末なことに置き換わるんだよ。

 

 

 

「私は姫鬼だ。劾鬼士だった頃の私じゃない」

「それが?」


「それがって! 記憶も破損だらけだし、年は取らないし、そもそも人間じゃないんだぞ。人間にしてみれば犬や猫と同じ存在だろうが!

犬や猫は関係ないし、姫鬼とか人間とかどうでもいい。
夕は夕だ


――――仁科ゆう、三原

 


もう相手を自分と同じ存在だと思ったとき、そこにマクロな括りは全て瓦解するのかな?って思います。

幽霊とか人間とか学歴とか社会的地位とか、所属サークルとか、職種とか派閥とかグノーシス主義者とかね(笑)、そういう大きな括りで相手を観るんじゃなくて「夕は夕だと」。個人として、その人を「唯一として単一」のものとして観ることに成功する。


『冬は幻の鏡』は、そういった「お互いの存在の断絶」がそこかしこに散らばっていて、かつその「断絶は埋めることが可能」だと言っています――――。


……そして、もっとも強く輝いている "核" の部分は、「不幸でもどんなに不幸でも、自分と同じ存在を得られれば幸いを見いだせる」といったものだと思います。

鈴夫も道明も三原もゆうも、結局のところ「救済」されたわけじゃない。先天的に、もしくは後天的に「最大の欠損(=幽霊を視る)」ことを抱えることになり、ずっと死ぬまで、その状態で生きていくことになる

大勢の人とは違う人生を、否応もなく歩き続けることになる。それは不幸だと、私は思う。何もしたわけじゃないのに、ただ、 "そうなって" しまって、世界から外れてしまったのだから。 


幽霊が見える世界にシフトしてしまっただけ、けれど、この "だけ" は大きい。でも、でもさ自分と同じ気持、感覚を共有してくれる人(=同じ存在)がいれば、そんな不幸な場所でも、欠片ぽっちの幸せを見いだせるんじゃないのかなって思います。

幸せなることが出来るかはわからない、でも、その道標はあるよと。

 

 

「旅に出ることにしたから」
「旅?」

「好きな人と長い旅に出ることにしたの。すべてを捨ててどこか遠い場所にいくことにしたんだ」

――――仁科ゆう、立花

 

 

冬という季節、幻(=幽霊)と人間がつがい(=鏡)になる――――。

 

 

 

 

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『冬は幻の鏡』――――道を外れても、社会から逸脱してしまっても、不幸でも、きっと、そこそこに幸福を得ることは可能だよというそんな物語

 

 

――――――――――――――――

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――

 

 

 

ん?


最後に教室を出た鈴夫は


誰かに呼び止められた気がして、振り返った。

 

 

あれ?


首を傾げる。


誰かいた気がするんだけど。


誰もいないと知っていながら、教室を見回した。


…………

……




もう一度、教室を見回した。


いい忘れたことがあるような気がして、


焦燥が胸を突き上げてくる。

 

…………

……

 


「ありがとう・・・かな」



鈴夫は無人の教室に向かって言った。

 

 

 

 

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はい感想です。

絵がちょっと人を選ぶかもしれませんけど、これがフリー(無料)で遊べちゃうなんていい時代だなあ……。

小太郎の√がいちばん好きです。何度笑ったことかw 一日目の風俗にいくところでの

 

風俗に命を懸けるだけの価値があるのか?
・・・ない。
風俗に命をかけるだけの価値はない!
しかし、同時に風俗で命が危険にさらされるということもない!

 

の部分とか、和歌奈をからかうときに使った極太バイブの所とかね、とても楽しかった。

それと音さんとのエッ◯シーンは、何故だが興奮しました。絵はエ口くない抜けないって感じなんですけど、文章がとにかくえっちいのです……。(←すごい)

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「小太郎」・「和歌奈」・「道明」・「ゆう」といった計4視点で物語の全貌が分かるんですけど、これいいですねえ……。一人では分からなかった世界の像が、2人、3人、と増えていくことで、ぶわっと目の前が広がります。

彼らのすべての視点を結合していくと、見える、真相……そういう世界の厚みっていうんですかね? ってのがよくよく実感できます。


これくらいですかね? あとプレイ中の諸々の感想は、こちらの記事に分離しました。良ければどうぞです。

 

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   『冬は幻の鏡』 プレイ中の雑感 (7283文字) - 猫箱ただひとつ。

 

 

  



<参考>

 

マテリアルゴースト (富士見ファンタジア文庫)

マテリアルゴースト (富士見ファンタジア文庫)

 

 

攻殻機動隊 (1)    KCデラックス

攻殻機動隊 (1) KCデラックス