*感想ネタバレ注意
森宮蒼乃からはじまる『sola』
振り返ってみれば『sola』は森宮依人の視点でほぼ紡がれるるものの、けれど森宮蒼乃の物語だったなと思う。
依人を失い、依人を追いかけ、依人を求め続けた彼女の物語。
そんな依人を求めた果てにあの(序盤)平和な日々があったのだろう、だが四方茉莉が現れては依人の心が蒼乃から離れていくし、依人は自身の存在の秘密に気づいてしまうし、最後には姉さんは間違っている!と彼女が歩んでたきた過去を大好きな人から全否定されちゃうなんてもう蒼乃ちゃんのライフはゼロだと思うの。こんなのってないよ。
それも蒼乃が依人に固執するようになったのは、彼女自身の責任ではなく、結局のところ四方茉莉せいなのである。茉莉の孤独が蒼乃を生き返らせ、依人がいない世界へと縛り付けてしまったのだから。
そのせいで人形としての依人を創らざるを得ない状況に至ってしまったのだとしたら、責められるべきは森宮蒼乃ではなく四方末莉であろう。
……もし "誰が悪いのか" という問いかけが許されるならば茉莉に他ならない。彼女のエゴが蒼乃を不幸にしたし、例えそこに何らかの心の機微があったとしてもこの事実は覆らない。
そうして『sola』という名の御伽噺ははじまってしまったんだろうな……。
――大好きな人がいない世界で生きることを強要され
――大好きな人から「あるべき姿に戻す」と今までで悩み続けた過去を否定される辛さ。
何十何百年と蒼乃が抱えてきた欠損の気持ちを、痛みを、誰も分かってくれない。分かろうとするそぶりさえなかった。挙句に人間に戻ることがさも正しいかのように友人は自身の命に剣を立てかけ、愛した人は自死を図り、そうして彼女は人へと戻る。いや戻された。
いつだって森宮蒼乃の意志は無視され続けた。
なんで誰も相談してくれないんだろ……なんで勝手に決めてしまうんだろ……なんで……。
solaは幸せな物語だったんだろうか?
最終回を見る限り、蒼乃はいろいろな気持ちにけりをつけ、新しい日々を生きようとするのが伺える。なので結果論的には末莉と依人の選択はよい事だったのかもしれない。
ただ蒼乃の「社会的背景」がどうしても気になる。人間に戻される以前は夜禍人の力で他者の認識をごまかし、学校生活を送っていたみたいだが、夜禍人の力を失った今――どうやって生活しているのだろうか。家族もいなく、戸籍さえなく、頼れる者さいないであろう彼女。社会的な後ろ盾が何も残されていない「現社会」から弾かれた元・夜禍人。
茉莉はこういうところまで考えていたのかな?……
依人は正しくあればいいとさえ思っていたのかな?……
もちろん茉莉と依人の考えを全否定したいわけじゃない。依人は蒼乃に操られる人生が嫌だっただろうし、茉莉はその依人の意志を尊重しただけだ。あれ待てよとなれば茉莉的には蒼乃よりも依人のほうが優先順位が高いからこういう結末になってしまったのだろうか。じーず……。
最終回はHappyendの雰囲気を醸し出しているが、実際どうなんだ? と考えると、ちょっと鬱になる。本当に学校に転入できるのか? できるとしたら一体どういうことなのだろ? 浮浪者と変わらない森宮蒼乃が社会的に生活できるってどうすれば叶うのだろ?
もしも、もしかしたら石月真名の学校に転校してくるというお話もちょっとした嘘であり、願望であり、依人が通っていた学校に行きたかっただけで、依人が見ていた屋上からの空を彼と同じ格好をして眺めたかっただけで、転校なんて口から出任せだったとしたら―――
数百年社会の枠組みから外れてきた蒼乃が——夜禍人の力もさえない者が——「どうやって」あの学校へ転入できるのがはっきりしない限り、私には『sola』を幸せな物語として見ることは難しい。
もしも私が想像しているとおり転校というお話はウソで、「人間に戻った森宮蒼乃が(現社会的な)人間的な生活を送れていない」のだとしたら、末莉と依人はとても残酷なことをしてしまったと言える。それは本当に非道いことを。
この結末が、蒼乃の、意志で決断されたものだったならばとやかく言うつもりはないけれど……でもそうじゃないものね。勝手に化け物にされたと思ったらまた勝手に人間に戻してあげるなんて、そんなのエゴにもほどがあるよ。
◆
——solaを「エゴ」「独善的行為」で紐解くとまた違って表情が見えるんじゃないだろうか。
辻堂剛史が神河繭子の気持ちをちゃんと聞こうとせず「繭子を夜禍人から人間に戻すこと」が彼女のためだと思い込んでいたこと、そしてその為に四方末莉の命を奪おうとしたこと、末莉が孤独に耐え切れず蒼乃を夜禍人にしたこと、末莉が蒼乃に相談せず再び人間に戻したこと、蒼乃が依人を(例え作り物だとしても)操り思うままにしようとしたこと……。
…………
…
森宮依人が目をきらきらさせて見渡した空——ときに灼けるような美しさをみせた空——の下では、こうも汚くも醜い人間の様相が現れていたように思う。
だれかが見たかった空の美しさと、人間のエゴによるコントラストが光る作品だった。
今振り返ってみるとそんなふうに感じられてしまう。
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