980円で投げ売られてる『運命が君の親を選ぶ』はそんなに悪いゲームじゃないよ

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 『運命が君の親を選ぶ 君の友人は君が選ぶ』(以下運君)は、現在980円Amazonにて販売されている。

フルプライス作品が980円。需要がないのか投げ売りされ、批評空間では中央値60点をキープし、面白くなさそうな雰囲気をぷんぷん漂わせている。実際に面白いかと聞かれれば胸を張って「面白い」とは言いにくい。

いわば市場から見放されてしまった作品だ。

けれど、この記事では「でもやる価値はあるんだぜ?」というお話をしていく。

 

 

1)お話がわかりづらい「運命が君の親を選ぶ」

本作は風水、易経、西洋占星術、タロット占い、神道、太極図―――普段見聞きしない占術のあらゆる要素が絡み合いながら運命によって苦しんでいたり、運命によって何かを諦めてしまった人間をを描いていく「運命にまどわされる少女を救い、その過程で気付きを得る」そんなお話である。

「占い」を扱うのはゲームジャンルとして新鮮であるものの……いかんせんストーリーが分かり難いし、話を下っていても何のお話をしているのか不明瞭だったりする。最後までやっても「結局このお話ってなんだったんだろ」という読後感に陥ってしまやすい部分が、低評価に至ってしまったの原因だと思う。

じっくり読みこめば多少なりとも『運君』の物語の全容を掴めることも出来るだろうが、しかし「そこまでしたい」と思わせる魅力が無いと読者の大半は感じたのではないか。

「精読してまで、再プレイしれまて、この作品の全容が判ったところで何になるんだよ? そうじゃなくてプレイ中にもっと楽しい時間を過ごしたかった」

そう思った人が多かった気がする。

私としても「そんなにつまらない作品じゃないよ」と言いはするものの、「オススメだよ!」なんて口が裂けても言えない感じである。

"そんなに◯◯な作品じゃない"

なんてフレーズを使ってしまう時点で、やはり運君のゲームとしての魅力はその程度でしかない。

そうさ。本作はゲームとしてはいまいちな出来だ。それは認めよう。しかし物語体験においては味わって損はない"一瞬"が内包されているのも確かなのだ。

私はこの一点において本作を推したい。

 

 

2)永遠の女性との対話

 

どうせネタバレを記述したところで、さして影響のない作品なので遠慮無くネタバレをするとしよう。

もしそういうのが嫌ならばここで回れ右をし、そっとページを閉じてもらえれば幸いである。準備はOK

OK。それでは語っていくことにする。

 

味わって損のない物語体験――それは主人公がもうひとりの『自分』と邂逅するラストシーンである。

まず、主人公が何故この町に来たかというと『a-YOU』に会うためだった。『a-YOU』を追いかけて転校してきたし、学園内にて情報収集を行ってその存在を突き止めようとした。

そして辿りついた答えは、「『a-YOU』の日記」は理事長が麗南学院生の頃に書き綴っていた日記や編纂した物語を裏サイトに置いたものであり、主人公にレスを送っていたのは『a-YOU』になりすました御桜枢だった。

つまり、彼が会いたかった『a-YOU』はどこにもいなかったのである。

それもそのはず。彼が会いたかったのはルーツを辿った理事長や御桜枢ではなく、夢の中に出てきた『a-YOU』だったからだ。

異なる自己/邂逅/永遠の女性/対話/運命/裏返しの世界 ――それは塔の山の山頂で行われた。

『それならキミは、向こう側でボクに会ったか?』

「え?」

『ボクに会うために、ここに来たんでしょ?』
『この世界とそっくりな向こう側には―――』
『キミとそっくりなキミがいると思わないかい?』

『キミの半分はボクで、ボクの半分はキミだ』

『分かれてしまったんだよ、ボクたちは―――』

「それが本当なら……」
「消えてしまった半分は、向こう側に……?」

『ボクが観てる世界では、キミが"消えた半分”だよ』

「裏返しの世界……そういうことか」

『そう、ここは陽中の陰―――』

『キミが観ている世界こそが"裏側”だ』

 

――運命が君の親を選ぶ 君の友人は君が選ぶ

 

この一瞬にこそ、この物語の瑞々しいエネルギーが宿っているのである。

まるで自分の中に閉じこめられ、自分の肉の檻とでも呼べる"内側"へと追いやられてしまったような、ドンドンと拳を握りしめ叩くくもののけれどその檻は分厚く、黒く、びくともしない、真っ黒な世界。――まるで「そう知覚」している"私"がもう半分の私であり、肉の檻がもう一人の私とでも呼べるような感覚。皮膚がざわめき、脳が沸騰するような体験がそこにあるはずだ。

あの一瞬―――自分の中にもう一人の自分がいる確信を味わえると思う。

もちろんすべえtの人がそんな体験を迎えられるか確約はできないが、ただ本作はそういった可能性を多分に秘めているし、あのラストシーンはとても素敵なのは間違いない。EDに入るタイミング、楽曲が鳴り響く瞬間、そういうのもよかった。

この為だけに、『運君』はプレイする価値があると声高らかに宣言してみようと思う。

少なくとも挑戦してみる価値はあるのだと。

www.youtube.com

このOPムービーを見て、鳥肌が立ったり、脳が "ぎゅーっ" とする感覚を覚えたのなら多分いける気がする。相性がいいと思う。

 

 

おわり

 WHITESOFT・5作目『運命が君の親を選ぶ 君の友人は君が選ぶ』を紹介してみたがどうだっただろうか。

この記事を読んで興味がわいたならやってみて欲しいなと思う。そしてもし上述した物語体験が味わえなかったら本当に申し訳ない限りである。

 

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