*今回大まかな作品構造に触れざるを得ないので、そういうのが嫌いな未プレイ者は読まないほうがいい。逆に「序盤のちょっとした情報くらいなら大丈夫」って人は、ここから先どうぞ。
2つのスイッチングで"退屈"を剥ぎ取る『BALDR SKY』
ヒロインに起こされる所から、本作は始まる。
「甲…起きて」
――とか、考えていると、ほら、さっそく、『あいつ』の呼ぶ声が聞こえてくる。
「…ほら起きて。早く起きないと遅刻しちゃうよ?」
そう、もう起きないと、学園の始業時間に遅れてしまう。
さっさと朝食を済ませて、今日も学園に行かなくちゃ。
――『BALDR SKY Dive1』
よくある学園モノよろしく真っ白いシーツの上で惰眠を貪る少年に、毎朝毎朝、可愛い女の子が肩を揺さぶってくる。「もう少し寝かせてくれよ…」「ダメ起きて」「…うるさいなあ」「もう8時なんだけど」「っ?!遅刻確定じゃん!」みたいな甘いやり取りが繰り広げられると思いきや
「起きてくださいっ、甲中尉っ!」
――『BALDR SKY Dive1』/戯画
怒鳴り声で目覚めたそこは、自室ではなく、銃弾が飛び交う戦場だったのである。
主人公・門倉甲は自身を「学生」だと認識するものの、そこは彼が学生であった時から数年が経過した世界であり、学生から「傭兵」になった現代。彼は戦場のいざこざで記憶障害に陥ってしまう。
ゆえに自分がなぜ傭兵になったのか? なぜ戦っているのか? 目の前の女性は誰なのか? そして学生時代に朝起こしてくれた……あいつは……一体誰だったのか――。もちろん答えは出ない。
そんな何かもが判然としない世界で、闇医者・Dr.ノイの力を借りすこしづつ記憶を回復していくのだが、記憶を回復する手続き上「記憶遡行」が行われる。頭のなかで過去を追体験していくことで、門倉甲の失われた記憶が徐々に蘇っていくと言えばいいだろうか。
つまり「過去」と「現代」2つの時間移行を繰り返すのが本作のポイントである。
・学園時代(過去)
⇅
・傭兵時代(現代)
――『BALDR SKY Dive1』/戯画
上のように学園時代の菜ノ葉とお話をしていると、突然、視界が"もやっ"としいつの間にか現代の菜ノ葉が現れる。
視界が定まっていない門倉甲(現代)に「なにをボーッとしているの?」と菜ノ葉(現代)が問いかけて甲もまた生返事をしながら現代でのストーリーが進んでいくかと思えば、逆に現代ストーリーが進むなかで唐突に過去の記憶に引っ張り戻されることもある。
このように門倉甲の「記憶遡行」はいつ起きるのか誰にも分からず、散歩をしている時であっても、硝煙がこびりつく戦場であっても前触れ無く始まる。またその遡行の長さも定まっておらず、現代の様子を忘れてしまう程の長さで過去が描かれることもあれば、そそくさと現代→過去→現代へ切り替わることもしょっちゅうだ。
――『BALDR SKY Dive1』/戯画
『BALDR SKY』は「現代」と「過去」を往復していくことをまずは知ってもらえればいいかなと思う。
ACTパート
また本作はシュミクラム戦なる「2Dアクション」が存在し、門倉甲が敵と戦う時それらは文章で表現されるのではなく、アクションゲームによって勝敗は決する。
もちろん勝利しなければGAMEOVERだ。
BALDR SKYは「サイバーパンクアクションアドベンチャー」と題されるとおり、この2Dアクションもウリになっている。
――『BALDR SKY Dive1』/戯画
このACTパートは、ただなんとなく挿入されるものではなく、これだけで充分遊べる代物となっている。
ダッシュ・コンボ・必殺技はもちろん、規定の熱量を超えれば技が出せなくなったり、コンボの順番を考える戦略性、さらに装備を使い続けていると経験値がたまり新装備を開発できるようになったり、プラグインで様々なメカ機能を拡張できるがやりがいのある2Dアクション。
このせいか、ADVパートも充分に楽しいにも関わらず「ADVパートはやく終わってくれ!ACTで遊ばせてくれ!」という逆転現象に陥った人も多かったのではないかと思う。(私もその一人だ)
たまにBALDR SKYを起動しシュミクラム戦(2Dアクション)で遊ぶくらいに、よく出来ていると思う。
概要はこんな感じ↓
①装備カスタマイズ(好きなボタンに好きな装備を設定できる)
②拡張プラグイン(溜めたアイテムで機能を解放できる)
③装備追加(ストーリー進行時に増えることもあれば)
④装備開発(自分で装備を増やしていくことも可能)
といったふうに色々なことが出来るゲームになっているが、言葉で説明してもなにがなんだかだと思うの詳しい説明は割愛する。
――『BALDR SKY Dive1』/戯画
シュミクラム(ロボット)に技を設定できるのが最大で10だったかな? なのでキーボードでかちゃかちゃ弄るよりはゲームパッドの「ボタン数」「持ちやすさ」を考慮するとこちらのほうが遊びやすいかもしれない。
さてここからが本題なのだが、そんな
・現代編と過去編
・ADVパートとACTパート
この2つによって『BALDR SKY』はプレイヤーの退屈を剥ぎとっていく。
一つのタイムラインしか持たない物語であれば、次に「どう進むのか」は容易に理解できてしまう時がある。例えば門倉甲が「☓☓に潜入する」という目的を打ち出し、それにそって準備を進めていたら、そろそろ「☓☓の潜入シーンが展開される」ことは誰でもわかるだろう。
そしてもしもそれが興奮を呼ぶ展開ではなく、物語上、予定調和なものであればプレイヤーは(すこし)飽きがきてしまうかもしれない。こう来たらそこに行くよねとか、この目的の為にはここは通過するのは当然だよね、というふうに。
しかしこの時に二つ目のタイムライン・過去編へと飛ばされたらどうだろう?
それまで予期していた物語展開は遅延に追い込まれ、新しい物語の渦中に巻き込まれていく。進行していた現代のお話はそっと脇に置かれ、目の前に現れた学園時代にプレイヤーは身を投じていく。
そこでは先ほどまでにあった殺伐とした戦場の空気は一掃され、青春時代真っ盛りな少年少女の日常が幕を上げるのである。お弁当を食べ、デートをし、痴話喧嘩をしては実に微笑ましいシーンの数々で埋め尽くされるように。
――『BALDR SKY Dive1』/戯画*1
それを一通り体験したプレイヤーは今度はこう思うだろう。
「甲とクウの関係はどうなるのだろう?」「次は告白かもしれない」「水着イベントはまだだろうか」といった期待と予測を今度は過去編に持ちこみはじめる―――と思ったらまた現代に戻され「☓☓に潜入するシーン」の一歩手前まで時間が進められてしまう。
そして今度は「あれ、予定調和だった☓☓潜入が面白いぞ」と思えるようになってくる。
「☓☓に潜入するシーン」を予測していた時とは違い一度過去パートを挟むことで、プレイヤーは予期していた展開であっても飽きではなく「新鮮な気持ち」で当該シーンを見つめることができるだろう。いうなれば現代パートでの時間軸をぶった切られることで、順序立てて描かれるシーンの予見を消失させてしまうことに成功しているわけだ。
このように現代と過去の度重なる移行は、プレイヤーの期待と予測を遅延に追い込み予期していた物語を読むかったるさを減退させてくれる。新鮮な気持ちで取り組めるようになっている。
きっと1つのタイムラインしか持たない物語よりは――圧倒的に――退屈せずにすむだろう。
これに追い打ちをかけるように本作ではシュミクラム戦が導入され、過去⇔現代の切り替えに留まらず、ADV⇔ACT2つの切り替えで物語が進むようになっている。
「ACTパート」はまずその見た目が明らかに変化する。一目で分かる通りADVパートとACTパートはその「外形」が違く、前者ではテキストとCGと立ち絵で構成されている画面が、後者ではHPケージ・熱量ケージ・メカニカルなロボットによって画面が出来上がる。またプレイヤーの目的も変わり前者では「物語を読む」ものだったのが、後者では「自機を動かして敵を倒す」ことになっているので、「見た目」「目的」この2つによってよりスイッチングの体験が強くなっていく。
過去(時間軸) ⇔ 「現代」 ⇔ 2Dアクション(作品外形)
「現代」を中心にして、時間軸と作品外形の繰り返されるスイッチングがプレイヤーの退屈を剥ぎ取る土台になっているわけだ。
もちろん、例えそういう退屈を剥ぎ取る作品構造だとしても、肝心かなめのテキストが読むに耐えないものであれば無価値だろう。だが安心して欲しい。現代・過去・2Dアクション――これらは単体でみても楽しく、結合しても楽しいためこの作品構造がより生きるのである。
もしノベルゲームでよくだらけて飽きちゃう人がいるのならば、きっと「だらける」という状況がくるまえに物語は終幕しているに違いない。
ジャンルはSF作品で、そちらに興味がある人も是非どうぞ。
私的におすすめの作品だ。
補足
ちなみに『BALDR SKY』はDive1、Dive2、で1つの作品になっている。つまり物語の全容を見るには2つ買わなければいけない。筆者はまだDive1しかやっておらず、本記事はその前提で読んでもらえると幸いである。
そして嬉しいことに9月23日にWindows10対応・特別価格版の『BALDR SKY』が発売されたので、興味があるならばこの機会にどうぞ。
(了)
6,458円
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