WA2レビュー小木曽雪菜という諸悪の根源

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私的満足度:★★★(3.7)
疑似客観視:★★★(3.8)

 

私のWHITE ALBUM2の評価は、高くない。

むしろ低いのは「良い点」と「悪い点」がぶつかり合い、際立ったものが削れてしまったからだろうか。

とかく両方とも書いていく。

 

  

(1)雪菜さえいなければ・・・

 

WA2は第一部で三角関係が成立し、かずさ不在のまま春希と雪菜が結ばれる第二部、そして再びどちらを選ぶか?迫られる第三部によって捻りにねじれた愛憎劇になっている。

ここで「なぜ」このような事態になってしまったのかを考えれば、小木曽雪菜に原因が集中するのは疑うまでもない。

彼女がいたから、春希は何度も間違えるのだ。
彼女がいるから、かずさの恋は実らないのだ。
彼女がいなければ、二人は結ばれた。

――春希が「いちばん」好きなのはかずさだ。けれど彼はその恋が実らないと思い込んでいたし、その気持ちに気づいたのは雪菜にせまられた後だった。この意味では彼にも悪いところはある。

だが、それらを全部見透かして行動したのは小木曽雪菜である。かずさの恋心も、春希の想いも、分かった上で告白したのだ。このままでは二人が惹かれていくのは目に見えていたし、三人が一人になることを怖れ、あせった、愚鈍な一手。

ううん彼女にとっては最善の一手。

 

「かずさがあなたに気持ちを伝える前なら、絶対に勝てるって、知ってたんだよ」


――雪菜/Introduction/WHITE ALBUM2

 

その結果、春希とかずさは想い合うんだから皮肉だ。

しかしこれは雪菜さえいなければそうなって当然だと明らかにしたものである。雪菜さえいなければ二人は速やかに結ばれたし、邪魔者なのは彼女をもってして他にいない。

第二部では雪菜が執着すればするほど、春希は苦しむ構図になっている。その関係性から逃げるようにして後輩や上司と恋仲になるのは、それだけ雪菜の想いは重荷ということだ。

それでも春希が向き合い、関係を修復し、2年間の熱い交際をしたところで5年音信不通だったかずさが現れれば彼の心は揺れる。「ほんとう」に好きな相手がいるからなんども間違えてしまうし、「二番目」に好きな相手と板挟みだから心身が失調するのだ。

――小木曽雪菜さえいなければ、二人はこんなにも苦しまかった。

雪菜は自分のことを汚い、汚い言うが、本当にそのとおりだよ。お前のエゴによって彼らは辛い思いをし、お前の粘着質な態度によって事態はここまで悪化した。

雪菜はここを理解しているからこそ、春希の浮気を浮気とは思わず、なるようにしてなった、割り込んだのは私だ、という意識を持っているのである。けれど道徳観念が強い春希はこれを理解できず、罰を求めるのだからもうどうにもならない。

もしも誰が悪いかを決めるのなら、以上の理由において雪菜しかいない。彼女こそWA2における諸悪の根源。

 

……もちろん二元論で割り切るなんてナンセンスだけどね。だれもが悪く、だれもが正しかった。己の願いを叶えようとすることが間違いだと思わないし、それでだれかが傷つくのは当然のことだろう。だからこの話は「しいて言うならば?」程度にすぎない。

 

 

(2)自罰をめぐる物語~WHITE ALBUM2の純愛~

 

言うまでもないが、春希が恐れるのは「世間から外れた自分」である。

高校のときから委員長として規則を守り、クラス全員に規則を守らせお節介からも分かるようにルールをとても大事にしてる。

決められたものを遵守するのは当然であり、逸脱するものを決して許さないその気質が、大学、バイト、仕事……において活かされると責任感は人一倍で、やるべきことをやり、周囲の信頼を勝ち取ることに繋がっている。

だから社会適応につまづくことはないし、むしろ定められた場所があることに安心を覚えてる風でさえある。

しかしこれは逆さまにすれば、社会の決めごとを逸脱した時、耐えられないほどの罪悪感が彼に襲いかかるということだ。今回の件でいえば、雪菜への裏切りであり、交際からわずか数ヶ月で浮気し、小木曽家族からの信頼を一蹴したそれらは不義理で、不道徳な、倫理違反。

世俗に生きることを是とする春希だからこそ、それが彼のアイデンティとなってるからこそ、逸脱した自分を罰し続けるのである。

――つまりWA2における純粋なる愛とは、世の中から外れてもひとりの女の子を愛せますか? にかかるわけだ。雪菜を2度裏切り、小木曽家族を裏切り、殴られ、友達もなくし会社やめてそれでも……冬馬かずさを愛せますか? 

愛せます!と言うのがかずさ√。

愛せない!と言うのが雪菜√なのである。

 

かずさ「本当は、本当はさ… もっと違う、一番幸せな道、あったんだよ」

春希「…もう、寝ろよ。夜、開けちまったぞ」

かずさ「教会の祭壇で雪菜が泣いてて、春希が照れてて、そしてあたしが、祝いのオルガンを弾く」

春希「………寝るぞ、俺は」

 

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――coda,かずさ√,WHITE ALBUM2

 

雪菜√は春希にとって「ほんとう」の好きを貫けない代わりに、誰も失わないENDになっている。社会から受け入れられ、恋人も、親友も、疎遠だった母親とも和解(?)し、式場にまで呼ぶそんな誰もが笑っていられる結末。

「社会的」な視点からいえばまず間違いなく幸せだし、その価値観を絶対視しながら背き続けることで潰れていく春希をみかねて振ってしまうのが浮気√なのである。

そしてこれは冬馬かずさにおいての愛とも考えられるわけだ。本当ならばずっと側にいてほしい、ずっと守ってほしい。でも春希の幸せを考えるなら自分と一緒にいてはダメだ……という苦渋の決断。

 

「本当は、ずっとずっと、お前と一緒に… 二人だけの世界に、閉じこもっていたかった」(中略)

「でも壊れてく! あたしといると春希がどんどん壊れていくんだよ!」


――かずさ,coda,浮気√,WHITE ALBUM2

  

本気で好きだからこそ、遠ざける。かずさにとっての純愛とはそういうものだったのかもしれない。

なんにせよWHITE ALBUM2は「自罰」的な物語である。春希しかり、雪菜しかり、かずさ然り……誰も彼も自分を責めて、罰することが常態化している。そこから抜け出すには「向き合うしかない!」という答えで、そこを描くまでものすごい量の描写がなされた、そんな作品であった。

 

 

 

(3)WA2の比喩表現の乏しさはヤバイ

 

まー、とにかくひどいですよね。

手垢にまみれた比喩表現のオンパレードで、新鮮味もユーモアも全然感じられないし、本作のキラーフレーズってなに?って聞かれても何も浮かばないでしょ? そゆことさ。

 

 

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"春希「俺たちのことを誰も知らない、俺たちのことを気にする人なんかいない。そんな、石器時代に行こう……」"

 

――coda,浮気√,WHITE ALBUM2

 石器時代……。

文脈で考えれば不適当ではないものの、もうあまりのあれさにやるせないです。

 

 

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"たった一日の結婚生活を締めくくる、
スピード離婚の聖なる儀式。"

――coda,浮気√,WHITE ALBUM2

 

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"まるで伝説の名演奏のように……"

 

――coda,浮気√,WHITE ALBUM2

 

なにが "まるで" なの? かずさの演奏を表現するのがこれなの? もうまんまじゃん。 やってらんねー……。

 

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"春希「お前、見た目キンキラキンだけど中身は腐ってる。いくら才能だけ認められても、社会人としては失格だ」"

 

――coda,かずさ√,WHITE ALBUM2

 

きんきらきん……。

 

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"春希「悪魔と、契約してでも、な」"

 

――coda,かずさ√,WHITE ALBUM2

 

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"俺たちは、血の契約を交わした。"

 

――coda,かずさ√,WHITE ALBUM2

 

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"アリが冬に備えてせっせと働いているとき、キリギリスは優雅に歌い、遊び。"

 

――coda,かずさ√,WHITE ALBUM2

 

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"かずさ「根っこのところで全然変わってない。あの杓子定規がやっぱり好きなんだ!」"

 

――coda,かずさ√,WHITE ALBUM2

 

……もういいでしょう。

引用が後半に集中したのは隠喩・暗喩・換喩etcがそもそも絶対数からして少なく、登場してもこんなふうに陳腐。黴くさい「キンキラキン」「ピカピカ」「スピード離婚」からも分かるように、センスのいい比喩がほんっとーーにない。プレイ時間60時間↑でうまい言い回しもない驚くべき事態。

読み物として楽しくない作品ってこういうとこありますよね。(怒)

 

 

(4)テキストの特徴

 

WA2は

  • だらっとした心理描写
  • 時間差
  • 浅い比喩表現

この3つで編み上げられており、ダラダラ春希の心理を積み上げつつ、それをセリフとの時間差でぐだぐだ表現する面白味のないテキストだ。

例)

どうしたらいいのかわからなくて焦るあまりに、
いつも最悪の選択ばかりしてきた付属時代の俺を、
二度と繰り返したくなかったから…

でも結局、そういう決断からはいつも逃げてたから、
今までほとんどこういう場面に出くわさなかったけど。

小春「さてと…じゃあ今からどうしましょうか? もう帰ってるか、小木曽の家に電話してみます? それともやっぱり、もう少し心当たりを…」

と、もうとっくに日付も変わったというのに、
まだまだ元気で、そして何故だか
機嫌を直してしまった杉浦を、俺は…

――Crossing Chapte,WHITE ALBUM2

 
セリフと地の文、とかく長ったらしいのである。

人によっては「素直」で「わかりやすい」という評価を下すかもしれない、が私からいわせれば芋虫が1mを1日かけて這いずりまわるようなじれったさを感じてしまう。

 

時間差というのは、「春希の心情」と「携帯メールの返信」を交互に繰り替えされる、あのような構造をいっている。

この2つはそれぞれ異なった意味をもっているが、それを連続して表示しないことで春希の実際の気持ちをあらわしたり、リアルタイムに移り変わる様子をだしている。

ただ、正直読みにくいことこの上ない。意味がちぎれちぎれなので、正確に把握するにはいちいち履歴を漁らなくてはいけないし、その手間分の価値はないときている。

また演出上、画面が暗転し、フェートアウト。そして春希の気持ちがすっと表示されるあの「タメ演出」が多用しすぎていてげんなりである。

  • 時間差+タメ演出+冗長なテキスト=読みにくさ

に繋がっていると指摘する。

 

 

(5)立ち絵の同人並感

 

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――WHITE ALBUM

 

まず「手」は描けてないし「重心」はガタガタ「背の反り」は骨が折れるかっつーくらい曲がり「肘の位置」はおかしい。正直、違和感だらけ。

もちろんイラストなのだから現実の法則を持ってくるかどうかは慎重にしなければいけないが、これはそういう次元ではない。人体構造がそもそもなってないし、現実の齟齬の「処理」がうまくいってない。

パッケージ絵との落差すごい、と思ったのは私だけじゃないはず。(セット版)

 

 

(6)音がかさなる演出

Introductionでギターとピアノの音が重なり合う演出はとてもよかった。縦横無尽に駆ける音素が雑なリフといつの間にか一致している……この体験をADVで得られたことは大きかったなと。

 

(7)千晶派

WA2でだれが好きかと言われれば、千晶である。かずさでも雪菜でも春希でもなく、物語を食い散らかす彼女のことが大好きである。

しかし作品的に「演技」を重視されるキャラなのに、千晶の「声」がミスマッチすぎて悔しい……。役不足ならぶ役者不足。なので普通にボイスOFF。

 

 

(8) データ吹っ飛び

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OS対応、推奨スペック、パッチ済み……にも関わらずこのエラーメッセージが出て内部データが初期化されてしまいリスタート。それも5回も。

既読フラグも吹っ飛ぶので、正直最悪である。強制スキップ(ctrl)で凌ぐものの、正直うーんという感じでした。

PCとの相性が悪かったのかな。

 

 

おわり

 

辛辣な感想で申し訳ないが、ストーリー、テキスト、演出、立ち絵どれも取るに足らない作品だった。これが正直な気持ちである。

長い長い痴情のもつれの中で輝いていたのは、千晶√のみ。そう思ってしまうのは、本作の関係性の腐敗は小木曽雪菜によるものだと理解したこと、第一部~第三部やってることは全部同じなこと、+素朴なテキストを丸4日読まされた苛立ちからだろうか。

了.

 

(ちなみに、今買うならこっちのほうがいいはず)

 

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アニメはどうなのかきになる。

 

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