「違う。帰るの私は」
「あの素敵な世界にっ!こんなのあたしの世界じゃない!!あたしじゃないっ!!!」
――エレナ
もうここが胸がざわざわした。ああそうか、そういう欲求もあるんだなって思った。そしてエレナの望みはとても怖いものだとも感じた。
つまりエレナの望みは「私の居るべき世界はここじゃない!」って問いかけ。これの何が不味いかというと、彼女にとってこの世界の全ては偽物になってしまうということ。
目に映るすべてが紛い物で、触れるすべてに価値を置けなくなってしまう視点。うんこれはやばい、相当に危ない思想である。
別世界がどこかにあるという希望は、そのまま今生きている世界に価値はないと言っているものだし、なにより理想郷(常世)を求めるのは「死」に近い。
「自分のいるべき世界はここじゃない! 本当は、もっと別の場所に素敵な世界があるんだよッ!!」
ああやばい。この問いかけ、この考え方は危機感を覚える。なんかもう胸ざわざわしまくりだもの。グノーシスをちょっと彷彿した。
「そんなつまんない答え知りたくなかったぁっ!!!」
「違うそんな設定じゃない私は選ばれた系でピンクのちょっと不思議ちゃんででも出生の秘密ありありで―――青あんたみたいにきっといつか異世界に帰る運命で!!」
「……エレナ」
「エレナとか呼ぶなっ!!こんな嘘の、偽物の」
「偽物なんかじゃない!!エレナはエレナだろ!!!」
――青、エレナ
目に映る偽物の世界を、あるいは偽物の自分をぴかぴかにするのはいつだって、どう価値付けるしかないんだろうね。
そのトリガーが、気付きか、誰かが求めてくれることでがらりと価値認識が変わる。寄りかかれるなら、そして相手も寄りかかることを受け入れてくれるならそういう選択も十分ありなんだよねと。
ただ思ったのが、「もっと、ずっと遠い世界へ行ってしまいたいと思ったことは?」そういった咲さんとは別ベクトルの別世界欲求。咲さんはここが嫌いだからアッチがわに行ったんじゃなくて、「素敵な世界への憧憬」によって行動したんだろう。
"あの丘の向こう側を見たいとは思わないか?" これはまおゆうの魔王の言葉も同じで、ただの憧れや好奇心に近い。
反対にエレナは……ここが嫌いというふうには見えないけれど、執着と固執の頂点にあるような感情に見える。帰らなくちゃいけないみたいな焦り、それは憧憬とは程遠い。憧憬とは一種の信じる対象なのではないか
<参考>