猫箱ただひとつ

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白鷺茉百合 【考察】 (19111文字)

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 「それじゃあ、頑張ってね。あとでまた会いましょう」 

 

 

 

 

相手に踏み込むっていうこと

 

「そう、ありがとう……」 

「……?」 

いつもみたいに、にこやかな微笑みだった。 
だけど……微笑んではいるのだけど、ぎこちない。なんとなくそう思ってしまった。

どうしたんだろう。最近、茉百合さんがなんだか変だ……。気のせいではないと思うんだけど。


「まだみんな、帰らないのかしら」 

しきりに周りを気にしてるみたいだけど。どうしてなんだろう。何か気になることとかあるのかな。 

「……?」

視線がわずかに泳いでいて、やっぱり、いつもと何かが違う気がする。何が……とはやっぱりうまく言えないのだけど。 

―――晶、茉百合

 

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……ああ……もうこれは確定的……だなあと……そう痛感してしまった。 

こういった、「あーもうほぼ嫌われているな」と思われる状況で、私的な最善手は相手の心に踏み込んで、自分の内蔵をかっさばいて開示する。これが(まだ相手と接続したい)のなら、いろいろと前に進めるので好きです。 

好きですけど、実際は私はもうその相手に見切りをつけちゃって、すーっと自分からも離れていってしまう人なので、いけないよなあ……とかとか。


晶ははからずも(茉百合に嫌われているという可能性を微塵も藻体なまま)、茉百合さんに踏み込むことになるんですけどね!

 

+++

「なんか、すごく失礼な言い方だったらすみません」 

ごくんと息を呑んでから、俺はその事ばを口にした。 
「なんだか―――うまく溶け込めてないっていうか」 

「……」 

「あ、えっと……元気がないって言った方が良かったな! ずっと気になってたんです」

―――晶、茉百合

 

晶の「茉百合さんがうまく溶け込めてない」っていうところに、茉百合さん反応した? もしかしてこの人晶と同じ「世界飛行者」なの? 自分と周りの違いに不安を覚えていた?なんてと思ったけど、 

このときの茉百合さんの心情を思うと「ちゃんと言わないとだめだなあこれは……」といったものな気がしますねハイ。

 

からのー!

 

取り繕うのはやめるわ、はっきり言うわね」 

疲れたのよ、お前に付き合うのに」 

「…………え」 



「恩着せがましく付きまとわないで、煩わしい」 


一瞬で茉百合さんのまとっている空気が変わった。


―――晶、茉百合

 

……\(^o^)/ 

 

私はね、何の取り柄も無いつまらない男に時間を割く趣味は無いの。だから私にもう関わるな。 

はやく、 
消えなさい」 
+++ 

俺の知っている茉百合さんは、ひとかけらもそこにはない 

―――茉百合

 

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もうね、このあと笑いたくなんてないのに、笑い続けていましたよ。茉百合さんってこういう人だったんだ、なるほどね!とハイテンションを維持しつつ。 

茉百合さんの言い分はもっともで、自分にとって興味の対象でない人間に付きまとわれることは、とても鬱陶しいものでしょう。私だってそんなの嫌ですし。 

だから「もう関わるな」、「あなたに時間を割きたくない」という言い分は頷けるものです。 

となるともうこれは、相手に踏み込んで、自分の気持ちを伝えたあとに起る不理解という名の「対立」。相手に一歩も譲歩する部分が無いということです。 

つまり、茉百合さんにとって、葛木晶と時間を過ごすことはまっぴらごめんだと。でも晶は晶で、茉百合さんともっと話をしていたい。 

この他者と自分の利益の齟齬が起きて、かつどちらも譲る気がないのなら対立してしまうなと。ここまで嫌悪を隠さないのであれば、もうそんな彼女と時間を過ごしたいとは思わなくなるので「対立」→「関係の消失」が起きるもの。

 

さらに、茉百合さんが晶を嫌っている以上に、「茉百合さんの新たな一面」のショックもあるんじゃないですか、大抵ここまでギャップがある顔を見てしまうと、「好き」なままでい続けるのって難しいなと思います。 

難しいよ!

 

+++

 

「自分の都合で私を別人扱いしないで頂きたいわ。取り繕うのをためただけよ。勝手な妄想を押し付けるのはやめてちょうだいね」 

―――茉百合

 

じゃあ、今までの茉百合さんって……誰なんだ。 


―――晶

 

 

こういう「実はこの人はこういう人間だった」っていう時に、「本当の彼女はこっちだってこと?」っていう思考に向かいがちなんですけど、そうじゃないんですよね。 

天使のような笑顔を迎える茉百合さんも、心を抉る言葉を吐く茉百合さんも「本当の茉百合さん」なのです。その2つは、コインの表と裏と同じように、くるくる入れ替わり、どちらも真実ということなんでしょうね。 

で、

で! 

それで、そんな「真っ黒な茉百合」さんを知ったとき、それでも彼女を好き居続けられるか? という問題。 

晶が好きだったのは間違いなく「天使のような茉百合」さんです。けして、真っ黒な一面がある茉百合さんではない。


晶が観測していた「白鷺茉百合」という人物は今までは



晶→「天使のような茉百合」 

というものです。彼女の優しさ気遣い微笑み、そういった人間性に好感情を抱いていた。しかし今回の一件で、 

晶→「真っ黒な茉百合」を観測。 


晶が多い描いていた「天使茉百合」は実は! →「天使/真っ黒茉百合」という存在 "かも" しれないという事実に変わったのです。 


となると、晶からすればもうそれはそれは別人です。いかに「天使」の部分を持っていようと、それいがいの「真っ黒」な要素を持つ白鷺茉百合は、晶の中にいた白鷺茉百合と相反するのですから。 


(たぶん何言っているか全然分からないと思いますが続けます……)


するとね、ここから、「好きの再契約」がはじまると思うんですよ。 

「天使だけ」の茉百合さんなんていなくて、実際に存在するのは「天使/真っ黒」さを併せ持つ女性だった。ならば「天使だけ」という自分の中にいた茉百合さんを追い出し 

「天使/真っ黒な茉百合」さんを、「好き」になるかどうか再スタートするってことです。 


ここが多分とーっても大事なことです。自分が思い描いていた彼女のある真っ黒い一面を見て「裏切られた!」「まさかこんな人だっただなんて!」と怒りや失望を抱くより 

「なるほど実はこういう人だったのか。自分が思っていた彼女は全体の一面に過ぎなかったのだと。ならば、そんな複雑な面をもったこの人をまた好きになれるかな?」と問いかけるのが、私的に重要かなと思うのです。 

なんとういか、受けて・止めて・流す、というイメージですね。

 

+++

 「―――ずいぶんと手際が悪いと思ったのよ。お前、本当に無能なのね」

―――茉百合

 

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う……うぐぐ。や、やばいここまで境界線を踏みを超えた発言をしてくると、私としては全面戦争しかもはや手がないわけなのだが。あーでも……うーん……んー……。

 

そして、茉百合さんはここぞとばかりに、

ナイフのような言葉を投擲してきた。

 

「―――私がお前を何故今まで生徒会に置いてあげていたか、教えてあげましょうか」 

「無理やりに入学許可書を発行できるような、立場の高い人間が推薦した生徒だったからよ。うまく管理下におけば、よい繋がりができるかもしれないものね?」 

「そうしたら、次は特殊遺伝子の話が出てきたというわけ。それで、少しは有意義なのかと思っていたのよ、お前に付き合うのもね」 

「二卵性双生児の遺伝子が交じり合い、性染色体の構成は女性なのに、男性型になったことで遺伝子のひとつに突然変異を起こした、ということらしいけど」 

「でも、問題の遺伝子さえなければ、後はただのなんの面白みもない凡庸な人間だったわね。わざわざ私が気を遣って接するような価値など、何も無いわ」 

―――茉百合

 

もうここまでストレートに素直に、衒いもなく言われるといっそ清々しい。清々しい! 

茉百合さんのこの言葉に、「裏」と言われるものを感じ取れない。彼女の本音をこれでもかと吐き出しているってのがありありと分かる。 

悪意90%侮蔑10%で錬成された言葉の数々。もうここまで言われると、裏があるとか、「実は」なんていう深読みなんて出来ないですよ。もしくは全面対決でしかないのです。

晶がすごいと思えるところは、このことに対する考えかただよなあ……と。

 

でも、何だろう。

どうしてそこまで言われるのか、少し不思議だった。 

茉百合さんにとっては、例え素顔がどうであれ友好的な態度をとっている方がいいに決まっているのだ。なのに、どうしてわざわざ俺にはあんな態度をとるんだろう。 

―――晶


そ! ここがすごいと思った。茉百合さんの素顔の真っ黒な一面、辛辣な言葉の数々に押されてびっくりして、「最も疑問である部分」を見落としてしまっていた。 

そうなんだよね、茉百合さんが「わざわざ」ここまで素顔を開示することがどうも不思議だし違和感である。なんらかの事情が……そこにはあるかもしれない糸口だと思う。 

確かに。茉百合さんが晶に吐いた言葉は、本音で構成されていると思う。そこに疑いの余地はない。でも、でもじゃあなぜ「本音を言うのか」が分からない。 

そこのところに気づく、っていうのは、いったいどういうふうに世界を『観て』いると、できるんだろう……。そうね1つには、「言葉」を素直に受け取らないということがあると思う。 

「言葉」の伝達効率を自分で上げ過ぎちゃうと、悪意による言葉は心のダメージが高くなる。心が傷つければ、「言葉」以外のものを観ないようになってしまう。視野がぐっと狭まってしまうんですよね。 

2つ目には、未だに晶は茉百合さんのことが「好き」だからだろう。ここまでボロクソに言われても、彼女と「関わる」気がないなら、彼女について思考なんてしない。考えることすら放棄してしまうに違いない。 

だって、好きでもなんでもない相手に自分のリソースを使うのは煩わしいもの。

+++

 

茉百合さんにさんざんめっためったにされ

「つまり、お前は私にとって取り繕う価値もないって事よ? わかる?」 

―――茉百合

 

……され……されたあとの

 

 

 

このぐみちゃんの笑顔! 

 

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この優しさ!


この気遣い! 

この向日葵のような笑顔!!! 

癒されます。

癒やされた!!

 

 

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ヾ(>ワ<)ノ!!!

 

 

 

 

 

茉百合さんは、なぜ晶を目の敵にするのか

 

「もう一度同じ事聞きますけど。俺、茉百合さんを何か怒らせるような事しましたか?」 

「……」 

茉百合さんは、しばらく何かを考えるように黙っていた。 

「いいえ、何も」


―――茉百合、晶

 

 

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結局、白鷺茉百合がなぜ晶を目の敵にしていたのか? どうして自身の本音を吐き出すまでにいたったのか? その答えは無かったように思える。 

なので考えてみる。 

茉百合さんが晶に対する、嫌悪または拒絶感(というと大げさだがそれに近い感情)を目にするのは、海に行ったあたりから。夜の海辺で茉百合さんと晶二人で話しているとき、どこか距離感を漂わせる言動が目についた。 

それは左手を自分と晶の間に置くことや、言葉のなかに、これ以上踏み込ませないなにか、晶いわく「透明だけど決して開かないドア」を感じるとのこと。 

次に、大掃除後のイベント「ゾンビにならないで♪」の実施中のときのことである。偶然にも晶は茉百合さんと出逢うも、彼女は言動が落ち着くかなく居心地の悪さを雰囲気に滲ませていた。 

決定的だったのは、晶が「一緒にまわりませんか?」という提案にたいし、茉百合さんが遠回しに断ったことである。断ったときの言動をみても、迷惑そうに感じていたものだと思われる。 

そして、事件は起きる!w 

繚乱会室にて、茉百合さんと晶は二人きりになるも、どうも茉百合さんは早く「誰か来て欲しい」言葉を呟く。このあと結衣と天音が部屋にはいってくるも、二人はおふざけの真っ最中だった。 

結衣と天音のちょっとしたおふざけによって、お皿が飛び、茉百合さんに直撃しようとしてたところを、すんでのところで直撃を回避。しかしお皿が地面に衝突し割れた音を聞いた、茉百合さんはその場に座り込み、顔を青ざめる。 

そんな彼女を心配した晶は、連れ立って保健室に行き開放するも、あまりにも近すぎた為(?)白鷺茉百合の本性の一部を垣間見ることになった…。

+++

白鷺茉百合の言い分としてはこうである。 

「葛木晶は無能で凡夫であり、なんら利益を見込める人物ではない。私にとって彼は価値のない人間であるからにして、そんな人に時間を割いたり、構われるのは御免」とのこと。 

つまり、「葛木晶に関わるメリットがもうない」という理由で、白鷺茉百合は葛木晶の交友関係を拒絶した。


しかし疑問が残る。それは葛木晶も言うとおり「茉百合は本性を明かさないほうが最もベスト」なのだ。にも関わらず、彼女は「葛木晶」だけに自身の本音とでもいうべき真っ黒い一面を開示したのである。(生徒会メンバーすらも、茉百合の黒い一面を知らない) 

後に聞けば、晶は茉百合にたいし、怒らせるようなことをしていないと、彼女の口から呟かれる。(嘘をついた可能性もあるが、ここでは本当のことと見做す) 

+++ 


つまり、白鷺茉百合は、葛木晶に、自身の誰にも見せたくはないような一面を、見せた。その答えは……? 

 


(1)、葛木晶がもう、あまりにもあまりにも、うざくてうざくて仕方がなく、つい堪忍袋の緒が切れてしまった。

…………。こういう場合もあると思いますええ……。もしくは__というより__次の(2)のほうが正解のような気がします。

 


(2)、「葛木茂の息子」という理由で、顔も見たくないし関わりを持ちたくという意志の現れ

茉百合さんが「動揺」するときはいつも、「葛木茂との思い出」を刺激されている場面ばかりのような気がする。

彼女は4,5年前に、葛木晶の父親である葛木茂に警護をされていた関係にあった。そのときに茂さんの人柄に、それまで冷たく固まっていた心はほぐされたんだそうな。

 

『なんの得にもなりません。あなたはお仕事でいらっしゃってるのでしょう』

『そうだね、仕事できているよ』

『だけど、ちょっと気になったから……。まゆちゃん、いつもひとりでいないかい?

『―――!』

『僕は家族じゃないし……その、学校のお友達みたいにはなれないけどね。でも友だちになれたらいいなって思ったんだ』

―――茉百合(少女期)、茂

 

茂るさんが茉百合さんに言った言葉と、保健室で晶が呟いた言葉。

なんだか―――うまく溶け込めてないっていうか

―――晶

 

 はかなり似ています。

晶は事ある事に「親父はこういう時」と言うんですよね。休日の(強制)デートの帰り道、ライムライトでの食事のときの動揺も、「葛木茂の思い出を刺激」された、もしくは「葛木茂と葛木晶の心遣いがあまりにも似すぎ」る為に、茉百合さんは心をざわめかせてしまっているように見えます。


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「……誰にでもにこやかで優しいっていうのは」

「他人からの印象は良くしておいた方がいいから、そうしているだけ」
「それだけじゃなくて」

茉百合さんがぴくんと眉をあげて、俺を睨んだ。

「誰にもそばによらないでほしいって言ってるみたいな気がするんです」

「そういうの、寂しくないですか」

「思わないわ」

「俺は、茉百合さんがなんか……気になります」

「何、それ」

人の気持ちなんて、全部わからないって言いましたよね」

もし誰にも自分の気持ちが言えないとしたら、それはとても辛いことじゃないですか


―――!

持っていたフォークがお皿の上に落ちて、大仰な音を立てる。

 

すごく、動揺しているような。

戸惑っているような。
なんて表現していいのかわからないけど……。

まるで、ありえないものを見ているような顔だった。
だけどその戸惑いと動揺は、すぐに茉百合さんが自分でかき消した。

「………帰るわ。気分悪い」

―――茉百合、晶

 

晶が言った言葉は、茂さんの

 

『ちゃんと泣いていいんだよ。泣くのはとても大事なこと』

 

という言葉と、本質的な意味で酷似していると思います。自分の本心を曝け出していいんだよと。(もしくは、茂さんが茉百合さんを警護中に、晶とまったく同じ言葉を、彼が言った可能性もありますだからここまで動揺したのかもしれない)


他にも茉百合さんは、葛木茂を強く意識した言動が目立ちます。桜子のことを、晶がどう思っているのか気になったり。

 

「お前は、桜子の事をどう思っているの?」

「何かを感じはしないの?」

―――茉百合

 
未だに、葛木茂が撃たれたさいに倒れこたんだ「花」を自戒の為に、部屋に置いていることや、

 

 食事をする手を止めて、部屋においてある植木鉢に視線を向けた。


自分を戒めるように。
忘れてはならない。
それを自分のそばに置いたとたん……駄目になってしまう。

またそうなったら、今度はきっと―――。

「むしろそれは……望んじゃいけないことなの……」

―――茉百合

 

保健室のベッドで寝込んでいるときにみた、自身の内側の言葉、少々風景のあらましなど、

 

 

 『……どうして叶わない夢をみるの?』


「…夢……?」

『あなたはまた夢をみて、誰かに手をのばそうとするの?』

「私は…」

『もう、懲りたんじゃなかったの?』
『おまけに、未練がましく相手にすがって』

「やめて、違う…」

あの人が誰なのか、わかってるんでしょう? 愛されようなんておこがましい

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『はねのければよかったのよ。いくら似ているからって、許してはいけなかったのよ』

「だから、跳ね除けたじゃない!」

『でも大丈夫、お祖母様が来たもの。結婚しなさいって言われたもの。これでやっと離れられるわ』

『これで安心、これでまた、私は一人でいられる。そうだよね?』

「…そうだと、思うわ……」
「これで、やっと……離れられるのよね」

安堵のため息とともに、そう返事をする。
気が付くと、目の前には誰もいない。
……きっと最初から、ここには誰もいなかったのだ。

―――茉百合

 

 

あとは、自分自身でもうとっくに葛木茂氏に、囚われていることを自覚するところとか

 

 あんな本心を、さらけ出した事なんてなかった。

あの時から、自分の心を、自分で制しきれなかったことなんて、一度もなかった。


いいえ、本当はわかってる。本当はどうしていちいち戸惑ってしまうのか、覆い隠す事が出来なくなってしまうのか、わかっている。

どこまで私は、あの人にとらわれているのだろうか。

―――茉百合

 +++

そんなふうに。 

 挙げればきりがないくらいに、「白鷺茉百合は葛木茂の存在について負い目を感じている」事実がぼろぼろと出てきます。さて、以上のことを踏まえると、重大な問題が出てくると思います。

それはこの世界に葛木晶がいない(=葛木茂に息子はいない)のに、白鷺茉百合は晶と茂を親子だと見ているのか? です。


これすっごい謎な部分だと思うんですよね。


この世界を仮に「世界A」と名づけます。「世界A」では葛木晶が本来な存在しない(代わりに稲葉結衣が存在)し、桜子が心臓移植によって学園に通えるまで元気になり、葛木茂が死んだ世界です。

白鷺茉百合という人は、「葛木茂の心臓を提供された人物(=桜子)」をありとあらゆる力を使って割り出した恐るべき情報収集能力を持っています。それが例え家の財力だろうと権威だろうと、そういうのを使える立場にいて、かつ使うことを躊躇わなかったという人とも言えます。

このことを踏まえると、葛木茂に「息子がいなく」、「娘がいる」くらいのことはもう当然というくらいに知っていてもおかしくはないと思うんですよね。彼女の茂氏に対する負い目、または罪悪感は「自分のせいで刑事さんが死んだ」というものです。

そんな彼女は、茂氏のご家族に謝罪をしたり、通夜に行くことも予測されます。自分のせいで起こした事件であり、死んだ人がいるのだから、そう思っても不思議ではないです。(逆に負い目によって、ご家族に対面・茂氏の通夜に行かないことも考えられますが、それでも「ご家族はだれか」と、茉百合は知ろうと思うのではないでしょうか)


100歩譲って、「白鷺茉百合は葛木茂の家族を一人も知らなかった」としましょう。それでも、晶に桜子にことについて「何かを感じはしないの?」と聞くのは、不可解です。


他にも疑問点いっぱいがあると思うんですが、ひとつひとつ考えて、解消していきます。

 

 

疑問1、「葛木晶を葛木茂の息子」として観ていたから茉百合は動揺していたのでは?

白鷺茉百合はたびたび動揺しています。その主な原因は、葛木晶が口にする言葉です。先にも述べたとおり、その言葉は「葛木茂」を想起する為に心を揺さぶられていたと見ると自然だと思います。

しかし、葛木晶はこの世界にはいません。彼が存在した痕跡も、記録もないのです。となると、「葛木茂氏を想起させる人物」として茉百合さんが見ていた意識していたと思えばいいのかな?

 


疑問2、茉百合が部屋にある「植木鉢」をみて、自戒する場面

 

 食事をする手を止めて、部屋においてある植木鉢に視線を向けた。


自分を戒めるように。
忘れてはならない。
それを自分のそばに置いたとたん……駄目になってしまう。

またそうなったら、今度はきっと―――。

「むしろそれは……望んじゃいけないことなの……」

―――茉百合

 ここは、桜子に「晶さんといい感じだよね!」と言われた場面の後の、茉百合さんの心情です。この心情部分も「この世界にいない晶を茂と関係付けて」いるんですけど、これは単純に、もう誰に甘えない。誰かに寄りかからないといった意味にも取れます。


つまり、葛木晶が、ということではなく、「寄りかかろうとしている人物」を指して、「それは……望んじゃいけないことなの……」と言っているのかなと思います。


 

疑問3、保健室にて、茉百合が見る夢の矛盾

 

繚乱祭。晶と茉百合さんは様々な露天を観て遊びます。そのとき、茉百合の祖母である巴が現れます。そのさい、不慮の事故として大きな大きな風船が割れるんですが、この割れた音に反応し、茉百合は茫然自失の状態に追い込まれます。

そんな心が不安定のときに、眠りの中、夢の中でみた心象世界がこれです。

 

 

『……どうして叶わない夢をみるの?』

「…夢……?」

『あなたはまた夢をみて、誰かに手をのばそうとするの?』

「私は…」

『もう、懲りたんじゃなかったの?』
『おまけに、未練がましく相手にすがって』

「やめて、違う…」

あの人が誰なのか、わかってるんでしょう? 愛されようなんておこがましい』

+++

『はねのければよかったのよ。いくら似ているからって、許してはいけなかったのよ』

「だから、跳ね除けたじゃない!」

『でも大丈夫、お祖母様が来たもの。結婚しなさいって言われたもの。これでやっと離れられるわ』

『これで安心、これでまた、私は一人でいられる。そうだよね?』

「…そうだと、思うわ……」
「これで、やっと……離れられるのよね」

安堵のため息とともに、そう返事をする。
気が付くと、目の前には誰もいない。
……きっと最初から、ここには誰もいなかったのだ。

―――茉百合

 

茉百合が自分自身に問いかける「あの人が誰だか分かっているのでしょう?」という言葉は、「葛木茂の息子」として晶を見ている言葉そのものだと思います。

しかし! そう晶はこの世界にいない人物です。葛木茂の息子と関連付たくても、そもそもできない人物なのです!  心象世界で自問自答している茉百合さんの言葉は、葛木晶を「寄りかかりたい人(=本音を曝け出してもいい)」と見ているというよりは、やっぱり「葛木晶は葛木茂の息子」として見ているとすれば、自然なんですよね……。

 

でもじゃあどういうことなのか? この世界に存在してはいない晶を、「葛木茂の息子」として見ているってどういうことなのか。

実は、茉百合さんが心象世界で自問自答し終わったあと、晶は別世界へ飛ばされています。すずのちゃんの手によって。つまり、茉百合が心象世界(=眠りの中)で自問自答していた言葉は、「葛木晶が世界を飛んだ後」だったとすると理屈が通ります。

なぜなら、タイムマシン・フライアによって逆転制御現象を引き起こしたから、白鷺茉百合は夢という心象世界で、葛木晶と茂を親子として関連付けられたということです!

逆転制御現象とは、フライアで世界を飛び越えたとき、晶が今までやってきたことは飛んだ先の世界に反映されるってことです。茉百合さんが夢の中で自問自答するよりも先に、晶が世界を飛び越えた示唆はこの呟きで見て取れるかなと思います。


俺……保健室で茉百合さんに付き添っていたはずなのに、どうして部屋にいるんだろう。

確か、誰かに呼ばれて保健室を出たような気がするのだが……。

―――晶

 

茉百合さんが夢から覚めた時、周りに誰もいなかったこと。
晶が茉百合さんに「付き添い中」に、保健室の外へ出たことが、「晶が茉百合さんが夢の中で自問自答するよりも先に、世界飛行した」と観ていいんじゃないでしょうか。

 

 

疑問4、葛木晶が世界を飛ぶ前に、桜子に質問したときについて

 

そして、冒頭に戻ります。最も難解であろう疑問点がここです。


「お前は、桜子の事をどう思っているの?」

「何かを感じはしないの?」

―――茉百合

 

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晶が世界を飛ぶ "前" に、茉百合さんが、「晶と桜子を関連付けている」点がとても不可解であり不可思議です。


もう一度情報を整理してみます。

・この「世界」では、葛木晶という人物は存在していない
・葛木茂が死亡したことで、彼の心臓が桜子に移植された。


もし茉百合さんが、「桜子」を誰かと繋げたり、関連付けることを行うのであれば「稲葉結衣」が最も適しているのです。なぜなら、彼女は葛木茂の娘だからです。

しかし、茉百合さんは、出自不明・身元不明・存在の痕跡が1ミリもない、このせかいでは葛木茂の息子でもなんでもない「葛木晶を水瀬桜子を繋げて」見ています。

ここがどうしても分からない。分からないです……どういうことなんだろう……。

晶と桜子を「父親・その父親の心臓」という繋がりで見ることがそもそもおかしいのです。ならば、前提が違う???

葛木晶が存在を許されている元の世界で、茂氏が死に、その際彼の心臓が桜子の身体に移植されたならば、「晶と桜子」を「葛木茂」で結びつけるのは分かるのです。

でも「晶が存在しない世界」でも、桜子と晶を結び付けられる"なにか" があるとすれば……理屈は通ります。茉百合さんの、不可解な言動にも納得できます。ではその"なにか"とは?

―――……。でもやっぱり無理なのでは? この仮定は無理がありすぎます。だって「葛木晶がいない世界」で、一体どうやって、花火の事故のあとに、ぽんと現れた晶が、桜子と関係できるわけがないじゃないですか。じゃないですか!


しょうがない、もう一段階飛躍していきます。そう



白鷺茉百合も、葛木晶とおなじ「世界飛行者」だった!! とするんです!!



これならば、茉百合さんが、桜子と晶を関係付けられる「晶がいた元の世界を知っていた」とするなら、筋は通ると思います。


でもやっぱり厳しいですかね?……誰かここ通る説明くれると嬉しいです。私には茉百合さんが世界飛行者、という前提がないと説明できないよ……。

 

+++

 

まとめると?

 

「茉百合が晶を目の敵にしていた理由」の私の答えとしては、

「晶が存在しない世界」では、葛木茂と心遣いがとても良く似た人物だったが故に、白鷺茉百合の心を揺さぶり続けてしまった。その為、彼女は猫の皮を剥ぎ取り、本音を晒す結果になってしまった。

晶がすずのの手によって、元の世界へ戻ったあとは「逆転制御現象」が起こり、「葛木茂――葛木晶」のラインが繋がった為、茉百合はより一層彼を拒否し続けるということになった。

 

というところでしょうか。

 

 

 

 ここからはもっとだらだらと、だらだら感想を書いていきますす。

 

 

 

 

花の美しさ

 

 

「花は美しいわ。でも、今はこんなに綺麗に咲いていても、いつかは枯れてしまうでしょう?

それを見るのがね、何だか辛くて。いつか枯れるからこそ、今の美しさを楽しめるというのはわかっているのだけど、やっぱりね」

―――茉百合

 

 

造花はなぜ美しくないのか? 生花はなぜ綺麗に見えるのか?

生きているという―――「変わりゆくもの」を愛せるかどうかが分岐点になると思うんだよ。それはもちろん人間にも当てはめれることで、生きるという変化し続ける苦しみ(=病・老・死)があるからそ、その逆の一面綺麗・美しいと感じられるのだろうと。  

 

 

白鷺茉百合さんに嫌われている?……

 

「え……ううん。いいわよ、悪いもの。晶くんは晶くんでちゃんと生き残らないと……」


「状況が状況ですし、二人の方が何かと協力出来るかもじゃないですか。それに俺、一応男ですし、強行突破とか、力仕事は役に立つかと」

「そうね……でも、こういう舞台では、一人のほうが生き残れる確率は高いわよ、きっと」

なんだろう。やっぱり茉百合さんにしていは歯切れが悪い。


―――茉百合、晶

 

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夜の海辺で茉百合さんと話した時から、感じていた違和感。それが急激に膨らみ輪郭を強くしてきた。

……あれ?もしかして茉百合さんに嫌われている?……

そこまでいかなくても、これは避けられているときの表情であり、会話の端々から「ついてこないでね」と暗に言われている気がしてならない。

あれほんとに? なんか嫌がれることしたったっけな……とぐるぐる考えるものの、とくに見当たらない。いやでも、人に嫌われるのって、理由なんか無い場合多いですしね。

ただ、自分は相手に好感情を抱いているのに、相手は嫌悪を覚えているのだとしたら、ちょっと悲しいよね……。

茉百合さんの言動は、露骨に嫌悪を振りまいてないあたりが、否応もなく、嫌悪を抱かれている可能性を感じてしまう。

 

 

「それじゃあ、頑張ってね。あとでまた会いましょう」

+++

「なんか、ていよく追い払われたような気がするんだけど……このせい、なのかなあ……」


―――茉百合、晶



 

踏み込んで踏み込んで踏み込んで

 

 

「そんなこと、どうして私が答えなければならないの?」

「だって、わからないじゃないですか。人の気持ちなんて、やっぱり全部わからないから」

「―――!」

―――だから、相手の気持ちがわからなかったら、いつでも聞いてみたらいい。


だから、聞くなら今しかない。
そう思って、俺は一歩踏み出した。

「茉百合さん

茉百合さんはどうしてそんなに、俺を目の敵にするんですか。

俺、何か悪いことしましたか。気づかずに何かしてたなら、謝りますので教えてください」

―――晶、茉百合

 

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相手がなにを考えているか分からない、だから聞く。それを知りたいから。それが質問であり「会話」なんだとそう思う。

よくやられるのが、(そしてやってしまうのが)、「決めつけの質問」。これはほんと最悪の部類の会話といってもいい。ううん、もはや会話じゃなくて一方的な独り言なんですよね。

相手がなにを考えているかわからない。だから知りたいと思って聞く____のではなく、自身がそうであれという相手のイメージを押し付けるような質問方法。

質問しているにもかかわらず、すでに答えは質問した人の中に勝手にあるっていうね。

「なんで―――するの?」

「◯◯だから」

「いやそんなのは問題じゃなくて、やめてくれる?」

みたいなね。結構あるあるです。そしてこういう無意味な質問、会話する気ねーなこの人と思ったら、さっさと切り上げたり流してしまう癖がついてるなと。

「壁にでも喋っていればいいじゃない」とそう思ってしまうんですよね。実際そういう会話をして、良かったことなんて経験的に無いですからね…。

 

 

ずうずうしいの

 

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涙はでていない

 

「涙は……」
「よかった、出ていない……」

―――茉百合

 

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泣きたいときに泣けない。涙を出なかったことに安堵する茉百合さん。これは、自身の本音を出してはいけない、誰かに甘えちゃいけない、そんな強い意志を感じさせます。


この後、茉百合さんは屋台でとったぴかぴか光る腕輪をゴミ箱に投げ捨てます。

 

 ゆるく微笑みながら、そっと腕輪を外した。ベッドをきちんときれいに直し、制服のしわを正す。保険医のために、体調が直りましたので帰ります、とメモを残しておく。


さようなら。
なぜそんなふうに呟いたかは、わからない。
ゴミ箱の中で、腕輪はずっときらきらと輝いていた。

―――茉百合

 

もう「楽しい時間」は終わりだよ。もう戻らないっていう気持ちがひしひしと……伝わってくるよね……と。

 

 

 

 

 

 会長と茉百合さんの部屋

 

 「私の部屋のスペアキー、返してもらえますか。結婚もしないのに持っているのはおかしいですよね」


「……っ…!」
「……やっぱり、そう…来ますか…」

「……。―――白鷺さん、それはあまりにも卑劣だと思うのだが」


「あら、そうですか? 私が出した条件を呑むというお約束で貸出ているはずだったのでは? 八重野くん、口を挟むのはもちろんあなたの自由だけど、それで困るのは皇君だということをお忘れなく」

―――茉百合、蒼龍、八重野

 

 最初、会長がなぜこんなに必死になっているのかよく分からなかった。んー、茉百合さんの部屋に拘る理由なんてあったけ?と。

でも茉百合さんの部屋にあった「ピアノ」を思い出せれば、あとは簡単だった。会長がどこでピアノを練習しているかといえば、茉百合さんの部屋でしかなかったのだ。

家でも学校施設である音楽室でもなければ、あとは個人の部屋か、ピアノ教室くらいしかない。そして、「誰にも知られない」とするならその候補はおのずと「個人の部屋」に限られてくる。

 

 

 

 

 

自由と壁

 

例えば、とある由緒正しいお家が舞台はどうでしょう。本家と呼ばれる家族が絶対的な権力を持つ、閉鎖的な集合。

 

そこのご主人様が奥様以外の女に手を出してしまいました。それも、使用人。これを何ていうかご存知? 身分違い。お約束のように子どもが生まれたけれど、そんな身分違いの恐ろしい子どもは『なかった』ことにしましょう。

 

そう『なかった』ことのように、あたりまえに本家の奥様の娘として育てられてゆく娘の話など、どう? おもしろそうでしょう。

 

低俗ですね。本当に低俗なドラマだと思いますわ。ふふ、おかしいですね。どうぞ、笑ってくださっていいのよ? 私がいるのは、そういう家なの。どうすれば自由なんて言葉が私の口から紡げるのでしょうか。あなたが口にするような小さな自由ですら、私には禁句なの。

 

だから、自由なんて軽々しく私の前で口にしないでくださいね? おわかりいただけたら嬉しいわ

 

―――茉百合

 +++

茉百合さんのいる場所は、俺が考えていたよりももっと深く冷たい場所なんだ。 

茉百合さんが崩そうとしないその壁は、自分を守るためじゃないんだ。 

自分が壊れてしまわないため。自分のいる場所がどんなに辛いところなのか気づいて悲しくなって、壊れてしまわないためなんだ。

 

―――晶

 

茉百合さんが「壁」として、作り上げているそれは、普段なら誰にも通させやしないものなんだろう。そこから一歩先を絶対に踏み込ませない。踏み越そうとしたら、華麗に受け流す。天使の微笑みで。そういうことをずっと続けてきたのかもしれない。

 

だからこそ、その「壁」を乗り越えた先にある「本音」を晶に見せたのは、とても大きなこと……か。桜子に対してさえも、そういった真っ黒い本音を見せないものね。(桜子に対しては、慈愛の情で溢れてしまってそもそも黒い部分なんて無さそうにも見えますけどね)

 

んでね、「自由(=何者にも束縛されない)」って、束縛されるからこそ「自由」と認識できるのかもしれないと感じた。自由(=何者にも束縛されない)な状態だったらそもそも「自由」を「自由」として認識できないのでは? ということ。

 

最果ての荒野でただ一人い続けることになったとしても、それを「自由」と認識できないかもしれないなって思います。

 

そして、何かに、誰かに、他者に自分の生き方、思想、好きなことを雁字搦めに縛り付けらてはじめて、その鉄の束縛を解きたい、「自由」になりたいと思うんでしょうね。

 

自由意志……か。ふむ。

 

 

「自分の好きな人は、自分で選ぶべきだよ!」 

「あなたは何もわかってないのね」 

「もしも……もし私が、あの家を捨てて好きな人を選ぶことがあったとしても」 

「ねえ、それがあなたである事は絶対にないわ」 

+++ 

「あなただけは絶対に駄目。私はあなたを絶対選んじゃいけないの」 

「そうよ。最初から、あなたは駄目だったのよ。だから言ったじゃない、関わるなって……」

―――茉百合

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「もう私に近づかないで―――お願いします」

―――茉百合

 

そう言うと、茉百合さんは俺に向かって優雅にお辞儀をしてみせた。前のように俺をはねのけたのではない。本当に優雅で、誰も真似のできないような美しいお辞儀。 

だけどこれは、茉百合さんからの懇願のしるしだ。

 

 

 

 

 

 

それでも呼ぶっていうこと

 

 

『ねえ、まゆちゃん』 

『あの、その呼び方やめていただけますか』 

『あ、ごめん…ごめんね! ご家族の方から茉百合さんって名前を聞いて、じゃあやっぱりまゆちゃんって呼び方がいいかなって』 

『……』 

『ちょっとなれなれしかっったよね。でも……もしよかったらそう呼ばせてくれないかな?』 

『何故?』

 

『何故って、そのほうが早く仲良くなれそうだから』 

『仲良くなんて、なってどうするんですか』 

『きっと仲良くなったほうが、いいかなって思ったんだよ』 

 

―――葛木茂、茉百合

茂さんの、茉百合に嫌がれても「それでも呼ぶ」っていうところが、本当にこの人らしい。どうすれば心を通わせられるか? どうすればもっと仲良くできるか? っていうところに重きを置いている人だと私は思うのだ。

 

だから茂さんは、自身の内蔵を開示することに躊躇いがない。と思うんですよね。うんうん。

 

それとね、彼の「きっとなあ曲なったほうが、いいかなって思ったんだよ」って言葉が『CARNIVAL』の「なんとなく」の会話を思い出してしまった。

そう、なんとなく仲良くなれそうだなって思ったり、なんとなくいいなって思えたり、なんとなくをなんとなく素敵だなって感じれるのっていいなーって思うのです。

なんとなくって、つまり、利益とか損得勘定で動いているわけじゃないから。自身の「情」の部分だけで動いているところが、人間っていいなーとかあったかいなーと思っちゃうのです。なんとなく、いいですよね。

 

『自分の心がまるで氷みたいに冷たく固まっていたことを、私はその時初めて知った』 

『それでもかまわないと思っていた、自分にも。でも、本当は違ったんだ。ずっとずっと、そうじゃないって叫んでる自分がいたのに、気づかなかっただけ……』

―――茉百合

 

 

 

心象世界に閉じ込められるっていうことと、誰かの生死を自分の生死と結びつけることについて

 

 

『どうして?』

誰も聞いていない。 

誰も答えてくれない。 

そして何も聞こえない。

 

『―――それは私が自分を許そうとしたから』 

『―――他人に甘えるなんてこと、許されるはずないのに。求めてしまったから』

 

 ―――茉百合

 

 

本来、葛木茂の死亡(この世界で)と、白鷺茉百合の行動はなんら関係ない。ぜんぜんこれっぽっちも無関係である。

 

葛木茂が撃たれたのは、家人の勘違いと憶測と(あと内輪もめによるなにか?)といろいろなものが、ぐるぐると積み重なったにすぎない。彼がその家にいたのは、それは彼が刑事だったからであり、そういった仕事を全うする為だったから。

 

そこに、茉百合さんの「せい」という因果関係は存在しない。

 

けれど、なんでだろうね……、私達は相手に起こった出来事と、自分の行動を結びつけてしまいがちなんだよ。誰かが死んだことに対し、その「死」によって自分は生かされているだとか。あるいは、自分のせいでその人が死んでしまったんだとか。

 

人間誰しもいつか死ぬ、絶対に命をなくす。俯瞰的にみると、それは遅いか早いかの違いでしかない。だからそれは「そうあった」だけのことだし、自然の摂理とでもいうべき「どうしようもなかった誰も悪くなかった」と見るものなんだと私は思うのです。

 

でもこれは理屈じゃなくて、感情なんですよね。……。本来無関係な自分の生死を、相手の生死を結びつける。関係あるものとして見てしまう。関係そのものに価値を付随させてしまう。

 

そうすると、頭の中が捻れて、内側に内側に内側へと自身が埋没してしまう気がするんですよね。心象世界に閉じ込められるそんな感覚です。茉百合さんがみた、過去の事件のRefrain・自身との対話、暗い空間。そういう負の内的な世界観で自身を雁字搦めにしちゃうんだろうと。

 

茉百合さんは、現実という外側でも妾の子どもという立場で不自由だし、自身の心象世界という内側でも、自身に囚われている。なんだろう……これは、このままじゃいつか心の内圧に耐え切れなくなってぺちゃんって潰れちゃう気がしてならない。

 

 

 

 

 

恋とか愛とか

 

「―――別に、苦しめたっていいんじゃないの?」

 

「晶くん勘違いしてるよ。晶くんがいう恋愛って、何か俺は違うと思う。人を好きになるんだからさ、苦しんで当たり前じゃない? 本気の恋愛ってそんなもんじゃないの?」 

+++

「それが、茉百合さんが望んでいること……なんでしょうか」 

「望むとか、そういうんじゃないよ。だって晶くんはさっき言っただろ? 諦められないって」

 

―――蒼龍

 

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もしこのことが、つまり、茉百合さんが結婚することが、彼女の本質を全うさせるためだったら、私は応援したいなって思います。でも今回はそうじゃないんですよね。

 

白鷺茉百合という人間は、全てを諦めて、心象世界の内側へ内側へどんどん外側の世界と乖離していっているように見えます。つまり、「私の人生ってこんなもんですよ?」とそう虚ろに微笑んでいるっていうのでしょうか。

 

けどそれは諦めでしかなくて、ただ自身の求める幸福をすべて投げ捨てただけに過ぎなくて。だったらそれは彼女の本質でもなんでもない。ないのなら、晶くんは諦めちゃだめっしょ、みたいな意味に会長の言葉は聞こえるんですね。

 

ここは「諦めちゃダメな場面だよ」と。キミも本当はそう思っているんでしょ?と。

 

 

+++

「それにさ、自分の一番大事だと思うものは、手放してしまったら絶対に後悔するよ……」

 

「取り戻すべきだ。どんなにみっともなく這いつくばってでもね」

 

―――蒼龍

 

 

恥を捨てるのって、そうそう簡単なことだとは思わないんですよね。「恥」というのは、自身が培ってきた「こうあるほうが理想」という価値観の裏返しですから。

 

恥をかくということは、自分が今まで信じてきた価値観をぶっ壊すことだと思うんです。でもそれって……キツいことです。自分を支柱にしてきた、決まりや倫理って、「はいやってね」といわれて「はい」って言えるもんじゃないです。

 

でも本当にほんとうに、大事で大切なものを守ろうとするときは、そういうのをざっくり諦めないと手に入れられないんでしょうね……。

 

 

 

桜子の安否

 

「はい、なんでもお友達が入院していて、休日には時々お見舞いに行ってらっしゃいます」

―――早河恵

 

 

「……はい。間違いありません。お気の毒ですが……」 

「そう……ですか。ありがとう……ございました」

 

―――看護師、茉百合

 

 

晶が世界を飛び越えた日から、数日後、茉百合さんは桜子がいる病院へと向かう。そこで看護師との会話は……おそらく桜子が死亡したということだろう。

 

 

「たくさんの人にもっと愛されて行きなきゃいけない子が死んで、私が生きてるなんて、おかしな話」

 

「……代わってあげられればよかった」

 

―――茉百合

 
そう言って、買ってきた花束を投げる茉百合さん。……うん……やっぱりそうか。晶のお父さんが生きていると、桜子はどうしても生きられないのか……。

 

 

 

 

 自由に

 

「私がいなかったら……あなたがこんなに苦しむこともなかったのに」

 

「―――っ!!」

+++ 

俺は誰にも苦しめられてない。ましてや、茉百合さんになんて……そんなわけない。自分で選んできただけなんだ。なのに茉百合さんはそれすらも背負い込もうとしてる。 

 

「違う!」

 

―――茉百合、晶

 

茉百合さんは、いろいろな縁を、因果関係を、自分に強く結びつける傾向があるのかな……。共感性能力が高い人ってこういう「より」な気がします。誰かのことを強く思えたり、自分のことのように相手の痛みを理解できる人は、その「感受性」の強さによって、自分が苦しめられちゃう……みたいなのですね。

 

茉百合さんの負い目って、つまり、「自分のせいで他人が死んだ」「自分が甘えたせいで、他人に被害が及んだ」というものです。これが彼女の問われている原因といってもいいかもしれません。

 

そしてこれをほどくには、どうしたらいいんだろう……。晶の行動を振り返ってみると、

 

茉百合さんは自身の求めたい未来を捨て、全てを背負い込もうとしたとき、晶が行なったことは「茉百合さんと幸せな未来を一緒に歩みたい」と強く言ったことです。

 

そして彼女の頭に手をのせ、なでる。自分の思いがちゃんと伝わるようにと。茉百合さんは晶に撫でられると、葛木茂さんとの思い出がふわっと蘇ってきて…………

 

「ちゃんと泣いていいんだよ。泣くのはとても大事なこと」

「それなら、また笑えるよ。甘えたり笑ったりできるんだよ、まゆちゃんは」

 

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という茂さんの言葉を思い出します。この後、彼女は堰を切ったように泣き、自分の本当の気持ちを語り始めます。

 

「普通の女の子のように恋をして……普通の女の子のように幸せになりたい」

―――茉百合

 

 茉百合さんに必要だったのは、自分の真っ黒い内面や、今でも囚われている事を丸ごと包み込んでくれる人だったのかなって思います。そんな人からそんな自分のことを真摯に考えている人から。「もっと自分の生き方をちゃんと考えてよ」と暗に言われてしまえば、投げやりな生き方を変えるには十分なんだと思います。

 

「こんな日が来るなんて、思いもしなかった……あの日から、私の時間は止まったままだったから……」

 

―――茉百合

 

「私、これからはもっと自由に生きていくわ」 

「ちゃんと自分の言いたい事を言って、幸せになるわ……」

 

―――茉百合

 

 

言葉メモ

 

 「お前のような無能に私の周りをうろつかれるのは不快だから、わざわざ取り繕うのをやめただけよ」


「……俺が取り繕ってる、って言ったからではないんですか」

「関係ないわ」

 

 

 <参考>

 

Flyable Heart オリジナルサウンドトラック Flyable Sound!
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