猫箱ただひとつ

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小坂井綾 感想 (29804文字)

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「何があったの?」

 

 


▼ あとこれは「はつゆきさくら」の考察記事です。

『はつゆきさくら』_初雪が春へ至るためには何が必要だったのか? 死者は何をもって生者へと復活できるのかを考えてみた(21461文字)  


 

 

 

 

 

今までアキラと綾のゴースト的な関係について考えてきた。それもまずはここらでまとめておこうと思う。



・初雪とアキラが出会うまでの過程

→サクヤがランの魂を討った事件のあと、初雪はホテルに戻れなくなる。
→その冬から翌年の冬まで、彼はネカフェなどで雨風を凌いでいた。また廃墟ホテルに近づく者に警告をするようになっていた。
→ホテル近辺にアキラを見つけた初雪は、「うろつくな」と注意する。このことがきっかけでアキラは初雪に相談を持ちかける。

<!>ここで注目すべき点は、「アキラはなにもしない」ところである。土を掘り返してみろ、その鍵で貸金庫屋に行け、ロッカーを開けてみろ……。初雪に50万ほどの大金を渡すさい、アキラは "物に触れなかった" 。なにもしなかったのである。

またアキラが願う復讐も、初雪に頼むということもなんだかおかしい。アキラは自分を寒空の下放っぽりだされたことを恨んでいる。ならば自分の手で、直接殴ってやりたいと思わないのだろうか? 

初雪が憎き復讐相手をなぐっているとき、アキラは「死ね!死ね!死ね!」と連呼している。彼は剣道の有段者だし、フィジカルには自信があるはず。自分で殴ろうと思わないのはいささか変だ。

ここから導き出される答えは、「アキラは霊体であるため現世に干渉できない」、ではないだろうか。


次に「小坂井綾」のも気になるところは、次の要素。

 

・綾は「夢」のなかでアキラと出会う。そのあと"バイト"をはじめたという。


綾はアキラが死んだあと、宮棟におまじないをしてもらったという。


「私は、一度、お世話になったんだよ」

「ちょっとした、おまじないをしてもらっただけだよ。当時、私も色々とセンチになっていてね」

―――綾

 
宮棟からすれば、夢のなかで死者と会えるようにお膳立てをくんだというところだろう。その夢のなかで綾はアキラと話し、アキラの呟き(肉をよこせ)にそれもいいさと頷いてみせた。

 


「夢で、何があったかは覚えてないんだけど。なんだか、それから心が晴れたような気がしてね」

「あぁ、でもあの後かな……バイトをはじめようって気になったのは。私らしくない、積極的な行動だった」

―――綾


綾は "当時センチになっていた" と言った。つまりおまじないをしたのは、アキラが死んですぐのことであり、バイトをし始めたのはその年ということになる。

初雪が綾と出逢った、この年、この冬に、綾は喫茶カンテラのバイトを始めたわけじゃない。もっと前からバイトをしていたということになる。(当たり前ですが、一応) 

 


・アキラの魂が綾の魂と融け合い同化した。アキラを討てば、綾は身体を乗っ取られる心配はなくなるが「アキラと同化していた期間の記憶を失う」ことになる。具体的には「河野初雪との記憶が失われる」。

アキラを討ったあとの綾を見る限り、「河野初雪」の記憶を一切合切なくしているようだった。顔を合わせても「たしか……きみは河野君?」といった具合に、「学園で有名なあの子」くらいの印象しかない。

つまり、初雪が綾と出逢った時(=不良に絡まれているところを助けた)、からアキラとの魂の同化は始まっていたと見るべきだろうか? 魂や記憶はとても曖昧なものなので、その範囲には「誤差」と呼べるものがあるのかもしれない。

つまり、アキラと綾の魂が同化した時期の"前後"の記憶が対象になることもあると言いたい。



・アキラの復讐が完遂したあと、綾の体調が悪くなる。

アキラは自分を寒空の下に放置させ遠回しに殺したとして、初雪に当時の関係者を殴らせていた。その復讐が完遂したあと、小坂井綾の体調に変化が訪れる。具体的にはぼーっとする。バイトが終わった後、気づいたら知らない場所にいたという。

つまり、アキラの復讐が終わった際、「まだやることがある」と称し本格的に綾の身体を奪い取ろうと決意したのだろう。

アキラは復讐が終わった際にこうも言っている。

 


「もう一つ、やっておかなければならないことがある」

「……やっておかなければならないこと?」

「冬が終わるまでに……」

「……」

「お前、なんだか生き急いでいるみたいだな」 

「生き急いでる?」

きょとんと俺を見返したアキラは、やがてぷぅっと吹き出した。

「は。なるほどっ。それは傑作だな。あははははは」 

「そうだよ。
時間がないんだよ、俺には」

―――アキラ、初雪


さらにもっとずっと後に、様子がおかしいアキラに出会う。助けてくれ河野。俺は悪魔になりたくはないと。おそらく彼はしたくて復讐をしているわけじゃないんだろう。 

でも復讐せずにはいられない―――のちにアキラはそのようなことを語る。

綾と初雪を見ていたら、どす黒い感情が生まれてくるんだと。


「Graduation」の情報も加味して考えると、「綾Episode」の全体像はこんな感じだろうか。


ランを討ったサクヤ。そのときゴーストプリンセスと会話したサクヤは妙案を思いつく。「ゴーストプリンセスの願いを叶える」と。そこでサクヤ達一派により内田川邊の街には、反魂香が焚かれるようになった。

一年後の冬。街全体に行き届いた反魂香。そのおかげでアキラというゴーストが以前より顕現化することが出来た。初雪も彼を人間だと見誤るくらいに。

しかしアキラはゴーストだ。亡者であり生者ではない。ゆえに現世に物理的に干渉するのは不可能なんだろう。だから初雪にお金を渡すさいも、すべて初雪にやらせ、自身の復讐さえも初雪の手によって完遂させることになる。


殴りたくても殴れない。なら誰かを使うしかない。


初雪の手をかりアキラは復讐を終わらせることになる、が、まだ一つだけやらなければいけないことがあると告げる。彼は綾の肉体を乗っ取り、街の不良たちに綾の身体で声をかけ、学園を不良に襲わせた。バレンタイン祭をめちゃくちゃに壊した。


アキラはただ憎いという感情に、未練という現世の執着に囚われていただけだった。なにかしたい、のではなく全てが憎かった。だから全てを憎んだ。仲間も愛の祭典も姉すらも。


「憎いよ」

「憎いんだ、河野ぉ……っ」

「結局、俺は、この世の未練に捕らわれていただけかも知れない」

「そうして……
こいつの肉を奪って、蘇りたかったのかもしれない」

「だから、悪魔になろうとしている」

 
小坂井綾は「死んでもいい」「私が死ぬべきだった」と心に抱えている人間だ。このせいでアキラは死んでも死にきれない深みにはまっていったのかもしれない。

肉を差し出してくれる人間がいる。生前少なからず憎悪していた人間から生を剥奪できる。憎しみと怨嗟と怒り。それらが引き金となり折り重なり、アキラはどうしようもなくなって、すべてをめちゃくちゃにするしかできなかったんじゃないか?……。

何かの目的のために復讐をするのではなく、復讐の為に復讐をしていた。復讐せずにはいられなかった―――


「でも、そんなものにはなりたくない」

「やっぱり、好きだから」

「姉貴も」

「お前のことも……」

「だから……やれよ」

「その剣で、俺を討て」 

―――アキラ

 

その願いを叶えるために、綾の肉を返してもらうために初雪はアキラを "バニッシュ" した。

 

 

 ここから先は思考履歴と、ちょっとした考察です。




 

毎回最初の言葉が変わる


「ねぇねぇ」

「初雪、好きな人とかいないの」 

―――ラン

 

綾やシロクマの物語が終わり、毎回タイトルのstartから始めるとランの言葉が毎回違う。

だからどうというわけではないが。

 

 

 

 

 

 

内田川邊の歴史

 


旧市街より、北にあがったところに旧内田市役所があったが、それより昔は旧内田市街に、政と神事を兼ねた、『大社』という建物があったらしい。

 

そこでカスガと呼ばれる、神官達が、祭事と政治双方の重要決定を下していた。時代の流れとともに、政教分離が進み、神官達は資産家という体裁で権力の枢要に関わり続けた。

10年ほど前の統合によって川邊側に財政の枢要は移り、旧内田市庁などがあったところは解体され、今では緑地公園になっている。

 

内田市は神官の末裔……ね。

 

 

 

 

アキラの復讐

 

 


「殺された復讐」

「くく。奴らに、友人が殺されちまってな」 

―――アキラ

 

アキラは初雪に頼み事をする。「指定したやつを殴れ」と。お金と引き換えに復讐をしたいと。


なぜアキラは「自分で」復讐をしないのか? それは彼が幽霊だから、彼が肉体を持っていないからか……。

サクヤ達による街全体に反魂香を焚くという計画が、さっそく始動した。その影響でこの街を彷徨っていたゴーストであるアキラは初雪にも見えるほどに実体化した……のかな……。

それとも反魂香どうの関係なく、初雪はゴーストが見えるが、ゴーストか人間かを識別する知識に欠けていた時期。そこにアキラが出てきて、初雪は彼を人間だと思ったまま接してしまったというところか?

 

 


「もっとやれ、河野。もっとだ」

 


……こいつ、泣いている?

「おい」

「……あぁ。そうだな。もういいよ」

顔をあげたアキラは、いつものように涼しい笑みを浮かべていた。

「今まで、お疲れさん」

「は?」

「復讐は終わりだ」 

―――初雪、アキラ 

 

アキラの復讐とは、自分を殺した連中にたいする憎しみ。ある夜、友人と酒を飲み路上に寝て、そのまま死んだ自分を「なにもしなかった」奴らにたいする怒りである。

 


「なんだそりゃ。それはお前、殺人でもなんでもねぇじゃねぇか」


「けど、その直前まで奴らと酒飲んでたんだぜ。
そいつが寝てるのをほっておいて帰ったんだ。
これ、立派な殺人じゃねぇ?」

 


「あんまり、意味がなかったかも知れないな」

「さんざん付きあわせておいて、なんだそりゃ」

でもそういうもんだろ。復讐なんてものは」 

―――アキラ、初雪

 

アキラは復讐が終わったあと「意味がなかったかもしれない」と呟く。「復讐なんてそんなもんだろ」とも。

復讐に意味なんかない。意味なんか求めてはいけない。だってあれはただの感情だから、憎いっていう感情を覚え、それを発散しただけにすぎない。

残るのは「憎しみが切り取られた」あとの自分だけだ。


生産的でもなんでもない、実利的でもなんでもない、何も残せない。

 


「楽しかったよ」 

楽しいことなんて、あったか……?

―――アキラ、初雪

 

楽しかったっけ?……。アキラ的には楽しかったらしい。

初雪と一緒にやった復讐とやらが。とはいっても対象者を殴っていたのは初雪だけであり、アキラは遠目で野次を飛ばしていたにすぎないが。


それでも楽しかったとするなら、なんだろうね……なんだろうか。


 

 

時間がないアキラ

 


「そうだよ。時間がないんだよ、俺には」

―――アキラ


この時から、時間がないという。時間が、ない?

このまま何もしなければ消えてしまうとかそういうことか?
肉を求めなければ……自動的に消滅してしまう?


もしかして……もしかしてだ。アキラの復讐はここで終わった。でも生きたいと望んだ時、別に恨んでもない相手を憎まなければ生存できないと知ったとき、「恨んでいない誰かを復讐」するようになってしまうんじゃないか?

動機がない、目的もない。でも復讐という行為だけを目的にするような……。

 

 

 

 

綾とアキラの見分け方? というより?

 


「ちょい」

「やめなよ」 

男達の向こうから、静かな声が、響いた。

 

「なんだ、お前。仲間か?」

「何をしているんだい。遠目には、あまり関心しないことをしているように見えたけど」

 

―――綾、不良

 

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綾はいつ頃に、アキラに肉体を貸し与えてたんだっけ?……。
最低でも「この冬」という期間なのは分かっている。
そして「この冬」の記憶が失った綾は初雪のことを覚えていない。

すると、綾が不良を撃退したときからもう既にアキラは綾の肉体を借り受けているということか……。

厳密には魂の同化がはじまっている。ふむなるほど。


順番を整理。

サクヤ、ランの魂を討つ→初雪ホテルに戻れなくなる→アキラと出逢う→アキラの復讐を手伝う→ある日綾が助けてくれる→アキラの復讐が完了する。

そこからバレンタイン祭まで、「アキラ」として初雪は出会っていなかったはず。こんな感じじゃないだろうか。

 

ただここで疑問が生まれる。

初雪と綾が出逢ったその日。その日からすでにアキラが綾の肉を借り、魂が少しづつ同化していったとしよう。

けれども、初雪は「綾」と「アキラ」二人を、"二人"として認識している。
これはどういうことだ? もしアキラが綾の身体を借りているのなら、初雪からすれば「綾」と目に映るんじゃないか?

バレンタイン祭のときもそうだ。古びた剣道場でなぜ初雪は(おそらく綾の身体である)アキラを「アキラ」として認識している?

なぜそう見えている?


1、ゴーストとしての力

ゴーストには他者にそう「認識」させる力がある。またはアキラというゴーストにはそういった力があった。

→しかしバレンタイン祭のとき、東雲は「アキラ(肉体は綾)」を「綾」として認識している。この力の範囲は初雪だけなのか?

 

 


2、綾とアキラは双子。顔が似ているので、服装や髪のスタイリストを変化させてしまえば、ご認識を誘える。

例えば、綾という女の子が、アキラみたいな格好をしたら「アキラ」として見えるんじゃないか?ということ。

小坂井綾という女の子は、喫茶店カンテラでも男装をして、綾崎執事としてお客様を喜ばせてきた。小坂井綾は服と髪をどうにかさえすれば、「男性に見える」という事実がある。

このことから、初雪の前に現れたアキラは、「小坂井綾が男装化」したものと言えるんじゃないだろうか?





 

 

亡者の声だけよく聞こえるとはなっくっく

 


男子から金を受け取りながら、一瞬……

胸糞悪い、光景を見た。

「うるせぇ」

今更、こんなことに怖じ気づいていられるか。
俺はゴーストの王様なんだぞ。

「くく」

「何を、してるんだい?」

「…………」

「あ……?」

「君、何をしてるんだい」

「……」

いつかの女が、鋭い目でこちらを見ていた。

「……」 

 


俺は、なぜかその場に凍り付き。手にしてた千円札を取り落とす。気がつけば、走り出していた。 

「―――っ」

くさったピザが、腹の中でめちゃくちゃになりながら、嘔吐しながら俺は走った。

 

「はぁ、はぁ……っ。はぁ……」

「ちくしょうめ。どいつもこいつもっ」

「全部殺してやる。殺してやる」

~~

「恨みなさい」

「この街の者どもを恨んでやりなさい。誰も彼もが罪人なのだから。あなただけがそれを知っているのだから。あなたが、恨んでやらなければ、我々は報われない」

 

そうだ。

俺だけが、知っている。

俺が決められるのだ。

誰が生者で、誰が死者なのか。

「ふ。くく」

何も遠慮などしなくていいのかもしれない。奴らの幸福が、豊かさが、本来誰のものか。

きっと、俺達には、俺には、奪う権利があるのだ。金も、食い物も、命さえも 

―――初雪

 

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初雪はもう辛さに喘いでいるように見える。少年に恫喝をし金をせびるも、ふと思い出せば悲しそうなランの顔が蘇る。

でもお腹は空いていて、帰る場所もなくて、必死で、ゴーストの王だからと言い聞かせ「立派になることを放棄」しているように見えた。

綾が現れて逃げたのは、そんなダサくてカッコ悪い自分を見られるのが嫌だったんじゃないだろうか。


恥ずかしさは憎しみへ、辛みも憎しみへ、空腹も悲しさも理不尽に対する怒りもすべて憎しみへと移行していく。

 


「ちくしょうめ。どいつもこいつもっ」

「全部殺してやる。殺してやる」

 
そんな初雪にゴーストは囁く。「すべてを恨め」と。あなたならその資格も力もあるよと。


―――亡者の声はよく聞こえる。でも桜の声はよく聞こえない。
―――ゴーストは囁く、けれど桜の呟きは耳に届かない。

どちらが聞こえてしまうのか。どちらに耳を傾けてしまうのか。
なぜ桜の声は聞こえない?……。


私は思う。ゴーストが初雪に恨みなさいと囁くように、初雪には決して見えない「桜・ゴーストプリンセス」もまた彼に必死になって叫んでいるのだろうと。

きっと応援しているんだろうと思う。
でもなんでだろうね……。いつだって桜の声はうまく届かない。よく聞こえない。

なぜ亡者の声は簡単に心に届き、生者の声は無視されてしまうのか。この差異はいったいなんなんだ?

 

「シロクマEpisode」の校長先生の言葉にその答えはあると思う。

つまり―――(つまり?)

 

 

 

 

 

小坂井綾の執着、辛辣な言葉

 


「痛くはしない。でもかわりに、君がこだってる、よくわからないプライドは思いっきり、粉砕させてもらうね」

 

「1つだけ、聞かせろ」

「なぜ俺に構う」 

「…………」

「強いて言うなら」

目障り、だからかな

 

―――綾、初雪 

 

そんなにも気に食わないか。初雪が。目障りか。アキラのことを彷彿してしまうのだろうか。あるいは罪悪感に苛まれてしまうといったこともありえるんだろうか……。

 

 


世の中にはいくらでも口開けて人の親切あてにしてる人間が腐るほど腐ってるだろうがよ!

 

「君がそれでしょ」 

 

―――綾、初雪

 


「君は弱い。そしてかっこわるい」

「私が君1人にこんなにかまうのはね、君が私の周りにいる誰よりも、いっそうみじめで目障りだからだよ」

 

「ただただ可哀想で見てられないだけだよ」

「孤独なくせして孤独になりきれなくて、助けほしいのに助けてくれって言えない」

 

「いっそ消えちゃえばいいのに。誰もいないところで寂しがってなよ。1人で寂しがってなよ」 

 

「滑稽なんだよ、はたから見ると」

 

「だから、消えるのは私じゃない。君なんだよ」

 

―――綾

 
もうズキズキと切り刻まれるかのように言葉が鋭い。

 


「まぁ、その通りだ」

 

俺は消えるべきだった。

少なくとも、この学園から。

誰とも口をきかず、呪うような表情でクラスメートに煙たがれるくらいなら、さっさといなくなるべきだった。

 

それでもこんな隅っこに止まり続けたのは……ランとの約束のためだけじゃない。

甘ったれた、未練のせいだった。

 

―――初雪 

 

初雪がランがいなくなっても、ホテルに変えられなくなっても学園に居続けたのは「ランとの約束のためだけじゃない」?

ランとの約束も含まれているが、けれどもそれだけじゃないということか。

「甘ったれた、未練のせいだった」と初雪はいうが具体的にはどういったことだ?

……

……見つけた。これだ。バレンタイン祭。剣道場にてアキラと対峙したときの初雪。


いつだったか。とても、甘ったれたことを考えたことがある。

この剣道場で半年以上も寝泊まりしながら……秋が終わり、寒さが厳しくなっていく頃。 

いらだたしく、甘ったれたことを考えた。
なぜ、誰も気づかないのか。 

こんな状態で、俺は放って置かれて、なのに暮らすの連中は、どうして平和そうに変わらなぬ日々を送っているのか。

 

誰かが、あの扉を開けて、俺の話を聞いてくれないかと。

まるで……神さまのような存在が現れるのを、待っていた。

 

―――初雪

 

ああ……うんそっか……にゃるほどね……。初雪は綾が言うとおり、誰かの親切を待ち望んでいた。誰かが、困窮している自分を助けてくれるんじゃないかと甘い夢を見ていた。

いつかだれかが―――


人は絶望したときどうするか、まずは神頼みをするんだと思う。

―――ねぇ神さまおねがいしますどうかどうか助けてください

と。

けれども神なんてものはいないから助かるわけがない。そして神という存在により否定的になり恨むようになっていく。

恨むように……なっていく?……。


理不尽によって救われなかったものは、世界を恨むようになる。世界とはなにか。なんでもいい。上位存在とか自分をそう決定づけた「何者か」であるのならば対象はなんだっていい。


理不尽に対する恨み……呪い……怒り……憎しみ……か。

 

 

 

 

 

寝床は用意する

 


「約束通り、道場からは出て行ってもらう」

「…………」

「分かったよ」

 

どの道、ここは引き払う予定だった。

「そ」

「じゃぁ行こうか」

「あぁ?」

「寝床は私が用意すると、言ったじゃないか」

 

―――綾、初雪

 

綾の目的がなんにせよ、綾がなにを心に抱えているかどうかなんて関係なく、ただただ泣きそうになってしまうくらいに「救われた」感でいっぱいだった。

そしてこういう時に、「恩返し」という言葉を思いつくものなんだとも。それくらい人に何かをされ、その行いで自分が救われたのなら縁を感じてしまうものなんだと思ったのだ。

 

 

 

 

 

小坂井綾の微笑み


「大丈夫だよ」

「え?」

 

「大丈夫だよ。ここなら」 

あの時、自分が救われることばかりに必死で……

目の前の少女の姿を、ちゃんと見ようとしなかった。

 

小坂井綾という少女に何が起きていたのか。

俺なら、見抜けるはずだったのに。

この期に及んで、俺は、自分が救われるべき人間だとでも、思っていたんだろう。 

 
本当なら初雪は、小坂井綾の状態を見抜いていたという。

それは綾とアキラが同化していることについて?

それとも綾がアキラ以外のゴーストを見に宿していたことについて?
どっちもかもしれない。

 

 


「…………おやすみ」

今でもたまに思い出す。

あの時の、彼女の微笑みを。

それは、ただの……笑顔ではなかった。

あれはどちらだったのだろう。

誰のものだったのだろう。

あの笑みは確かに…… 

罠にかかって獲物に対する、淡い憐憫のようなものが含まれていた。

 

―――綾、初雪

 

 最初はこの「微笑み」を綾の本質だと思っていた。そしてアキラと同化していることを知ったときは、アキラの微笑みだと思っていた。

でもそうじゃない。たぶんそれは違う。

この微笑みは、ランのものじゃないか?


初雪は最後に考える。綾がこの喫茶店にやってきて働くようになる。そして彼女が初雪をここに呼び寄せた。それは単なる偶然じゃ片付けられないことだと。


綾の微笑みを、初雪はこう表現した。


罠にかかって獲物に対する、淡い憐憫のようなものが含まれていた

 
初雪が「ゴーストチャイルド」になるための行程を順調に踏んでいたからこその、笑みだったんじゃないか? ランが生霊としてゴーストを飛ばし、微力ながら綾の行動を操作していた……とするなら、このほほ笑みは納得できる。

このほほ笑みに対する初雪の見方も納得できる。


もう一人、綾を操れそうな人間がいる。それは桜・ゴーストプリンセスだ。でも桜は「淡い憐憫」のえみなど浮かべないだろう。彼女は初雪を応援してくれる生者なのだから。

これは死者や亡者といった暗いなにかを心に抱えている人間だとみたほうがしっくりくる。それもこの喫茶店「カンテラ」が、オーナー(ラン)による持ち物だとしたらなおさらだ。

 

 

ここからちらっと除く、小坂井綾の表情が気になった。
それは、あの淡々とした少女には、あまり似つかわしくない、冷たい笑みだった。

「……」
小さな顔にくっきりと刻まれた。三日月のような微笑み。

―――初雪



冷たく、三日月のような笑み。ね。


 

 

綾の切れ味のいい言葉

 


「…………先輩。少し、変ですよ。
あなた、なんでそんなに……こいつに」

 

「私がなんだい? 変? お言葉だけど東雲くん。
君が私の何を知っている」

 

―――綾、東雲 

 

 言うべき時には言う。他者をキリ刻むように言葉を吐き出す綾はかっこいい。

 

 

 

 

 

卒業の価値

 


「辞めることになったら、それはそれで良いんだよ」

~~

小坂井綾は、こちらへ向けていた笑顔を少しだけ寂しそうに弱め、目を落とす。

「私は卒業、しない方が良いんじゃないかって思ってる」

 

―――綾

 

どうも綾は卒業というものに特段の価値は感じていないらしい。いやけどそうだよね……そんなもんだよね。

と思ったらどうもそういったふつうな心境の延長線上のものではなく、弟・アキラの件が絡んでいるとのこと。

 

 


「私には、同じ学園に通う弟がいたんだよ」

「私は姉として、それを止めることが出来なかった。力になることも。どうやらそれが、心に引っかかっているのかもしれない」

 

「当時は何も思わなかったよ。彼は彼、私は私だからね」 

「でも、彼がその後……いなくなって」

「卒業がせまるに従って、ぼんやりと考えるようになったんだ。このまま卒業していいのかなって」

「罪滅ぼしとかじゃなくて。彼をどこかに置き去りにしてしまうような気がしてね」

 

―――綾

 

それは……なんて言えばいいんだろう。アキラは冬に死んだ。その事態をみすみす見過ごしてしまった。力になることも、相談してきたときもうまい言葉を返せなかった。

そして綾自身の卒業が迫るにつれ、卒業していいのかな?と感が始める。綾がいうには罪滅ぼしではなく、アキラを置き去りにしてしまう気がして……気がしてなんだ?


アキラを置き去りにするのと、綾が卒業するのがどう関係ある?

これは「自分だけ先に進んでいいんだろうか」という迷いなのかな?


 


「どうかな。卒業って、そもそもそんなに積極的な意味を見出すようなものじゃないんじゃないかな。ただの、区切りというか」

~~

「結局、今過ごしている時間がどんな時間かなんて、その時は分からない」

「過ぎ去って振り返ったときこそ、見えてくるものがあるんじゃないか」 

「だから、とにかくやりきってみるしかないんだと思うけどな」

「自分と、懐かしい人たちに報いるために」

 

―――綾、初雪

 
振り返ったときにはじめて「意味」が生じるってことなんだと思う。初雪がいっているのは、卒業は区切りでゴール。だからこそそこの地点に立って今までの自分の歩みを眺められることができるんだと。

そこでしか眺められないものがある。ここでしか振り返られないものがある。


振り返ったそのとき、価値が生まれ、意味を与えることができる。それはまるで……観測の概念に近いような。

そしてゴールに行くためには頑張るしかないと。自分と懐かしい人たちに……報いる…ため、に、か。

 

 

 

 

私はうらやましかったよ

 


「昔から私は冷たいというか、淡白だけど、あの子は、直情的で、欲しいものは欲しいと言うし。手に入れるための努力だって惜しまない」 

「怒りたい時に怒って、笑う時はおおいに笑う。いつだって、感情を表に出す子だった」

 

「私は彼がうらやましかったよ」 

「いろいろと言う人はいたけど……彼の生き方を、私は、美しいと思っていた」 

 

―――綾

 
アキラが羨ましいか。綾はアキラの感情をいつだって表に出すところや、そのための努力を惜しまない姿勢を美しいという。

羨むということは、綾はそれを持っていない。あるいは出来ないからこその気持ちだろうか。


ふむ。綾は感情を押し殺しているようには見えないんだけど、そうでもないのかな……。本当はもっともっと自分の気持ちを殺して押さえつけているんだろうか。

 

 

 

 

ファントムとはいかに?

 


「新学期に入って、何通か、生徒会に脅迫状が届いていてな」

 

「我はかつてこの学園に在籍し、無念のうちに死んだ者。ファントム。楽しい祭典には、是非とも参加したい。ゴーストを引き連れて、お邪魔しよう。とびきりの愛をこめて」

 

―――東雲、ファントム

 
「ファントム」を最初に使ったのは、アキラなのか。そしてその後、東雲兄もまた使うようになったと。ほー。



 

 

キスキス

 


「お礼」

「ん」

「……っ」

俺はあとずさり、愕然と小坂井綾を見返した。

 

「何を、した」

「キス」

「…………っ」

 

―――綾、初雪

 

キスをキスキスしちゃった。てへへみたいな。

 

 

 

ランの計略

 


「王となりなさい。初雪」

「その時こそ、再びあのホテルへ」

電話は一方的に切れた。

 

―――オーナー

 
オーナーことランは、初雪を「ゴーストチャイルド」にするために必死なように見える。実際必死なんだろう。

自分の悲願を達成するためにさまざまなことを企てているんじゃないか。綾が初雪を喫茶店に連れてきたのものそうだし(と見ている)。

 

 

 

 

自分のことは自分で

 


「自分のことは自分で解決するしかないからね」

「なんだかんだで、間違っているんだ。一時ならともかく……ずっとこんなところで寝泊まりするなんて」

 

「けど、ゆきち……何にしても、決着はつけなければならない」

 

―――綾

 
自分のことは自分でかいけつするしかない―――自分の問題は自分の内側にあるものと言っているようにも聞こえる。

初雪の問題は、外界にあるのではない内部にある。決着は自分の内側で自分自身でつけなよと。

 

 

 

悪魔とか運命とか

 


「…………」
様子がおかしい。
「お前、何やってるんだ。ずいぶん顔色が……」

「河野……か。そうか。
やっぱり、お前は俺を見つけてくれるんだな」 
「俺はやっぱり、お前に会いたかったのか」
「お前だけが、俺を見つけてくれるらしいから」


「なんでかなぁ……河野」
「こんなはずじゃなかったんだ」
「こんなはずじゃぁ」

「河野……」

「俺は、悪魔になんかなりたくない」

「悪魔になりたかったわけじゃない」
「けど、どうしようもないんだ。
何か、ドロドロとしたものに飲み込まれていく」
「助けてくれ、河野」
「アキラ……?」
ふらふらと、アキラが去っていく

「おい!!」 
アキラの姿はない

―――アキラ

 綾とモールで会い別れたあとに、アキラと出会う。そのときの綾は最近調子がおかしい、ぼーっとするとつぶやいていた。どうもバイトの帰りに気づいたら知らない場所に立っていたりすることもあるらしい。

アキラの様子がおかしいのは自分が悪魔になろうとしているからの恐怖だろうか。綾の肉体を乗っ取ってしまうことになるということへの、怖さだろうか。


 



 

 

 

 

たちの悪い断り方


(「ごめん」

「そういうの、良く分からないんだ」

「面倒なんだ」

「やめておこう」

「理由はないけど、やめておいたほうがいい」)

 

「たちの悪い振り方だな」

 

―――綾を回想、初雪

 

 

恋すること付き合うことを、よく分からない面倒、やめておこうと言う綾。

相手がどういう人なのかを見ているのではなく、誰とでもそんな関係になりたくはないという意思表示にさえ見える。

アキラと門下生のことがあったあとの出来事なんだろうかこれは。……。

 

 

 

宮棟と悪魔


「のっとられるだぁ?」

「どういうことだ」

「あなたと同じですよ。ゴーストチャイルドさん」 

「……な、に」

「長く混じり合ってしまった魂は、ちょっとやそっとでは、ひきはがすことは出来ません」 

「悪魔に魂を捧げたものは、やがて、その者自身が、悪魔となってしまうでしょう」 

 

―――宮棟、初雪

 

宮棟が言っているのは「アキラ」のことか? それとも「綾」のことか?

悪魔に魂を捧げたというのなら、アキラは憎悪に魂を捧げたし
綾はアキラという亡者に魂を捧げてしまった。自分は死ぬべきだった、じゃあ俺にその身体よこせ、うん、いいさと対話するほどには。

 

 

 

 

 

存在するはずのない女・綾


「あの女は、ゴーストなんだ」

「いや、ゴーストとも違うな。幻のような、存在するはずのない、女なんだよ」

「比喩なんかじゃねぇよ。俺は友人として、心から忠告してるんだよ」

 

―――アキラ、初雪

 

アキラの言葉が気にかかるな……。綾が幻で、存在するはずのない女? 比喩ではなく忠告として?……。

綾はゴースト……ってこと? 


……。そんな疑問を抱いたことなかったけれど、いやでもそうしたら「生者の肉体」として見るとそれはありえないなとなる。

心が死んでいる、心がゴーストだ、という意味なら納得するかもしれない。でも「存在するはずのない」って言葉はどうもおかしい。


いてはいけないとか、そもそもいないとか、そういう意味の言葉だよこれは。小坂井綾がそもそもいない存在? でも綾は……生きてるしなあ……。精神的にみてもそこまで言われるほどの人間ではないと思うんだが……。

仮面をつけたがっている綾。という彼女の「誰かになりたい」という欲求にたいして言っているんだろうか? んーでもなんかちがうしなあ……。

 

 

 

道場を燃やすこと

 


「河野。俺はこの道場を燃やして、最後の最後まで暴れてやる」

「どのみち、あの女がこの学園にいられるようにはならんだろうがな」

「涼しい顔で生きているんだ」

「そうだ。奴は生きてる。生きてるんだっ。それが許せないっ。殺してやりたいくらい許せない」 

 

「復讐は終わってなかった。俺が本当に復讐してやりたかったのは、あいつだった」

学園を追い出された不良の弟が、才媛の姉に嫉妬して、卒業させまいと妨害してるってことだろうか。

―――アキラ、初雪

 
アキラはなぜ「道場」を燃やすんだろう?と思った。道場を燃やしたからといってなにか特別な変化が起きるとは思えない。

綾が学園から退学するくらいだろうか。もしかしたらそこなのかもしれない。


あと思ったのが「アキラは全てを憎んでいる」という目線に立ったとき、道場の門下生に恋をした←この縁が「剣道」だった。なら「剣道」に関わってきたすべてを壊したいのかもなと、そう感じた。


 

 

初雪がゴーストチャイルドを決意したその日


「あいつが、涼しい顔で生きている?」 

「てめぇは……」

「甘ったれんなよ」

 


誰にだって、悩みはある。
のんきに、涼しい顔で生きてる奴にだって。暗い、悩みは尽きない。 自分だけが不幸と思って、誰かを羨む権利も、恨む権利も、そうそうあるわけがない。
 

それでも、どうしても……恨まずにいられないなら。

自分は他人よりも、業を背負っていると言い張りたいなら

そいつは、人ではない何かに、なるしかないじゃないか。 

 

あらゆる倫理を否定して……なお哄笑をあげられるような、ゴーストに、なるしかないじゃないか。ゴーストの王に。

「大人になれよ、アキラ」

―――初雪

 

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人は誰しも悩みがある。懊悩がある。辛みも痛みも抱えている。だから自分だけが苦しいなどと、そんな思いあがりはよせと初雪は言う。

でも、それでも言いたいときがある。自分が一番不幸で、自分が最も痛い思いをしていると苦笑せずにはいられないときがある。

誰よりも誰よりも、辛い思いをしている。そう叫びたいことがある。

でも「みんな」そうなのだとしたら、その「みんな」に入ってしまえば、"助けて"もらえないんじゃないか?

大勢の人間が不幸に喘いでいるとする。そして助けてくれる存在がいたとする。そんな救世主のような存在は、我先に「自分を」助けてくれるだろうか?

答えは否だろう。みんなの中に入ってしまった時点で、有象無象と同じ状況と同じ時点でそんな可能性はない。

初雪はこの考えのあとに、こうも語っている。

 


いつだったか。とても、甘ったれたことを考えたことがある。
この剣道場で半年以上も寝泊まりしながら……秋が終わり、寒さが厳しくなっていく頃。 

いらだたしく、甘ったれたことを考えた。
なぜ、誰も気づかないのか。 

こんな状態で、俺は放って置かれて、なのに暮らすの連中は、どうして平和そうに変わらなぬ日々を送っているのか。

 

誰かが、あの扉を開けて、俺の話を聞いてくれないかと。

まるで……神さまのような存在が現れるのを、待っていた。

 

―――初雪

 
私は思ったんだよ。……初雪はもしかして「誰かに助けて欲しくて」人ではないゴーストの王に、ゴーストチャイルドになろうとしたのではないのかって。

人ではないゴーストになれば、誰もが悩みがあるという括りから自分を抜けださせることができる。もっと不幸で最も救われていない存在になれば、きっと誰かが自分を助けてくれるんだと―――そう願っているのではないのか。


ランを取り戻せる為にゴーストチャイルドになったんだとそう思っていた。でもランが討たれてから一年間の間、初雪はネカフェで暮らし、古びた剣道場で暖を取り、最後には喫茶カンテラで暮らすようになっていった。

ランを取り戻したい生き返らせたいという気持ちはあると思う。でも死に物狂いで成し遂げようとは思ってなかったんじゃないか。この一年間ただ苦しく辛いだけの一年間。ランを生き返らせるよりも、誰かが自分を助けて欲しいと切望していただけなのではなのかもしれないとそう思った。


そしてこの冬。甘ったれた姉弟に出会う。アキラと綾に。 そして自分が甘ったれたことを考えていたことを認識してしまったんだろう。だから……再度"甘ったれた考え"を駆動させているように見える。 

 


「礼を言うぞ、アキラ。なるほど俺は一人では至れなかった」

 「お前が地獄の一丁目あたりまでは、道案内してくれたからな」

「晴れて、地獄へ帰還できそうだ」

―――初雪

 

 

 

 

 

 肉が欲しい

 


「肉が欲しいんだよ」

「こんなはずじゃなかったのに。
今は、肉が欲しくて欲しくてしょうがないんだよ、河野」


「俺は、悪魔になってしまったんだよ」  

―――アキラ

 

 

アキラが肉を欲する最大の動機は、「もう一度人生をやり直したい」から? それとも「復讐を続行するために都合がいい」から?

……。後者か……。悔いて悔いて悔いている。

 

 

 

 

 

深淵に引きずり込まれる。正体不明の怪しい糸によって

 


俺は、どうなっていくんだろう。

力。

おかしな糸が俺の身体中に取り付けられ、俺は……正体不明な怪しい糸によって、どこかへつれて行かれようとしている。

望むと望まないとに関わらず、引きこまれていく自分がいる。この世のものではない、深淵へ。その向こうへ。 

―――初雪

 

ときどき初雪は言うんだよね。自分じゃないなにかによって突き動かされているようだと。やっぱりそれは……父親の怨嗟なのだろうか?

 

 

 

アキラの言動不一致

 


「家に帰らなくなって、しばらくして。街で会ったんだ。何をしているんだい? って聞いたら、別に何も。適当にやってるって」

 

「言いながら、彼は、ひどい焦燥に駆られているようだった」

「居場所がなくていらついていたんだね。あれは」 

「アキラに言ってやればよかったな。家に戻れと」 

「そうだね」 

「…………そうしてたら、あんなことには……」

 

―――綾

 綾の言葉が正しいのなら、アキラは家を出た後の暮らしに満足はしていなかったように見える。居場所がなく焦っていた……らしい。

でもアキラはバニッシュされる前にこう言っている。「互いがいればそれで良かった」と。私は彼が寒空に放置される前までは、わりと幸せだったんじゃないかと思っていた。

世間ではどう思われどう認識されようが、好きな人がいて好きな人と一緒に時間をわかちあっていた。

けれども綾の言葉が正しいとするなら___アキラは家を出てからもずっと苦しかったんじゃないか?

 

そういう意味ではバニッシュされる前のアキラの言葉は、現実と不一致していた。ただアキラは幸せを感じながら、苦しさに喘いでいる状況だったのかもしれない。

 

 

 

 

戻ってきなさいって言うべきだったのかな


「私は、あの子が怖かったのかな。思ったことをそのまま口にして、欲しいものにはさっさと手を出して。直裁的な性格が、よく分からなかった」

 

「姉弟だけど、私達はあまり似ていなかった。そうして、お互いが羨ましかった。だから、お互いを憎悪した」 

「でも私は言うべきだったんだろう。戻って来なさいって」 

「姉なんだから」

 

―――綾

 

羨ましくても憎悪していても、彼をみてやばいと思ったのなら戻ってこいと言うべきだった……のかな。

家に。
戻ってこいと
姉が言う……か。ふむ。

 

 

 

 

 

大事なのは君の気持ちじゃない

 

「私を誘ったのも、そういうこと、なのかな」

「まぁな」

「ふーん」

「悪かったな」

「いいよ」

「大事なのは君の気持ちじゃなくて、私の気持ちだから」

―――綾

 
初雪が綾をバレンタイン祭にさそったのは、東雲からの頼みだったからだ。初雪は誘おうなんて思っていなかった。

でもそれでもいいと綾は言う。

大事なのは君の気持ちではなく、私の気持ちなのだからと。相手がどんな思惑だろうと、自分は嬉しいのだからそれを大切にするよと。

 

外部の評価ではなく内的評価を順守する。内側に価値をおく。

めちゃくちゃ難しいことだけれど、(バランスを間違えれば世間からはやっていけないけれども)それはとても凄いことなんだよね……。

 

 

 

 

 そろそろ終わりにしよう、ゴーストの王になる初雪


「がんばれ」

その足で旧市街地を訪れた。 

怖い。

何をしようとしている。

(「がんばれ」)

「あぁ。分かったよ」

 

そろそろ終わりにしよう。逃げまわるのは。ランを取り戻したいと思ったら、どこを彷徨ってもしょうがない。ランと向かい合うしかないじゃないか。
 

―――綾、初雪

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アキラと会話をし人ではない何かになることを決め、綾の応援によって家に戻る(=ランと向き合う)ことを覚悟した初雪。

この姉弟がいなかったら、初雪はいまもなお、宿をてんてんとしていたのかもしれない。二人がいたから、いやいたせいで、ゴーストチャイルドという道に突き進んでしまったように見えて仕方がない。

 

 


「不思議なんだ。私は、いらぬおせっかいをしてしまったような気がする。君を、深みにはまらせてしまったような」 

「本当に、家に帰ることが良いことなんて、誰にも分からないのにね。私は、知らず自分の理想を押し付けたのかもしれないってね」

 

―――綾

 

 でもきっとそれでも、初雪は家に戻らないと違った意味でゴーストになっていたんだとすれば、それはそれで最良な気もするんですよね。

アキラみたいなゴーストというのは、この世の理不尽さを呪って憎んでいる状態。復讐したくてたまらないような……ね。復讐そのものが目的化している。

反対にゴーストチャイルドとして歩んで初雪は、復讐は手段でしかない。ランと懐かしい人に報いるためという目的のために。

……。

ん。

ふと思ったのだけれど、初雪はいつだって「ランとすべての懐かしい人たちに報いる為に」と言っている。いつだって"救う"なんて言ってない。

?! あれけっこうここ重要な気がする。


救うのではなく、"報い"る? 辞書を引いてみた。


1 受けた事に対して、それに見合う行為を相手に行う。むくう。「恩に―・いる」「努力に―・いる」 

2 仕返しをする。むくう。「一矢を―・いる」

 
恩を返すとかそういった意味に近いのかfmfm。ランにしてもらったこと愛情を注いでもらったこと一緒に生活してたこと。懐かしい人というのは桜だけを指すわけじゃなくて親や親戚を言っているのかな?

そういった人たちから受け取ったものに対し、なにかしら行動をする。なにかをするか。ふむ。


  


ホテルを後にする。

入ってきた時とは、外の景色がまったく違うものに見えた。

遠くには、市街の灯りが見える。

 

俺はゴーストの王だ。

あそこにいる連中とは、違う。

もう、戻れないのだ。

ランのために。

そして懐かしい人達のために、俺は、復讐を果たさなければならない。

 

「やっと戻ってきてくれたんだ」

「……?」 どこからか声が聞こえた気がした。

「誰だ」

「声、聞こえる? ねぇ……。聞こえる?」

ランではない。けど、かすかに聞き覚えのある声だ。

誰だったか。

……
 

「大丈夫だから」

「いってらっしゃい」

「あぁ?」

「大丈夫。向こうで怖いことがあったら、いつでも帰ってきて」

「私が守ってあげる」

 

―――初雪、ゴーストプリンセス

 
自分から進んでゴーストになった初雪。ランの為、そして懐かしい人の為に復讐を過程する……。

もしアキラの時の対話「誰かに助けてもらいたくて」ゴーストになったという可能性も頭に留めておく。


……誰かは、初雪のことを助けてくれはなしないけど……でも誰かが応援してくれているのは本当だと思うのだ。桜はいつだって初雪のことを応援している。大丈夫だよと励ましてくれている。


―――誰かに助けてもらいたい

 きっと誰も助けてはくれない。初雪をたすけられるのは初雪だけなのだろう。でもその為に誰かが応援してくれているこの状況は……。


 

 

 

 ハマってしまうのだ

 


「色気のない青春だったからね。はまってしまうのも無理はないんじゃないか。大人になってからやるふふぁみこんは危険だって言うし、あれと同じかな」

 

―――綾

 
大人になってからやる……なんだろ。思いつかなかったふむ。

 

 

 

喫茶カンテラに引き寄せられた綾

 


「なにもしてませんよ」

「ただ……彼女もまた、あなたと同じように、引き寄せられたということです」

 

―――オーナー

 

 オーナーの言っていることが正しいとしよう。オーナーは綾になにもしていない。綾が勝手に喫茶カンテラにやってきて、アルバイトを希望した。

これはオーナーに言わせれば、「引き寄せられた」らしい。察するにゴースト的な要素に引き寄せられたと。


死者(アキラ)と出会うためのおまじないをしてから、アルバイトを始めたと綾は言っていた。だとすれば、そういうゴースト的な縁があっても別段おかしくないだろう。

 

 

 

 気力を使いたくないんだよ 冷めてる綾

 


「でもね。私には、そんな激情なんて、ないよ。自分が、家族がどうこう言われようが、静かに、あるがままを受け入れるだけだ。つまらない人間なんだ」

~~

「興味ない相手には、怒るなんて、面倒なことはしないよ。ただ黙って相手の言うとおりにうなずいていれば、一番関わりあいにならなくて済むんだからね」

 

「さ、さめてるな……」 

「そうそう、体力を使いたくないんだ。自分のためであってもね」

 

―――綾

 

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 ……すごいな。自分を貶されても、家族のことを悪く言われても、聖域に土足で踏み込まれても、怒らないと綾は言う。

いや……そもそも「聖域」という心象領域にある不可分の土地・境界線が無いってこと? それって……どういうことだ……。


そんなことがありえるのか……。聖域がない人間……か。いやあるのか? いや……。なんだろう「すごい」としか表現できない。


 見落とし。そうか綾は「興味のない相手」だった場合のみ、どうでもいいのか。そかそか。興味のある、好意を感じている相手だと怒ったり反抗したりするってことなのかな。


どうでもいい相手に、エネルギーを使いたくない。関わりあいになりたくない。だから聖域に踏み込まれようとも、受けて流す。それって……とっても強い人だよある意味。……あーだめだ全然理解できない。

"自分のためであっても" エネルギーを使いたくない?
好きな人をバカにされても、怒らない?
関わりあいになりたくないから?

……。

 
んー……綾が「怒った」ところってそういえば一度もないんじゃないか。見たこと無い気がする。初雪に加勢するために反抗することはあっても、怒ったり泣いたり……そうだよ激情したことがない。

なんだそれ……そんなことがありえるの……か……(壊れたラジオのように繰り返す)

怒るのって、怒ったフリじゃない場合は、それはもう衝動である。理性じゃない感情だ。だから歯止めが効きにくい。自分が大切にしているものを踏みにじられたとき、人は怒る。それは反応と呼ぶものなのかもしれない。

そしてまた怒らない人間がいたとする。そういった激しい感情を出さない人が。


それは怒るのを我慢しているのではなく、「怒る」という感情がそもそも湧かないのではないか? 怒ることができない。怒るという感情が欠けている。そんな感じなんじゃないか?

あーもう全然わかんない……。

 

 


モーニングコーヒーを、こうして……好きな人と迎えた朝に飲むのが。ほら、そういう歌があるでしょ。あの曲が、昔から好きでね」

 

 


「縁はなくても、風景だけはあったんだよ。女の子らしい憧れとしてね」 

「でも、つきつめて考えようとするとぴんとこない。隣に、どんな男の子をおいてみても、きゅんとこない」 

「だからそれは、夢でしかなかった。あり得ない、風景だった」

~~

「恋をして、泣いたり叫んだりするヒロインに憧れたって、実際、ああいうシチュエーションに置かれたら、自分はあんな風に、振る舞えない」

 

―――綾 

 

 綾じしんも「激情を出せない気質」には自覚的なんだなと思った。

 

 

 

 ろくでなしほど可愛い

 


「お前を更生させてやりたいんだよ。ろくでなしほど、かわいがってやらなければならないだろう。それが、教師の本分じゃないか? うん?」 

―――来栖

 はいはいはい。そうだよねーそうですよねー……。

 

 

 

 

 恋という気持ちを


「こういう気持ちを、一年前にも理解出来れば良かった」

「そうしたら、弟の力になれたかもしれなかったのに」

 

―――綾

 

 それじゃまるで―――いままで恋したことがなかったようではないか。これまで生きていた間に一度も恋する気持ちを覚えなかったような言い方じゃないか。

小坂井綾は一般的で常識人だと、そういうふうに見えやすいけど、でも実際はそんなことないよね……。あずま、希、シロクマ、桜の中でいちばん不理解な人だし不可解な女の子だと思う。

なにを考えているのか分からない……(っていうと怒られちゃいそうな)
……む。でもなんだろう……なあ……。

恋をしたことがないか……。恋というなの気持ちを一度も感じたことがないって、それはどういう景色になるんだろう。どういった風景を垣間見ることになるんだろう。

だからアキラは、綾を「存在するはずのない」「幻影」だと言ったのか?


恋を知らない人間など人ではないと、そう言いたいのか?……。

 

 

 

 別の誰かになりたい?


「別の誰かになりたいという欲求は、誰にでもあるものだからねぇ」

「君はそうでもないみたいだけど。私は、自分以外の誰かになりたいと、常々考えていたもんだよ」

 

「あぁ……。お前、それで文化祭のたわけた劇とか、執事やら、ノリノリでやってたのか。普段より生き生きしてるもんな」

 

―――綾、初雪

 

いやないよそんな欲求ない。少なくとも私にはない。ていうか綾のその言葉は、「綾を好きな人」を否定する言葉と同じだよ?!

「綾」が好きな初雪は、綾が他の誰かになってほしいなんて考えるわけないのに……なんかこれは悲しくなるな……。

好きな人が、自分自身のことを嫌いだというのって、じゃああなたを好いている私の気持ちはどうなるんだよとそういった感慨に包まれるよね……と。


 自分以外の誰かになりたいって、自分なんかどうでもいいってことじゃんか……。;;

 

 

 

 

 誰かと気持ちを共有すること。


「なぜ家に帰らず、街をさまよっていたのか。
学園にも、真面目に出ようとしないのか」

「まだ、私は話すに足る信頼を、得てないのかな」

―――綾

 


「分かった」

「話そう」

……

そうして、俺は数時間もかけて話した。話し尽くした。

ランのこと、あのホテルのこと。俺に語りかけてくる、ゴースト達のこと。

……

誰かに話すなんて、ほんの数カ月前までは、思いも寄らなかった。

共有してもらおうなんて、想像もしなかった

 

―――初雪

 

 初雪に必要なのは「自分の懊悩を誰かと分かち合うこと」だったんだなと思った。実際問題、初雪の痛みを綾が聞いても、なにかが怒るわけじゃない。問題が解決されるわけじゃない。

でも初雪の「痛い」っていう気持ちは和らぐ。そして綾という人間が自分に親身になってくれているという事実がよけい彼に安堵をもたらすんじゃないだろうか。

 


「強力させてくれるかい。ランちゃんの魂を探すことを」

 

 あと思ったんだけど、初雪に大事なのは「応援してくれる誰か」と「応援する誰か」なのではないかということ。

初雪が、誰かを、応援する。応援したくなる人物。それが重要なことかもしれない。

 

 

 

 

 初雪が会っていたのは?……


じゃぁ、俺が会っていたのは……あの日、バレンタイン祭で、不良どもを率いていたのは。

 

―――初雪

 

 

東雲から聞くことになる。あの日あのバレンタイン祭で不良を率いていたのは小坂井綾であると。

けれども、初雪が会っていたアキラはじゃあいったい?……。


バレンタイン祭のあの日。初雪と綾のもとに東雲は苦い顔をしながらやってきた。不良どもが学園を荒らしているからと。

初雪はアキラのもとへ走り、東雲は体育館に向かう。その場に残された綾は威勢よく笑い始める。

あの場面から見るに、アキラは綾の身体に入っていたんだろう。では、古びた剣道場で初雪が会っていたのは誰なのか?

綾の肉体に入り込んだアキラなのか?でもじゃあそれなら初雪は「アキラ」と認識するのではなく「綾」として見るんじゃないか。だって身体は小坂井綾のものだからだ。

1つ考えられるのが、アキラは綾の身体から離れたりできるのではないかということ。霊体として街を闊歩できるし、また綾の肉に入り綾を操ることもできる。

東雲があった綾は、彼女の肉にアキラが入っていたときのこと。
初雪があったアキラは、アキラが霊体となっていたときに出会っただけのことなのかもなと。

 

 

 

 

 

 綾の乗っ取り

 


「最初はな……最初は、復讐がしたかった。あの夜に、路上で泥酔していた俺を放置していった連中に……」 

「奴ら、ダチの振りして、俺を見捨てて消えやがった。はっ。一発でも殴らないと気が済まないだろう」

 

「俺はゴーストになってさ。街をうろつきながら……映画みたいに、誰かの身体をのっとれないかとか、試してみたんだぜ。ダメだった」

 

「けど、姉貴……こいつ相手だと、それが出来たんだ」

 

―――アキラ

 

 やっぱりあの説でいいのかもしれない。

サクヤによって街中に反魂香が満ちたこの冬。アキラはゴーストとして蘇ることになった。ダチだったやつらに復讐するために。しかしゴーストゆえに現実に物理干渉をもたらせない。誰かの身体を乗っ取ろうとするもうまくいかない。

そこで初雪に復讐を頼んだ。のちに完遂。そのあと綾相手に身体を乗っ取れるか試してみたら成功―――といった具合か?

 

 

 愛の祭典バレンタイン


「バレンタイン祭! はっ」

「あのイベントが、俺には憎たらしくて、仕方がなかった」

俺の愛を否定した奴らが、何が、愛の祭典だ。死ねってもんだ」

「だから、脅迫状なんかを出したんだ」

―――アキラ

 

 アキラの言葉がひっかかるな……。"俺の愛を 否定したヤツラ"。そうかアキラは剣道の門下生と恋仲になった。それは立場的に、または世間的にとても不味いことだった。

ゆえに学園から退学処分を下されることになる。だからこそこの言葉か……。俺の愛を否定したやつら(=学園)が憎いのか。

 


「でもそれだけのつもりだった。
ごろつきけしかけて、乗り込もうなんて思いもしなかった」

「こいつの中から、こいつとお前の様子を眺めながら
……俺の中に怒りが生まれた」

「いろんなものへの、怒りさ」 

「寒空の下に、好きだった人に放置されて……」

「死んでしまった」

「こんなはずじゃなかった」 

―――アキラ

 
それだけだった。脅迫状を送りつけるだけだった……ね。アキラの復讐とは自分を見捨てて放置した仲間に対するものじゃない。

自分を否定した全てを、理不尽というなの全てを憎んでいるからこそ、それに関わるものを殴りたくて仕方ないように見える。


そしておそらく、この復讐に「ゴール」はない。

アキラの憎しみは「世界を憎む」ことと等しい。ならいつまでたっても満たされないじゃないか。ぶん殴っても誰かを痛めつけても、祭りをめちゃくちゃにしても。

 

 


「こいつの身体が欲しい。死にたくない」

「死にたくねぇって、苦しみながら、自分が、ただのゴーストじゃない。悪魔のようなものになっていくのを止められない」

 

「こいつの肉体を乗っ取ってでも、この世にとどまりたいと思う」

「それでも、お前は死んでいるんだ。アキラ」

 

―――アキラ、初雪

 
なんだろうなあ……アキラの辛さをどうにかするためには、復讐という行為を続けさせてはだめなのだろう。それは果てのない行為だし、満たされると思って繰り返してみてもやっぱり満たされない行動なのだから。

けれども、それ以外のほうほうでアキラの気持ちを癒やすには、アキラ自身が復讐というものを違うふうに捉えないと……この状態がずっと続いてしまう気がする。

 

 

 

 

宮棟の嫌味

 


「ところで、どなたのゴーストをはらおうと?」

「……ちょっとした知り合いだよじゃぁな」

……

あぁ。ご自分ではないんだ

まぁ、あれはなかなか祓えないですよね

 

―――初雪、宮棟 


 ぐぬぬ。宮棟が言っているのって最初は「初雪自体がゴースト」という意味で捉えていたんだけど、今見たら、どうも違うねうん。

これは初雪の中にいる「百の懐かしい人達のゴースト」って意味か。それを祓わないんですねでもムリですよねみたいな。



 

 

 

 

 

綾は生に執着していないように思える

 


「ごめん……。君の力になれなくてごめん」 

「君になりたいとさえ思った。
私が、死ぬべきだったと思ってるよ」

 

「そんなに生きたくなければ、その身体、俺によこせよ」

「いいさ」

「それもいい」

 

―――夢(アキラ、綾)

 

 

綾はアキラが死んだことに対して、罪悪感はない。と言っている。

でもどうなんだろ……。なんで「私が死ぬべきだった」なんて言えてしまうんだ。罪悪感を感じているようにも見えるが、どうも違う気もする。

アキラに実質死んでくれと言われても、「いいさ。それもいい」と一秒了承してしまう綾がぜんぜん分からない。ほんとうに分からない……。


小坂井綾という女の子は、あまり「生きる」ことに執着がないように思える。。他の誰かになりたいとか、自分が嫌いだとかそういった言葉は、自分の「存在否定」に他ならない。

自身の存在がどうでもいいのだから、取るに足らないことなのだから、"アキラに代わって死ぬ" という決断をくだせてしまうんじゃないか?

罪悪感などではなく、自分をどうでもいいと思っているから、粗末に扱ってしまえるんじゃないか?……。なんというかふざけんな……と言いたい……。

 


「俺がこれから、お前の中のアキラを討つ」

「うん」

「断る」

~~

「私は今の私ではなくなる。そうして、今の私が得たものも、失われる。今の私は私ではない。今の私が持っているものは、本来のものではない」

「例えば、君とか。君と過ごした時間とか……」 

―――綾、初雪

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もうふっざけんなー!!もう意味が分かんないよ!! あう……思考停止しちゃだめだ考えよう……。

……

綾はアキラに肉を与えてやってもいいって言う。つまり私は死んでもいいってことと同じだと思う。

けれども……初雪との思い出を大事にしている素振りを感じられる。自分の中にいるアキラを討てば、好きな人との思い出も一緒に消えてしまう。それが嫌だと。

……ふむ。

宮棟からもらった反魂香によって夢の中でアキラと邂逅する。そのときは、まあ弟に身体あげちゃってもいいかな。かな。なんて思って了承してしまったが、初雪との逢瀬により、彼との思い出を大事にしはじめる。

恋とかしたことがなかった綾が、恋を知り大切な気持ちを知ったからこそ、「生きる(=アキラを討つ)ことを拒絶」してしまったんじゃないか?

 

生きることと、初雪との思い出を天秤に乗せなくてはいけない状況。(←はあ……もうこの2択の選択肢の状況になってしまった時点で地獄なんだよ……)

そんな選べない2択のうち、そ・れ・で・も選ぶとしたら、初雪の思い出を選ぶっていうこと?なのかな……。でも綾はこのままだ死んじゃうんだよ、死んじゃえば初雪との思い出だって……


あーけどどうなんだろもうだめだよ私の思考じゃ追いつけないよどうなっているんだよ全然分からないよ;;



「いやぁ何て言うか」
「いつ死んでもいいって感じだね」

「夢だったんだよ」

モーニングコーヒーを、こうして……好きな人と迎えた朝に飲むのが」


キュン死しそう

―――綾

 

 

いつかの交接した日。迎えた朝に綾はこういっている。「いつ死んでもいいって感じだね」と。

……もしかして、そうか……そうなの?


綾はもう「生きることに満足"した"」状態だっていうの? 生きることに満足したから悔いはない執着もない未練もないだから死んでもいいと。アキラに肉を預けてもいいと。

……。………… 

 

そういう意味では、綾は"死者"ということか……。

 

 


「段々と分かってきたよ。なんでてめぇが、俺にしつこく構ったのか」

「ありゃぁ、アキラを助けられなかったことへの、罪滅ぼしみたいなやつだったんだな。てめぇの弟みたいに、一人でふらふらしてる俺が、放っておけなかったかよ」

 

「俺は、お前の懺悔に利用されたのか?」

「違う」

「ちがわねぇよ。少なくとも、最初は、それで俺に近づいたんだろうが」

 

「お前がそんなだから、奴も迷って成仏できないんだよ」

「あげく、アキラに肉体を、くれてやろうってのか。なるほど、てめぇ冷血な女だよ。お優しい振りをして、自分が救われることしか考えていない」

 

「甘ったれんなよ、小坂井綾」

「死ねば救われるか!? 人の苦悩も、愛も、そんなに簡単なものだというのなら!」

「やってみろよっ」

 

―――初雪、綾

 

初雪からしてみれば、小坂井綾はアキラの罪滅ぼしのために初雪に構い、アキラに肉を差し出そうとしている。自分が死ぬことで、自分がアキラに出来なかったことを報いろうとしているのか。

小坂井綾が言うには「罪滅ぼし」などしていない。アキラに罪悪感など感じていないと言っている。

後者が正しいんだとすれば、綾は生に執着していないと見える。前者が正しいんだとすれば、綾は罪滅ぼしのために生を捧げようとしている。


どっちだ……。どっちもなのか?どっちもなんてありえるのか? 二つに1つだとするのなら、綾の言葉を信じたい。

つまり、小坂井綾は自身の存在などどうでもいいと思っているからこそ、アキラに肉を捧げられるのだと。


どっちにしてもあんまり……救わない感じですが……。

 

 

 

 

バニッシュだ

 


「あいつは……冬の寒空の下に、酔いつぶれた俺を置いていったんだ」

「事件以降。あいつも、俺の巻き添えを食って、いろんなものを失った。だけど、お互いがいればそれでいいと思っていた。少なくとも俺は……」

「けど違ったのかなぁ」

「あいつは、俺を見捨てたんだ」

「俺は恨まれていたのかな」

「……愛されてなんかいなかったのか」

 


「憎いよ」

「憎いんだ、河野ぉ……っ」

「結局、俺は、この世の未練に捕らわれていただけかも知れない」

「そうして……こいつの肉を奪って、蘇りたかったのかもしれない。だから、悪魔になろうとしている」

 

「でも、そんなものにはなりたくない」

「やっぱり、好きだから」

「姉貴も」

「お前のことも……」

「だから……やれよ」

「その剣で、俺を討て」

―――アキラ

 
他者の肉を奪って、生者として蘇る。それは悪魔的……。ふむ。

……
アキラと初雪はやっぱり近いよなあ……。復讐を望んでいるというより、外部の要因によって「復讐してしまう」というところが。行動を強制規定されるような感じがさ。

求めているのは誰かを憎んで報復することではない、けれども胸の内の衝動を抑えられない。それは本来……アキラの願いといったものじゃなかったはずなのに。

 


「じゃぁな、相棒」

「あぁ」

「去れよゴースト」

「バニッシュだ」 

 


「お前一体、何者だったんだ」

「ゴーストの王様」

「え……」

「だから安心していけよ、アキラ。俺が導いてやる

 

―――初雪、アキラ

 
導く……か。どこに? 死者が帰るところはやはり天国とかそういった居場所なんだろうか。それとも無?……。

これは初雪がアキラを応援しているようにも見える。背中を押しているようにも感じる。

アキラの到達したいその場所に、導いてくれているような。ふむふむ。
アキラがたどり着きたい場所って、復讐の果てではなく、"こういった"最後だったのかもしれない。

こういったとは? ダチがさ自分を見送ってくれるようなそんなラストが。

 

 

 

 

 

この冬に生きることを


「お前が自ら呼び寄せた、弟の、アキラのゴースト。そして……」

「俺もまたゴーストだった」

「俺もまた、本当はこの世の人間じゃないんだ。
誰かと、恋などしてはいけなかった」 

「俺は現世を捨てる。ゴーストになろう」

愛する家族が待つもとへ行くために。この冬に、生きることへの執着を捨てる」

 

―――初雪

 

 メリーゴーランドをぶっ壊せ……か。

初雪の「ゴーストになる」という覚悟は、現世を捨てることと同じなのか。生きることをやめること。

恋をし笑い楽しさや嬉しさ誰かと関わること、仲良くすること、そういった一切合財を切り捨てる。(一人飯もそういうことなのだろうか)

初雪が言う「愛する家族が待つもとへ行くために」という言葉が、とても自己欺瞞に聞こえてしまう。自分を騙して言っているような。(それはアキラとの"甘ったれんな"のことがあったからである)

たしかにランを取り戻したいとは思っているけれど、「ゴーストになって」取り戻せるとは思っていないんじゃないか。だって明らかにその理屈を初雪は聞いてないのだ。

復讐してど・う・し・てランが戻ってくるのか。その方法や過程を知らないのに、ここまで「突き進める」のはいささか変だ。なんていうか、ランがどうのこうのではなく、「ゴーストになって」の目的のほうが先だったんじゃないか? と思えてくる。

ゴーストになれば―――誰かが助けてくれるといった僅かな気持ちを大事にしているように見える。

そのあとに「ランを取り戻す」という理由をくっつけているんじゃないか。だから手段と目的がちぐはぐになっている。

 

 

 

 

 

2回バニッシュ。1つめはアキラ、では2つ目は?

 


「小坂井綾。あんたのことを忘れはしない」

「けれど、これ以上、死者にとらわれてはいけない」

「さらばゴースト」

「バニッシュだ」

 
―――初雪

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初雪はまずアキラをバニッシュした。本来ならそこで終わりそうなものだが、最後に「小坂井綾」に向かってバニッシュを放った。

なぜ、綾にバニッシュをした?

アキラさえ綾からいなくなれば、それで終わりじゃないか。アキラの魂を綾の魂から分け離すことによって、この冬の記憶と引き換えに、綾は綾として生きることを取り戻す。

しかし……おそらくそうではないのだろう。初雪が綾にバニッシュをしたということは、綾が綾として生きるために必要だったと考える。

となるとどういうことか。初雪は言う。「さらばゴースト、バニッシュ」だと。

綾は生者であるが、生に執着しない人間だ。それは傍からみれば死にながら生き続けているのと同義である。亡者でり死者と捉えられても不思議ではないと思う。

綾が抱えている問題はなんだ? アキラが死んだことによる罪悪感なら話は早い。初雪が2度バニッシュしたそのバニッシュは、罪悪感を消し去ったと見ればいいのだから。

でも、綾は頑なに毎回「罪悪感ではないよ」と口にしている。彼女の言葉を信じるなら、彼女が生に執着していないのは、アキラによる罪悪感ではない。

もっとべつの何かがある。じゃあそれはなんだ?



小坂井綾は小さい頃から剣道をし、知る人ぞ知っている腕の立つ選手だったらしい。あまり感情を出すタイプではなく、何を考えているか分からないとよく口にされたそうだ。

頼み事をすればほいほいと聞き、後輩からはわりと慕われているように見える。それなり、には人望があるのかもしれない。

ある冬の日、弟のアキラが剣道場の門下生を不祥事を起こし、白崎学園を退学。世間のバッシングにより綾の両親は剣道場を畳み田舎へと帰還。今は畑でも耕しているっぽい。

小坂井綾という女の子は、自分があまり好きではないという。誰かになりたいとよく呟く。……しかしなぜそう思っているのかは分からない。

 

―――なんとなく綾の生い立ちを追ってみたが、彼女が「生の執着をなくしている原因」はよく分からなかった。


初雪は、彼女の生の執着のなさの原因を消し去ったのではなく、「生の執着のなさ」そのものを消し飛ばしたのかもしれないとそう思った。

 


これはシロクマとの会話である。「ゴースト」を初雪はこのように言う。


「この世にあるもの、全部から逃げまわってると、そのうち肉体はこっちにあるのに、肝心の魂は……どこか、別のセカイにいっちまうんだよ」

―――初雪

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おそらく初雪がよんでいる"ゴースト"とは死霊のことを指す場合もあるが、自分の魂が「どこか別のセカイに行っている状態」も言っている。

そう考えれば、綾のことも合点がいく。


小坂井綾は生きている。けれども肝心の魂はここにはない。もっと別のどこかに行ってしまっている。それを初雪がその「状態」を消し去ったと見ればいいんじゃないだろうか。

 

綾をバニッシュしたあと、初雪は言う。


「俺もやっと、これで死にきれる」

 

 
……そうだよね。好きな女の子が、自身の存在を否定している状態から抜け出すことができた(これが初雪の独善的な行動だとしても)。そりゃ好いている方からすれば、未練のひとつが消えたといってもいい。


 

 

 ばいばい

 


その場に崩れオチながら、それでも……焦点は俺をとらえていた。

「……」 

これ以上、俺にはどうすることも出来ない。

ふと……小坂井綾が、気の抜けたように微笑んだのが分かる。彼女の言うところの、ありのままに受け入れる笑顔

 

彼女は、何を受け入れるうことにしたんだろう? 

手を俺の方へ差し向け、くいくいと、指を揺らす。

「ゆきち、こっち」

 

―――綾、初雪

 
綾はなにを受け入れたんだろう。

生きること……だったらいいなって思った。初雪が導いたその結果を、「うん」と思っているのなら救われるよねと。

 

 

 


「ランちゃんの魂を探すの……」 

「力になれなくて、ごめんね」

「いいさ」

「1人で、大丈夫?」

「…………」

「大丈夫だ」

「じゃぁ、がんばれ」

「……あぁ」

 

「ばいばい」

 

―――綾、初雪

 

初雪のちょっとの沈黙に胸を締め付けられる。一人で大丈夫じゃないから、初雪は以前からそして今もなおこんな状態だ。

初雪自身も分かっているんじゃないだろうか。一人じゃだめだっていうことに。

 

 

 

翌日。喫茶店にいくのだ

  


翌日。俺は喫茶店に、仕事に出る。いつものように。

…………

……

……彼女はこない。

俺は一人、準備をして接客をする。

少しづつ繁盛していたこの店も、すぐに寂れるだろう。

それでもきっと、俺はここを辞めないだろう。

 

現世を捨て、死者になりきろうとするも、初雪は綾の残滓を追い求める。そんな様子がとてもいい。

狂いたくても狂えない。死者になりたくてもなりきれない。……そんなふうに思った。

 

 


俺は選んだんだ。王になることを。

もう、引き返せはしない。

けれど、今は少しだけ立ち止まって。

もう少し、彼女を待つとしよう。

 

―――初雪

 

 

 

 

誰かの謀略

 


1つ、気に掛かることがあった。

なぜ、小坂井綾はこの喫茶店で働いていたのか

 

ゴーストが経営するこの喫茶店に務め、そこに俺を連れてくる。その一連の流れには、何か仕組まれた匂いをかがないではいられなかった。

 

小坂井綾にとりついていたのは、果たして、アキラだけだったんだろうか。 

反魂香によって、彼女は別の何かも、呼び寄せてしまっていたんじゃないだろうか。 

あれは…… 

気のせいか、あれは、俺の知っている誰かの笑みだった。

 

 

―――初雪

 

うそまじか?! じゃあちょっとまってよ!あれがアキラのえみじゃないとするなら、あの綾のえみはいったいだれ?! 桜 ラン?! もしくは?!

 

 

 

 

 

 

 

 卒業と

 


道脇に経つ大ぶりな樹にもたれかかるようにいて、一人の少年が立っていた。

 


「河野……?」

知らない名前だ。

でも口にしてみると、不思議と馴染む、響きがあった

―――綾

 

 「魂」という要素に、絶対の二文字はないのだろう。初雪との記憶を失われるとアキラから言われていたが、実際のところ綾はすこしだけ記憶を有しているようだった。

 

 


「彼には彼の信念があったということなんだろう」

 

少女はそっと手をあげて少年に向かって、手を振った。

少年が、少し驚いたように目を丸くしたのだけ見えた。なぜか、その表情がとてもなじみのあるものに感じた。 

少年は困ったように笑ったかもしれない。ただむっつりと押し黙っているようにも見えた。

 

やがてくるりと背中を向けて去っていく。

 

「……」
 

「ありがとう」

  

―――綾

 

 

ありがとう―――ね。初雪が最後にしたこと。綾に向かって"バニッシュ"をしたこと。そのことにありがとうなんだろうか。


それとも卒業式の日に来てくれてありがとうとか。
そういった意味もあるのかもしれない。 

 

 

 

 

でも卒業できなかった綾

 


「こちらで働かせてもらえませんか?」

「あ゛」

どういうことだ。なぜあいつが……

 

―――綾、初雪

 

 


「ところで、私は、この店に来たことがあったかな……」

「俺が知るか」

「そうかい」

 

 


「あぁ、恥ずかしながら受験に失敗してしまって」

「いや、予定では年内に推薦入学を決めるはずだったんだよ」

 

「なんでかなぁ。面接をすっぽかしちゃって……。でも、何を思って、そんなことをしたのか、自分でもよく覚えて無くて」 

「きっと、本当にこれでいいのかって踏ん切りがつかなかったんだろう。一年間、ゆっくり考えるのもいいかなってね」

 

「…………」

「さ、採用する……」

「え?」

「採用!」

 

―――綾

 

 綾は白咲学園を卒業した。でもランや初雪がいうところの「卒業」ではなかったのかもしれない。

ゆえに綾は高校卒業したあとの場所を、自分から蹴ってしまったんじゃないだろうか。無意識に?どうだろう。

綾にとって卒業とは、「初雪との記憶を有した」状態で、迎える卒業式だったのかもしれない。ふとそんなことを思った。(Graduationをまだ読み込めていないので、保留)

 

 

 

 

思い出の残滓

 


「でもね。初雪という名前は綺麗で良いと思うけど、言いづらいんだ。 焦ると、はちゅちゅき、とかつっかかってしまう」

 

 

 

 


「いやぁ何て言うか」

「いつ死んでもいいって感じだね」

 

 


「きれいなのは、嫌かい? じゃぁ、ゆきちと呼んでいいかな」

「勝手にしろ。代わりに、俺はお前を『浪人』とでも呼ぶか」

「かまわないよ。良い感じじゃないか。やさぐれていて、どこか文学的ですらある」

 

 

 


「じゃあ、仕事を教えてくれるかな。こう見えて、バイトというものをしたことがないから、けっこう緊張しているんだ」

きゅん死しそう」

~ 

「まかのろんさ」

 

 

 


「ゆきち」

「……まかのろんさ」

「……」

「……は?」

「……綾」

「あ、や?」

「……」

「……」

「一体、どういう夢を見ているのやら」

「ふふ」

 

―――綾、初雪

 

 喫茶カンテラのバイト面接きにた綾。即刻採用する初雪。彼と彼女の言葉のあいまあいまに、「二人が恋人だった思い出」が流れていく。

モーニングコーヒーのこと。キュン死のこと。まかろんのこと。


最後には初雪の寝言を、綾が聞いてふふと笑いながら終わってしまう。

夢の残滓。思い出の残り香。

これは何を示しているんだろう。


おそらくこの合間合間の「思い出」は、初雪から見た映像なんだろう。あの冬を忘れてしまった綾を見ていると、ふと思い出してしまう彼女との記憶、触れ合いがどうしても頭に浮かんでしまうんじゃないだろうか。

……初雪が綾との思い出をとても大事にしているんだろうなってとても分かる。

 

 

<綾Episode 終>

 


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Prologue編 感想(26452文字)

あずま夜 感想(25326文字)

シロクマ 感想 (26088文字)

小坂井綾 感想 (29804文字)


東雲希 感想(18500文字)


玉樹桜 前編 (31892文字) 

玉樹桜 後編(37254文字)

 



『はつゆきさくら』_初雪が春へ至るためには何が必要だったのか? 死者は何をもって生者へと復活できるのかを考えてみた(21461文字)  




 
<参考>

 

ドラマCD はつゆきさくら 第2巻~ゴーストウォー~
ドラマCD はつゆきさくら 第2巻~ゴーストウォー~

ドラマCD はつゆきさくら 第1巻~ゴーストトラベル~
ドラマCD はつゆきさくら 第1巻~ゴーストトラベル~