アルカディアの灯火―らくえんはあるよ ここにあるよ―(感想レビュー)

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 ※未プレイ者は閲覧非推奨

 

 

アルカディアの灯火 内在批評

 

アルカディアの灯火は、楽園の兆し、希望の光、といった意味だろう。

『マリーベルは死んだとパパに伝えて』は地球世界から異世界へと送還された者たちのお話。個人差もあるが彼らは送還後の異世界に戸惑い、絶望し、けれども最後には全員受け入れた。地球世界には戻れないならこの世界で生きるしかない―――という諦観からの許容ではなく、この先に待っている "楽園の兆し" を夢見ての肯定。その確かな象徴が『科学研究所』だったと思う。

それは本当にささやかな灯火。

『楽園の守護者』は癌の脳転移により意識が錯乱した守護者・ユリウスを、その親友・イースが討つという何とも後味の悪いお話。地球最強の救世主を殺してしまったことを "イスカリオテのユダ" となぞらえて「救世主を死なせた男は天国へ行けたのか?」とイースは自問する。けれど答えは返ってこなかった。

そんなラストシーンは、そこに何かしらの「楽園」や「希望」が入り込む余地はなさそうだった。

 

「ふぅぅ……」

煙を吐き出す。煙は折からの風に煽られて、あっという間に消えていく。
煙草はしけっていて、すっかり味が落ちていた。

それも当たり前だった。この煙草は、20年前にユリウスがくれたもの。俺はそれをお守りにして、今日までずっと持っていたのだ。

煙草は現実逃避の為に使う。ユリウスはかつてそう言って俺にこの煙草をくれた。

「…………それにしても…………まずい煙草だ…………」

しかしこの煙草には、俺の心を救うだけの力は残っていなかった。

 

(END)

 

――イース/アルカディアの灯火(楽園の守護者)

 

思うに "楽園の兆し" はラストにあったのではなく、ユリウスとイースがSE鎮圧に失敗し5万人を死亡させたあの時にあったのではないだろうか。二度と同じ過ちを繰り返さないように二人が約束したあの丘の瞬間にこそ "楽園の兆し" があったと思う。

きっと彼らは夢見ていた。人類を救えると。負け続きの自分たちでも叶えたい世界を形作れると。現実逃避のための煙草を吸わなくてもいい未来が訪れると。わずかなアルカディアの灯火を胸に抱いて。

――そして迎えるのは、その灯火を最後まで守り抜いた世界。

ユリウスが願ったものを守るためにイースは彼を討った。例えその結末がラストシーンに一片の救いがなかろうとも、けれど、確かにあれはアルカディアの灯火を守護した終わりだ。

 

楽園の兆しを守りぬいた『楽園の守護者』と、楽園の兆しが灯った『マリーベルは死んだとパパに伝えて』の両輪によって『アルカディアの灯火』は成り立っているのではないだろうか。

 

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アルカディアの灯火―――らくえんの儚さを描いた物語

……

………

 

 

感想・レビュー

 

『楽園の守護者』

個人的な感想、という前置きをしつつ『楽園の守護者』は面白いかと言われるとそうではないよねというのが率直な印象。超能力者がいる世界観や展開がどうこういうよりも単純に「文章を読んでて楽し」くなく、心を揺さぶられるシーンがどこにもなかったのが評価の後退に繋がっていると思われる。

ラストの「後味の悪さ」は好きだけど、それ以外は特別何かしら……という感じ。どこが悪いかはうまく指定できないが、単純に「魅力」が私には感じられなかっただけだとも思う。

 

『マリーベルは死んだとパパに伝えて』

これは面白い。異世界転生系モノ(RPG風味)は楽しくて仕方がない。地球世界の人間が新世界でどう立ち回り、生活をし、振る舞っていくのか、どこに驚き困惑するのかっていうのは――いわば異文化交流の楽しさに近いものがある。

人によっては「異世界ジャンルフィクション」はもうユーザーには馴染みのある世界観で、そこに驚きはなく、むしろ知っている世界だからこその安心感がある……みたいに語る場合もあるが私はそうは思わない。

確かにドラクエ的世界、JRPGの流れがここにはあると言われればその通りだけど、だからといってそこにセンス・オブ・ワンダーを感じないかと言われれば感じるよ!理屈じゃないんだよ!なんかわからないけど不思議な体験なんだよ!と胸を張って言いたい。

なぜそう感じるのだろうな。不思議だ。いや私にとって「異世界」は字面通り"異なった世界"なんじゃないかな。海外にだって自生活と陸続きの要素がそこかしこに点在し、けれども自生活と掛け離れたものも数多く存在する。この事実は「そこはある意味馴染みのある世界にも関わらず、新鮮な世界」と言えるのではないか? 

異世界ジャンルフィクションもまたそういうものだと思う。

本作はほかにも日常会話の掛け合いから、緊迫する戦闘シーン、異世界における心的負荷、軋轢、どれをとっても楽しかった高品質・異世界物語。この一章分だけでも1,000円以上の価値はあったと思う。

ラストはああいうふうに終わったが、そこから先の「続き」も見たい、読みたい、って思わせてくれた。大好き。読みたい。続き読みたいな。

 

 

 

アルカディアの灯火のちょっと嫌だったところ

 

これはsystem部分なんだけど、「テキストページに表示される"NEXT"の点滅」がとても嫌だった。

なんでこんなコントラスト高い白マークが文中右下下部にあるの? 何なの? 読ます気をなくそうとしているの? ただただ気が散る要素になっているだけだと思うし、これを導入する利点がよくわからなかった。もう少し当該存在の主張を抑えて欲しい。

↓これ

 

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――アルカディアの灯火(マリーベルは死んだとパパに伝えて)

 

対応策としては、黒い布でNEXTの部分を覆い隠しながらプレイしたというなんともアナログ的な方法。でも確実に「NEXT」を消失させられるのだ。

……私はこれ気になったよ。やっぱり。結構。

(了)

 

*追記(2016/04/27)

らくえんはいつだってどこにだって見出せる―――けれど、ふとした瞬間に消えてしまうんだと言わんばかりに。

最初は『楽園の守護者』を「楽園の兆しが掻き消えた結末」と捉えていたのだけれど、↑の引用文ね、いやでもなんか、どうも違うなということで今日すこし修正してみた。個人的にはこちらのほうがしっくりくるかなと思う。 

 

 

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