エロゲにおける「ボイス」の役割と効果(4087文字)

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*といいつつ一般ゲーも扱います。

 

  

(1)キャラに存在感をあたえる

 

ボイスはキャラの存在を高めてくれる。

立ち絵しか与えられなかった彼らに怯え、喜び……あるいは言葉にさえならない小さな揺らめきすらも声は表現できる。それは情報量が増しただけに留まらず、そのボイスが魅力的であればあるほどに、キャラクターは輪郭をつよめ、実際にそこにいるかのような錯覚を生み出すものだ。

逆にそのボイスが聴くに耐えられないならば、そのキャラの存在感と比例するように不快感も高まっていくだろう。エロゲの場合個別にOFFできるのでさしたる問題ではないだろうが。

ボイスの効果をより感じ取れる作品は、例えばこの2つ。

少女たちは荒野を目指す(非18)ではメインはもちろんのこと、モブと呼ばれる端役にも実力のある声優陣を起用し、取るに足らない応対でも生き生きとした雰囲気を味わえる貴重な作品。

また『MYTH』(非18)は、最初は声なしなのだが、物語がくだるにつれ徐々にボイスが付加される。これはひとえに「ボイスとはキャラクターに存在感を与える」ことを逆手に取ったもので、本作のテーマを考えると重要な演出になっている。

 

 

 

(2)読みを重くする

 

ボイスが付加されることで、読むことは重くなってしまう。

ADVはテキスト表示と同時にボイス再生するので、「文章は読み終えたがキャラは喋ってる」という状態になりがちだ。これがじれったく、ボイスを聞き終えないうちに次のテキストを読み込んでしまうプレイヤーも多い。

設定に「次ボイスを待つ」かのチェック項目があるのも、これを配慮したものだろう。

――だが、それは一概に悪いことではない。なぜなら「ペースダウン」を狙えるからだ。

テキストを速くよみすぎると、状況状況は理解できても、その状況にたいする体験は薄くなることがある。

例えばヒロインが夜空を眺めるシーンがあったとする。それを眺める今の気分、自分がいる廃バスの雰囲気や、空の様子を細かく描写しても、その質感を実際に感じ取れるかは読み手にかかってくる。(もちろんテキスト自体の品質もあるが)

「それを描写した」ことは理解できても、「それを感じ取れる」ことはまた別というわけだ。サッサッサと読んでいる時ほどその感じ方は鈍くなり、ゆっくりと文章をかみ砕き、味わい、想像していくとリアルに感じ取れたという経験をした人も多いだろう。

例え次ボイスを待たない人でも、ちょっと気になった台詞だったら、自然と、最後まで聴いてしまうことがあると思う。すると――一時的にせよ――読むペースはゆるまるし、他の文章にたいしても注視する機会は増えることだろう。

つまり、ボイスは(その性質上)読む速度を落とすことで、物語にたいするプレイヤーの注意力を高めるのではないかということ。

ちなみに『ダンガンロンパ(非18)は部分ボイスを採用し、SEのように――「ふふ」「黙れ」などを――取り扱うことで読むことの "重さ" を軽減した作品である。

 

 

 

(3)主人公との距離感

 

エロゲの主人公にボイスがつくことは稀だ。

これには様々な理由があるが、その一つに「主人公とプレイヤーの距離を近づけさせる」といった作用が考えられる。声がない――というのは具体ではない。曖昧だ。けれどその曖昧さが、あやふやさが、キャラをニュートラルに保ってくれる。

そのおかげで本来異質である主人公は自分と同じように感じられ、とても近しい存在、あるいは自分自身だと思うことを後押ししてくれるだろう。

これは異性と仲良くなり、異性との甘酸っぱい日々を楽しむ、自己没入型の恋愛シュミレーションゲームでは効果的に働く。

もちろん『グリザイアの果実』風見雄二のように強烈な主人公はいるし、その強烈さによって身近に感じられないこともあるかもしれない。しかしもしも風見雄二に「ボイス」がついていたならば、その影響はより強くなっていたんじゃないだろうか? 

(いちおう言っておくが感情移入が絶対ではないし、プレイヤーと距離が近いことが必ずしもいいとは限らないことをひとつ)

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逆にいえばボイスを与えれば「プレイヤーとの距離を遠ざける」ことができるわけだ。

これは群像劇のような"主人公不在"にとっては有利に働く。主人公と同一化することが絶対だと思っているプレイヤーに客観的な見方を要請できるからだ。

本当はどのキャラクターでも我々は共感できるし、ましてや共感することが絶対ではない。さまざまな人間の、さまざまな声が、物語を形作る『Forest』や『ef』の場合、プレイヤーに "一歩引かせた" 状態を取らせるのは重要だろう。

これを効果的に使用したのが『恋×シンアイ彼女』である。

 

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これは最終√で主人公にはじめてボイスがつく作品で、唐突にプレイヤーと國見洸太郎を隔てた。

それまで築き上げられた主人公とのリンクはぶちぶちと切られ、我々は彼以外――つまりヒロイン――の視点を汲むよう促される。なぜならヒロインの胸中を理解できなければ、國見洸太郎の想いも理解できないからだ。

ヒロインが主人公に取る行動は、主人公がヒロインに取るものと本質的に同じことに気づけなければ、無意味に小説を書き、むやみに恋人を追いかけ続ける、真摯で、純粋で―――けれどあまりにもむなしい行為の数々に迫ることはできない。

ゆえに最後の最後でプレイヤーを "一歩引かせる" ために、國見洸太郎の存在感は強められ(=ボイスON)るのだ。

しかしもしもボイスの後押しを見過ごし、はねのけ、主人公にべったりとしがみつくのならば『恋×シンアイ彼女』はきっと混乱に満ちたものになるだろう。

 

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ちなみに『ものべの』はセッ久シーンでのみOFFとなる。

なぜ特定箇所で主人公にボイスがつかなくなるのか?――これもプレイヤーとの距離感で説明可能だ。

主人公に声がつけばそれは「他人のセッ久を眺める」ものになるし、声がなくなれば「自分がやるセッ久」になる。自己投影するキャラクターの存在感の強さによって、そのシーンで受け取る印象は変わってくるというわけだ。

もちろん読者の読み方は多様なので、必ずしもそう読まれるとは限らないが、物語がある程度の方向をしめすことはできる。とくに自己投影の読みを好む――あるいはそれしか知らない――ユーザーを没入させたいならば効果的だろう。

 

 

(4)リアルタイムっぽさ

 

テキストにはテキストの時間があり、音声には音声の時間がある。

エロゲではこの2つの時間軸がばらばらになることはなく、基本的には同じ軸上で展開する。かんたんに言うと、テキスト(=台詞)とボイスは同時に表示されるという当たり前なこと。

けれど『セブンブリッジ』や『Sugar+Spice2』のように、登場人物がきゃあきゃあ喋りながら、テキストは主人公のモノローグで埋め尽くされる作品もある。背景音としてボイスが使用され、2つの時間が別々に流れるので、結果、リアルタイムっぽさを演出できる。

注意したいのは、これは「がや」のことではない。ざわざわとしただれかが喋っている声、けれどよくよく聞いてみると何を話しているか分からない声とは違う。

――意味のある、内容のある、物語に関わりのある、聞くべきに値する声と、読むに値するテキストが同時に流れないとリアルタイム感は生まれないのだ。

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欠点があるとすれば、情報量が一気に増すので――音声に気を配りながらテキストも読むマルチタスクにより――プレイヤーの処理能力に負担をかけること。

これを用いる作品は基本的に「ここぞ」という時に使用するので問題ないが、もしも毎度毎度、ボイスとテキストのタイムラインが異なればとても辛い状況になるのは言うまでもない。

とはいえそんな「過負荷」を効果的に演出できるならば、その辛さは楽しさへ変換されることだろう。

 

 

(5)情報の削減、および強調化

 

ボイスはそれだけで「だれが」「どのような状態」かを判別できる情報量を持っている。

ゆえに視覚情報はなくともキャラクターを十分に表せるし、『ナルキッソス』のように立ち絵を排除し、視覚的要素を最小限にとどめながらも、ビジュアルノベルは機能することを示した。

もちろん視覚要素が必要ないというわけでもないが、ボイスさえあればここまで削ってもなんら問題ないということでもある。そしてミニマルな作品はシンプルであるがゆえに、劇中に点在するものは際立つ可能性がある。

つまり画、文、音はより注意を向けられ、それぞれの存在感を強められる。

 

 ナルキッソス 感想―死の読み味が軽い―

 

 

 

 おわり

 

てな感じでどうだったでしょうか。楽しくよんでいただけたら嬉しいですし、今後気づいたことがあればその都度更新していこうと思います。そして恋カケは最高&最高ですよね…(YES!)

それではまたね。 

 

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