ナルキッソス 感想―死の読み味が軽い―
ナルキッソス 総評
やがて、わたし自身のことですら、
まるで他人のように眺め、リアルとして認識できなくなった。――セツミ/ナルキッソス
リアルに感じられない――これは事あるごとに触れられる。あらゆる出来事に世界の手応えがなく、だから生きることに確かな実感を得られない状態。
セツミの場合は本当はやりたいことをやりたくないと自らを欺くことで、主人公の場合は日常と非日常の転換がうまくいかずこの問題が生じ始める。
前者は病の身では何も成し得ないと分かっている(=決めつけている)からこそ、諦めることを選んだ。願いを捨て、欲望に封をし、瞳を閉じた世界で「これでいいんだ」と自分を慰め続ける。けれどそんなのは自己欺瞞に過ぎない。けれどそこから抜け出し傷つくことさえもう彼女には出来なかった。
後者は日常(大学生活)から非日常(7Fの住人)の移行による転換がうまく行えず、日常感覚のまま非日常世界に身を委ねてしまったのが彼である。彼にとって身近なものになった「死」は、本来リアルに感じられるはずだが、「日常」の時分と同じく曖昧なまま取り扱われる。
・・・現実を仮想が押さえ込み、
・・・日常と非日常が溶け合う
『ナルキッソス』が死を扱いながらも重くないのは、この為だろう。「あなたは死にます」と迂遠に宣告を受けたにも関わらず、彼彼女にとってそれは恐怖すべき、忌避すべきものになっていない。その世界認識が作品全体に色濃く出ており、普通に生きて、普通に暮らしてきた主人公がその時代に感じていたであろう胡乱な死と同じように――ナルキッソスもまたその軽薄さで死を描くのである。
だから本作は死生観を題材にしながらも読み味が「軽い」。全然悲観的ではないし鬱屈とした雰囲気すら出ない。生と死についてどこかおざなりでさえあるものだ。*1
“日常的な死”……とでも言うべきものがあるならば、『ナルキッソス』はそういう作品だろう。
私的満足度:★★★(3.6)
Narcissus…narcissu…
一時間ほどで読了。
家と病院の選択肢しか与えられないものの、最後くらいは我がままをいって望む場所で死んだセツミ。その結果と過程に「切実」なる救いを(彼らが)求めなかったのは興味深い点だと思う。
エコーはナルシスに「先に」愛して欲しかった。しかしそれが叶わないとしれば呪い、やがては消えてしまう。これをセツミに当てはめるならば、彼女も愛して欲しかったのでは?誰に。世界に。
――けれど世界は愛してくれなかった。なら消えるしかない。
ただ彼女はエコーのように呪いはしなかった。祈りもしなかったけど。きっとそれはなにもかも諦めていたからだろう。死にも生にも縋り付くのをやめてしまった彼女の物語。ただゆいつ、求めたのが、最後の情景なのだとすればそれはセツミにとって慰めになり得たのだろうか。
・・・・・・
・・・
諦めた人間の世界観というのは、本当に、時間や空間への“手応え”がまるでないことが解る。自殺”という仄暗い行為さえ霧散させてしまう程に、どこか空虚だ。
(了)
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たしか小説版だとこの後エピローグがあって、病院に戻った主人公が当時の様子を(看護師さんとだっけ?と)すこし振り返る場面があったはず。
Narcissus1&2は無料でプレイできるので・・・といっても有名作だしこの記事読んでいる人は既にプレイしていると思うけど、一応ね、まだやってない人いたらやってみてはいかが。
DL→http://stage-nana.sakura.ne.jp/down.htm
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*1:とはいえそこが悪いと言いたいわけじゃないし、このあっさりさはそれはそれでユニークだろう。