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精神病によって変わり果てた人を「その人」だと見做せるか(世界にひとつのプレイブック感想)

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躁鬱病双極性障害)、統合失調症、偏執病……あるいは認知症のような脳機能障害等……によって人格が変わってしまった者をそれでも「その人」だと見做せるだろうか? 

十年前からこれについて考えていたけど、私は無理だという結論を下していた。

先程まではおとなしかったのに突然テンション爆上げでコミュニケーションを取ってきたり、ストーカー行為を平然と行うも批判精神が欠落しているので悪い事と思えなくなったり、夜中に人の都合おかまいなしで電話を何度もかけてくる。平気で嘘をつくようになる。記憶が混濁している為会話が成立しないというのは……いくらその人が「以前」は良い人だったとしても「今」はそうではないのだ。

その原因が例え「病」だとしてもそんなのは周囲には、私には、全然関係ない。本当に関係ないのだ。それが「ストレスのせい」だろうが「ピンクユニコーンのお告げ」だろうがそいつが今現在クソ野郎なのは変わらないのだから。

画面の向こう側にいる分にはいいかもしれない。

いくらその人が非道い事をやろうとも傍から見る分には同情の余地があり、可哀想で、お情けをかけたくなるかもしれない。少しくらいの異常は目を瞑ってやってもいいだろう。なにせ私に害はないからな。

しかしそれが常時、あるいはある頻度で自分の身に降りかかるならばそんな事は言っていられなくなる。

自分と大幅に違う倫理観や常識を持つものを人は「同じもの」とは見せず、そして耐えきれなくなればこいつは狂っていると認識するしかなくなるし、自分の側から遠ざけようとするものだ。そう思うことを「間違っている」と言うのは容易いが言葉だけの正しさならば確かにそれは正しい。"ああ、これぞ現実の不条理ってやつかな。シュールレアリズム。教えてくださいカフカ先生"

映画『世界にひとつのプレイブック』は精神病を患った男女がトラブルを起こしつつも周囲に助けてもらうお話であり、人は何かしら狂っているものだよと締めくくる。

躁鬱病だと診断されたバット、性依存症であるティファニー。確かに彼らはその病名通りちぐはぐであり、現社会からすれば“狂って”いる。

だがバットの父親はオカルティックな方法を用いればアメフトに勝てると信じ、隣人は仕事も家庭もありながら仕事と家庭に圧迫されて死に体だ。

“健常”たる彼らも診断されないだけで、どこか歪で、壊れているのだと本作は指し示す。ひいては『人生はいろんな方法で人を傷つける うまく言えないが 誰だってクレージーな部分はあるだろ?』と最後の最後でバットは言い放つのだろう。

しかしそんなのは当たり前だ。

本来倫理も正義も善悪もこの世には存在しない。それを定めてきたのは人類であるし、もっといえば「その社会」なのである。社会がこれが善だと言えば、それは善になる。悪だと定義すれば悪になる。

だから己が所属する社会から見て、狂っていると判断されるならばそれは狂っている事になる。

そこを取り払ってしまえば、そりゃ、皆狂ってるよ。どこかおかしいさ。正しいだけの四角四面の人間なんているわけねーだろ。程度問題なんだよ。その程度問題を極端にすり替えて「誰だってクレイジーな部分はあるだろ?」なんて言ってみた所でバットらがあの中で最も(所属社会の中で)“狂って”いるし、父親も隣人もそこから見れば全然“狂って”はいない。

社会が違えば、バットらが正常で、父親らが異常と見做すかもしれない。それはそれで(その社会から見て) 正しい。

そしてそんな異常だと定義されたバットらを支える家族を尊敬するし、私だったら例え家族だろうと厭になってしまうだろう。

この映画はそんな変わり果てた人間を家族から、隣人から、第三者から眺められるようになっているし、逆にもしも自分がこの状態になったら?という想像を働かせるものになっている。

それはある意味で恐怖だよね。こうはなりたくないと思わせてくれるもの。エンドロールが流れれば自分はそうではないという現状に安心感を覚え、ほっと、一息つくわけだ。

 

……と、だいぶ意地悪な見方をしてきたが『世界にひとつのプレイブック』は私は好きな物語であるし、読後感もよい。まるでこの世界は苦しい事があっても最後には幸せになれるよと提示してくれるからだろうか。

でもそれはどこか御伽噺の風体であり、ラストで「――という夢を見ていたんだ」となっていても全然驚かなかっただろう。

(了)

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