読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

猫箱ただひとつ

物語追求blog。アニメ、マンガ、ギャルゲーを取り扱ってるよ

こなかな感想②(クリステル=V=マリー)

ゲームレビュー ゲームレビュー-こなたよりかなたまで
スポンサーリンク

こなたよりかなたまで (Paradigm novels (216))

 

 

彼方とクリスのやりとり『こなたよりかなたまで

 

こなたよりかなたまで』のクリス√のラスト。病院。二人が話すところで気になる部分にコメントしていく。 

 

「クリス。君がそれで救う事が出来るのは、僕だけかい?」

確かめるべき事があった。それを確かめない限りどれほどいい話であっても飛びつく訳にはいかない。

「ひ、ひとりだけ、です。い、一度契約したら、破棄するまで新しい契約は、出来ないんです」

(中略)

「じゃあ、もうひとつだけ訊きたいんだ」

「はい」

クリスは僕を伺うように顔を近づけた。

「一人は、辛かったかい?」

クリスが止まった。何かとまどうような表情が浮かぶ。質問の意図を探るように僕の顔を視線が彷徨う。彼女の不安げな視線が、僕に絡み付いた。

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 
今思えばクリスがこんなにつっかえつっかえなのは、恥ずかしさ相まってのことなのだろう。

そしてとても疑問なのが、クリスへの彼方の質問だ。この時彼方はどんなによいことでもこれを聴くまでは首を縦に振らないとする。一つは「契約の数」。一つは「クリスが今まで辛かったかどうかの有無」。

一つ目は彼方一人だけが無限に生きても「周り」が付いてこれないなら無意味じゃないかと考えがわかる質問だと思う。しかし2つ目がいまいちピンとこない。クリスが今まで辛かったどうかはエンゲージに関係なさそうじゃないか。

クリスがこの質問の意図を探ったのは、彼方が過去の約束を含めて聞いているのかよく解らなかったからだろう。

 

「‥‥はい、一人は、とても辛かった、です」

クリスは一つ一つ確かめるように言った。僕は息を大きく吐き出した。これで決まった。

僕の行く道は‥‥‥。

「ありがとう、クリス。君の申し出はとても嬉しい」

クリスの表情が明るくなる。それでも僕は言わねばならない。

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

そうして彼方は「クリスが一人は辛かった」という答えを聞き、自分の行く道を決め る。「これで決まった」と言うことから、彼方にとって「クリスが今まで辛かったか」どうかはとても重要な質問であり、かつエンゲージを拒む理由になるんだ けど……そこがいまいち腑に落ちない。どういうことなんだろう? 

「みんなの中で笑っているクリス」うんぬんに関わってきているような気はするけれどもしかしー。

 

「君といくなら、今この瞬間にその全てを失う」

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

彼方が大切にしているのは「自分を取り巻く人たち」だ。学園、病院で関わっている人たち。クリスを契約を結ぶならその全てを、今この瞬間に失う(と少なくとも彼方はそう思っている)からこそ契約を拒む。

具体的な理由は、吸血鬼として定住することでそういった大切な人たちに危険が及ぶというのが最大のものだろうか。

けれど前も言ったようにこの考え方は飛躍が大きすぎるんだよな……なぜ彼方は「吸血鬼にになる→定住する→大切な人に危険が及ぶ→彼らを守りながら日常を送る」という発想を一切しないのだろう。

 

・みんなを守り切る自信がないから


確かにこの可能性はありそう。クリスが今まで逃げてきて、九重さんの戦闘を見ている彼方からすればこの考えを前提に持ってきていても不思議ではない……。でも。うーん。そういった想いを一度も彼方は零してないのでどうなんだろうねという気はする。これじゃない感はある。

 

 

彼方「無限を生きればここに居る『彼方』は死んでしまう。みんなと生きる『彼方』はなくなってしまう」

 

無限に踏み込めば、結果は一つ。

彼方「……今すぐ、彼らを失うよりはいい」

 

――.『こなたよりかなたまで

 

ああ。やはり彼方はこのとき「今」と「未来」の自分を繋げることは出来ないと明言しているのだな。両者は千切れていると。

彼方からすれば、無限の道を選んでしまったら「今の彼方」と「無限を選んだ彼方」は繋がらず、「今の彼方」はいなくなってしまう死んでしまう。という考え方をしている。

でもなぜ彼は……両者に断絶を見ているんだろう。そこがどうしても気になる。なんでだ。

 

遥彼方は両親をすでに亡くし一人で暮らしてきた。そしてその上、自分が癌になり両親の後を追おうとしていた。その事を親友に話、幼馴染にも話そうとしたものの佐倉の告白を聞いて結局死期が迫っていることを言えなかった8月。優といずみちゃんの出会いがあった夏。

それから彼方は、薬による副作用に悶えうち、痛みに耐えながらも「今まで」の生活をなんとか送ってきた。学校の先生に根回し、病院に行き、佐倉にばれないように、平和で無限のような日々を続けようと頑張っていた。

彼方にとって「今まであった日常」というものは大切なもので、それを病気などに壊されることは嫌だったのだろう。"過去から今にあった"ものを彼は重視している。

……クリスが提案する「エンゲージ」はそんな彼方が大切にしている「此方」を大きく変容させてしまうものだと……彼が思っても不思議ではないのか……。

癌という病気はいくら受容できても、「吸血鬼」「無限の命」という身体変化、種族の変質、立場の変動は、確かに「今まで生きてきた人間」としての価値観からすれば衝撃的なものということか。

あれだな。私は「吸血鬼と人間」「無限の命と有限の命」の差異など、大したものではないと既に判りきっているから、クリスと私たちがどれほどまでに近いかを判りきっているから、その「今まで人間として生きてきた価値観」なるものを飛ばしてきてしまったのか。なるほど。

"普通"、今まで吸血鬼としう存在なんて知らなかった人間がいきなり「吸血鬼になれるよどうする?」と言われたら、「大変魅力的な申し出だけど、今までの自分じゃいられなくなりそうだ」という考えになるのは至極当然か。

だから、ここで彼方がエンゲージを断るのは「過去から今までにあったもの」を守りきれなくなってしまうと"思った"からか。彼自身は「定住できない」ことに理由を集約しているが、もっと大きいのは「吸血鬼という今まで未知の世界へ入り込むことへ」の衝撃というかそうなったら果たして「此方」を守りきれるか不安になってしまう実感ではないか。

 

結局僕達はどこまでも良く似ていた。その癖問題は常に背中合わせ。絵に描いたような状況だった。あちらを立てればこちらが立たず、命を守れば人生を失い、人生を守れば命を失う。僕達はどこまでも背中合わせなのだった。

そして僕はクリスのように今を捨てることが出来なかった。彼女がこれまでやってきたように、時を超えていく覚悟が出来なかった。会おうと思えば耕介に、佐倉にすぐ会える。そういう実感なくして、立っている自信が無かった。

僕はあまりに幸せに暮らしていたのだ。その全てを置き去りに出来ないくらいに。

 

――彼方.『こなたよりかなたまで

 

この "彼女がこれまでやってきたように、時を超えていく覚悟が出来なかった。会おうと思えば耕介に、佐倉にすぐ会える。そういう実感なくして、立っている自信が無かった。"

部分が、今まで人間だった彼方が、未知の「無限を生きる」ことへの忌避感を表しているように感じる。そしてこれが最大の理由、クリスのエンゲージを断った理由だと思う。

 

彼方が言っている「クリスは今を捨ててきた」というのは、クリスが定住しないで世界中を回って生きていたことを言っているのだろう。定住しない、つまりそれは人との繋がりがとても希薄な生き方をしてきたということになるのではないか。人との繋がりを大切にしている彼方からすれば、そういった無限の生・吸血鬼による生き方というのは受け入れにくいのかもしれない……。

ああ。

そうか。

だから彼方はエンゲージを受け入れるかどうかの際に、クリスに「一人は辛かったかい?」と聞いたのか。そして彼女は「辛かった」と答えた。

ここで突き付けられる「無限に生きる」というのは、クリスのようにあちこち旅をしてそういった孤独で誰とも関係性を持たないものだ。ならばそれは「過去から今」を蔑ろにするものだし、「過去から今」の人々を大事にしている彼方からすれば決して相容れなくなってしまうのか。


無限の命、吸血鬼になる、契約を交わすということはすなわち―――クリスが彼方に語ってきたような生き方をするということであり、敵に追いかけられ、餌として扱われ、結果的に世界を巡り、孤独に、ひたすら孤独に生き、楽しいことなどなかったと言ってしまえるような―――そんな人生を歩むこと。

 

そんな未来と、今は、繋がりはしないか。ふむ。

 

彼方がクリスに「君は強い」というのも、そういう意味なのか。クリスの生き方は「過去から今を省いて生きている」ように"見える"からこそ、自分がそんな生き方を送れないからこそ、強く見えると。

 

彼方「僕は、君のように強くはないんだ。ごめん……一緒には、行ってやれない」

クリス「私だって、そんなに強くありません! だから一緒にきて欲しかったのに!!」


彼方「ここにある全てと引き換えに、君と命だけを選ぶ勇気が、僕には、ないんだ」

クリス「だって! だって!」


彼方「今なら君も居る。みんなも居る。なくなるかもしれないのは、命だけ。みんなと君、命と君。選ぶならどちらかだよ。なら僕は」

そう、ここに居る『彼方』に選べる答えなんて一つしかない。

「未来の全てと引き換えに、今と思い出と君達を選ぶ」

 

――こなたよりかなたまで

 

ここの何が不幸かっていうと、

クリスは「彼方の約束を含めて『ひとりは辛かった』と答えた」のに対し、彼方はその約束(=過去から今へ続くもの)を忘却し、それを省いた上で過去から今を計上し「此方を選ぶ」と答えを出してしまったということ。

つここの彼方は「過去の約束」を思い出せないからこの解しかだせなかった。けれどもうひとつ√の彼方はクリスとの「過去の約束」を思い出したから――それを含めて「此方」と受け入れたからこそ――無限に踏み込みことが出来た。といえる。

 

―――こなたよりかなたまで

 

この√もまたある意味で(=ラスト彼方がクリスに"叶うことのない約束"をする点)「こなたよりかなたまで」なんだけど、true√のほうはまるごとこなたよりかなたまでまでという感じだ。

 

 

クリスは表情を失い、やるせない思いが瞳から涙となって零れる。そして彼女はすぐに下を向き肩を震わせはじめた。

僕も自分の頬を拭う。

「そして僕は。僕は‥‥」

ここへ来て僕はようやく自覚した。しかしそれを言うべきかどうか悩む。

だが悩む頭と違い、僕の口は止まらなかった。

「孤独の中の君よりは、みんなと笑う君を選ぶ」

"ダンッ"

苛立ちを拳に込め壁に叩きつける。どうしてこうなのか。どこまでもうまくいかないのか。そのどうにもならない焦燥感。

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

彼方がいう「孤独の中の君よりは、みんなと笑う君を選ぶ」というのはどういう意味なのか。彼方がクリスの契約を了承するのならば、クリスは孤独ではなくなる。みんなの中で笑うクリスではいられなくなるかもしれないが、少なくとも彼方とクリスの2人にはなる。孤独でなくなるからこそ、クリスは嘆願していたのに、なぜ彼方はこのような言い方をしているのだ。

 

彼女は僕の前に現れた。そして僕を愛してくれた。

僕も日々を共有するうち彼女を愛した。人と触れ合う彼女を見て、愛した。優と、耕介と、いずみちゃんと、病院の子供達、学園の人々。それらと触れ合う彼女を僕は愛したのだ。

「僕が、君を好きにならなければ良かったね」

もし偶然に現れた孤独な彼女に同情しただけならば、あるいは申し出を受け入れる事も有ったのかもしれない。

「いやっ! いやっ! そんなのいやぁぁっ!」

だが、僕の前にいるのは他でもないクリスだった。怒り、泣き、哀しみ、そして人の中で微笑む彼女を見てしまった。人と共にありたいと願う、彼女を知ってしまった。そんな彼女と生きたいと願ってしまった。

偶然? いや、これが運命というものだろう。

「ごめん。君と果てまでは行ってあげられない。運が無いね」

「‥‥こんな力があったって、不老不死だったって、私はあなたを救えない! 欲しいものも何ひとつ手に入らないっ!」

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

彼方は「人の中で触れ合う」ことに重きを置いている。人は共有することで人足りえるという彼方の考え方からすれば、いろいろな人の中で笑い合うクリスに惚れ込んだというのも納得できる。

そしてもしクリスに向けた感情が「愛」ではなく「同情」だったならば契約の申し出を受け入れたかもしれない。となると、「愛」だからこそクリスの申し出を受け入れられないということか?

ここで彼方が言っているのは「そんなクリスと生きたい。果てまでは行ってあげられないけど僕の元にいてほしい」ということなのではないか。

だから先にあった「孤独のクリスと、みんなといるクリス」の件は、ようするにクリスがここから去ることも彼方の中には可能性あると見ているんではないか。

 

そして、クリスの在り方というのは「たった一人で生きて、自己を現した存在そのもの」だったか。

以前、彼方は人は一人で生きれると言い、けれど人間という種族はあらゆるものを共有し未来へ繋いでいくと語った。その個人で生き自己を現していたのがクリスだったんだなと腑に落ちる。

彼方の言い分からすれば、クリスは無限に生きているよういでその実無限にまで届かせてはいないのだろう。

 

 

「クリス。胸を張ってよ。そしていつものように笑って。それだけで僕は構わないんだ」

それでもこれがきっと彼女と生きるということだと思うから。

「無限なんかなくったって、目の前で道が途切れてたって、それだけで僕はここに居る君を選ぶんだ」

「でも私は‥‥一人はもう耐えられません‥‥彼方が私を置いて逝くなんて、そんな事考えられません」

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 
このクリス√の彼方は、無限を捨てて「今」だけを本当に「今」だけを選ぼうとしているのだな。

 

今――/
   ――無限

 

少なくとも「彼方の命」においては両者は繋がっていない。今は。けれどラストはつながってるんだよなあ不思議だ。

 

僕達二人には、何かが少しだけ、ほんの少しだけ足りなかった。もう少し強ければ、他の結末を迎えただろう。もう少し弱ければ、他の結末もあっただろう。何か他の理由でも構わない。偶然ひとつだって構わないのだ。しかし僕らには結局足りなかった。

 

――彼方.『こなたよりかなたまで

 

「無限だけ」を選ぶこともあったってことなんだろうか。確かに。弱ければありえるかも。

それは今までにあった全てを捨て去って、クリスとのみ人生を歩む√か。

 

僕は暗い天井を見上げながら考えていた。これで良かったと思いたい。思いたいが、ちょっと泣けた。自分を捨てられない僕自身に。これだけ想ってくれているクリスに。残り少ない時間に。

どうすればいいのかわからない。僕にはこうするほか無かったのだ。遥彼方はこういう男だ。そうやって生きてきた。今更、それを変えられはしない。

‥‥思うように生きられる者などいない。それはいつか、彼女が言った言葉だった。

 

――彼方.『こなたよりかなたまで

 

うむ。彼方は「過去から今」に付随するものが大事で捨てられないからこそ、このような選択をしてしまうようになっている。そしてそのことを彼自身も理解しているのか。自分を捨てられない自分に。

そして本当はその「過去から今」に「約束」が含有されているのだけれど、彼方は思い出せない。だからこの解しか行き着けない。

彼方にとって「過去から今」にあった約束というものを思い出せば、それは今までの日常を守ってきたように、その約束も守ろうとするのだろう。それにクリスは「世界をぐるっとみても楽しいことなどなかった」と言うのだから約束をもう果たすしかない。

遥彼方とはそういう人間で、"此方"をとても愛している人間だった。

 

 

(前略)弱かった。自分はどうしようもなく弱かったのだ。そんな些細な事に逃げ道を求め、この身が吸血鬼であるという事を結局認めることが出来なかったのだ。

 

――クリス.『こなたよりかなたまで

 

「過去から今まで」を受け入れることもまた「此方から」というものには含まれているのではないか。

彼方は病気と死と日常を受け入れ、けれども佐倉に打ち明けられなかったし、クリスでクリスで彼方に自身が吸血鬼であることを見せるのを避けた。

どちらも今という名の事実を受け入れてはいないように思う。

 

(前略)私は彼方に比べ、どうしようもなく卑屈で、弱かった。

そして今、私はずるさのつけを払おうとしていた。

それも良いかもしれない。彼方と同じ所に逝けるかもしれないから。

 

――クリス.『こなたよりかなたまで

 

クリスは吸血鬼の部分を否定したけれど、彼方の命という例外に対してその吸血鬼部分を差し出した。しかし彼方はそれを否定した。

一度は否定したものを、例外とはいえそれを肯定することの心の機微。というものは羞恥の側面が強いのかもなあと思いっつう、クリス的にはどうなんだろうか。

 

 

(前略)
「ご自分は決して『彼方』をやめようとはしないのに!! 私にだけそれを言うんですか!!!!」

クリスは泣いている。その目は僕を非難し、その手は僕の服の胸元を掴み、そして子供のように泣いていた。

僕はどうしていいのか解らなかった。

困った。本当に彼女はここにある『僕』を含む全てを理解した上で、愛してくれていたのだ。

溜息を吐いた。

そして『僕』は決心した。

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 
クリスが彼方の血を吸わないと敵に負ける。それは『クリス』をやめさせ『吸血鬼』に戻れと言っているようなもので、『彼方』をやめようとしない彼方にクリスは憤る。

そう彼方は、「此方」を棄て去ることが出来ないからこそクリスのエンゲージを断った。それはいうなれば彼方は『彼方』だからこそ――そういう信念を有している――それを含んだ答えしか出せないのである。

此方をどうしても捨てられない。クリスとしてはそれを捨てて自分と一緒に生きてほしい。遥彼方が今まで培い育んできた『彼方』を取り外して、こっちに来てほしいと。

 

そして↑のあと、彼方は「在りたいように在る」といういつもの考えを頭の中で巡らせる。在りたいように在るのは難しいが、しかしその在りたいようの部分を履き違えているのではないか? 大事なものは例外なく成り立つはずだ。と。

そして彼は今まで隠してきた本音を、弱音を、クリスに吐き出していく。

……となると、彼方の中で「本音・弱音」を言うことは、在りたいように在るの中で履き違えていた部分ということだったんだろうか?

 

「クリス‥‥恐いんだ。死ぬのは怖い。とても恐ろしい」


――彼方,.『こなたよりかなたまで

 

いや違うな。

これは「弱音」の部分じゃなく、「過去から今」を肯定しつつも、けれどやはりその「過去から今」に含まれている「死」の部分がたまらなく怖い(=生きれるのなら生きたい)という願望を持っていることを告白することに価値があるのか。

そうか。

これはこれで「此方」と「無限」が繋がった瞬間なのか。先ほどまでの彼方は無限をすてて過去から今へと繋がっている此方の側を取った。そして無限の未来を捨てて、今ここにある君たちを選ぶと宣言した。

しかし、本当は、彼方は"生きたい"のだ。つまり未来を欲しているのだ。無限の未来を諦めたと言った彼方が、本当はそれを欲している。

無限の命を提示したクリス、未来を一緒に生きたいクリス、彼方のことが好きなクリスならば、ここで泣き笑うのも。うむ。どちらかというよ本音を言ってくれたことのほうが大事だったかもしれないが。

 

 

 

「ひとつだけ教えて。彼方がここへ来たのは、偶然?」


――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

さて、なぜクリスはこのような質問をしたのだろう?

彼方がここへ来たことが「偶然か否か」はそれほど重要なことなのだろうか。true√でここを彼方は「運命だ」としていて、こちらの√ではユーモアっぽく「偶然だよ」といかにも偶然じゃないよという響きを持った言い方をしている。

彼方はクリスをベッドで眠り、深夜に気づき起きる。このときクリスがいないことから病院の屋上へ向かったのだろう。この時、悪い予感みたいなものを感じていたみたいだったから確かに「偶然」ではないが。

けれどさしたるそこに意味はないようなきもする。彼方が一瞬クリスの質問の意図を見失うほどに私には彼女の意図がよくわからない。うーん。

「私を思って来てくれた」

という所がクリス的にはポイント高いのか?くらいしか思いつかない。んん。

 

んー、多分クリス的には「過去の約束」を含めて「ここに、私の所にきたのは偶然なの?」と聞いているというのはどうだろう。

で彼方はその含意が得られないから、意図がわからず最後までなにか勘違いしている状態なのではないか。

 

 

 

 

金色の桜

 

病院の屋上で、クリスと敵が対峙する後、季節は春になる。

 

彼方「もしぐるっと回っても、楽しい事無かったら……」

 

僕の言葉にクリスが目を上げる。


彼方「次は契約でも結婚でも、何でもしてやるから。頑張れ!」


クリス「はい」

僕が最後に見たものは、泣き濡れて、しかし咲き誇らんばかりの、金色の桜だった。


父さんたちの言い分ももっともだ。


僕は一人満足げに笑うのだった。

 

 

――こなたよりかなたまで(クリス√)

 

 

最初、季節が春ということで、彼方は「契約」を果たしたのだろうなと思った。なぜなら彼の余命はもうすぐそこで、春を超えられないということだったから。
だから、春にまで生きられたのならクリスのエンゲージを受け入れたと。

しかし、両親が会話に参加する所で「ああ彼方は契約をしたわけではなかったのだな」と思い至ることになる。

そしてこれは「これは彼方とクリスの二人で描く風景」なのだとも。

彼方は結局『彼方』であることを貫いて、「此方」と「彼方」を分けたまま最期を迎えた。今と無限を繋げて生きることはしなかった。

それがいいかわるいか、もちろん良いに決まってる。彼は最期に笑っていたのだから。

けれど……クリスは彼方が亡くなった後「世界をぐるっとみてきます」と言う。一度、世界を一周してきて楽しいことがなかったからこそ、12年後の彼方に会いにきた彼女がまた「世界を一周してくる」と告げる。

私からするとそれは「絶望的」で救いのない行動のように思える。最愛の人を亡くして、楽しかった日々が失われてもなお、もう一度この世界で楽しい日々を見つけられるかと考えれば、それは……それは……。

けれど、これこそがクリスで、「こなたよりかなたまで」の生き方なのだろう。

"平凡で幸せな日々を無限に生きるように"

そして、今亡くなる寸前の彼方がクリスに世界を回ってきても楽しい事がなかったら、次は契約でもなんでもしてやる!頑張れ!って言うのは、
本当のその生き方そのものだよね。

彼と彼女の中では死という終わりを取っ払っている。終点がない。無限に生きるようにして生きている。

だから彼方はこのような事が言えるのだ。もう死んでしまうけれど、クリスに「未来の約束」を宣言するんだ。

 

  ◆

 

この『金色の桜』のEDがいちばん好きだったりする。あたたかい風、髪をなでていく空気がいい。そして叶うことのない約束をし、かつそれが「叶うことのない」なんて思わない二人がとても好き。

そういう生き方は素敵だとさえ。

何度も繰返してしまうほど言うくらいに、クリスの境遇は、私だったら絶対耐えられないけど、それを「耐える」とかそういう次元に踏み込んでいて、かつ超人だから「耐えて」いるわけじゃない彼女が愛らしい。

人の精神構造を有し、耐久力を有し、けれどそれでも無限の中で精一杯歩みを進めてくクリスが。

 

 

 

 

あるいは、こなたよりかなたまで

 

 クリス√を終えた後に、はじめからプレイすると冒頭シーンが変化する。

彼方が、過去に出会ったクリスとの思い出を追想しようとしていて、できない、でも断片的なものは感じられるというみたいなもの。

 

桜だ。きっとそれは、金色に咲き誇る桜だったのだ。

忘れかけた記憶。

それはとても大切で、僕と誰かにとって重大な出来事だったように思う。

しかしそれらは薄れ、形骸化したイメージしか残っていない。それでも、今になって時折僕の心に浮かんでくる。

眠りについた時現れる、そのイメージ。

金色。桜。そして頭に置かれた手。女性?

それが何であったか、誰であったか、そしてなにを交わしたのか。それは僕にはもう解らない。

でもきっと、とても大事な事だったように思う。でなければ、今になって何度も思い返す訳はない。

誰を忘れているのだろう?

何を忘れているのだろう?

あるいは、何を伝え損ねているのか? 何をし損ねているのか?

日々の生活の中では、ほとんど浮かんでこない不思議な記憶。それでも、夢の中、度々思い出されるその記憶。

そして、目覚める直前、僕はいつもその結論に辿り着く。

僕は、誰かを待っている。

きっとその人は、金色に咲き誇る、桜なのだ。

 

――彼方.『こなたよりかなたまで


彼方が「いつ」 上のようなことを思っているのか解らない。もしかしたら度々思っていたのかもしれない、そうして、こう明確に、「何かを忘れている」感覚というものを持つようになるのだろうか。


"僕は、誰かを待っている"

クリスが来るのを。

となれば、彼方にとって12年前の約束というのは、ちゃんと「待とう」と思ったのだな。ただその場限りの儚いものではなく、金髪の女性が世界を巡り周り、自分の元へ来ることを。

もしかしたらそれはある種の期待と言ってもいいんだろうか。

 

  ◆

 

クリスとのデート中倒れ、病院に担ぎ込まれる彼方。そこでクリスのエンゲージを断り、一緒にベッドに入り、夜を過ごすものの、ふと目が覚めたらクリスがいないという状況。

この時、Normal√ならばすぐさま屋上へ駆け出すのだけれど、このtrue√では「そのまま布団を被って寝た」という選択肢が現れることになる。

ここで一旦「考える」時間が生まれると、彼方は12年前の記憶を想い出すのだろうか? ほんのちょっとしたボタンの掛け違いというか、そういえばあとすこし弱かったり強かったりすれば違う結末もありえただろうと彼方は言っていたが、ここもそんな感じはする。

ちょっとしたことが、大きく結末を変えてしまうことがあるのだと。

 

ある。

ぼくにはある。彼女を捜しに行かなければならない理由がある。

悲しんでいるなら、慰める理由がある。戦っているなら、そばで見守るなり、共に戦うなりする理由がある。そして、謝らなければならない事がある。彼女は僕に会う為にやって来たのだから。

何より、

 

伝えたい言葉があるのだ。

 

 ――彼方,.『こなたよりかなたまで

 

12年前の約束。彼方がクリスにした「世界を周ってきても楽しいことがなかったなら結婚して二人で世界を見て回る」というものを思い出したのなら、クリスが何故この町へやってきたのかが導かれたのならば、あとは彼方がそれを紡いでいく番なのだ。

過去から今――此方を――大事にしている彼方ならば、その約束もまた大切なものなのだから。

 

「でも貴方はそれをゆるさなかったっ! なのに私には血を吸って生きろって言うんですか!?」

違う。そうじゃない。

確かにさっきまでの僕なら彼女に血を吸えと言ったかもしれない。しかし今言いたいのはそんな事じゃない。

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

 その「約束」を「此方側」に受け入れたならば、彼方の行動もまた以前と変わってくるのは道理か。

以前だったらここでクリスに「血を吸って(=暗に『吸血鬼』になって)」と言っていただろうが、今回はそうではない、もっと別の言葉を紡ぐことになる。あるいは別の行動すらも取るようになる。

 泣いている彼女に、全力で愛してくれている彼女に、彼方は微笑もうとする所は特にそんな場面だろう。

 

 僕は可能な限り優しく微笑もうとした。そんな顔をしようとしたことなんて今まで一度も無い。でも今は必要だ。今まで僕は必要に迫られて作る顔に価値は無いと思っていた。でもそれは違った。それは人と関わらない、独り善がりの人間の発想だった。今はそれが良く解る。

 

――彼方『こなたよりかなたまで

 
彼方的にはこの「笑顔を作る」という行為は、人と関わること、「誰かとなにかを共有し続けていく」発想からきているのだと思う。

つまり、彼方はこの段でクリステル=V=マリーと一緒に人生を歩んでいく覚悟が既に出来ていると見られる。

 

「世界をぐるっと見てきても、楽しい事無かったのか」

そんな彼女の瞳が徐々に感情を取り戻していく。彼女は目を大きく見開いた。

それは驚き。

「どうだ?」

戸惑い。

「うん」

当惑。

「そうか」

不安。

「じゃあ、しょうがない」


『僕』は決心した。

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 
で、最後のひと押しがこの質問だったのかなって。この質問にYESと答えるならばそりゃもうそうだなそうなるしかねーよなと。

 

多分この「約束」というのは、彼方に「無限に生きること」の抵抗感をあっさり解消させるものなのだと思う。前のお話では、無限に生きることの忌避感によって彼方はそれを拒絶し、「此方」と「無限」を繋げず別別のものとして見ていた。

けれど、12年前のあの約束は、すでに"そういう"取り決めを彼方自身がしていたのだ。クリスが世界を周っても楽しいことがなかったら、自分と結婚して二人で世界を見て回るというのは、いうなれば、無限に生きることの事後承諾みたいなことをやっていた―――それを思い出した。

このことが彼にとって――以前の√とは違い――エンゲージによる「無限の生」を自分の中で受け入れ、かつそれで自分を変える必要はないという考えに至っているのではないか。

いやもちろん、彼方的には「約束―結婚」が一番に来ていて、後は些細なことって感じなんだとは思うのだけれど、その些細な部分の感じ方はつまりそういうことではと思うわけで。

 

エンゲージ。僕が拒否したその力。確かに僕はエンゲージだけなら受け入れるつもりはなかった。

しかし僕は構わなかった。

「そのことは結婚してから考えよう。それはあくまで結果だよ」

僕は景気良く笑った。だけどクリスの表情は晴れない。

「でも、今の生活を捨てなければ」

「捨てない」

なおも言うクリスの言葉を遮る。彼女は再び目を開いた。

「『彼方』はそういう男だよ。忘れたか?」

本当は忘れていたのは僕だ。


大事な人たちに危険が迫るなら護ればいい。それだけの事だ。誰かの為になんていう独善は要らない。それが間違いだという事を今の僕は知っている。

無限に踏み込むからって自分を変えることなんてない。そのまま彼方で生きればいい。病気になったって普通に生きようとした僕だ。それが出来ない訳はない。九重さんと協力したっていい。彼方で居ればいいのだ。

そして何より『彼方』という男は約束を守るのだ。これだけは間違いない。そこに無限が潜もうとも構わない。僕はそういう奴だったはずだ。

どうして僕はこんな簡単な事を忘れていたのだろう?

 

そして気付く。

彼女は馬鹿だ。僕と同じくらいに。僕が佐倉に自分の病気を明かせなかった、それとまさに同じ理由で彼女は僕に結婚しに来たと言えなかった。

きっとそういう事だ。

結婚しに来た。たった一言そういえば僕は彼女に応えたのだろう。

だが言えなかった。

無限の生に、愛ゆえに付き合ってくれとは言えなかった。

だから僕の死を感じたとき、先に目前の死と無限の生とを選ばせようとした。あるいは僕が無限に生きるなら、共に歩めると思っていたのかもしれない。

そうなのだ。僕達二人は背中あわせのままに、何処までも不器用で馬鹿だったのだ。無限に生きられるから共に歩める。いつの間にか目的と手段が逆転してしまっていた。本当は共に歩むから無限を生きる。そうあるべきだったのだ。

「今の生活ぐらい二人で護りゃあいい」

後から後から笑いがこみ上げてくる。これを笑わずにいられようか? どうしてこうも僕達は馬鹿なのか。どうしてこうも独り善がりなのか。

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

 

 彼方が佐倉に病気を明かさない理由はいろいろと込み入っているが、簡単にいえば「彼方が佐倉に寄りかかる」ことが出来なかったからだ。甘えること、弱音をいうこと、本音を言ってしまうことを避けていた。

クリスも同じで、彼方に寄りかかろうと自身に掛けた暗示と解くものの、結局最後の最後で最後の一歩を踏み出せなかったのだ。寄りかかろうとできなかった。甘えること、本音を言えなかった。約束のこと、愛しているから結婚して欲しいと言えなかった。

だからこそ「在りたいように在れない」。二人とも。

彼方は佐倉に対して、クリスは彼方に対して、思うとおりに生きれない。思い描いた未来を紡げないし、欲しいものが手に入らなくなってしまう。

本音を見せていると思ったらその実二重構造になっているなんて――彼方が言うように――二人とも度がつくほどのバカなのだ。

  ◆

"共に歩むから無限を生きる" というのは無限のために生きるのではなく、「此方」に寄り添っていれば自然と無限へと到れる。

という意味なのかなと。

共に歩むってそういうことでしょ?

 

 

「ひとつだけ教えて。彼方がここへ来たのは、偶然?」

僕も一緒に微笑んだ。

後になってクリスが言うには、このとき僕の笑顔を見て惚れ直したんだそうだ。

『今まで見た事の無いような、それはそれは果てしない、春の風を思わせるような、そんな素敵な笑顔でした』

まあ、自分では顔なんてどうでもいい。

「運命だ、運命。それも、とびっきりの、な」

言って僕はそっぽを向いて、頭をかいた。

ちらりと見えたクリスの笑顔は本当にはちきれそうだった。

「きっとそう言ってくださると思ってました」

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

 Normal√では「春日差しを思わせるような笑顔」で、trueでは「春の風を思わせるような笑顔」。日差しと風か。日差しはあったかい、太陽、熱線、眩しい。風はそよぐ、連れってくれるもの、連れてくもの、移動するもの。

さしたる意味はないのかもしれない?

  ◆

因縁果を人は「運命」と呼ぶのだよね。だから、ここで彼方が「運命だよ」と答えるのは当然であり、またクリスからしたら嬉しいものなのだ。だってそれは「12年前の約束」を踏まえているという証なのだもの。

 

 そうしてクリスは復活し、敵と臨むことになる。このとき「誓いの文句」が描かれているのでそこだけ抜き出し。

 

"―――あなたは

―――数ある人々の中からめぐりあった相手をただひとりのパートナーと認め

―――敬い、慈しみ

―――富める時も、貧しき時も

―――健やかなる時も、病める時も

―――互いに助け合い

―――堅く貞操を守り

―――死が二人を別つその時まで

 

―――あるいは

―――こなたよりかなたまで

―――変わらぬ愛を誓いますか?

 

クリス「当然です」"

 

 

 なーるほどね。

そもそも「結婚」という概念が「こなたよりかなたまで」の概念を内包しているのだな。病める時も辛いときも幸せな時も、そんなどんな現在も受け入れて、変わらぬ愛を誓うというのはまさに「無限に生きる」のと相違ない。

 

 

「ひとりはさびしい?」

ぼくはおねぇさんにきいてみた。そうしたらおねぇさんは、こっくりとうなずいた。でもまだないてる。

「……じゃあ、ほんとにそうかぐるっと見てきてよ」

 

――こなたよりかなたまで(クリス√2 彼方と彼女の想い出)

 

ちっちゃい彼方まじかわいいな。

そしてクリスの圧倒的な孤独が感じられて辛い。……ふふふ、あれだな「一人」ではどこまでも行けないのだな……。一人で生きられるかもしれないけれど、それは生きていないと彼方なら言うであろう。

 

 

「いくか」

これが僕らの第一歩。何度も足踏みし、後ろに下がり、同じ所を行ったり来たりした日々から、ようやく踏み出した一歩だ。

「どこへ?」

ゴールは遠い。

「さあ。どこへ行きたい?」

それどころか、ゴールなんてないのかもしれない。

「‥‥何をするんですか?」

それでも僕達は行くだろう。

「みんなと一緒なら、何でもいいさ」

立ち止まるのはやめたのだから。

「‥‥他にも、あるのでしょう?」

「‥‥‥‥‥出会いを探しに」

それが何より大切な事なのだと、知っているから。

ここから、はるけき無限の果てまで。

「‥‥はい」

‥‥‥いや、ふさわしい表現は、

 

こなたより、かなたまで

 

 

――彼方,クリス.『こなたよりかなたまで

 

 彼方達が、結婚し、そしてそこから「出会いを探す旅」に出かけようとするのは、繰返してきた「人と共有」することの大事さを実感しているからだろう。

 

「今から過去」「受け入れる」「無限に生きる」「繋げる」「独り善がり」「誰かの為に」「約束」「結婚」「人と共有していくこと」「伝えられる」