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猫箱ただひとつ

物語追求blog。アニメ、マンガ、ギャルゲーを取り扱ってるよ

こなかな感想①(優、九重√)

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こなたよりかなたまで (Paradigm novels (216))

 

 

 

九重二十重の求めるもの・『ラストダンスを私に』

 

そういえば彼女の素性はどこまでいっても分からずじまいだった。クリスを餌にして敵対者をおびきよせて狩る。それはひいては彼方達のような住民の安全にも繋がるのだから、一応正義の味方的な組織に属していると考えていいんだろうか。

いやそれは安直すぎだろうか。二元論でくくれるものはないのだけれど、そう考えるととりあえずわかりやすくはなる。

 

 

彼方「……つらいならやめればいい」


二十重「私は殺さないとならないから」


九重さんは首を左右に振りながら答えた。


二十重「お前のような馬鹿な奴が、何も知らずにのほほんと暮らしけるように」


九重さんが訴えかけてくる。握りしめた手に力がこもっている。指先が白くなっていた。

怖れてくれ。でも怖れないでくれ。それが彼女の抱えるジレンマだった。

 

彼方「……それが、やだけどやらなきゃいけない君の理由なんだね」

彼女は人に恐れられる嫌悪される事で自分の心を守っているのだろう。嫌悪や恐怖といった罰を与えてもらわなければ、彼女は自分の行いを肯定する事が出来なかった。しかし本当に嫌われたい訳でもない。彼女もまた袋小路の中に立ち尽くしていたのだ。

――こなたよりかなたまで(九重√,保健室にて)

 

そして、そういった「大義を持って誰かを殺すこと」がひいては罰を求める意識に繋がってしまっている。おそらく九重二十重が学園に通った理由が、クリス的考えであるならば、彼女はちゃんと「人の心」を有している人間なのだ。もし機会的に、例え敵対者だとしても殺めることに躊躇いや否定がなければ、罰が欲しいなんて思わない。

ただ転校してきて、クラスメイト達からの質問に何も答えず、さも「すべてがどうでもいい」という雰囲気を出していたのは何だったのだろう。彼方が言うように、九重が本当に学園生活がどうでもいい、無関心の対象であるならば、そもそも学園に来ようとしたのは彼女の意志じゃない?

んー。

謎だ。

クリスの言からすると、今までの九重ようのな存在は入れ替わり立ち代わり彼女を追いかけていたらしい。けれど、九重のように「クリスより前」に学校に来ていた、転入してきたというケースはかなり稀とのこと。

だからこそクリスは九重を「今回は違うのではないか」「いつものような奴等ではないのではないか」と思うようになる。

しかし、九重が「学校に来た理由」はどこまでも明らかにならない。彼女の意志によるものでなかったならば、組織の体勢が変わってきた、上司が特殊である可能性がある。

そうなら九重が学校にきてなんら学園生活を謳歌しようとしなさそうな素振り、クラスメイトと親密な関係を作ろうとせず無視を決めたのも納得がいく。

となると、クリスの九重に対する判断(=今回は違うやつじゃないかの?)は間違いだったということになる。今までも、そして今もクリスを餌とみなし追いかけてきた連中と九重はたいして変わらないのだと思う。

実際、彼方を中心にした「ここの町から出る」のお話のときクリスはなんだか感心していたが、それは今までちゃんと話そうとしてこなかった、先入観があった、今までの連中も九重のように感情と倫理観を持ち合わせつつもクリスの前ではそういう姿勢を取らなかったのだとすれば、「九重の学校転入」について納得はいく。

もしかしたら、九重のような役職の人は、九重のような葛藤を持ち合わせていた人も、中にはいたんじゃないか。同じように悩み、苦しんでいた人が。

   ◆

私が殺人者であることを知って嫌悪してくれないと困る、けれど本当に嫌悪してほしいわけでもない。けれど嫌悪しくれなければ、心を保てない。けれどそういった状況がずっとよしとできるわけでもない。

……なんだこの矛盾感情は……。内攻する心(無限増殖)とは別で、一点の点の中においてすでに両義が成り立っているのか。ある感情をたちあげたら"同時"に反対側の感情が励起しはじめる。……これは心が潰れるタイプのやつだ。

一応、自己内の立場の違いによる感情ではいいのだけれど、その「距離」「軸上の長さ」があきらかに短すぎるのか。だからこう「一点において」という感情になるのか。

感情と感情の時間内の移動が限りなく0に近いからこそ、九重のジレンマは本当にジレンマなのか……。

    ◆

というより、本当に九重さんについて知っていることが少なすぎる。「クリスを餌にして狩る者」「組織的な末端の人員」くらいの背景しか知り得ない。過去にどんなことがあったのか、なぜこんなことをしているのか、組織の目的って具体的にどんな感じなのとか、そういうのは語られない。

だからほんとうに「今」この「瞬間」の、九重二十重だけを見ることになる。今だけを……か。

……そういえば、彼方の根本的な考え方って、「今と未来」「こなたとかなた」「ここと無限」というものなんだよね。「今だけ」に限定しない……なんていうんだろ、約束に……近い奴なのかな。ちょっと違う気もするけどすこしかすっている。

 

彼方はけっこう「この先大丈夫か?」と突きつけることが多い。といっても2,3回だけれど、大事な場面で、言っていいのか迷うような所で、彼方は躊躇せず切り込んでいく。

この「この先」を心配するところに引っかかる。というより気になるのだ。それはクリスの時(金色の桜)と九重のときもそう。

やはりそれは「かなた」「無限」とつらなる概念なのだろう。

 

 

「僕が一緒に踊れるのはここまでだけど‥‥」

ターン、そしてもう一度。そして彼女を引き寄せる。

「はい」

目の前に、涙に濡れた顔があった。

「この先大丈夫か?」

僕は涙をキスで拭うと笑いかけた。

「はい」

彼女はこっくりと頷いた。泣いてはいたけれど、決意にみちた表情であること解った。

「他人のダンスを潰して回るのは辛いだろうけど」

震える身体を押さえ込んで一生懸命踊る。もう少し、もう少しだ。身体に意識が行き渡りはじめたのがわかる。もうすぐ、いつものように動く事ができるだろう。

「自分の踊りまで止めちまうんじゃないぞ」

腕の震えが治まる。比較的容易に身体が動くようになる。

「‥‥はい」

彼女はこっくりと頷いた。

「きっとまた僕みたいな馬鹿が現れるから、気長に踊って待ってろ。その自慢のドレス姿でさ」

僕は彼女のドレス姿を見て微笑んだ。僕は彼女を文句なく美しいと思った。

ただただ二人で踊る。僕も音楽以外、周りの事は気にならなくなっていた。

「それに‥‥」

随分長く踊っていたように思う。実際、この曲が終われば最後の曲が始まる。

「君は間違ってなんかいない」

 僕は確信を持ってそう言った。

「‥‥何故?」

彼女は不思議そうに見上げる。彼女が常に考えつづけた、己の正当性。彼女は自分を正しいとは思っていなかった。

「僕がそう思うからだ」

理由なんかそれで十分だ。僕は彼女が正しいと信じている。他に何が必要だ?

「‥‥そうだな‥‥それなら安心だ」

九重さんは笑った。涙はもう止まっているようだった。

曲が止まる。僕と九重さんは動きを止めた。

次が最後の曲。彼女との普通の一日も、これで最後だ。

だけど、

「僕は幸せものだよ」

心底そう思っていた。僕は彼女が大好きだし、彼女もそうだと嬉しいと思う。

「私も、きっと、そう」

彼女は僕の手をとって自分の頬に当てた。僕は彼女の頬を撫でる。彼女は目を閉じた。

「そうだな。ずっとこうして二人で踊っていられればいいのに」

「‥‥‥大丈夫」

目を開き、にっこりと笑う。

「うん?」

その瞳は活力に満ち、とても力強かった。最初に会った頃の彼女とは比較にならないほど、強い意思の力、生きる意志が溢れているように見えた。そして何より、その姿からは何ひとる恐怖を感じなかった。

「一人になったら、私は彼方を想って踊るから」

そう言って、彼女は目を細めた。

「うん、なら、僕は最後に君を想い出す事にする」

僕も笑う。彼女は僕の言葉を聞くと小さく頷いた。そして、細めた目から再び一筋の涙。

「だからさ、」

最後の曲が始まった。その緩やかな前奏をが、心に染み込んでくる。

「もうちょっと目立っておこう? 皆がいつか僕達を、想い出してくれるように」

僕は彼女にもう一度手を差し伸べた。

二人でお互いの手を強く握りあう。

これで最後。

彼女と踊る最後のダンス。初めて彼女と出会ってからまだ一週間にもならない。ほんの短いダンスパーティーだった。

しかし、楽しかった。本当に。

「はい」

彼女は大きく首を振り、同意を示した。

僕達はフロアの中央へ向かって歩き出す。そこは強くスポットライトがあたり、一際輝いていた。

僕達は一度手を放し、その強い光の中で向かいあった。そして一礼。

普通の一日もこれで終わる。

‥‥いや、違う。はじまるのだ。何事にも変えられない、大切な時が。


僕達は頷き合うと互いに手を伸ばした。手が繋がる瞬間、彼女はそっと囁いた。

「‥‥‥‥‥」(愛してます)

それはとても小さな声。しかし僕はきちんと聞き取った。

「知ってる。僕もだ」

腕の中の少女の顔は、とても輝いて見えた。きっと僕も同じに違いない。

そして僕達は輝くスポットライトの中、静かに踊り始めたのだった。

 

――こなたよりかなたまで(九重√ラスト)

 

 

未来を見る。未来を思う。

あるいは果て無き終点、終点なき無限を見つめつづけることがすなわち「彼方」であろう。「彼方」という概念には、「終わり」がないはずなんだ。それはどこまでも伸び続ける永遠の線のようなもので、死がない。そしてこの「無限」こそが、死を意識しないことが、死という終わりではなく、死ぬのを備えるのではない生き方こそが、遥彼方が目指したもの。

 

 

 

 

優と彼方

 

優 「‥‥‥‥」

ちいさな声。

それは、彼女のちいさな声。

優「‥‥ないでください‥‥」

ささやくような声。でもそれは確かに、彼女の心の声

優「‥‥‥置いていかないでください‥‥‥」

孤独になろうとした少女の、真なる声。

優「私を、一人にしないでくださいっ!!」

 

――こなたよりかなたまで(優&いずみ√ 病室)

 

 

彼方「ねぇ、優ちゃん。僕はどうしたらいいんだろうな?」

 僕は彼女の頭を撫でながら、呟いた。

彼方「僕は、どう頑張ったって助からないんだって」

彼女の身体が震える。

彼方「僕はどうしたらいいと思う?」

優「‥‥‥‥」

ずっとずっと、考えていた言葉だ。初めて会った頃からずっと。

友達になれたなら、言ってあげようと思っていた言葉だ。


彼方「僕も、前の君のように、みんなに冷たくしてみようかな」


優「‥‥‥‥」


彼方「もちろん君にもだ」


しかしそんな事はありえない。

単に彼女に確認したかったというだけの事だ。優ちゃんは、ガタガタと震え始めた。その手が掻き毟るように僕を捕える。小さな身体は、あついくらいに火照っている。

そして彼女は顔を上げた。

必死な目と、

必死な表情と、

そして必死の想いをもって。

 
優「いや、いやです!!」


首を左右に激しく振る。


優「わたしをひとりにしないでっっ!!」


でもそれは無理なのだ。

僕の砂時計からは彼女のそれよりも早く砂がこぼれているのだから。


優「いや!! いや!! 生きてるうちだけでいいの!! 生きている間はっ!!」


僕は待っていた。

祈るように待った。

彼女が、

全ての答えを口に出すその時を。

優「それだけでいいからっ!! わたしを!! みんなを見てっ!! 微笑んでっ!!」


ならば答えを返そう。

それは、ずっとずっと考えていた言葉。

 

 

――こなたよりかなたまで(優&いずみ√ 病室にて)

 

 

優といずみちゃんの物語は、なんというか「此処」を見つめるもののような気がする。「生きているだけは!生きているうちは私をみてみんなをみて!微笑んで!」というのは、ちゃんと自分が置かれた状況を見つめて、行動している感じがとてもする。

終わりを見つめて、終わりに恐怖し、そうして「孤独」になろうとするのは違う。それは今までの日々を裏切るようなものだし、「終点を意識している」ことに他ならない。となるとこれも?……またこなたよりかなたまでということになるんだろうか。

 優ちゃんが、一時期誰とも意思疎通を図らず、孤独を体現していたのは、自分のせいで悲しむ人を作りたくなかったからだ。先に死んでしまう自分によって、誰かが悲しむことが嫌だった。だからコミュニケーションを徹底的に排除する。それは彼方が佐倉に一定の距離を持って接している理由と同じで、彼方が佐倉に死期を伝えないのと同じ。

「終わりを考えて今を変える」なんてのは、酷く間違っているのだけど、では彼方が「今までの日常」を送ろうとして病院への行き来を「不良になった」と偽装し学校の先生にまでそれを通そうとすることや、佐倉との今までの日常を継続しようとする事はどう違うのか?

それは彼方もまた「終わりを考えている」からこその行動なんだろう。逆説的に、「今までの日常を続けよう」とすること自体が「終わりを考えて」しまっているからこその行動だろう。

だから、彼方が佐倉に対する接し方はひどく間違っている。優ちゃんが孤独に徹したのと同じくらいに間違っているのだ。

要するに「此方」というのは、「今をちゃんと受け入れる」ことと同義のように思う。自分が今どんな状況なのか、どんな状態なのか、どういった環境に属しているのか。そういったことを見つめて受け入れる。

彼方は「癌」という病気についてはそれをこなしていたが、ただ佐倉という一点のみそこを貫けていなかったのか……。

死ぬことを受け入れていないからこそ、そうして誰かが悲しんだりすることを受け入れられなかったからこそ、一緒にいて欲しいと言った佐倉には自分がもうすぐ死ぬことを伝えられなかった。

今を受け入れながら、終点を無限にする。

それはひどく矛盾しているようにも思えるけれど、しかしおそらくそれこそがよい生き方なのではないか。

 

 

 

クリスのプライド、そしてお別れ

 

病院にいった帰り、クリスと彼方はさよならをする。

クリスにとって、彼方が優を選び、自分を選ばなかった、一番じゃなかったことがその決断の要因になった。

 

 

彼方「行くのかい?」

クリス「うむ。‥‥そうだ彼方。ひとつだけ教えてくれ」

顔だけこちらに向ける

クリス「‥‥‥あの二人との出会いはどうだったのだ?」

彼女は楽しそうに目を細めた。

僕は問われるままに優といずみちゃんの事を話していた。

目を閉じてじっくり思い出す。

出会い。

日々の生活。

ゆっくりとした交流。

そして、互いを必要とするまで。

そんな話を。

彼方「‥‥‥で、彼女がおじいさんと話をすると決めた日から、僕は彼女の事を『優』と呼ぶことになったんだ。他でもない、彼女自身の希望だったからね」

そこまで話して、僕は顔を上げ、目を開く。

だが、目を開けてもそこに期待した人物はいなかった。そこには寒々とした風に巻かれた、枯葉がくるくると回っているだけだった。

クリスは、いつの間にかいなくなっていた。


彼方「馬鹿野郎が‥‥‥って、女だよな」

僕は一人苦笑した。

彼方「まだ、話は終わっちゃいないんだぞ‥‥‥」

あまりに唐突過ぎる別れ。

不思議と悲しくはなかった。まだ現実味が無いからかもしれない。

僕はそのまま空を見上げる。

そこには雲ひとつない綺麗な星空があった。

同時に、脳裏にはある風景が浮かんでいた。それは、クリスに話して聞かせるはずの風景だった。

僕は聴くものも居ないのに、一人で話し始めた。

そばで、クリスが笑顔で聞いているかのように。

僕には確信があった。

この話を、話し終えたなら、

二度と会うことはないであろう友人を思って、

僕はきっとまた泣くのだろう。

 

――こなたよりかなたまで(優&いずみ√)

 

 

クリスが最後まで彼方の思い出話を聞かなかったのは、「聞きたくなかった」からなのかな。「聞かせて」といったのは、別れの言葉を交わさずに別れたかった故の嘘だったんだろうか。

そんなことクリスはするかな……と思いつつも、彼女がなぜここにきたのか、彼方の血を吸ったのかを考えれば、全然不思議じゃないかもしれない。一番になれなかった悔しさ、そしてこれからクリスはまた世界を見に行ってくるのかもしれないし……生きることを諦めてしまうかもしれない。

だってクリスにとって、12年後の彼方に再会することだけを想いながら世界をぐるっと回ってきたわけでしょ。だったら、こういう、冷たいお別れをしても仕方ないのかもしれない。

 

  ◆

 

……何故か、クリスはどんなに世界に楽しいことがなかったとしても生きることは諦めない気がする。何故だろう。解らない。だた私の中でそれは確信となって現れている。

なんというかクリスは最初っから「こなたからかなたまで」を体現している人間のような気がするからだ。今を見つめて、無限を生きる。孤立している、孤独だ、でも平凡で幸せな日々を無限に生きるように、生きていくのだとそう思ってしまう。

実際にそうであるかというより、そう「生きよう」とクリスはそうしているのではないかって。

 

 

 

『ゲームの達人』

 

彼方「もう、どうでもいいや」

 

予想外の事態、思わずつぶやく僕、そして頭を抱える。

たった一人が退院するというだけでこの騒ぎだ。

なんだか頭がくらくらしてくる。

 

いずみ「そんなこと言わない言わない!!」

 

彼女は僕に抱きつくと元気に笑った。

いずみちゃんのまぶしい笑顔が無性に憎らしかった。

でも、大好きだった。みんな、みんな、大好きだった。

 

‥‥五の七だ。不意にそう閃く。

じいちゃんの碁の宿題。ずっと考えていた宿題。

そう、大切な答えはすぐそばにあった。碁も、そして人も。

いずみちゃんの抱きついている所から伝わってくる温もり。ひとのぬくもりだ。それを感じながら、僕はきっと残りの日々を生きていく事だろう。そこに不安は無かった。

いずみちゃんが回りこんで、僕の頬をつく。

 

いずみ「ホラ、笑顔笑顔!!」

 

そう言った彼女の顔には言葉以上の笑顔があった。そう遠くない日に優もそうなるだろう。そして、きっと僕も。僕はやっと彼女の、いや、彼女達の浮かべる笑顔の意味が解り始めたような気がした。

だから僕は苦笑交じりにこう答えるのだろう。それは今までの僕に比べたら格段の進歩だった。

 

彼方「‥‥‥はぁ~~い 」

 

――こなたよりかなたまで(優&いずみ√・『ゲームの達人』)

 

 

そうか。彼方がなぜこんなにも「死期」について受け入れられていたかというと、いずみちゃんと、病院の人たち、優ちゃんとの触れ合いによってだったってことか。それが優&いずみちゃん√のお話だったってことか。

退院するときにここの看護師は盛大に見送ってくれる。それは「私たちの勝利」という発言から彼女達は、患者の退院を心から喜んでくれているに違いない。

そしていずみちゃんが患者に対して(少なくとも囲碁のおじいちゃんに対して)の死を涙し、彼がそこにいたことをいずみちゃんは覚えてくれている。そんな彼女の在り方に彼方はきっと救われたに違いない。

もし自分が死んだ時、悲しんでくれる人がいるというのは、ある種の救いなのだから。

そして、優ちゃんの存在は、彼方が自分が至る末路を肌感覚として見せつけてくれたし、その孤独の在り方を実感として見て取れることができた。そして優ちゃんを通すことで、死ぬと分かっていても「生きている間だけでも笑っていること」を強く痛感するのではないか。

此方を――今を――。

 

 

 

 思うとおりに生きるのは難しい

 

 

佐倉のことで、耕介に殴られてみることを許諾した彼方。その後クリスと二人の会話。

 

クリス「彼方」

 クリスは立ち止まってしまう。何事かと振り向く僕。

 夕陽を背にした彼女の表情は僕には見えなかった。

クリス「思う通りに生きるのは、本当に難しいな」

彼方「どうしたの? クリス」

 僕は首をかしげるばかりだ。赤い光が目に焼きつく。

クリス「いや、何でもない。行こう。日が暮れる」

 僕にはその時クリスが笑ったように感じた。それも、とても悲しそうに。

 

――こなたよりかなたまで(学校の屋上で耕介に殴れた後にて)

 

 

「思う通りに生きるのは本当に難しい」と彼方は序盤からいい、またクリスもそう繰り返す。それは単純に、自分が思い描いた未来がなかなか反映されないことへの気持ちだろう。

彼方の件でいえば、佐倉に自分の死期を報せぬまま今までの日常を送りたいけれど、身体がもう追いつかなくなってしまい隠し通せなくなっていっている事。そしてその距離の取り方が、佐倉を余計苦しめている。本当は佐倉を苦しめたくなくて死期を隠していたのに、そうすることで苦しめているジレンマ。

そういう逡巡である。

だから最初の序盤の「思う通りに生きるのは難しい」 という想いはこの「自分の願いが反映されないこと」を指しているのだけれど、ただその後に続く、「けれどそれは思い違いかもしれない」となるのはtrueでも語られているとおり「思うままに」のその「思うままに」が間違っているからなのだろう。

けれど、それが「間違い」だとは思えなくて、だってそうなるなら、規定の路線、誰でも楽にいける道しか選択できなくなってしまうではないか。だからこそ、思うままに、思うとおりに生きるのは難しい。

……とはいえ、今回の彼方の場合は、「幸福希求」の立場ならば、いや「こなたよりかなたまで」の立場ならば、思い違いをしていたってことになるんだとは思う。最善の道だと思っていたけど、ううん、そうじゃなかった、こっちだった。と。

だからそれは、一概にして「間違い」ではなく、ただ立場での「思い違い」だったんじゃないか。

 

 

 

 

孤立であって孤独でもあった

 

仲間がいた彼女。そして今はたった一人。

彼方「一人は、寂しいかい?」

言葉は自然に浮かんできた。

クリス「…………ああ。多くは望まぬ。ただ共に歩むのものが欲しい」

彼方「そっかぁ」

友達、家族、恋人。彼女にはそれが無い。クリスは恐ろしいほど孤独だった。

 

――こなたよりかなたまで(夕陽を受け止めるクリスのCG)

 

すこし前のクリスだったならば「寂しい」ことを肯定はしなかっただろう。そもそも自分の過去のお話を、自分がもう一人だということを、同胞がいないことを明言はしなかっただろう。

そしてこの後、クリスは自身への暗示を解き彼方に甘えてきたことから、この屋上での件もそれに含まれているのだろう。つまり、彼方あなと一緒に歩みたいと。

 

 

クリス「どちらかといえば、こっちが本当の私です。昨日までの私はわざと、と言うべきでしょうか」

彼方「え?」

クリス「私は自分にも暗示をかけることが出来るんです。だからああいう強い子になっていました」

彼方「どうして?」

なんでそんな事をしてるんだ? そんな訳の解らないことを。

クリス「……彼方、貴方がそれを尋ねるのですか?」


――こなたよりかなたまで

 

 

――あなたがそれを尋ねるのですか?

 

本当に。

本当にね。

彼方がそれを尋ねるのですかってなる。

 

ああ、だから、それくらいしなければいけない旅だったということになる。孤独を押し殺して、素の自分で歩み続けることが難しかったからこそ、素の自分を隠して、気丈に振る舞わなければいけなかった。

 

 北海道から南下していた"放火魔"というのは、九重さんが敵を倒すときに行う後処理のようなものだったのだろう。つまり、クリスが北から南下してきて、九重さんが追いかけてきていて、この土地に行き着いた。

となると、クリスは北海道より上、ロシアとかそこらへんか来たのだろうか。いや別にロシアではなくともよいのだけど。

……てかさ、世界をぐるっとまわってきて、彼方一心に目指してくるっていうのは良い……。良い。よさしかない。

 

 

 

 

無限に踏み込む勇気

 

クリスとデート中、宝石店で指輪を買った後に彼方は倒れてしまう。目が覚めたら病院で、クリスはエンゲージを求めた。

 

彼方「彼ら全てを失ってまで、僕には無限に踏み込む勇気はないんだ」


クリス「でもこのままでは死んでしまいます! 今すぐ死んでしまうよりいい!」


彼方「結局、ここに居る僕と、無限に生きる僕との違いはそこだけだよクリス」


クリス「え?」


彼方「無限を生きればここに居る『彼方』は死んでしまう。みんなと生きる『彼方』はなくなってしまう」

無限に踏み込めば、結果は一つ。

彼方「……今すぐ、彼らを失うよりはいい」

 

――こなたよりかなたまで(クリス√終盤)

 

 

最初のクリス√では、彼方は「此処」と「彼方」を違うものとして見ている。どちらか一方を選ばなきゃいけないし、片方を選んでしまえばもう片方を失ってしまうと思っている。

けれどtrue√(あれをtrueと呼ぶには躊躇いあるが便宜上もうこれでいいや)、では「此処」と「彼方」を結び合わせて、「平凡で幸せな日々を無限に生きるように。」と決意した。

だからこそ、きっと、これは "こなたよりかなたまで" で題されているのだ。今と果て無き未来をつなげ合わせることこそを彼らは選択したのだ。

 

そう選択できたのはひとえに思い違いをしていたから、というのもあるけど、勇気も必要だったのかもしれない。いやもっと大事なのは。

 

   ◆

 

 true√のみ、クリスのエンゲージを断ったあとに、彼方は「思うとおりに生きられないのではなかった」と言う。

そうじゃなくて、その思う通りにが間違いだったのだと、だから思う通りに生きられないのだと。

 

彼方「思うとおりに生きられない。そう思っていたんだ。でも違った。最初の思い方が間違っていたんだ」

苦笑する。クリスはそんな僕を黙って見上げていた。

『思うとおり』に間違いがあれば上手く行くわけがない。僕が太陽が西から昇るんだと思っていても、実際は東から昇ってくる。それは僕が思っている事が間違い だったから。こうやって生きるんだと思っていても、それが間違いなら思ったようにはならない。太陽は東からしか昇らないのだから。

僕は太陽が東から昇ると思うおベキだったのだ。どれだけ辛かろうと正直に包み隠さず人と接するべきだったのだ。人の為に、なんていう言い訳は必要なかったのだ。結局、思うとおりに生きられない原因は僕自身の中にあった。

 

――こなたよりかなたまで(クリスtrue√、病院のベッドにて)

 

 

そしてこの後に、一番最初にでてくる「在りたいように在るというのは」を、クリス√のここの部分で彼方は思うのだ。

それは本質的に↑の「思うとおりが間違いで、本当はもっと簡単なことだったんだ」という意味と違いはない。"本当に大事なことは、例外なく成り立つはずなのだ" それは彼方がジレンマに陥っている「今の彼方を選んで無限とクリスを捨てるか」「無限にクリスと歩み今の彼方を捨てるか」という問題そもそもが「問題じゃなかった」ということになる。

しかし、そういった理屈での答えを、心が拒絶し、心が出す答えを理屈で拒絶するこれは誰しも陥るし問題設定を間違えていることに気付くことは中々難しいということでもある。

そして、こころに折り合いをつけた彼方が到達した答えは「もっと違う人生」で「平凡で平和な日々を無限に生きるよう」なものになる。

 

 

在りたいように在る、ということはとても難しい。それは、生きることが難しいという事だと思う。僕は今になってそう思うようになった。

在りたいように在るには、他人を考えずに行動しなければならない。しかしおおよそ人間は他人の感情を無視して行動する事を良しとしない。だからこそ時に人は迷い、そして予期せぬ生き方を強いられる。それはどこまでも『自分』に付いてまわる、永遠のジレンマだ。

本当に自分のしたいように生きるためには、たった一人孤島で暮らすことが必要なのかもしれない。

でも、もしかすると、在りたい自分、というものをはきちがてているのかもしれない。時折、そう思うことがある。本当に大事な事は、例外なく成り立つはずなのだ。他人が居ようが居まいが、そんなこととは関係なく成り立つはずなのだ。

それでも僕は迷う。どうしても、人と時に迷う。迷いを断ち切ることが出来ない。頭で考えた事を、こころが拒絶する。その当たり前の現実に、押しつぶされそうになる。

砂時計が落ちきる前に、こころと折り合いを付けなければならない。そうでなければ、生きることにならない。諾々と、起きて、食べて、寝る、そんな生きるためだけの人生など願い下げだ。生きているうちから死んでいるようなものだ。

もっと、違う人生を。


それはきっと………。

 

平凡で幸せな日々を無限に生きるように。

 

――こなたよりかなたまで

 

九重・佐倉・クリス・優といずみ

 

九重さんは間違いなくこの「2つのジレンマ」を解消し「ひとつの解」を得た。他人のダンスを潰して回っても、自分のダンスを踊り続けることを彼女は決意したのだから。[ラストダンスを私に]

佐倉√は、悩みながら傷つきながら結果的に彼方のジレンマは解消された。佐倉は「彼方がもう少しでが死ぬこと」を知り、そして彼方は佐倉を舞踏会で拒絶した後の公園で自分がいかに間違っていたことを悟ったのだから。

優といずみちゃんは、どちからというと「此方」でのお話で、そこから先の「彼方」についてはあまり触れられていない。あれは遥彼方が「今」を見つめていった過去のお話がどうであったかのかが焦点だと思う。クリスがいなくなった後彼方はきっと、優といずみちゃんと病院の人たち、桜と耕介との日々を生きながら、死んでいくだろう。もしかしたら佐倉に死期を言えずそのままになるかもしれない。ひどい過ちを犯してしまうかもしれない。それはわからない。

 

 

 

 

 

 

人は「共有」することにあり

 

クリスが自分に対する暗示を解き、赤い服をまとい、一緒にデートしたその日の夜。彼方はふと思うのだ。

 

僕にとっての最後のクリスマス。一人で過ごすものだと思っていたが、どうやらそうはならないようだ。おかしな巡り合わせでクリスがそばにいてくれる。それは純粋に喜ばしい事だった。

誰でもいいとは思わない。だけど、クリスだから、という事でもない。親しい人がいて、その人が時間を共有してくれる。それこそが重要なのだと思う。人はそうやって生きていく。

違うか。

それこそが生きるということなのだ。そう思うべきだろう。

 

 人は一人では生きられない、という言葉がある。

 だがそれは半分間違いだ。個として生きるだけなら、一人でも十分生きていけるのだから。自分の思う通りに自己を表わし、それでもって全ての世界を総括する。充分一人でやっていける事だ。

しかし人間という種族としてならば、もちろん正しい。人間という種族は一人で生きるようには出来ていない。一人では未来に繋げる事ができない。ここにいる自分を、自分よりも先へ行く何者かに、伝える事ができない。言ってみれば人間は子供を育て上げる事や他人と触れ合う事、つまり時間を共有する事に意義がある。子供を産み、増えることが重要なのではない。増える事が重要なら、生まれた子供は自力で立ち上がり生きていくだろう。人間以外の多くの生き物がそうで あるように。

結局人の人たる所以は共有する事で備わるのだ。

 

――こなたよりかなたまで(クリス√)

 

 

彼方が言っているのは

誰かと「時間」を共有することでしか、ここにいる自分を、未来へ、無限へ繋げていくことは出来ない。

ということなのだろう。

だからはるけき無限のように生きるというのは、「誰かと一緒に時間を共有すること」それこそが前提だということになる。

多分、「こなたよりかなたまで」の生き方っていうのは結構前提条件がある。「今を受け入れる」「終点を取り払う」「誰かと一緒に時間を共有する」、この3つがあってはじめてこの生き方ができるのではないか。

 

もし誰かと一緒に時間を共有しないまま生きるとなったら……それは彼方を得られない√の、クリスと一緒になるのか。"だけど!だけど!だけど!"

いくら現状を理解し受け入れ、終点を取り払い無限に踏み込んでも、一人じゃダメなのだ。共に歩むものがいなければ、ひたすらに孤独だ。楽しくなんかないよ……。

クリスが屋上で、「多くは望まぬ。共に歩むものがいれば」と言ったのもきっとそういうことなのだろう。上の3つどれか欠けても、満足のある人生は送れないのだとしたら。やはり。

 

 

 

お互いに相手を強いと思っている

 

彼方「僕は、君のように強くはないんだ。ごめん……一緒には、行ってやれない」

クリス「私だって、そんなに強くありません! だから一緒にきて欲しかったのに!!」


彼方「ここにある全てと引き換えに、君と命だけを選ぶ勇気が、僕には、ないんだ」

クリス「だって! だって!」

 

――こなたよりかなたまで(クリス√病院のベッドにて)

 

彼方はクリスのことを強いと思っていて、クリスもまた彼方のことを(この後)強いと思っている。お互いがお互いを強いと思っていることは、それは時として、こういったすれ違いを生むんだろう……。

それは違う言い方をすれば相手を信じるていることに他ならないけれど、しかしそれが実相と食い違っていれば不幸の種にもなる。

 

 

 (1つ目の感想、終わり)