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沖倉駆に内在する2つの人影(7話)
駆A「今までだって、好きな女の子いただろ」
駆「不思議な感触、以上の感じがしなくて。我ながら驚いた」
駆B「あんな天然の娘が好きだったなんて驚きだよ」
駆「悪く言うなよ」
駆A「悪くないよ」
……
駆B「俺達がいらなくなるといいよな」
駆「俺、お前たちのこと嫌いじゃない」
――(便宜的に「A」「B」と複数の駆を記号づけしたが、実際に違いがある確固とした人格かどうかは分からない)沖倉駆・グラスリップ7話
山の中・家の庭でたびたび沖倉駆は「3人」になり、彼らと会話しはじめる。ただし駆の父親がその状態を見ても「駆1人」だと認識していなかったように、いわばこれは沖倉駆の内的世界の住人だろう。
複数の人格かどうかは分からないが、「駆は複数の自分と対話することができる」と見ていいはず。
またこの複数の駆に酷似した2人は、姿形は一緒かもしれないが何かしら役割や個性などの違いがあるのかもしれない。あるいは自分の問いかけに「応答」してくれるだけでいいのかもしれない。
もしそうならば、やはり彼らは「対話しうる為の存在」なのかなって思う。駆Bが「俺たちのこといらなくなるといいな」という言葉の意味するところは、沖倉駆にはそういった自分の胸の裡を話す相手が今までいなかったことを示しているんじゃないのかな?
深見透子が見る幻覚(8話)
・7話。透子は海辺・やなぎの後ろ姿から「カラスが襲い掛かってくる」幻覚をみる。
・8話。八咫烏工房にて、店外から店内を覗こうとした透子は目の前にある「窓ガラスが粉砕し自分に飛び散る」幻覚をみる・
・同じく8話。美術準備室にいるところいきなり「外が雪景色」になる。準備室からでて校門に出たところでも再び同じ幻覚を見る
ここから意味するところは未来が見えるという能力が、違うものになてきている可能性。元は未来を見ていたが、何らかのキッカケで変質してしまったという見方。
もしくはそもそも「未来の欠片」は未来を映すものではなかったその前提を誤っていた。この2つのどちらかだろう。
永宮幸と深見透子と白崎の三人でみる月(9話)
幸「今日の月の陰がうっすらと見えるでしょう。地球照というの。太陽の光を地球が反射してああなっているんだよ」
祐「え、幸っちゃん、その今日は月を見に来たってこと?」
幸「うん」
透子「月?!」
幸「この季節この時間の麒麟館の展望台、同じ場所でも季節と時間で全然違う場所になるの」
幸「ここに、私の特別な場所に。透子ちゃんと、そしてヒロ君と来られて本当によかった」
――グラスリップ(9話)
幸が2人をここに連れてきたのは、「明日のために」なのかな。それが意味するものは定かじゃないが、決心や、区切り、希望といったニュアンスが感じられる。明日のために、したいことが3人で一緒にみる月風景。
思うんだけど、ヒロと透子、どちらか片方ではなく、二人ともここに呼び出したってことは、幸にとって二人は特別な場所によぶに値する特別な人間だってことだよね。
そして最後の幸のロマンチックな告白は、透子とヒロ二人に向けられたものかな? 透子一人だけだったとは考えづらいのだけど……。うーん。
それと事前にヒロに夏目漱石の夢十夜を読んでくるようメールを飛ばしたのは、この場所で「月が綺麗だね」の意味を共有したかったから。きっとその言葉の背景を知らなかったら、ぽかーんとするだろうし、字面のまましか汲んでくれなくなる。
きっと幸ちゃんからすると、そういうのは嫌だったんじゃないかなと思う。「月が綺麗だね」とこの言葉から通ずる私の気持ちを知ってほしいという現れが「ヒロに本を推薦する」という行為だったのかなと。
透子「サっちゃん、ここに連れてきてくれて有難う!」
祐「あの、俺にはよく…」
透子「だって、月綺麗だよ!」
(中略)
透子「ロマンチストだったんだね夏目さん」
透子「…ほんと、月綺麗」
幸「そしてそれは、私の台詞」
透子「え」
――グラスリップ9話
この「告白のタイミング」を一拍ずらして、張り詰めた雰囲気が弛緩したときにさらりと告白してくる。これは言い知れぬロマンチックな雰囲気がある。
*追記。そういえば透子さん、幸さんの返事にはちゃんと返答していなかったんだなーと振り返って思う。彼女の告白は友情の好きなのか、それとも恋愛の好きなのかはっきりしないところも絡んでいるとは思うんだけど。
今までの幸さんからするとその好きは「恋愛」だとは思うけれど、それがちゃんと彼女(透子)にあの告白で伝わっていたかと思うと難しかった気がする。
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