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玉樹桜―Graduation―感想_後編(37254文字)

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ほぼ自分のために書いた「はつゆきさくら」の記事です。本作品を振り返りながら、私がどう見てどう思ったか書き綴っています。それでもよければどうぞです。

 

 玉樹桜・小坂井綾~Graduation~までの感想。

 

 

 

 ランの懊悩と痛みの循環方法

 

「あ、あ、あぁ……あ、ぅ、ぐぅ……っ。ああああああっ」
―――ラン

  

「憎いかい」

偉いおじさんだ。あの夜も、パーティーを主催していた。

「君の姿をそんな風にしてしまった人間が、憎いかい」

「そんな……私は……」

「私は……」

憎むことに、罪悪を感じることはない

「そんなことまで、自分を責めてしまったら、それこそ君には……我々に救いがない」 

「君には憎む権利がある」

「憎むことによってしか救われないと思いというのはあるよ」

憎むことによってしか、救われない。 
「あ、あ……」
「ああああああああああ」
「憎い、です」

「私を、こんな風にした人たちが。未来を、奪っていった人達が」

「いっそ、殺してくれなかった運命が! 憎いっ。憎いです!」 

「ならば憎みなさい。誰に遠慮することもない。君には、その資格があるのだから」

「しかし憎むだけでは、自らを毒するだけだ。それを、しかるべき相手に、しっかりと受け止めてもらわなければならない」 

「そうやって、世の中の痛みは正しく循環していくべきなんだ」

 

「さもなければ、報われない魂が生まれ……それはやがて、とても悲しいゴーストに成長してしまうから」 

―――ラン、大野

 

大野の一言でランはどれだけ救われたんだろうと思う。今現在の倫理観は「憎むことは悪いこと」という価値観があると私は感じる。

憎み辛み恨みそういった負の感情は持つ"べき"ではない、それよりも慈しみや優しい心を持ちなさいとそういった価値観が刷り込まれている。

たしかに一理ある。負より正の感情を持ったほうがいいだろう。諍いは起きないし血だって流れない。


けれども―――理性ではどうにもならない感情は存在する。憎みたくて憎みたくて仕方がないとき。心から溢れ出る怨嗟の情念をどこかに吐き出したいと思ったとき、そんなときにも「その感情はいけないよ」なんて言われたところで、どうにもならないんだよ。

そしてその価値観を自分自身で育み、無意識下に組み込んでいたらもっと最悪だ。自分自身の心の葛藤がふかまり、より気持ちがぐちゃぐちゃになってしまう。

+++

ランのの負の情念を肯定してあげた大野という男は、ランの気持ちを救ったと言ってもいい。

泣きたいときには泣いていい。
笑いた時には笑えばいい。
憎みたいときには憎んでいいんだ。

そう思えることはとっても大事なこと。それだけで自分を許せるものだから。

 

自分の気持ちを許し、それを循環させてもいいんだと分かった時、ランはどれだけ救われたんだろう。顔が火傷でぐちゃぐちゃになりながらも生きなければいけない苦しみと、いっそのこと殺してくれなかった運命に対しどれだけ救済されたのか計り知ることができないんじゃないだろうか。

 

 

 

 

息子を託す大野。許諾するラン

 

「俺の息子を託したい」 

「奴はいつか、ゴーストの王になり、君の皆の憎しみを受け止め、そして報いてくれる時がくるだろう」

「でもね。あの子だけでは無理だ。もう一人、必要なのだ。あの世にもこの世にも通じ、奴を導いていく存在が必要だ」

「それを、君に頼みたい」 

―――大野

 
ランが目を覚ましてすぐのこと、大野はランに相談を持ちかける。自分の息子を君に託したいと。

ランがパーティーの事件に巻き込まれたあとどれくらいの日数をもって目を覚ましたのかは分からない。でも大野は自分が「復讐を果たせない」ことを気づいていたことが分かる。

自身が復讐できないからこそ、息子を復讐者として育てることを決断したのだから。ランに初雪を任せたのだから。

 

  

 

 

狂い続けない。狂気を肯定すること

 

「反魂香によって、君は、生きながらにして、ゴーストになる」 
「この病院でひっそりと隠者のように暮らしながら、君の心はあのホテルで、少年と暮らしていくんだ」

狂い続けなさい。この部屋で反魂香の匂いに包まれて、過去の自分を蘇らせ続けなさい」 

―――大野

 狂うこと、狂気に触れながら生きることを肯定してくれるのっていいなって思う。狂った考え、狂った気付きはいつだって非難の対象である。なぜならそれは大多数の人間には理解できないから。

よく分からないものを、理解なんかしたくないから「狂う」という言葉で蓋をしてしまうそんな気がする。

 

 

 大野は復讐を望んでいる?

 

 「そして君が、彼のそばに寄り添ってくれたなら」

「互いに、失ったものを補い合いながら……。頼む。奴を、最後の冬へと導いてくれ」 
「そうして、復讐を……頼む」

 ―――大野

 
大野敦という男は「復讐だけ」を望んでいるように思っていた。今でもそう思っている。

けれども本当にその認識でいいのかな?なんて考えてしまう。大野が復讐を果たしたかったのは本当だろう。でも他にもいろいろな希望があったんじゃないだろうか?

ランにあてた言葉にそのような気持ちを感じてしまう。


ランが初雪に寄り添って欲しいと。そして互いに失ってしまったものを補える関係になってくれたらなと。その気持ちは「心配」する気持ちなんじゃないだろうか。

自分の息子のこと、ランという少女のことを案じている言葉に聞こえる。

 

復讐を望んでいることは確かだけれど。それだけじゃないのかもしれない。

 

 

 

明るい世界で生きられないことを知ったとき、どうすればいい

 

「私は、もう……明るい場所では生きられない」

「だったら……私は影として生きていく」

「自分の復讐のために。あたなたちの復讐のために……。そして、初雪が寂しくないように。このホテルで生きていく」 

「この反魂香で、生きながらにしてゴーストになって、あの子と……」

―――ラン

 
ランの今までの生活がどういったものなのかは分からない。ただ明るい世界には生きられるほどの、人間だったということは分かる。

けれどもパーティーの事件を境に、いきなり「明るい場所では生きていけませんっよ」と言われたらどんな気持ちになるのだろうか……。

今まで当たり前にあった当たり前に大事なものが、夜のうちに失わてしまったと理解してしまったとき……。

それは私でいうところの手・足がいきなり全部無くなってしまうものと同じなんじゃないか? 当たり前にあったことが出来なくなり、人の世では生きにくくなってしまう。欠損という肉体的機能の低下にくわえ、普通ではないものとしてそういう視線に耐えなくてはならない。

ランが見ている世界は、いったいどういうものなんだろう。

暗い自室に肉体だけを預け、暗い廃ホテルの中で生きつづけることってどんな感じなんだろうね。

 
生きながらのゴースト。それは小坂井綾と通ずる部分があるなと思った。

 

(時々、考える)

(私は、初雪のことを騙しているんだ)

(復讐のために……)

 

でも初雪は……ゴーストチャイルド。

あの事故で亡くなった皆の復讐のために生まれ変わった、復讐の子。

もし、人になりたいなら。初雪は、やり通すしかないんだ。復讐を……
「……」


私も初雪も一緒なんだ。だから……

―――ラン

 

 復讐のために生まれ変わった……ではなく、変わらさせられたというのが実際のとこじゃないか?

大野の意志によって、ランの行動によって、初雪は復讐者に成り果ててしまったんだよ。なぜ初雪が「さもそうで復讐の子であった」それは「自然なこと」のようにランは言えるんだ?

 

初雪を人でなくしたのも、ラン自身なのに。なぜ「人になりたいなら。初雪は、やり通すしかないんだ」なんて言葉がでるんだよ?! 

 

私も初雪も一緒なんだ。だから……


狂気……狂気か。そうかこれが狂気なのか。ランは初雪に復讐者として育てているというそういう考えはないのかも。

ランの気持ちを、初雪に自己投影しているように見える。つまりランは自分が復讐したいと思っているんだから初雪もそうだよね?と。

……。

 …………。

「大丈夫だよ……初雪」

「がんばろう、ね」

「え?」

「私が一緒にいるからね。立派になろう」

「がんばれば……あなたは、明るい場所にたどりつけるんだから」
「ラン……」

「それまで私が、応援してあげるからね」

 

―――ラン、初雪

 

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そのあとのランのこの言葉。

ランは復讐の果てに、明るい場所にたどり着けるという。……なのかなあ?

ランがいう「立派」「がんばろう」「卒業」って、なんか復讐を目指していっているようには聞こえないよなあ……。本当の意味での「明るい場所」に行ってほしいとも初雪に思っているんじゃないか?……。

 

 

 

 

 

 

サクヤの情けある行動と、宮棟の指摘

 

「サクヤ。名前の通り、あの子のやろうとすることは、いつもおとぎ話なんですよ」

―――宮棟

 

サクヤは甘いのだろう。初雪を殺さず初雪を生かす方法を選んでいるのだから。それを宮棟はお伽話だよと告げる。

 

 

「自分の置かれた状況と向かい合い、呪いから、解放されるチャンスだってあった」 

「あなたが選んだんだ。死者になることを」

 「ならば、あるべき場所に帰りなさい」 

―――宮棟

 
そうだね。その通り。

初雪は復讐をやめる機会がいくつもあったし、生者として歩むことも出来たんだ。でも足りない。まだ何かが足りない。初雪一人だけじゃ、復讐の道を変えさせることはとても難しい。

 

 

 

 

 

佐々木恭吾の思惑と出現について

 

「残念だ。実に残念だ」

……こんなことはしたくなかったから、私は……ギリギリまで見守ることに決めた」

「しかしもう終わりだね。ここからは私とて止めることは出来ない」
「彼らは心なく、君を討つだろう。淡々とボタンでも押すように君に取り付いたゴーストたちを討つだろう」
「だから……せめて、君を見守ろうと思って、私は来たよ」

 

―――佐々木(老人)

 

佐々木のジジイの言葉を聞いていると繋がってくるものがある。

2年前廃ホテルにサクヤを送らせたのも、そこでゴーストチャイルドの討滅を命じたのも、内田川邊に反魂香をばら撒いたのも、宮棟たちを廃ホテルへと差し向けたのも、きっとこいつなんだろう。

宮棟達は佐々木にのジジイに雇われているだけ、そんな関係図のように見える。

 

この言葉が如実にそれを語っている。雇われ関係かは分からないが少なくとも上下関係はあると。

全員、ホテルから退避だ―――

佐々木様も、はやく
―――宮棟

 


―――こんなことはしたくなかった

その言葉はどこまで信じられるものなんだろう。

 

 

 

 

 

 

綾最終エンド。ゆきちをゆきちとして見るっていうこと

 「あれは、いくつもの復讐の妄念にとりつかれた、化物だ。ゴーストの王ですよ」

 

「それがなに。ゆきちはゆきちだ」 

―――綾、宮棟

 
初雪のことを宮棟は化け物だという。でも綾はゆきちだという。

河野初雪という実像をちゃんと見ているのはどちらなのだろう。初雪をゴーストという現象として災害として一括りにしている宮棟には、初雪の心を介せない。
 

「君たちだって、いったい、なんでこんな真似をしている。誰がゴーストにつかれてようが、ほっとけばいいんだよ」 

「人のことをゴーストゴーストと言うけど、君らこそ、一体、人の気持ちがちゃんと見えているのかい」
―――綾 

 
人は容易にゴーストになる。怨嗟や憤怒によって。それは自然なことだし誰にだってそうなってしまう可能性がある。

ゴーストという狂気を孕んだ精神をばっさりと否定してしまうのはどうなんだろう。それは結局のところ「人」というものを見ていないんじゃないか。人の気持ちを蔑ろにしている見方なんじゃないか?

 

「なぜだ。なぜ、正気にかえらない」

「私は、もう失いはしない」

彼への気持ちを

「いくら私を刺したところで、私の気持ちは消えはしない」

―――綾、宮棟

 

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愛は狂気である。憎しみも怨恨も怒りも悲しみも狂気なんじゃないか。だとしたら「正気」という言葉にあまり意味はないのかもしれない。だってみんなどこかでそういった狂った気持ちを感じているのだから。

綾は言う。彼への気持ちを失いはしないと。
宮棟は言う。なぜお前は正気にかえらないのかと。


綾をいくらパニッシュメントしようとが、狂気の感情を消せないんだとしたら、そうかそれはもうゴーストなのか。

 

 

「だとしたら」

「だとしたら、もはや、あなた自身がゴーストになってしまったということだ」 

「河野初雪のように、存在そのものが、ゴーストになってしまったんだ」

「哀れな。あなたが救われるには、もう、死ぬ以外にない」

―――宮棟


宮棟達は、ゴーストを討つことでしか救われないという。お前たちは死ぬことでしか救済できないという。

でもほんとうにそうなのか? 


宮棟の言動はあまりにも短絡的すぎで大事なものを見落としているんじゃないか。「ゴースト」は「悪い」ものだと決めつけすぎなんじゃないか? 

 

「は―――」

 

死ねば救われるか!? 人の苦悩も、愛も、そんなに簡単なものだというのなら!」 

やってみろよっ」 

―――綾

 

カスガに何度もバニッシュされ続ける綾。討っても討っても彼女は正気を取り戻さない。

ああ、そうだよ。これは愛(狂気)を貫いた女の子の物語なんだ。

 

 

 

「この痛みが、血が……私の気持ちだから。見てよ、ゆきち」 

 

「好きなんだ。この冬に、気付き始めた頃は、なんとなくうずくだけの感情だったけど」
「今はもう、止められないほど……あふれるほどに好きなんだ」
「忘れていた分だけ、好きなんだ。君のことが」

 

「俺も求め続ければ良かったのに」

「あんたが俺を忘れ、俺もいつしか……あんたを吹っ切って」 

「そうして俺達は、あの冬に、帰れなくなってしまった」

―――初雪

 
「俺も求め続ければ良かったのに」と言葉を漏らす初雪。「求め続ければ良かったのかな」という疑問でないところが重要な気がする。


「俺も求め続ければ良かったのに」ていうのは、「なんで俺しなかったんだろうなあ……」と過去を振り返ったときにおきる懐かしさ気持ちを抱くような言い方だよね。

つまり、初雪は至ったんだろう。ゴールに。

だからこそ過去を振り返ることができる。この地点に到着したからこそ、曖昧だった過去の景色が鮮明なものとして映る。


ゴールに辿り着いて、その時に眺める過去の風景。振り返ってこそ分かるものがある。曇っていたものが、曖昧だったものが、明晰なものとして理解できるようになるのかもしれない。

そしてそれは、悔やむことではない。後悔することでも反省することでもない

 

―――俺も求め続ければ良かったのに。


初雪は綾の「好き」を聞いて、そう呟く。これは過去に自分がそういう行動を悔いているから出てきた言葉じゃないと思うんだ。

ただ過去を眺めてでた率直な言葉みたいな感じだと私は思うのです。


ああこんなこともあったなとか、あのときこうしていろよははみたいな感じで。

 

 

 

 ありがとうとごめんねを繰り返していく

 

「あの時君が言ってくれた言葉が、暖かく私の中に満ちているんだ」

「空っぽじゃないって……」 

「ありがとう」
―――綾

 

 「ねぇゆきち。後で、おさげ、ゆってくれるかい」
「ゆっくりでいいから」
「……おさげ、ゆって」
「……いつだっけ。君にゆっくりとゆってもらったことがあったよね」
「とても、幸せだった」

「うん……」

「……うん」

「……」

もう、目を開けることはない。

「……」

「綾」
「ごめんな」

―――初雪、綾

 

 なんで……綾とのENDは死んでしまい、後に観念側でしか想いを昇華できなかったんだろう。

桜、シロクマ、あずま、希との違いはどこにあったんだろう。なんで彼女とだけ現実側で春に至れないんだろう。恋人として一緒に桜並木を歩くことが出来なかったんだろう……。


綾と初雪は一年前に惹かれ合い交際をし、最後には別れてしまった。正確には綾が「初雪とすごした冬」を忘却してしまい、恋人との関係が自然消滅してしまっただろうか。

そうか……綾とそれいがいの女の子の違う部分が分かった。
小坂井綾"だけ"、初雪をゴーストチャイルドとして肯定してくれているんだ。

桜もシロクマもあずまも希も結局この4人は、河野初雪が「ゴースト」であることを認められたなかった。肯定できなかった女の子たちなんだ。(すくなくともGraduation編では)

彼女たちはゴーストである初雪を認められないからこそ、「ゴーストではなくす」方法を取り続ける。桜は初雪と触れ合うことで、あずまと希は彼の体に救う百のゴーストを滅ぼさんとサクヤに協力した。

シロクマはGraduation編では初雪とか強く関わっていなかったけれど、シロクマ編ではゴーストではない桜の精としての初雪を望んだ。

 

小坂井綾だけ、ゴーストである河野初雪を受け入れた。彼の行く道が破滅だろうとも応援することを選びとった。

 

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この差が、綾と他4人の女の子の最後を分かつターニングポイントなんじゃないだろうか。


綾が選びとったのは、狂気の愛情。
世間から周りから宮棟からみんなから「おかしい」「間違っている」「哀れ」だと言われようとも構いやしない。

綾にとってはとても大事な気持ちなんだから。初雪を「好きだ」っていう気持ちを持ち続けることが。

そりゃそうだよ……ね……。好きな人を好きだと思う気持ちが倫理に抵触しようとも、簡単になんて捨てられるわけがないよ。

それを貫き通したいっておもうのは分かるよ。

 「死ねば救われるか!? 人の苦悩も、愛も、そんなに簡単なものだというのなら!」 

 
一年前の冬、初雪が綾にそう言った。
一年後の冬、綾は宮棟にそう怒鳴りつけた。

そうか……これも純度の高い愛なのかもしれない……。狂気的な愛。そんな人の情念

 

 

 

 

 

 ランにお別れ

 

着物姿の少女が、寂しそうにこちらを見つめていた。

 

「お前が望んだように立派にはなれなかったけど……」

「俺なりに、走り抜けてみた」

「間違っていたか、正しかったかなんて分からない」

「でもとにかく……俺なりにやりきった」

 

ごめんな。卒業、できなくて

 

……少女はそっと首を振ったように見えた。

そうして、闇の向こうへと去っていく。

 

―――初雪

 

なんかなあ……なんだかなあ……。

ランはどうなんだろう。初雪が復讐を果たそうとしているのを見て、嬉しかったんだろうか。楽しかったんだろうか。何かが報われた気がしていたんだろうか。

結局のところ、綾は死に、佐々木のじじいは生き、宮棟達は爆発に巻き込まれ、初雪は死ぬ。

ランはこのあとどうするんだろう?……。
佐々木はおそらくまだ生きているが、復讐を果たしてくれる者はもういない。自分で復讐するという選択肢もあるが……。ランは今でもなお佐々木を強く恨んでいるんだろうか。

あのパーティーの爆発を起こした首謀者を、憎んでいるんだろうか……。

 

ランの行動と言葉は最初から最後まで引っかかりばかりを覚える。


初雪を復讐者に育てあげながらも、立派になって、卒業しようよ、大切な人を守ってあげてねなんて言うのだ。復讐を望んでいるのか、初雪の未来を望んでいるのかよく分からなくなてしまう。

おそらくランはどっちとも望んでいるんだとは思うけれど。……でもどっちもは叶わないよな……ってさ。

 

 

 

 

バイバイ

  

「それじゃあ皆」

「おさらばだ」

  ―――

「ここで焼け朽ちるか」
「俺は寂しくない」
「辛くもない」

「……」

「綾を巻き込んでしまったのが……後悔と言えば後悔か」
「せめて、俺の魂を、こいつに捧げよう」
「こうして、身を焼こうとする炎よりも、あんたのぬくもりが、勝っている」

「綾……」

「……」

「同じ場所へ行こう」

「2人で」 

―――初雪

 
「Prologue」とは違い、初雪はとても満足そうだった。少しくらいの不満や未練はあるかもしれないけれど、さっぱりしたような印象を抱かせる。

憎しみや怒りといった負の感情を滲ませないまま、これの終わり方でいいよこれを肯定できるよとそんなふうに。


ゴーストパレードのその日。死者と生者の世界が交わる日。綾と初雪は旅立ったのかな? なんて思ってしまう。「同じ場所へ2人で行こう」とは具体的にどこを指しているのだろう。 

 

桜が舞っている。

「……」

なんで今日はこんなに、花は満開に、日差しは明るく……どいつもこいつも笑顔で、何かを祝福するように、華やいでいるんだ。

あぁ、そうか。
今日は卒業式だっけ。
……
校門のすぐとなりに少女がたたずんでいる。
舞い散る花ビラや、まわりでさざめく同級生たちの声に無関心そうに。

ただ、誰かを探すようにぼんやりと、視線を遠くへ投げているようだ。

そうだ、あの日……
彼女に会って……
ゆきちと呼びかけてくれたら、言おうと思っていた

綾「……」
初雪「……」
綾「やぁ」
 「ゆきち」

初雪「……」
  「よう」
綾「……」
初雪「卒業おめでとう」


少女は卒業証書を掲げながら、少し照れたように笑う。
「ありがとう」
「えへへ。なんとか卒業できました」
「君のおかげだよ」
「そうかね」

……
「行こうゆきち」
「どこへ」

「ランちゃんの、魂をさがすんでしょう」

 「あぁ……」

「協力するよ」

「そうか……」

「行こう。綾」

「うんっ」

……歩き出す。
2人の背中を追いかけるように、花ビラが、ひらひらと泳いでいく。
桜は舞い続けている。おだやかに。

光の向こうへ2人の背中が消えるまで。

 

 ―――綾、初雪

 

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ホテル・ホッシェンプロッツが炎に海に飲まれたあとの光景。
初雪の目に映る景色は、冬でもなく廃ホテルでもなかった。

桜が舞う晴れ晴れとした春の季節になぜかいる。

 

興味深いのが初雪のこの言葉。

そうだ、あの日……
彼女に会って……
ゆきちと呼びかけてくれたら、言おうと思っていた。 

 

初雪が見ているこの卒業式は、彼と綾が本当に成したかった卒業式なんだろう。ゆきちと読んでくれなかった一年前の卒業式ではなく、「ゆきち」と読んでくれる卒業式の再現といってもいいかもしれない。

綾が初雪に「ゆきち」と言い。
初雪が綾に「ありがとう」と言ってあげられるそんな世界。

2人とも言えなかった言って欲しかった願いを叶える為の場所が、この幻想としての卒業式なんだと思う。


―――あの日いえなかったありがとうを

―――あの後ランを探す約束を果たすために。

 

光の向こうへ消えていったというのは、あの世と言われる死後の世界なんじゃないだろうか……。現実では叶えられなかったことを、あっちの世界で初雪と綾は叶えに行ったのかな……なんて思ってしまう。

 

ひとつ気になるのが、綾も初雪も「死んだ」終わりなのに「桜」が舞い落ちていること。そして「風花」が流れないことの2つである。

あずま、シロクマ、希、綾(一度目)は、エンディングの最後に「風花」が流れる。桜(Graduation)に限っては「WhiteGraduation」が流れる。

しかしこの綾(二度目)は、音楽もムービーも流れないままタイトル画面へと戻る。


1、初雪と綾が死しても、桜が舞っていることについて

傍からみれば初雪と綾の終わり方は、不幸に満ちた心中ENDだと思う。初雪は復讐を果たす(佐々木を殺す)ことも出来なかったし、立派になることも卒業することも出来なかった。

綾は初雪と再び恋仲になるも、それは一瞬のうちに消え去ってしまう。最後には死んでいってしまう。

そんなどこにも行けなかった2人なのに、報わなかったといってもいいのに、「桜」は舞い落ちる。雪ではなく春の花が咲き誇り幕を閉じる。


それはなんというか、現実だろうが観念だろうが関係ないんじゃないか?という気持ちになってくる。2人が現実で願いを叶えられなかったとしても、死んだあとの観念側の世界で叶えられればいいんじゃないか? 

それは悲しいことなんだろうか可哀想なことなんだろうか。私は……そうは思わない……かもしれない。


狂気とは「現実」と「観念」の境界線を曖昧にさせる。どちらか一方に価値があるとかそういう考え方を超えてしまんじゃないか。


現実に拘る必要なんてない、そういうふうに見える。初雪は卒業は出来なかったけれど、どこかには辿り着いたのかもねと。

ゴールと呼べるべき到達地点が、現実での「卒業」かそれとも観念側での「卒業」かの違いだったんじゃないだろうか。


観念観念ってなんだよっていう人は、「Prologue」で舞台を見に来た初雪に宮棟が言っていた言葉を思い出してくれると腑に落ちるかなと思います。

宮棟は、現実では叶わないことを観念で昇華することをちょろちょろと語ってry




 

 

 

 

 

 あの一瞬が永遠に続いている

 

「お嫁さん」

「になる予定だった」

「……」

「それも一瞬、だけだったけどね」

「でも私にとってはその一瞬が、永遠に続いている」

 

―――桜、サクヤ

 

 桜の言葉がただただ美しいなと思った。
婚約の誓いを交わしたわけでもない。でもその一歩前の「一瞬」がいまでもずっと胸をあたためている。

その光景とそこから続く未来が永遠につづいている。そういうのってやっぱり綺麗だと思える。

 

 

 

私はこの街を守りたかったわけじゃない

 

「でも。どのみち、あなたも彼も限界だわ。このままでは、完全な悪霊となって、忘我のうちに街を恐る呪いとなるでしょう」

 

「……それでもいい」 

「私は別に、この街を守りたかったわけじゃない」

「ただ、あの子を見届けたかっただけ。守りたかっただけ」 

「けど、この世界は、あの子には決して優しくなかった。あの子もまた、死者になろうとしてる」

 

「だったら、私はこの街を、死者の世界にしてあげるんだ」

 「あは」

―――桜、サクヤ

 
桜の願いっていつも純粋なんだよね……。ただ初雪のことを気にかけて幸せになって欲しいだけ。

初雪を守れるなら、この街を死者の世界にするので厭わない。初雪が愛さなかった世界に価値なんてないのだから。

無垢で純白の想い。


 

 

コノハサクヤという名前

 

「あなたは?」

「コノハサクヤ……と呼ばれてるわ。本名じゃないけど」 

―――桜、サクヤ

 

 
サクヤは「コノハサクヤの名にかけて」という言葉をよく口にする。でもこの名前は本名ではないらしい。

サクヤは自分の役割を強く認識させるために、「コノハサクヤ」という名をつけたんだろうか? それとも誰かに貰った名前なんだろうか?

コノハサクヤ―――。
それはコノハナサクヤヒメを連想させる言葉でもある。
あるいはただ「春に至る」という意味だけなのかもしれないが。


桜を咲かせるために、春へと導く存在。それがサクヤという役割なのかもしれない。自分でそう決断した道なのかも。



 

 

 

 

 桜の願いを叶えてあげる

 

「桜」

「約束通り。来たわ」

……

「私を、討つの?」

「ええ。だから……そのために」

「あなたの願いを叶えてあげる」

 

―――サクヤ、桜

 

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願いを叶えることでゴーストを弱体化するという。大きな呪いを沈めることができるとサクヤは言う。

これは桜にかぎらず……初雪にも言えることなのかもしれない。河野初雪も自分の「願い」を叶えることができれば、その見に宿した怨嗟の情念を沈めることができるかもなと。

 


サクヤは続けて桜に言う。 

「さまよう精霊を浄化するとは、そういうことでしょ」

 

 そういうことなのかもしれない。

 

 

願い事はなんですか

 

「あなたの願いは、何」

「私は……」

「あの人に、触れたい」

「ずっと、私は……死者と生者よりも、もっと遠い存在になってしまったの」 

「あの人の近くにいたのに、声をかけても、気づいてもらえなかった。見て、もらえなかったから……」

「彼と……過ごしたい」

「一緒に学園に通いたい。あの人の隣で……笑いながら」

「そうして一度でも……同じ季節を過ごせたら、いいなぁ」

「いいわ」
「あなたの願いを叶えてあげる。
そして、あなたの呪いを浄化する」

 

―――桜、サクヤ

 
さまよう精霊、怒っている荒神を浄化するには、願いを叶えてあげること。

桜自身の願いを叶えることで、桜の身に宿る呪い(情念)を弱らせることができるってことなのかな?

だとすれば、荒神と桜は一心同体なのか。心と体すべてがリンクし合っているような。それは得てして初雪と同じである。初雪もまた百のゴーストを抱える人間だから。


サクヤと桜の契約って、いわば桜の「リンク先」をコノハサクヤに変更したって感じなんだろうか。サクヤも精霊だし、そういった上書きみたいなことはできるのかも。

桜――荒神(呪い/精霊)
 
 ↓(サクヤと交わした契約)

桜――サクヤ


ってな感じで。精霊の中に精霊がオーバーソウル?……。

 

+++


誰かを応援してる。でも応援してるだけじゃ満たされないのかもしれない。君のことを私は応援しているんだってことを分かって欲しい。応援している自分のことに気づいてほしい。

そういう気持ち。そんな願い事。


 

 

 君は幻想に逃げているだけだよ。サクヤは告げる

 

「復讐を果たせば、破滅の向こうで彼女たちが迎えてくれるという幻想に逃げているだけだ」 

「あなたの中のゴーストがそうささやくから。あなたもまた、その幻想に身を任せるのが楽だから」
 

「そうでも思わなければ、俺は生きられない。そういうことだ」

 

―――サクヤ、初雪

 

 サクヤは何度も何度も復讐に意味はないと言う。
もちろんそのとおりだけど、「狂気」を理解しなければ初雪が何を考えているのかよく分からなくなってしまうのかもなと。

狂った情動というのは、正しさや善性やロジカルな行動に価値を求めないってことなのだから。

 

 

 

桜が手を握るってことについて

 

 

「なぜいきなり手を握るっ」
「ごめん。すごい不安だから」

―――初雪、桜

 

桜が初雪の「手を握る」のって、10年前に起きたパーティーのやり直しみたいな感じだよね……。あの「一瞬」から無くなってしまった未来を、今この瞬間に叶えようとしているみたいなさ……。

「バニー」と叫ぶのだって、10年前に初雪が喜んだからこそ今なおやっているのだし。

 

 

 

 

 

希が初雪に歯向かうこと。そして卒業について 

 

「俺達にも、手を伸ばしてほしいぜ……」

「ここにいる皆、初雪の力になりたいだけなんだ。こんな風にケンカするんじゃなくて……」

 「指導室で、皆で話せたら、もっとうまくいくと思うのに」

―――希

 

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希がいうように初雪がみんなを信じていて、相談してくれていれば未来は変わったんだろうか。

変わっただろう。けれど「皆に相談する」ってことが出来ていたら、そもそも初雪はこうはなっていないのだ。皆に相談出来ないからこそ、初雪は復讐を成しているんだ。


希は復讐することをやめない初雪に立ち向かう。

「あなたに貰った勇気がある」

 

 

希「させない」

「バニッシュだ―――」

??「ああああああああああああああああ」

 初雪「な、に」

初雪「馬鹿なっ。どうしてだっ」
希「バニッシュだっ」
初雪「ちぃ―――」

最初は気づかなかったけど、今にして思えば希が初雪に歯向かったことってこれが最初で最後だ。

「卒業させる」という想いの元なら、希はどこまでも行けるのかもしれない。

 

「進路指導委員長として……親友として……っ」
「卒業してほしいぜっ」

 

希が初雪に歯向かうこと、あずまがゴーストダウンをした意味。それはなんだったんだろうか。

あずまはこう言っている。

 

「サクヤ、さん」
「私、河野先輩を、止めたいです」
「玉樹先輩のためにも……」

 

「贈ります。玉樹先輩」
「そして河野先輩」
「2人の姿を眺めているのが、私にとっての幸せだった」
「いじけたって、恨んだって、あんな風に、互いを好き会える関係があるんだって思えて……勇気づけられました」

「2人のことが、好きです」
「見てください。先輩」
「あなたたちへ呼びかける、ゴーストダンスです」

 

「先輩。なんで……なんで、言ってくれなかったんですか」

「なにぃ」

「憎いなら憎いって」

「復讐がしたいって」

「言いたいことがあるならはっきり言えって、先輩が言ってたんですよ」

「一番大切なことを言う勇気が無かったのは、あなたじゃないですか!」

「それで、自分1人で、かたをつけようなんて」

「残される人の気持ち、本当は知ってるくせして……。知ってるから、目をそらして」

「いくじなし!!」

―――あずま


なんであずまが「ゴーストダンス」をするのかよく分からなかった。ゴーストダンスとは、ゴーストを呼ぶ為のものだからだ。

あずま編であずま夜は、街のみんなを呪ってやるためにゴーストチャイルドを呼ぶ為に、ゴーストダンスを踊っていた。

けれど最後の最後で「ゴーストダンス」の意味が変化していったことを忘れていた。そうだよこれはゴーストを呼ぶためのものじゃない。

「復活」するための踊りなんだ。

 


卒業して欲しいから(希)、生者として復活して欲しいから(あずま)、春に至って欲しいから(サクヤ)。

そういった想いが三者三様の形で実現しているのが、「Graduation」のゴーストパレードの日だ。

 

 

 

 

 

 あなたは本当に彼を助けたいの?小坂井綾

 

「なぜ邪魔をする。小坂井綾」

「彼のやりたいように、させてあげたいだけだよ」

「あなたは本当に、河野初雪を助けたいの。
全部、自分のためじゃぁないの」

 

「え?」

「あなたは、復活を望んでいるんじゃないの

「彼がことを果たせば、この街にはとどまれない。
遠くへ、逃げなければいけない」 

「そうして、あなたは、彼と一緒にいることができる」

 

「……あなたは、そうしてやっと、彼と恋人だった自分を復活させることが出来ると夢想しているんじゃないの」 

「……」 

 

「ずいぶんな言いようだね。私が、そんなみじめな想いのために、ゆきちをそそのかしているみたいじゃないか」

 

「事実そうでしょう」 

―――サクヤ、綾

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サクヤは「お前のやっていることは昔の自分を取り戻したいだけなんじゃないの?」と綾に指摘する。

綾は「そんなみじみな想いのために、ゆきちをそそのかしているとでも?」と切り返す。

私から見ると、サクヤは綾の感情が理解できないのではないのかと思う。小坂井綾だけが河野初雪に味方をし、ゴーストの在り方を肯定している。それは生者(サクヤ達)からすれば、どういう理由のもとで決断した行為なのかよく分からないのかもしれない。

だからこそサクヤは「実利的な」目線で、綾を分かろうとしているように私には見える。

綾が自分の利益を求めているだけの行動ならば、初雪に味方をするのは理解できると。


でもそうではないよね。そうじゃないとは思う。

初雪がこのまま復讐を果たせば、結果的には「彼と恋人だった自分を復活させることが出来る」ことも可能かもしれないが、それは綾が本当にしたいことではなく、

小坂井綾という女の子は初雪のことがただ「好き」だから、彼を応援しているだけだし、彼と一緒に歩こうとしているだけだと思う。


つまり小坂井綾は自身でもいうとおり、「一年前の初雪と綾の関係を復活」させることが目的ではな。(それがこの行動の延長線上にあっても)
綾がしたいことは、ただ初雪のパートナーとして一緒に生き続けたいだけだと私は思うんだ。


それは狂気的な愛ゆえに、周囲の人間にはうまく理解できないんだとも。サクヤも誰も彼も、綾の好きだからゆえに初雪を応援する気持ちを理解するのは難しいのかもしれない。

 

 

邪魔なんだよ

 

 「去れよ、ゴースト」 

「これは、あの子……桜と彼の物語だ」 

「彼がゴーストになりきっているのだとしたら、それは……2人が、春に至れなかったということだ」 

「そうしてあの子に、彼を導くことが出来なかったのなら、誰も彼を連れはいけない」

 

「それだけのことだよ」 

 ―――サクヤ、綾

  

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「言ってる意味が、私にはよくわからないよ」

 

「じゃぁ簡単に言ってあげる」 

「あなたはお呼びじゃないの」 

「未練たらしく彼にとりついてないで、去りなさい。
あなたこそ、死者なの。ゴーストなの」

 

「去れよゴースト」 

「バニッシュだ」
 

―――サクヤ、綾

 

 「彼を導くことが出来なかったのなら、誰も彼を連れはいけない」とサクヤは言うが、実際のところは「桜以外に初雪を連れていってほしくない」みたいな気持ちを感じさせる。


 

 

 

 

 初雪の百のゴーストを浄化・大野出現

 

「ええ。彼にとりついていた、全てのゴーストを浄化した」
「あとは、彼次第だ」

「ゴーストたちと共に滅びるか。生者として、帰還するか」 

―――サクヤ


全てのゴーストを浄化したと思いきや、あと1体ゴーストが残っていると呟くサクヤ。 

 

「俺がこいつを操ってるとでも思ったら、大間違いだぞ」 

「こいつは、いつだって……進んで、狂気の世界へと身を侵していたんだからな」

「いつだって、その気になれば生者と死者を選べたんだ。しかしこいつは、ゴーストになることを選んだ」 

「なぁ、初雪」 

―――大野敦

 

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初雪の中にいた最後の一体とは、大野敦というより「親の呪い」と見たほうがいい気がする。

初雪には「復讐」とよべるほどの昂った感情はない。なのに大野敦やランといった周囲の人間からの怨嗟を代行するような存在になっている。

他人の憎しみを動機に、他人の復讐をしている。


初雪が復讐する相手なんて、ほんとうにほんとうに誰一人いないんだ。ランのことならそれは佐々木ではなくサクヤに復讐をするべきだし、桜のことだって宮棟達を恨むのも違う。


だって初雪は恨みたいから復讐をしているんじゃない。
ランや桜を取り戻したいから、その目的の為に復讐という行為を選んでいるだけだ。

そうであっても初雪は復讐をやめない。自覚的にせよないにせよ。もうとまらない。狂気とはそういうことなんだろう。

 

 

 「河野初雪!」
「もう、終わりにしましょう」

「長い冬を……」

「自らの内に巣くう父の亡霊を、今こそ討ちなさい」

 

「お断りだ」 

「復讐は終わらない」 

「なぜ……」 

「そうしなければ、魂は復活しない」 

「まだそんなことを」

「たとえ復讐を果たしたって、死者が蘇るわけがないでしょう」

 

「だとしても!」 

「だとしても、止まらないんだよ」 

「彼女たちに会えないとしても……」 


せめて叫ぶために」 

届かなくても、聞こえなくても、そこにあいつがいなくても……

それでも、届けたくて、聞かせたくて。幻を見るためにいくんだよ

 

「狂気の果てへ……あの世に一番近いところまで」

 

―――初雪、サクヤ

 

 初雪の気持ちは……分かる気がするな……。

真実がどうだとかその行為の果てに待つものとかそういうのがどうでも良くなって、ただただ声を枯らすまで叫ばずにはいられないそんなの。


届かないことを知っても、届けるようとする。

信じていないけれど、信じる

これはきっと狂気の領域にいかないと分かり得ない情念なんだろう。矛盾していようともそれを是と出来るそんな気持ちを。

 

「ちょっとやそっとの理解と説得で、彼の生き様をかえられるものか」

「理知も理屈も真実も、彼に響くことはない。どんな同情も慰めも叱咤も。彼の抱える深淵を照らしきることは出来なかった」
「彼は、どれだけ引き止められても、真実をつきつけられても歩みを止めないだおる」
「愛しい人を求めて、狂気の世界を旅することをやめないだろう」
―――大野敦

大野「何度季節がめぐっても、春の陽気にさらされても、夏の陽炎にかすんでも、秋の木枯らしに疲れても、冬の雪に冷やされても」 

「お前の復讐が、休まることはない」
「さぁ、復讐を果たせ」

初雪「……そうだ。復讐」

大野「その先でこそ」
「懐かしい人たちに会えるから」

 

大野の言っていることがまさにそうだろう。
そして初雪に囁きかける狂気でもある…。そうか大野は狂気なのか。

 

 

 

パーティーの爆発のあと。大野はゆうきと名を呼ぶ

 

「ゆうき」
「かーさんや、皆を殺した奴らが憎いな」

「やらなければならない」

「正しいとか間違っているとかじゃない」

「やらないわけにはいかない」

 

―――大野敦

 

 いつ頃から「大野ゆうき」が「河野初雪」という名前になったんだろうか。気になる。そして誰がそう仕向けたのも。

 

 

 

 

 

 復讐とは、もう会えない人に捧げる供物

 

「ゴーストになれば……」
「……会えるの?」
「皆と会えるの?」
「……」
「……あぁ」
「会えるよ」
「復讐とはそういうものだ」
もういない会えない誰かに捧げる供物だ
「ただ、一瞬でもあの人達に会うためのものだ」
「分かった」 

―――初雪、大野

 

そうかこれか…。このときの大野の言葉によって、初雪の中に狂気という種子を埋められたのだろう。

まだ芽吹きも咲きもしないが、そういう「思考」に規定されてしまうような強い力をもったと。

初雪が結果をもたらさない復讐をしている1要因に、「復讐とは一瞬でも会えなくなった人たちに会える行為」だと刷り込まれているせいなんじゃないか。

 

 

 

 

 ランの狂気は何処に行ってしまったんだろう

 

「私の願いはただ、復讐をしてほしかったから」
「そのために、あなたを利用したの」
「この部屋に人形を残して、あなたが復讐に突き進むように、そそのかしたの」
「あなたの、愛情を利用して」

「それでも」
「え?」
「それでもいいよ、ラン」 
「それでも、お前が……唯一の、家族なんだ」
「誰にも愛されなかった俺を、お前だけがそばにいて、見守ってくれた」
「偽りでもなんでもいい。騙されていたとしても、いい」
「ラン、捨てないでくれよ」
「……初雪」
「俺を捨てないで……」
「……」
「……」
「卒業、しよう」
「……え?」

―――ラン

 
今思えば振り返ってみれば、ランの行動はいささか変かもしれないと思った。

今まで初雪を騙していたかを告白し、復讐なんてやめよう(卒業しよう)と言い出す。ランは何を見て、何を感じて、自分の中にあった復讐したいという欲求をなくしたんだろう。

小坂井綾に電話をし、初雪に協力してと言ったときは、少なくとも復讐を支援していた。でもあのときのランの感じからすると、「どうしても復讐をしたい」というよりは、「復讐しか道がない初雪をどうにかしたい」という印象を受けた。

ランはもうこの時から……。いやもっと前から、復讐と卒業の板挟みになっていたのかな……。

 

 

ラン「あなたは1人じゃないよ」

妻「河野!!」
希「初雪っ。行かないでくれ」
あずま「先輩!!」
竹田「河野ぉ!」
久保「てめぇ、ひきこもってるなよ、河野」

ラン「外に、あんなにたくさんの友だちが、あなたのために集まってくれてる」
「それが、あなたが3年間、がんばって得たものなんだよ」


初雪「ラン……」
ラン「初雪。あなたも私も、生者に戻る時が来たのかも知れない」「だから……」
「卒業して」 

―――初雪、ラン

 

 ランが自分の過去を告白し、かつ「生者に戻ろう」と言う最大のきっかけは、初雪を応援する仲間たちの姿だろうか?

ランの復讐という狂気がどういうふうに解消されたのか、すごく気になる。

+++

 

 

 

 

初雪の狂気の消滅とみんな応援

 

「ラン――!」
消えてしまった。
「ラン……」
俺1人を残して。
どうして……
「俺は……」
「皆がいるところに戻りたかった」
あの暖かい、景色へ、帰りたかった。
それだけだったんだ。
復讐を果たせば、戻れるなんて。
なんで思っていたんだろうなぁ。
俺は……
―――初雪

ランとの邂逅により、狂気に邁進していた初雪はふと我に返る。

自分がなぜ復讐なんてものをするのか。それでどうして暖かい景色へ戻れるのか。そういう自分のルーツを考えられるまで、狂気がごっそりと落ちている気がする。 

 

この後、初雪の目の前に、桜の花びらが舞う。

「花ビラ……?」
「花?」
どこから。
桜……。

「行こう」
「外はもう、春だよ」
「あ……」
この声を、覚えている。

―――初雪、桜

 
これを見て私は思ったんですね。ああそうかと。
「狂気」という情念は、誰かの応援によって雪のように淡く溶けていくものなんだと。

 

―――行こう
―――外はもう、春だよ

桜の声かけによって、ランの卒業しようという言葉によって、希あずま久保竹井の叫びという応援によって、

初雪の中にあった一体のゴースト(狂気)が無くなっていったんだなと。

 

 

 

 

初雪の過去と病院

 

「幸い命はとりとめて、傷が残ることもなかったんだけど」
「ほとんど視力を失ってるらしいの。そのうちに、回復するとは言われてるけど」
「それと、どうも事故のショックか、記憶の混乱も見られるらしくて」
「父親のことは思い出したみたいなんだけど、それ以外の家族のこととか……それに、事故のことも、覚えていないようです」
「放心したように、窓際で外を眺めています」
「まったく見えてないわけじゃないんだよね」
「あの子、どんな風景を見ているのかな」


―――看護師たち

 

 初雪は事故によって
・一時的な視力の低下
・記憶の混乱が起きた。

初雪が自分のルーツを探っても出てこない理由が、記憶の乱れにあるってことか……。

父親以外のことは思い出せない。事故のときのことも思い出せない。だから桜のことも思い出せなかったし、自分の大野ゆうきという名前のこともよく分かってなかった。

 

視力低下を起こしている初雪には、世界はずっと雪が降っているように見えるとのこと。

「……」
雪が降ってる。
ずっとこんな世界なのだろうか。
でも、明るい世界の風景も、覚えてない。思い出そうとしても、やっぱり白くかすみがかってしまう。 

―――初雪


灰色の世界に真っ白な雪が降っている。

そして事故が起きる前の世界の風景を思い出せないゆえに、今見ている景色と比較できない。

 

 

 

 桜という少女との再会

 

「ねぇ。一人でなにしてるの?」
この子は……
よく覚えていないけど、知っている。よく知っている、子だ。
「無事だったんだ」
「……うん」
よかった。
「何してるの」
「なにも……」
「一緒に外を歩かない」
「……」
「見えないんだ」
「私が手をひいてあげるから」
「え?」
「行こう」
「外はいい天気だよ」

―――少女、少年

 

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パーティー事故の直後の初雪でさえも、「桜」のことを思い出せないのか……。"よく知っている" とだけは認識出来ても、それ以外のどういう顔でとか、どういう性格でとか、どういう場面で出会ったとか、そういう関連情報がばっさり来られちゃっている。

"よく知っている子" だけという認識……なのかな。

 

+++
それと桜は「手をにぎる/ひく」「春に至らせる」ということを素でやってのけてるのがすごい……。

昔の初雪も、未来の初雪も、桜という女の子の手にひかれて、冬から春へと至っている。

このときの過去の初雪も「世界の風景に雪が降っている状態」を桜は察しているのかどうか分からないけれど、外にある"春"を感じさせようとしているところとかさ。

 

 

 

俺と僕の一人称

 

「ほら見て。もうすぐ桜が咲きそう」
「……見えないんだ」
「僕の目にうつるのは、真っ白な風景ばかりで……樹も桜も見えない」
「でもほら。匂いと、温度はわかるでしょう」
「……」
「匂い」
そう言われると、本当にかすかに、甘い匂いをかいだ気がした。
俺は少女に手を引かれ、匂いをたどるように、外へ……出て行く。

―――少年、少女

 
初雪が「僕」といったり心の中では「俺」ところころ変わるのはなにかわけがるんだろうか? それともそういう口調が定まっていない時期ゆえの変換期なんだろうか。

 

 

 

 雪とは魂。 初雪に降り積もる情念

 

「あれはなんだろう」
「うん?」
「降っているんだ」
「雪みたいにとても冷たいけど、もっと不思議な感触で……歌うような声が聞こえるんだ」
「そうだ。あれは雪じゃない」

僕はいつの間にか泣いていた。
「あれは、雪じゃない……」
「魂だ」
あの人達の、魂が……僕に、積もっている……

―――少年、少女

 

なんで初雪には、死んでいった人達の魂が見えるんだろう?
そして、なぜ初雪に「死者の魂が降り積もる」のか?

実際に魂が見える/自身に魂が降り積もるかどうかは関係ないのかもしれない。初雪がなぜそう"見える"ように"感じる"ようになったのかが、重要なことだと思う。

パーティーの事故によって、意識が捻れ、見えるはずのないものが見えるようになっていった?

ふむ。そういえば桜も言っていたよね。「君はこっちの世界に近いから私の声が聞こえる。けれどそのうち聞こえなくなるよ」と。

桜・ゴーストプリンセスは死者とも生者でもない。死者とも生者とも距離を遠く保っている存在。故にどちらの存在にも気づいてもらえない。気づけるのは、「精霊」とよばれる分類にある者同士だけだろうか?

荒神しかり、コノハサクヤしかり、桜を見ることが出来、喋ることができていたからだ。

 


河野初雪が、ゴーストプリンセスである玉樹桜の存在と近くなっているからこそ、彼女と喋れる。

ということはこの時の初雪は、死者とも生者とも違う世界を見ているということなのかな? 二つの世界の狭間で存在しているということなのかもしれない。

だからこそ、事故で無くなった魂が見え、狭間に生きている彼に「魂が降り積もった」んだろうか?


Q 魂が降り積もるとはなにか?

A、それは想いの蓄積なんじゃないだろうか?(仮回答)他者の情念が、自分の中で積み重なっていく感覚。自分の気持ちではなく、誰かの気持ちによって行動してしまう。誰かの気持ちを、自分の気持ちだと錯覚しっていくことに繋がるかもしれない。



 

 春が来たら会えなくなると呟く桜

 

「あのね。春が来たら、もう会えなくなるの」
「え? 退院するの?」
「……」
「そっか」
いつの間にか、少女の手を強く握っている自分に気づいた。

―――少年、少女

 
なんで「春が来たら」桜と会えなくなってしまうんだろうか?

桜の言葉を聞くに「消えて」しまうわけじゃない。ただ初雪から「見えなく」なるだけだと言う。

つまり、初雪が死者とも生者ともどっちつかずの状況から、抜け出してしまうことで桜自身を見れなくなるということだと思う。

それはこうも言い換えられる。


春になれば初雪は生者として復活するんだと―――。

初雪の現在の世界の景色は、灰色の空に真っ白な雪が降っている。しかし、それは(おそらく)桜の手によってどうにかして抜け出す手はずが整ったのかもしれない。


どっちつかずの現在から、ちゃんと「目」で見える世界に戻るための方策が。



 

 

 

瞬間世界になにかが生まれた

 

「ねぇ」
口元にほのかに温かいものが触れた。
甘い、匂いがした。
これは……
瞬間、世界の中に、そっと何かが生まれたような気がした。
花の匂い。
だけどどうしてだろう。
その花は、かすかに、焦げ臭い。
焼け落ちる、間際のように…… 

―――少年、少女 

 

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桜は自分がもう会えないことを告げたあと、初雪の口元にそっと触れる。(おそらくキス)このとき初雪は「焦げ臭い、焼け落ちる間際のような花の臭い」と表現する。

それは玉樹桜を「花」とし、「焼け落ちる」を焼け消えることだとすればうまく理解できそうな気がする。

つまり、この時の桜は、もう存在としてぼろぼろなんじゃないかっていうこと。パーティーの事故からの"一瞬"がずっと続いて存在し続けているんじゃないかっていうことを示唆している気がする。

爆発で「焼けた落ちた肉」、「焦げ臭い」「花ビラ(=玉樹桜)」。

+++

そしてこの時、桜のキスは何を意味していたんだろうか

1、世界に生まれたのは愛?
2、初雪が生者として復活するためのキス 
 

少しだけ見えるよ
「え?」
「世界は真っ白で冷たいけど……」
「その中に、一点だけ、鮮やかな色が生まれたのが見える」

一枚の花ビラが、どこかへ連れて行ってくれるような気がする。
そんなことを言おうとしたような気がする。
けど、難しくて、照れくさくて口にはしなかった。
だから、ただ……。
「ありがとう」
僕は確かに見た。
うなずいた少女が笑顔を浮かべるのを。 

―――少女、少年

 
桜がなにをしたのか具体的なことは分からない。けれど桜が初雪にキスをしたことで、彼は世界に「色」を感じとれるようになった。

"一枚の花ビラが、どこかへ連れて行ってくれるような気がする"


初雪が思ったとおりに、桜は彼の手をひく。応援し春へと至らせようとしている。そんな光景なんじゃないか。

 

「ねぇ。君はこれから……私の声も聞こえなくなって、感触も分からなくなっていくんだろうね」
「今、君はとてもこっちの世界に近いところにいるから、こうやって私を感じることが出来る」
「でも、次第に、遠ざかって行くよ。それでいいの」
「そんな。もう、会えないの?」
「会えないというのはとは、ちょっと違うけど」
「でも、私は近くで見てるよ」
「君が大きくなるまで、見守っているから」 

―――少女、少年

 

 

 

 

 

誰にも見えなかった女の子と失ったたくさんのもの

 

「ゆうき」
「おとーさん」
「最近よく外に出ているようじゃないか」
「手を引いてくれるから」
「女の子が手を引いて、連れて行ってくれたんだ。それで一緒に」「でもこのごろは、来なくなったみたい。どうしたんだろう」
「それはおかしいな」
「お前が外に出ている様子はいろんな人が見ていたけど」
「誰かと一緒のところを見た人は誰もいないよ」

「そうか。彼女は……」
「どうした。何を泣いている」
「……」
「とーさん」
「皆、いなくなってしまったんだ」
「ちゃんと覚えてないけど……ただ、いろんなものを失ってしまったことだけは、分かるんだ」
中でもそうだ。
あの子がいたはずなのに。
どこかへ行ってしまった。

―――少年、大野

 

「僕は……僕たちは、これからどうなるの」
「…………」
「お前には、大事な役目があるよ」
「行こう」
「……うん」

―――少年、大野

 

大野とそのほかの人間には桜のことは見えないらしい。
それもそうだよね。

 

 

 

バイバイ

 

(大丈夫。そばにいるよ) 
「……え?」
「どうした」
「…………」
「ううん。何か、聞こえたような気がして」
「……」
「バイバイ」 

―――少年、少女、大野

 
なんで初雪は「バイバイ」なんて言ったんだろうか。
またね、の意味? それとも別れの意味で言ったのかな……。

桜は消えるわけじゃない、ただ見えなくなるだけ…………いやそうか初雪的には「女の子は退院するもの」として認識しているからバイバイなのか。ふむ。

 

  

 

 

 

 

この最後の冬を終わらせるために、一瞬、蘇った桜

 

自室でランに「卒業しよう」と言われたあと、初雪はホテルからふらふらと出てきた。

「はぁ、はぁ……」
「初雪っ」
「……え?」 

気がつけば、俺は、ホテルを出て外まで来ていた。
花の匂いを嗅いだ気がした。
その匂いをたどって、いつの間にか…… 

―――初雪、希

 
桜の導きによって……外に出てきたということか。

 

俺は誰かに背中を押されるように、また、外に出てきた。
誰かに手を引かれるようにして……
誰だ。
もうあのホテルには、誰も……
ゆっくりと、扉が開く。
誰かが出てくる

声「すーちゃん」
初雪「……え」
サクヤ「あれは……」

小さな、少女だ。
今こそ、俺はその子の名前を、呼ぶことが出来る

「桜」
「さぁ、ご挨拶だよ」
「私はゴーストプリンセス」
この冬を終わらせるために、一瞬、蘇る
「すーちゃん」
「さぁ、外へ」

―――初雪、桜、サクヤ

 

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 もうここまでくると確信するしかない。断定するしかない。

人の身に宿る情念とは、「狂気」でしかない。憎い、悲しい、辛い、苦しい、寂しい、愛しい―――人間の気持ちとか感情とかそう言われるものは精神的構造を"狂わせる"からこそ、生じる産物なのだ。

そして「狂気」に染まった者は、現実に依存しなくなる。真実とかどうとか気にしなくなる。彼らは自分が狂っていると気づこうが気づかないが変わりはしない。

ただただ叫ばずにはいられない。その衝動のみが彼らを突き動かす。


もし見に宿った「狂気」を浄化させることが出来るんだとすれば、それはパニッシュメントではありえない。強引に情念を消し去ることではない。


そうだよ。狂った情念を浄化するには「応援」なのだ。


誰かを導こうとする気持ち。誰かを励まそうする感情。こうなって欲しい。あのゴールまで到達してほしい。そういった応援の気持ちが彼らを凍えた冬にとどませるのではなく、春へと至らせる。

桜は言った。 

 

 "「さぁ、ご挨拶だよ」

「私はゴーストプリンセス」

「この冬を終わらせるために、一瞬、蘇る」"


ランは言った。

"「卒業しよう」"

と。

2人だけじゃない。あずまもサクヤも希も妻も久保も竹井もみんなみんな「初雪を応援」していた。


初雪は自分の力だけでは、自分一人だけでは復讐という感情を消し去るにはとうとう至らなかった。一人じゃだめなんだろう。

誰かの応援がないと、春へとは至れない。


桜の応援があったからこそ、みんなの後押しがあったからこそ河野初雪は内に宿る最後の一体「呪い/大野敦/狂気」を手放すことが出来た。


 

 

大きな呪いと押し付けられた役目

 

「私は……」
「死んでしまったの?」
「苦しいよ……はやく、消えてしまいたい。楽になりたいよ」
「ごめんね。桜」
「……え」
「まだ、だめなの」
「おかー……さん?」
「あなたには、役目があるの」 

―――桜、母親

 

荒神を抑えるために、沈めるための役割が必要だと母にいわれる桜。

 

 

「やだよ……」
「なんで、私がそんな、苦しい思いをしなければならないの」
「いやだよ。いや。どうせなら、早く、楽になりたいよ」
「なら、街のためじゃなくてもいい……」
「大切な、誰かのために、神になりなさい」
「大切な、誰かのために?」
「あなたには、いないの? 守りたい、誰かが。神になってでも」

―――桜、母親

 

街なんかどうでもいいよね……。

「彼は……あなたと同じ。いくつもの魂にその身を捧げて、生きる者
「私と、同じ……」
「違うのは、彼は、まだ生きているということ」
「え?」
「だから、彼にはまだ選ぶ余地がある。生者になるか、死者になるか……この先、選んでいくことになる」 

―――桜、母

 

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やっばいぞこれは……。あっさりと読んでいたけれど、え?なに? 初雪も桜と々で「いくつもの魂にその身を捧げて生きている」?

ちょっと待ってよ!!どういうことだよ!

 


・桜は荒神を沈める為に、この世に存在し続けるようになった。(←いくつもの魂に身を捧げて生きている)

・初雪はパーティで亡くなった百の魂に身を捧げている。生きている。

ってことなんだろうか。

となると、となるとだ。河野初雪という少年はパーティ事故から目を覚ました辺りから、「パーティで亡くなった死者の魂に身を食われている」と言ってもいいんじゃないか?

それともなんだ。初雪の願い(会えなくなった人に会いたい→復讐をしなければいけない)という気持ちを「いくつもの魂に身を捧げて生きている」と言っているのか?

いやけど母上は「あなたと同じ」と言っているな……。

この言葉が分かり難いんだよね。分解する。

 


"いくつもの魂にその身を捧げて生きている"

「いくつもの魂」に「その身」を捧げて生きている

「ゴースト」に「自分」を捧げて生きている。


なるほど。桜も荒神という背霊に自分を捧げて存在している。なら初雪もゴースト達に自分を捧げて生きているようになっているってことか!

初雪のその状態を「復讐に取り憑かれている」と言ってもいいと思う。

 


そして生きている初雪を「生者/死者」どちらかを選ぶかはこの先々で選ぶことになるだろうと。

 

はははーん。にゃるほどねー。

 

 

 

 

 

誰かのために、ううんあの子のために

 

「そう。だったら、やってみようかな」
「私が呪いを引き受けた分だけ、あの子が楽になるなら……。あの子が、生きていける可能性があるなら。私は……」
「街なんて……私を殺したこの街なんて、どうなってもいいよ」「でも、あの子が、こんな寂しい場所に来ないように、守ってあげる」
「背中を押してあげる、そんな……神さまになら、なってもいいかもしれない」 

―――桜

 
誰かの為にううんあの人のために、背中を押す存在になってあげようとか。あの子のために呪いを引き受けてあげようとか、そういう気持ち。

そういう応援する気持ち……。

「応援」って他にはどういう言葉に置き換えられるだろう。本質的な言葉じゃない気がするからもうちょっと攻めたい。

 

「助ける」ではないんだよね。なんだろ声をかけるより……言葉って難しい……。

誰かを導きたいっていう感情が、応援? ふむーふむー。そうかも。

 

 

 

 

大人の役目を子どもに託すということ

 

「長く寂しい時間が続くでしょう」
「それでも、やり通したなら、あなたは……あなたなりに、明るい場所へ還ることができるから」
「私が保証するから」 

―――母

 

どっかでも言いましたが、初雪も桜も「親から重い役目」を担わされているんだよねえ……。

なんだかなあ……って思っちゃうのよさ。

 

 

 

 

 

桜の選択肢と街を滅ぼすってこと

 

「我らを滅ぼした、街の者達が憎い」
「今すぐにでも、あの街に、大いなる呪いを」
「ダメ」
「まだダメだよ」
「見守ろう」
「あの子が、生者になるか、死者になるか」
「生きることを選ばないなら……」
「この街を卒業していけないなら」
「その時は、私は、あの子のために、悪魔になってもいい」 

―――桜、ゴースト

 
桜は初雪が生きることを選ばないなら、彼のために悪魔になってもいいと言う。

なぜ初雪が死者を選んだら、悪魔になるというのか? 彼がそれを選ぶことと桜が悪魔になることは繋がっていないように見える……。


→桜は初雪のために荒神を沈める役割を担った。

ふむ。
桜は彼のために、生きているとも言える。初雪のために重い役目を背負うと決意した。その彼が不幸になってしまうのだ。だったら役目なんか放棄してしまうのだろう。

悪魔になるとは、役目を放棄する→荒神たちの解放→街が滅ぶ

ってことか。ふむふむ 

 

 

 

好きな人と話せないのって辛くない?

 

「王女よ。声も届かぬ、思い人を見守り続けるのは、辛くはないか」
「……」
「少しね」
「でも、不思議。話せないけど、こうしてあの人を見守りながら、季節がめぐるたびに……」
「どんどん好きになっていくみたい」 

―――桜

 
話せないのは少しさみしい。でも見守ることで育まれる愛情ってあるんだなと。


 

 

 

 生者が死者の夢を見るように

 

「めぐる季節の中で、いつもあなたを見ていました」
「ねぇ知っていますか」
「生者が死者の夢を見るように」
「死者が生者の夢を見ることだってあるんだよ」
―――桜(小さい桜)

 

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 生者が死者を夢みるというのは、生者が死者を「想う」ってことだよね?

死んだ人の気持ちを考えたり、死んだ人の無念を晴らそうとしたり、死んだ人のその後を考えちゃったり。あの世の生活とかそういう気持ちを夢。

だとするなら、死者が生者の夢を見るというのは、生きている人にああなって欲しいなとか、こうなって欲しいなとか、幸せを願ったり、励ましたりするってことか……。
+++

サクヤと契約した姿の(高校生の)桜と、少女としての桜が出てくる。白いドレスを纏って。

これは一体なんなんだろう。なぜ2人なのか。少女の桜だけではなく、高校生としての桜の姿。一人じゃダメな理由?ってなんだおる。

  

「春に、少し不安そうに踏み出すあなたの背中を押してあげたかった」
「夏に、汗をぬぐうあなたの頬を撫でる風になりたかった」
「秋にまどうおあなたの手を握りたかった」
「冬にうつむくあなたに声をかけたかった」 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜に導かれて春に至る

 

いつの間にか、俺は桜に手を引かれて歩いている。
どこに向かっているのだろう。
「ウィッキー」
なぜか、サクヤ……ウサ公まで一緒だ。
横顔で振り返りながら笑う桜に、声をかける。

「お前は……」
「そうか。ずっと近くにいてくれてたんだな」
「気づかなくてごめんな」
「ううん」
「時々、気づいてくれてたこと、知ってる」
「風のように、匂いのように、私を感じてくれていたこと、知ってる」
「そうして、この冬に、最後にあなたと、一緒になれたから」
「死者として見続けていた夢を、叶えることが出来たから」
 

―――桜、初雪

 
コノハサクヤが先導を切り、桜に手を引かれて、初雪は春に至る。

誰かが差し伸べてくれないと、きっと春には至れなかったと想う。
誰かが応援してくれていることを、忘れちゃだめなんだ。
自分のことを応援してくれている懐かしい人達のために。
それが今まで気づけなかったとしても、気づいたならば。
それはまるで神さまのような。

 

「河野君」
「さぁ。行こう」
「懐かしい人達に会いに行こう」
冬と春の境目に、死者はよみがえる。一瞬だけ
「だから、一瞬だけ、会いに行こう」

―――

「婚約の儀を執り行いましょう」
「河野初雪」
「玉樹桜」
「永遠の愛を誓いますか」
「……」

「いいえ」
「永遠には誓えません」
「季節は巡り変わっていきます。同じ場所にいられない以上、永遠に覚えていてくださいとは言いません」
「だけど」
「いつかこの場所を卒業するまで」
「それまで、愛し守り、分かち合うことを誓います」

「そうして誓いは、今、終わります」
「だから……今こそ言うよ」
「バイバイ」 

―――桜

 

 ゴーストパレードのその日。死者と生者が交錯するその日。

10年前のあの日に、成すことができなかった婚約を初雪は果たした。
10年前のあの一瞬を大事にし続けていた少女の誓いは終わった。

初雪が見たのは狂気の一瞬であり、観念の世界。現実で叶えられなくても、こっちの世界では成就することができる。……狂気は悪いものではないんだと想うよ。

+++


桜が履行してきた婚約の「ありえた誓い」はこのときを持って終わりを迎えた。順番がいささか逆だった。桜は誓いをするまえに誓いを果たした。誓った瞬間に誓いは全て完了した。

 

 桜はなぜ「バイバイ」と言ったんだろう。もう会えなくなるから? いやそうか。初雪が「卒業」してしまうからか。

生者としての道を選んだ初雪には、もう自分はいらないからとか?……。なんだろ……んー。というかもう桜には時間がないのか……。もうリミット限界だからこそ、そしてもう……。まとめる。

Q桜がなぜ「バイバイ」と言ったのか。

1、桜にはもう初雪と会って話せる時間がこれっきりだから
2、初雪がこの場所から「卒業」してしまうから。(生者としての道を選んだ

だと想う。

 

 

 

 このクソッタレな世界でも

もしも。
生者が、夜な夜な死者の夢に焦がれるように。
死者もまた、生者の夢を見ているのなら。

もしも、彼らが……俺の夢を見てくれているというのなら
そんな、懐かしい人達のために。
生きてみても、いいかもしれないと……。
このクソッタレな世界で。 

―――初雪

 
懐かしい人たち、もう会えなくなってしまった人たち。そんな人たちが、自分の夢(=自分の生き様を思い描)を見てくれているというのなら、じゃあこの世界で生きてみようと初雪は思う。

つまり、大好きな人達が自分を応援してくれているんだ。じゃあ頑張ってみるか―――とそんな感じなんじゃないだろうか。

 

 

 

 自分の夢を見ること、相手の夢を見ること

 

「もう終わりにしよう」
「親父」
「あんたも俺も……十分に、自分の、夢を見た
「今度は、あの人達の夢を、思いやったって、いいんじゃないか」
―――初雪

 

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 応援って「相手の夢を生きる」ってことなのか……けどそれは……どうなんだろ。すごい危険なことだけれども……。んんん。相手の夢と自分の夢が合致したのならいいのかな……。

 

「俺は、復讐がしたかったわけじゃない」
「ランを、綾を……桜を……」
「彼女たちを求め続け、さまよい続けた」
「だから、狂気の果てに……一瞬、聞くことが出来た」
「あの人達の、声を」
「その声に、答えるために、俺は行くよ」
「春へ」  

 ―――初雪

 あう、やっぱりそうか。大好きな人たちの「夢」に生きるというのもそれはそれでいいものなのかもしれない。誰かに強制される夢ではなく、自分が選んだ夢が、相手の夢であったとしてもそれでいいんじゃないか。

 

 

 

 

 

綾と一緒にバニッシュ

「悪いな、親父」
「あんたには、付き合えない」
「な、に」


「……え?」
「あんたの手で、やってくれ」
「ゆきち」
2人で、一緒に、帰ろう
「あ……」
「分かったよ」

初雪「されよゴースト」
綾・初雪「バニッシュだ」 
大野「ああああああああああああああああああああああああ」

―――綾、初雪、大野

 
綾と一緒に大野(初雪に宿る狂気)を討滅したことに重要な意味があると思う。

綾もまた初雪と同じく死者でありゴーストだった。そんな彼女が初雪の狂気(大野)を殺すというのなら、綾もまた生者へと復活するときが来たのかもしれない。

初雪が綾に「あんたの手でやってくれ」と言ったのは、綾と生者として戻したい気持ちが彼にはあったんじゃないか。


 

 メモ

「終わるのか」
「冬が、終わるのか」
「ゆうき……いや、初雪」
「立派になったもんだ」
「俺は……やっと用済みか」 
「……」
「すまなかったな」
「そんな台詞は、俺が死んだ後に聞かせてもらおう」

―――大野

 

 

 

 

 

 ありがとう

 

初雪「花びら?」
あずま「桜の花。どこから」
初雪「これは……」
妻「河野?」
初雪「これは花じゃない」
  「魂だ」

「決定しました。第1回あだ名選手権は、『はじめてのすーちゃん』、『チェリっこさくら』の優勝です」

「桜……」
「……」

「あ、あの。今夜も冷えまするね……?」
「すりすり」

「一緒に。春に至れなくて」
「ごめん」
「楽しかったよ」
「ありがとう」 

むほんっ!

―――初雪、桜

 
初雪の胸のうちにあった「桜を取り戻したい」という気持ちが、見事に霧散していた。

それは桜が見してくれた――狂気の一瞬――婚約パーティーだったと思う。桜がどんな気持ちで今まで初雪のことを見ていたのか、そしてその誓いを履行してきたのかを知れたから。

また彼女が生者の夢を見ることを知ってしまったからだと思う。
ちゃんとした別れが出来なかったからこそ、初雪は復讐に走ってしまったのかもしれない。

ていうかさ! 桜は目に見えなくなっただけで消えたわけじゃないんだなと思ったよ。だって初雪が「ありがとう」と言ったあとに「むほん!」っていう切り返しが出来るんだもの。

 

 

 

 

卒業式・シロクマ・あずま・希・綾・ラン

 

「……おい、まだ言ってなかったな」
「……え?」
「合格おめでとう」
「……」
「あ」
「ありがとう」
「がんばれよ」
「うん!」 

―――シロクマ、初雪

 あの初雪が誰かを「応援」しているなんてねーなんて、にやけてしまった。

 

 

「何の得にもならない仕事を、誰よりも一生懸命にこなしていた姿は、なんだかんだで、いろんな奴に伝わってるってことだろう」

「ああいう風に、どうでもよさそうなことを、一生懸命考えてくれる奴ってさ、きっとそれまでもあれからも、希しかいなかったら」
「きっと、そういうのが…」
適当に、耳当たりのいいことを言ってやろうと思ったら…なんでか、俺は口ごもってしまった。

「……」
「そういうのが、あれだ。親友なんだと思うから」
「しししし、親友!?」 

―――初雪、希

 あの初雪がこうも素直な言葉を言ってくれるなんてね。

 

「なぁ、あずま。お前さえ嫌じゃなければ、いっぱい、メールしような」
「……え?」
「今の時代、学園が一緒とか、あんま関係ないよな。学園でも、気が向いたら、休み時間に送ってくれよ」
「……ちゃんと……返事、してくれるんですか?」
「するよ」
「いろんなこと、書くよ」
「ちょっと、優しい感じで、してくださいね?」
「がんばるよ」

 ~
「はい……ぅ、ひ……」
「じゃぁ、とりあえず」

メール『先輩言われて、嬉しかった。最上級生になってもがんばれ』

「 …………」
「びゅあぁああああ!!!」

メールだ……
メール『先輩の後輩になれて、良かったです』
「うん」
あずま……
じゃぁ早速返信するよ。
メール「先輩の興亜日になれてって、なんか、変だな。そりゃそうだろっていうか」
…………

「びえええ!!」
「ひぃぃ。ごめん、あずま!」

ありがと。お前に先輩言われて、きっと、楽しかった
 

―――あずま、初雪

 あずま可愛いなこんちくしょー!

 

 

廊下の角で、誰か立っている。
「久美子……」
「ど、ども……」
「……」
「……」

と、いつものおびえ顔でこちらをうかがいながら……少女はかすかに、笑った気がした。
そして、光の向こうへと消えていく。

―――初雪、久美子?

なんか気になる描写だな……。光の向こうへ?……久美子はゴーストだったっていうことないよね?…… 

 

 

 

「あんた、退学退学言って、俺をいろんな行事にけしかけて……」
「その流れで、最後に俺にまっとうな学園生活遅らせようとしていたとか、じゃないよな」
「はは」
「河野、お前、意外とメルヘンなんだな」
「いいぞ、全てを美化して美しい思い出にかえていくがいい。それが未来を生きる知恵というやつだ」
「うざいな……」

―――初雪 来栖

 いいじゃんそう思いたいんだよ。そう思わせてよ。

しっかし来栖はほんと何考えているわかんらんちんな人だったよまったく。いっつも煙に巻くような言動ばっかりで、心の端っこすらも掴ませてくれないようなそんな感じ。

この人は……この冬にどんな思いを持っていったんだろうね。楽しかったんだろうか。悲しかったんだろうか。

 

「あと、お前……先日の夜、うちの前まで来てたか? なんか声を聞いたような気がして」 
「知らん」 

―――来栖、初雪

 
結局来栖は、佐々木の爺を校長としてではなく、初雪の復讐相手だと知っていたんだろうか? また初雪が「ゴースト」とゆかりあるものとして認識していたんだろうか。

来栖が去年からずっと初雪のことを構っていたのは、佐々木の指図? それとも来栖本人の意志? 分からないが……どっちでもいいのかもしれない。

 

「河野」
「ん?」
「……」
「退学おめでとう」

―――来栖 

 ありがたく。

 

 

 

「それに……なんていうか、卒業式に心残りがあったんだ。それで、つい来てしまった」
「いや、卒業式自体に、だよ」
「学園生活には何の未練もない。そもそも、別に希望なんてなかったからね」
「あのときは、気づけなかった何かが、あったのかもしれない……」

「卒業式の日、私は感じたんだ。卒業の神様の存在を」
「それは、本当は……感じるだけではダメだった。あのとき確かに、見つけるべきだったんじゃないかって思った」
「今日この日、ここに来れば、あるいは、ってね」

 

―――綾、初雪

 

綾が去年の卒業式に感じた神さまって、以前Prologueでいっていた「卒業の幽霊」と同じだよね。

 「そうして、ゴールした歓びを一番に伝えたい、分かりたいのはその人なんだ」

 初雪に卒業した喜びを伝えたかったけれど、伝えることができなかった。そもそも「初雪に伝える」という考えすら浮かんでこない状態だった。でもやっぱりすんごいもやもやしていたんだよってことを言っているように見える。

 

 また初雪も、伝えられなかった言葉をちゃんと口にしようと思えるようになったのって、なんかすごいなーと。

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本当は伝えたかったんだ
「お前が……綾が覚えていようが、覚えていまいが」
「……ゆきち」
「恋人だったとか。それは別にしても……」
「感謝していたから、伝えようと思った」
「だから……」 

卒業おめでとう。綾

「……」

「やぁ。未練が消えてしまった」
「これで私も、晴れて卒業か」
「じゃぁゆきちも」
「ん?」
「卒業おめでとう」
「……」
「おう」

―――綾、初雪

 

 

去年の卒業式にあった綾の未練って、初雪の「おめでとう」の一言だったんだなって。

 

 

「……じゃぁね」
「ゆきち」 

―――綾

 
ここで綾とは別れちゃうんだよなー……。もう恋人にはなれないんだろうか……いやそんなことないよね……。

 

 

 
サクヤ

「あの子の代わりに、来てみようかと思った」

 

 

初雪に現実を実感させるってこと

 

「どうして、あの子が全てを忘れ、あなたの前に現れたのかなんとなく分かる気がするの」

「それはきっと……過去からあなたに呼びかけてもどうしようもなかったから」
あなたを春に導きたいと思うなら
「もっと、あなたに実感させることが大切だった。そこにある生活を、人とのつながりを。未来を感じて欲しかったんじゃないかって思う」

「だから桜はああやって、あなたと過ごしたんだと」

 

―――サクヤ

 
買いかぶりだと初雪は言うが、私もサクヤと同意見だったりするのだ。観念的な世界(初雪的には狂気)に傾きすぎている場合、実体の世界(現実)をもっともっと深く手に取るように実感させることが大切だと思うのだ。

自分がこの地面に立っている体感が、生きるっていう感覚へと変わると思うから。そしてそれが歓びに繋がるものになったのなら、こっちの世界を選ぶはずだから。

初雪に投げかけるのは言葉ではなく、触れ合いだったんじゃないかなって。

 

 

 

サクヤの気持ちを桜とだぶらせているように見える

 

「はじめて会った時のあの子は、とてつもない呪いをはらんだ、ゴーストだった」
でも本当は、誰も……そんなものになるために、この世にとどまりたいなんて思わないわ」

ひとひらの桜の幻のように」

「まだ見ぬ春から、優しい笑い声で、あなたを導く、尊い精霊のようなものになりたいと、あの子は思ったのかも知れない」

 

―――サクヤ

 

"でも本当は、誰も……"の部分はサクヤ自身を桜と重ねているように聞こえる。桜の境遇とサクヤ自身の境遇は似ているのかもしれない?

サクヤのルーツが不明なゆえに、もしかしたらという想像が働く。

"まだ見ぬ春から、優しい笑い声で、あなたを導く、尊い精霊のようなものになりたいと、あの子は思ったのかも知れない"

 

 これはもしかしたらサクヤもそう思っているふしあるなーと。というかサクヤ自身の言葉のようにも思える。彼女はちょくちょくと「コノハサクヤの名にかけて」と言うからだ。

 

 

 

 

 

サクヤのお役目とはなにか。カスガの総代

 

  お役目ご苦労様

 

「カスガの総代として……あなたを、召喚させていただいて……3年近い付き合いということになるでしょうか」

「私もこの役目を卒業させていただき、次の者にたくそうかと思っているのですよ」

―――宮棟

 

 カスガの総代とは、カスガの代表者ということだろうか。カスガって霊媒技術を駆使した内田側のものだよね? それって初雪や大野や桜と同じ身内ってことじゃあないの? ん?

ここらへんがほんと意味わからないんだよなあ……。
シロクマを監視している連中は、彼女を姫と呼び、自分たちをカスガと呼んだ。

なにじゃあ「カスガ」って佐々木川の連中ってことなん?


+++

サクヤは宮棟に召喚されてから「3年」経ったという。それは初雪が高校1年生のときランが討たれた年とドンピシャではないのか?

ふむ。

こう考えられる。サクヤという存在は「ゴースチャイルドを討滅する為だけに召喚された」と。これが事実だとするならば、どういう答えに行き着くだろうか。

→佐々木はゴーストチャイルドの力により内田川邊市が呪いに覆われることを危惧していた。しかし相手は幽霊である。生身の人間では戦うこともまた対処の仕方もわからない。

そこで宮棟に任せたのではないだろうか。宮棟と佐々木の関係がよく分からないが、宮棟が佐々木をさん付けで呼んでいることから上下関係はあるのだろう。

そして宮棟は、ゴーストチャイルドを討滅できる対抗策として「コノハサクヤ」を召喚する。それが3年前。

こんな感じなんじゃないだろうか。



補足としてコノハサクヤは本名ではなく、後からつけられた名前だと本人や宮棟は言っている。冬を終わらせるもの、春へと導く存在として当てられた名前なんだろう。

+++

宮棟は役目を果たしたらしい。宮棟の役目ってなんだろう? この街を守るとか? 召喚術師としての責務とか? あるいはゴーストハンター的な職務から?

宮棟はほんっとーーに一切謎だった。

 

 

 

 

 無垢と呪いと少女と愛

 

「精霊様はなんだか、思っていたよりもずっと、可愛らしい方でしたね」
「とても、この地を鎮めてきた、古の神さまとは、思えませんでした」
「とはいえ、そういうものかもしれません。桜という少女があれほどの呪いを持つこともできたのも……無邪気さゆえだったかもしれない」
「もっとも大きな慈愛も、もっとも大きな憎悪も、無垢な心からこそ、生まれてくるのかもしれません」

 

―――宮棟

 
あーそうか。あの時、桜が現世に一瞬だけ蘇ったとき、宮棟たちにも「姿」が見えていたのか。

サクヤとの契約に依存しない、「生者復活」という行為。玉樹桜はいかにしてそれを成したのか。

+++

もっとも大きな慈愛も、もっとも大きな憎悪も、無垢な心からこそ生まれてくる……か。

宮棟はそういったあとに、「なぜか」サクヤの話しをする。

 

 

「サクヤ。あなたはこれからも……いくつもの季節を巡っていくのですね」
「進めなくなった者が取り残されるわけではない。永遠に進み続ける者こそ、終わりのない、孤独な旅を続けなければいけないのかもしれない」
「そういう運命を、あなたは、淋しいと、思ったことはありませんか」 

―――宮棟

 

 まるでさっき話した桜の出来事が、サクヤという女の子にも関連していそうな口ぶりじゃないか……。

1,"精霊様はなんだか、思っていたよりもずっと、可愛らしい方でしたね"

 
桜のことを話しているみたいだが、もしかしてサクヤのことも言及しているんだろうか、穿ち過ぎ?

 

 

サクヤの恋

 

「今回のあなたはどうも、最初から最後まで彼に甘かったみたい」
「え?」
「桜の脅威がなくなった時点で、もっと簡単に河野初雪を無力化する方法はあったはずでしょうに」
「なんだか、いろいろと回りくどいことをして……あれではまるで」
「……」
「なに?」
「この冬に」
「恋をしていたのは誰でしょう」

 「……………え?」 

―――宮棟、サクヤ

 

 サクヤがした回りくどいことって、「初雪に桜の物語を聞かせた」ことだろうか。

あれは宮棟の目線からすると確かに要らないものかもしれない。さっさと初雪の中にいるゴーストを討つか、彼自身を討滅すればいいのにと思っているのかも。

サクヤが初雪に桜と契約したときのことを話したのは、初雪を「正気」に戻したいからだよなー……。復讐なんか諦めて、現世に執着して欲しい気持ちゆえだと思う。

ただサクヤ自身も後に言うが、「過去から語りかけてもダメ」だよねと。あれはサクヤ自身の経験からきた言葉だったんだろうと今にして思う。サクヤはあのとき初雪を過去の訴えからどうにかしようとしたが、結局はダメだったから。


 

 

 サクヤはなにを言っているんだろうなあ……

 

「……私は、ウサギとして……」
「あなたの過ごした冬を眺めていたわ」
「あなたが見せてくれた世界は、なんだか楽しそう」
「……」
「河野初雪だけじゃない。私も……」
「私もあなたに導かれた一人だったのかもしれないわね」
「だからこそ、ここに立っている」
「……」
「卒業おめでとう。桜」 

―――サクヤ

 
サクヤもまた桜に導かれたという。

1、桜が過ごした「冬」を楽しそうだという。
1、桜が見せてくれた「世界」を楽しそうだという。
2、だからこそ、ここに立っている。

サクヤは何をいっているんだろうなあ……。
サクヤもまた死者でありゴーストだった。けれどこの「卒業式」の場所にたっていることは、生者への復活を意味しているとか?

 

 

 

ランとの再会と別れとまたね

 

この樹の、反対側に彼女がいる。
けど俺は……回りこんで、彼女と向かい合うことは出来ない。
それを、彼女は望んでいないと分かるから。
「ラン、か?」

「姿、見せてくれないか」
「……」
「ごめん」
「そう、か」
「…………ごめんね」
「いいよ。ランが、嫌なら。いいんだ」

 

やっぱりランは、人前に自分の「顔」を見せることに躊躇いあるよねー……と。 初雪の前だとよけいにそういう思いが強くなるのかも。

「……その」
来てくれて、ありがとう」
「ランのおかげで、ここまで来れたよ」
「…………」
「なぁラン。お互い、いろんな事情があった。隠していたこともあった。」
「でも間違いなく言えることもあった」
「俺たちは、家族だった」

「え?」

「たった2人の……家族だった」
「……」
「いつか……」
「いつになるか分からない。ずっと先になるかもしれない」
「けど……いつか……」
「俺と、会ってくれるか?」

「…………」
「……うん」
「待ってるからな」
「……ラン」
「うん……」
……
少女がその場を離れ、歩き出したのが分かる。
そして、小走りに駆けていく音が響く。

―――初雪、ラン

 
いや……そうか。ランは学校まで「来た」のだ。ひと目が多いこの日この場所にわざわざやってきたのだ。自分の痛々しい顔など誰にも見せたくないと思っているであろう彼女が、初雪の卒業式にやってきた。

でも初雪の前で顔を出さないっていうのは、初雪のことを強く強く意識しているからだよねと。パーティーの爆発が起きル前の、愛らしい自分しか見ていな
い初雪に、今現在の自分の顔を見せるのってやっぱり嫌だよなー……って。

なんか幻滅されたり引かれたりしないか不安だよねきっと……。


けれど初雪と「いつか会う約束」に頷いただけでもランはすごいなと思えます。だってそれは自分の欠損を乗り越えることだと感じるから。自分が執着しているものを見つめようってことですから。

 ランと幻想

風が吹いた。
何が気になったのかは分からない。分からないが、何かの拍子に、俺は振り返る。少女もまた、ちょうどこちらを振り返った瞬間だった。
そうしてまた風が吹いた。

目元にかかっていた少女の前髪をそよぎ、その下からわずかに涙を含んだ黒目がちの瞳が現れた。
そこにはもういないはずの少女の姿を見た気がした

「初雪」
少女は高々と手を振りながら、

「めでたいからって、お酒飲んじゃだめだよ」 

「卒業おめでとう!」

―――ラン 

 
誰かを応援すること、そして応援されることそこに鍵があると思った。

そしてはつゆきさくらは本当に狂気から垣間見る一瞬―観念的世界―を何度も映し出す。そこに意味はあるはず。

 

 

 

桜の復活

 

 「あれ……」

身体を押し潰していたおおきな重みがいつの間にか消えていることに気づいた。
ゆっくりと、身体を起こす。
全身をさいなんでいた苦痛も、すっかりと消えてしまった。
それよりもずっと、軽くて……なんだか、吹きすぎていくそよ風に、のっていけそうなぐらい。 

ふらりと、私は外にでる。
ここはどこだろう。
私は誰だろう。

光だ。
桜の花ビラが光をまとって流れていく。
春だねぇ。

誰かのうれしそうな声が、聞こえた。
私はかけていく。
言わないと。
最後にもう一言だけ。
卒業おめでとう。

でも……
誰に、そう伝えたいんだろう。

 

光の向こうに揺れる誰かの輪郭は、白くぼんやりと浮かぶだけで、はっきりとは分からない。
分からない。

…………雪。
雪。
あなたは誰だったか。
雪。
今の私にはもう分からない。
けど……
胸には確かに、とても楽しい、いくつもの思い出の余韻が。

「愛してました」
「あなたを愛してました」
「めぐる春夏秋冬の中で、あなたを愛し続けていました」

「あなたに見えなくても」
「声が届かなくても。触れられなくても」
「あなたを愛していました」

 

春に、少し不安そうに踏み出すあなたの背中を押してあげたかった。
夏に、汗をぬぐうあなたの頬を撫でる風邪になりたかった。
秋にまどうあなたの手を握りたかった。
冬に、こごえるあなたを温めたいと、願っていました。

 

だけど……
そうか、もう終わるんだ。
あなたを愛し続けた季節が、終わろうとしている。
あぁ……なんだろう。
とてもまぶしくて暖かい。
きっと。
これが、春なんだ……

……

誰もいない通りを、私は走って行く。
何かに触れたくて、私は手を伸ばす。
伸ばした手の指先はどこにも届かないけれど、そっとひとひらの雪が撫でていった。

 

もう降らないはずの、いつかの雪の感触が。
どうして私がここにいるのか、どうなってしまったのか分からない。
けど、記憶の先の先には、とても優しい思い出があった。

 

そこでは、誰もが笑っていた。
そうして私は……

好きな人と手をつなぎながら、歩いていた。 

「ねぇ知っていますか」

「生者が死者の夢を見るように」

「死者もまた、生者の夢を見るんだよ」 

眩しい世界を眺めながら……
それは、初恋の思い出。
この手に触れたと思った瞬間に、消えてしまった。
初雪の思い出 

 

―――少女・桜

 

 

 

廃ホテルで桜は目覚める。

目覚めた時、自分が誰でどうしてここにいるのかが分からなくなっていた。ただ全身をさいなんでいた苦痛がなくなったことは知覚できるらしい。

 

これはお母さんの言ったとおりのことが起こっているのだろう。桜の母はいった。あなたが役目を果たせば明るい場所へと至れるからと、そのことを私が保証するよとも。

 

つまり桜は巫女としての役目を果たした。あるいは彼女が果たしたかった役目を果たしたからこそ、桜は「明るい場所に到達できた」。

 

最後のご褒美みたいな感じなのかもしれない。

頑張ったからこそ今このときの場所に来ることが出来た……か。

 

+++

 

桜は記憶を失っているのか、卒業おめでとうという言葉を誰に言いたいのか分からなくなっている。

 

これはなんだか「卒業の幽霊」の逆バージョンを彷彿してしまう。

卒業の幽霊は誰かに「ありがとう」を言いたいんだけれども、それが誰なのかは分からない。

 

桜が陥っているこれは誰かに「おめでとう」を言いたいんだけれども、誰なのかは釈然としない。でも確かに言うべき相手がいるという確信。

+++

 

"胸には確かに、とても楽しい、いくつもの思い出の余韻が。"

 

ここはシロクマ編の校長先生の言葉を思い出す。もしゴーストが囁きかけてきたなら、胸の内にある明るい思い出で照らせばいいんだよと。

それを道標にして歩けばいいのか。にゃるほどねー。

 

 

 

"誰もいない通りを、私は走って行く。

何かに触れたくて、私は手を伸ばす。

伸ばした手の指先はどこにも届かないけれど、そっとひとひらの雪が撫でていった。"

 

ここは「ONE」の七瀬留美との最後を思い出す。誰もいない通りを走っていく感じがさ。どこに行くのかもどこに行けばいいのかも分からないけれど、楽しいことが待っているときはそんな感じなのかも。

 

 

"ねぇ知っていますか。生者が死者の夢を見るように。死者もまた、生者の夢を見るんだよ"

 

桜がいう「夢」とは、自分が初雪と過ごしてきた最後の冬の記憶のことだろう。それは現世のことなのか、それとも思い出というだけのことなのか。ともかくそんな眩しい世界の思い出を胸に、これからも存在し続けていくんじゃないだろうか。

 

すると初雪も桜と過ごしてきた最後の冬の思い出or桜が見せてくれた狂気の一瞬を道標に生き続けていくのだろう。あたたかい夢で心を照らし続けながら。

 

 

 

 

 

 悪くない思い出だった

「……」
「桜」
「こうして……思い返したりしてると」
「は。どれもこれも悪く無い思い出に見えてくるから、詐欺みたいじゃねぇか」
「……」
そういうこと、なのかなぁ

前に進んで振り返ってみたときこそ、当時は何かに曇っていた風景がやっと、明晰に眺めることが出来るのかも知れない
だから進まなければならないのかもしれない。

自分と、全ての懐かしい人達に報いるために。 

―――初雪

 

 祭りのあとの教室 だれもいないあとでしみじみと思う初雪。

 

 

 アルバムがなぜかある

 

  「?」

一冊のアルバムが置いてあるのを、見つけた。
「これは……」
なんでこんなところに。
進路指導委員で作ったもう一冊の卒業アルバム。
希の話しでは思いの外、購入を求める声が多く、かなりの生徒分作ったらしいが。
誰かが、こんなところに置き忘れていったのだろうか。

―――初雪 


なんで教室の机に進路指導委員アルバムが置いてあるんだろう?

……桜のしわざとかかな?
それともこれは幻なんだろうか。ちょっとだけ可能性あると思う。

 

 

 そうだ。写真……
写真にあいつは、映っているんだろうか。
あずまの話では、桜が映っていたほとんどの写真が、使い物にならなかったらしいが。

「……」
……そっと、アルバムを開く。

そこに……
「……」

 

もう一度だけ会いたくて。
今日という日だけでも、こうして見つけられたことが、うれしくて。
例え、幻だったとしても。
ページの最後に、編集者コメントという欄があり、なにやらポエムじみた文章が載っているのを見つけた。
あぁ、桜に頼んでおいたメッセージだ。

「ちゃんと書けたんだな。編集長」 

顔をあげると、机の上で得意気なほほ笑みを浮かべる、桜がいた

まーかせて

俺たちは、2人顔を寄せて最後のページに目を落とす

  

 

「めぐる春夏秋冬」
「終わる1095日」
「それは幻のように、通り過ぎてしまうのだろうか」
「ゴーストのように、消えていくのだろうか」
「けれど桜のように」
「未来へ、再び花開く予感を残して」

 卒業、おめでとう―――

 

そして 「WhiteGraduation」流れる。

いないはずの桜が初雪の目の前に現れる。

そうかこれは「眩しい思い出」としての再現なんだ。 

 

 

 

「どんだけ、がっついた心霊写真だよ」

「桜」

 

 

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"White Graduation" 

 

 

 

fin