猫箱ただひとつ

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シロクマ 感想 (26088文字)

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それが答えだ!





▼ あとこれは「はつゆきさくら」の考察記事です。

『はつゆきさくら』_初雪が春へ至るためには何が必要だったのか? 死者は何をもって生者へと復活できるのかを考えてみた(21461文字)  



 

シロクマ可愛い

 


「あせらない……ゆっくりがいい。女の子だもん」

 


「悔しいっびくんびくん」

癒されるのだ。

 

 

 

軟禁と家

 

 


「分からないけど、ずっとそうだったから……」

「夕方以降は外出るなって?」 

「うん。家でもそう言われて、暮らしてたから」

「昔からそうだから。もう、あまり考えることもなくなったけど」

 

―――シロクマ、初雪 


 2年前の冬……私は唐突に、祖父から家を出て九州の別荘で暮らすように言われた。 

理由を聞いても、お前のためだ……と言うばかりで教えてくれなかった。 

だけど、昔からろくに学園に通わせてもらえずに、家に閉じ込められて暮らしていた私はそんな勝手な命令にとうとう爆発した。 

そうして、家を出た。

 

推測するに、祖父は……自分が命を狙われていることを知っていたのだろう。そして、その累が、家族である私に及ぶことも。 

自宅すら、安心は出来なかったのかも知れない。それで私だけでも、遠い場所に非難させておこうと思ったのかも知れない。

私はそれが嫌で家を出て……あの喫茶店にたどりついた。

 

でもあの店で、私の面倒をみてくれてた店長は、まさに祖父の命を狙っていた張本人だった。 

あれは偶然だろうか。

…… 

―――シロクマ

 
・夕方以降は外出禁止。
・昔から学園に通わせてもらえず家に閉じ込められる。
・家にいると危険。ゆえに祖父に勉強合宿に行けと言われる。

・誰にも素性を明かしてはいけない

・母親はいない。父親はいるが、シロクマに関心がなさそうである。進学してもしなくてもいいらしい。
・家を飛び出し、シロクマはあの喫茶店に辿り着く。


シロクマのこの意味の分からない軟禁生活は、初雪達ゴーストの因縁と深く結びついているのか……。

つまり、ホテルホッシェンプロッツで起きたパーティーの事件。あれから内田側は川邊側に復讐の感情を抱いた。川邊側の頂点にいる佐々木に怒りを覚えた。血みどろの抗争に至ることになるんだろう。

戦って殺してバラして。
だからこそ、佐々木の孫である「シロクマ」は軟禁されていた。孫が傷つかないよう取った佐々木の処置だろう。


孫が傷つかないように? シロクマを想って軟禁していた? ……はははは。



 

 

 

 

シロクマの匂い


「お前、初対面の相手に、匂いかがずにはいられないのか」 

「そ、そういうわけじゃないけど。ちょっと気になって」 

「でも、あれ、この匂いは……」 

「なんだよ」

「うーん、でも、もうずいぶん前のことだし。気のせいかな」

―――初雪、桜

 
シロクマから嗅ぎとった「匂い」はなんだったんだろう。桜の言葉からすれば、それは以前にも嗅いだことのある匂いみたいな言い方である。

1つ。佐々木議員と同種の匂いを嗅ぎとった。親族なので匂いもまた似ているのかもしれない。


桜の記憶からして「前」って、どういうことだろう。彼女はずっとあの廃墟ホテルに居座り続けている。その前は生者として。……ふーむ。別にとくだんおかしなことはない……か。

 

 

 

 

お子様ランチ食べたい

 


「先生」

「シロクマ」

「1人お子様ランチは、どうするの」 

「……」

「シロクマ、昔食べてたお子様ランチを、食べたくなることがあるんだけど……さすがにちょっと恥ずかしい」

―――シロクマ、初雪

 
私もたまに食べたくなるなあ……お子様ランチ。たぶん今食べても、お腹は膨れないだろう。量がお子様用になっているわけですし。

でもあれは「夢」を買い戻しているような……そんな気分に浸りたいのかなあとか。いやいや違うよ、わくわくきらきら感を味わいたいだけだようん。

 

 

 

 

追い求めることこそ、答え


「Xが笑っている。Yが泣いている。答えが見つからないと、泣いている」

 

「それでも、たどりつかなければならない」 

「たとえ、物理法則を歪めてでも……」 

「手に入れたい真実がある」

「全ての因果律を超えて、ただ、たどりつきたい」

 

「それが、答えだ!」

 
おふざけのような雰囲気で語るシロクマであったが、その実、深淵深いなにかがそこにはある気がする。

答えが見つからない。でも辿り着かければならない。
手に入れたい真実がある。すべてを歪めてでも。
それ自体が、答えを追い求めることこそが「答え」。


これはこういう風に言えるんじゃないだろうか。

―――どこかの景色に至りたいのならば、追い求めろと。

つまり、「がんばれ」と。

 


「見つからない……答えが、見つからないよぉ」

「この手のひらを、零れ落ちて、失ってしまった」

「答えが、どこかに行ってしまったんだよぉ」

 

「いくつもの出会いの果てに、たどりついた」

「かけがえのない答え」

「この年を決して、忘れないだろう」

 

「いくつ季節がめぐっても……」

「1392年。いざくにとうおいつ、南北朝

「振り返れば、いつもそこに君がいた」

 

―――シロクマ

 

 

最後の振り返ればいつもそこに君がいた。というのが桜のことを指し示しているようでいいなあと思う。

 

 

 

 

 

単純な理由でもきっと大切なこと


「あんな学園生活送れたら、楽しそう」

「単純な。ちょっとちやほやされたら、それか。そんなノリで、3年間を過ごす場所を決めるとはな」 

「そうは言うけど、ゆきちだって、何かこれという目的があってあの学園に入ったのかい?」

「いや……俺は……」

「なんか学校見学に来とき、よさげだったから」

「ほら」 

良いとか悪いとか、あんまり考えすぎると結局、何も出来なくなっちゃうよ

 

―――シロクマ、初雪、綾 

 
なにかを"見た"とき、そこにピンときたものがある。わくわくすることがある。それは人から見れば些細で仕方のない単純な事柄なのかもしれない。

理由に論理性はないからだ。でも、それって大事なことなんだよね。心のままに感じたことを、心のままに行動する。 忘れがちで消してしまいがちなことだけれど、忘れないようにしないとって想った。

 

 

 

 人と会わない生活


「2人とも、優しいね」 
~~

「ううん。優しいよ……ぅ、ぅ……」 

「シロクマ、こんなにやさしくされたことないから」

「家では……部屋の中で1人で、ほとんど誰ともしゃべれないし」

「だから、ゲームばかりやってたし」

―――シロクマ

 
怒りが浮かび上がってくるんだが。佐々木は自分たちの諍い事に、孫を巻き込みあまつさえ孫の自由を奪い取るその在り方が。

閉鎖的な環境は、心を蝕んでいく。他者との交流がない場合それは顕著になる。誰ともなにかを"共有"することが出来なくなるからだ。

気持ちや考えを誰に伝えることもなく、自己ですべて完結してしまう。……なかにはその環境が心地よいという人もいる、けれどシロクマはそれを望んでいるわけでもない。

そういうどうしようもない理不尽に絡め取られ、最後には「全部自分一人でどうにかしろよ」みたいな環境に置かれても、そいつはもうどうすることもできないじゃないか……。

  


「シロクマ、あんまり外に出ちゃだめで、お屋敷で暮らすことが多くて」

「お手伝いさんとかいっぱいいて、なんでも言うこと聞いてくれてた。欲しいものはなんでもくれて」

―――シロクマ

 

 欲しいものを与えられても……それはだんだんと「欲しく」はなくなり「欲しい」とさえ思わなくなり「嬉しい」という感情も綻びかせていくと私は思うんだよ。

外界から廃絶された人間は、感受性が乏しくなってしまうのは―――……。

けれど、でも、しかし……。

 

 

 

そのままだとゴースト


「お前、それならいっそ進学しなけりゃいいんじゃないか。家は金持ちそうだし、のほほんと暮らしてろ」

「本当は、進学なんてしたくないって思ったよ」

「でも、お勉強はやめなかったよ。家で一生懸命自習してた。ゲームばっかりやらずに、お勉強してた」

このまま進学しなかったら、なんか逃げてるみたいでくやしいから

―――シロクマ

 

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 母親はいない。父親はいるが気にもかけてもらえない。祖父は自分の願望を口にするばかり(ようにしか見えない)。

学園にはいけない。お手伝いさんはいても、他に喋る友人などいないそんな閉鎖的な暮らし。

こんな環境で、「逃げてるみたいでくやしい」という気持ちを覚えるのって、けっこう凄いことなんじゃないのかな?と思う。

この「逃げてる」という感情は、倫理観に基づくものだと考える。つまり周囲の平均化された価値観を、シロクマも持っているということ。倫理観を養うには、大勢の人間と交流をしなければならない。でもシロクマは当時そういう環境ではなかった。

なら幼少期に育まれた、ものと見るべきなんだろうか。パーティーの事件が起る前、内田川邊・両者が抗争をする前。シロクマという女の子は、ふつうに暮らしていたんじゃないかと想像する。

学校に通って、友だちと遊んで、話して笑って……。もしかしたら母親がいないのは、血みどろの抗争に巻き込まれて命を失ってしまったのかもしれない……。

そう考えると、佐々木(祖父)の思考が読み取りやすい。シロクマの母親は、佐々木の娘でもあるのだ。自分の娘が内田の何者かに殺された、ならば、その孫娘であるシロクマの安全を重視するのも当然の流れかもしれない。

 

 


「気づかなければ、

お前そのうち、ゴーストになっていたな」

「お前みたいに世間に馴染めなくて、逃げて逃げて逃げ続けて、結局どこにも居場所がなくなって、幽霊みたいになっちまった奴を知ってるぞ」

 

「この世にあるもの、全部から逃げまわってると、そのうち肉体はこっちにあるのに、肝心の魂は……どこか、別のセカイにいっちまうんだよ」

 

―――初雪

 

 

アキラのことか?と思ったけど、これは初雪の実体験か……。

この世にあるもの全部から逃げていると、肉体はこっちにあるのに、肝心の魂は別の場所に行ってしまう……。

それが初雪が言う「ゴースト」。

別の言い方をしてみる。これは「実体と観念のバランスが崩れた」というものなんだろう。


私達の世界は存在している。手、身体、空気、水、光、それはすべて実体がある。反対に「何もない」けれど「意味」を持ったのが、『観念』という言葉になると私は思う。

人間は、実体と観念両方の世界を見ることができる。例えば、朝に雪が降っていたとしよう。ひらひらと舞う白い欠片を見て、そこに「はつゆきさくら」を思い出してしまえば、それは『観念を観ている』ということになる。

ただの雪に、はつゆきさくらの映像が浮かび上がってくる。それは実体と観念両方を同時に観ていることの証なんじゃないだろうか。


そしてこの2つのバランスが崩れると、生きているのに死に続けている状態になりやすい。


例えば、実体を重視すると、そこに存在するかしないか、あるかないかでしか物事を判断できなくなってしまう。効率や実利そういうものに全ての価値があると思い込んでしまう。

そうなったら最悪だ。ロマンや夢に高揚感を感じることができなくなってしまう。観念のきらきらわくわくした気持ちを忘れてしまう。友だちとの情や愛とか好きとかそういうものにさえ魅力を感じなくなってしまう。

実体側に傾きすぎた人は、灰色の乾いた景色を観ているように思う。いつもどこかざらついてて、楽しくもなんともない……と。



逆に観念側に心のバランスが傾きすぎると、今度は実体に価値を求めなくなってしまう。つまり、「現実なんかどうでもいい」そういう諦観が生まれやすい。

観念にある「なにか」に到達しようとしたり、それを実現するために現実をないがしろにするようになる。

ランを取り戻すために、春に至れなくていいと嘯いた初雪のように。

 





 

 

 

 立派ですね

 


「ただ、さきほどのあなたの言葉」

「子どもに大層な役目を背負わせて、振り回すのは感心しないと……」

「私には少々こたえる言葉でした」

「立派ですね」

 

―――オーナー

 

 立派ね。そうだね、立派……か。

今の倫理観でいわれる「美しい行為」。それが立派な行為なんだろう。子どもを助けるとか、善意て手を差し伸べるとか……。


 

 

 

出来たじゃねえか

 

 


「び……びくん、がる……しろ? びくん、しろ……しろ……しろ」 

「ふ」 

「出来るじゃねぇか」

 

「あ……」 

「ナイーブなシャケクマ。出来たじゃないか」

 

「店長のおかげだよ」

 

―――初雪、シロクマ

 

 大いに笑った。ここまでくると初雪もノリノリである。というかノリノリなことに自覚していないノリノリである

 

 

 

誰かのために

 


「シロクマ、生まれてはじめて、誰かのためにって思ったよ」

 

あややと店長が応援してくれて、もっとちゃんとしたいって思った。この人達のためにって思った」

 

「悔しいとか、つらいとか……そういう思いばかっりだったけど、それだけじゃなくて……」

 

誰かに喜んでほしいからがんばる……がんばれることもあるのかなって、思ったよ」

 

―――シロクマ

 

「誰かの為に」、きっとそれは立派な行動なんだと思う。それにその行動に殉じていると満たされる感覚も分かる。

けれど……この「誰かの為に」という動機は、とても危ういものだとも感じたりする。

内発的動機ではない外発的動機だから。自分の為にではなく誰かの為に。

 

 

 

 店長がいない学園

 


「学園生活させてもらった時から、いろんなこと考えて、夢にも見たんだよ」

「あの人達や、それに店長と学園生活送る夢」

 

「てめぇが入学出来たとしても、俺は卒業してるからな」

「そうだけど。店長がいた学園、通いたい」

「そうなればいいな」

「うん!」

 

―――シロクマ、初雪

 

シロクマが白崎学園に入学しても、店長こと初雪はもういない。
でもそこに行きたいという。

シロクマにとって「店長がいる学園」に価値があるのではなく、「店長と思いを共有する場としての学園」に価値があるのかもなと思った。


白崎学園ってここがいいよね! とか
店長が語った思い出話ってここで起きたことなんだ! とか

そういった初雪の残滓が感じられる場所。また初雪と学園を通していろいろ話せることにワクワクドキドキしてしまうんじゃないだろうかにゃ。 

 

  


「我慢するけど、暑いから……ぷち」

 

―――シロクマ

 

 初雪がシロクマの面倒を見ると、シロクマ落っこちゃうのは明らかに恋わずらいのせいですええw

 

 

 

 

 それでもやってはいけないこと


「大丈夫だ。俺は憎むよ。この街を……あの人達の、魂を踏みにじって生きる全ての連中を、許しはしない」

 

「それでもやっちゃいけないことはある」

「勝手な事情で閉じ込められて、外の世界に触れさせず、ついに居場所を見付けられないような人間にしたてあげて」

 

「こいつは……てめぇらの諍いか何かのせいで、ほとんど家に閉じ込められて過ごして」

―――初雪

 

やっぱり「美しいと思っている価値観を大事にする」ってことが、重要な気がする。

初雪は復讐を是としながらもやってはいけないことを自覚している点、これが「初雪が美しい行為だと思っている価値観を大事」にしていることに繋がる。

復讐はありだ。でもその為にガキをいいようにこき使ったり巻き込んだりするのはナシだと。

 

 


「過去の始末をつけたいなら、ひからびたじじぃどもで勝手にやってろや。何も知らない奴を、道具みたいに使ってんじゃねぇ」

 

「こいつは……てめぇらの諍いか何かのせいで、ほとんど家に閉じ込められて過ごして」 

「世間に、馴染めなくて……」

人との、繋がり方が分からなくなったら、どうしようもねぇんだよ

 

「ガキを巻き込むな」

「無力なガキをいじめてはいけないって」

「なんで、そんな簡単なことを、考えられないんだ」

 

―――初雪

 

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 シロクマの在り方って、初雪と同じなんだよね。

復讐を望んでいるわけでもない。ただ「巻き込まれてしまった」という2点で近い存在だともいえる。

シロクマは佐々木の孫だからということで、被害に合う可能性が高まり軟禁された。

初雪は、父親とランに復讐の傀儡として育てられ続けた。もしかしたらシロクマみたいにあほぼ家に閉じこもって生活していた時期もあったのかもしれない。

世間に馴染めなくて
人との繋がり方が分からなくなってしまった二人―――……ね。

 

 


「あなたは怒っているのですね」

「我々に対しても」

「あの男だけでなく、我々をも、恨んでいたのですね」

 

―――ゴースト

 

ゴーストの群れに明確な怒りをぶつけたのって、これがはじめてじゃないか?
初雪がゴースト達にたいする恨みって、「シロクマと接して」芽生えた感情なのだろう。

 

 

 

 

 

 怒らないといけない理由

 

 


「なんでこの人、いつも怒ってるんだろうって、不思議で怖かった」

「でもさっきの店長見て、なんとなく分かったの。店長は、怒らないといけない理由があるんだなぁって

 

―――シロクマ

 

怒らないといけない理由……かあ。

相手が常に怒っている人。そういう気質の人、そういった性格の人―――と見るのではなく、「怒らないといけない理由がある」と見ることは、その人をちゃんと見ようとしている姿勢だなあと思った。


もしどうでもいい人だった場合、「あの人のいっつも怒ってるよね! ほんとさいあく!」「そういう人間なんだよきっと!」で終わってしまうからだ。

人にはそうなった理由がある。そういう行動を取らないといけない理由がある。決して「気質」と片付けるものではなく。


ただそういう見方をするのって、大事な人と思わない限りやらないよね……思考停止は悪いイメージと思われがちだけれど、時には大切なことなんだなと思うのでした。

 

 

 シロクマの告白

 


「シロクマは、子どもだけど……」 

「でも、店長のことが好きだよ」

「女の子として……好きだから」

 

―――シロクマ

 


「お前より、俺が問題だ」

「多分、俺の方が、分かってない」

「店長が、問題?」

「好きとか……そういうのは、もう……俺には難しい」

分からないんだ

 

―――初雪、シロクマ

 

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初雪は昔、綾を好いていた。懸想していた。恋を患っていた。

けれど……綾の存在と守ることと引き換えに、綾との蜜月の時間を手放さざるを得なかった。そして、その時をもってゴーストチャイルドの自覚をも得る。

……。

好きが分からなくなっているか……。

復讐への自覚を得るということは、それ以外の感情をすべて手放してしまうってことなのか……。


だから初雪は誰かを愛さないと、復讐に呑まれ狂っていってしまうのか……。復讐は怨嗟以外の感情を駆逐していってしまう。だからこそ、行動のすべて人生のすべてを「復讐という行為」に賭けてしまう。

ね……。

 

 


「なぁ。俺は昔、浪人が好きだったんだ」

 

 


「振られたら、好きじゃなくなる?」

「そうもいかないけどな」

「もう一度チャレンジしたりしないの」

出来ないんだよ、もう

 

「かといって、簡単に吹っ切れるものじゃないからな」

「だから……」

「悪いな」

「あ……」

「お前の気持ちには応えられない」

「……」

「分かった」

意外と、ちゃんとしてるな。 

「桜、咲かなかったね……」

 

―――初雪、シロクマ

 

 復讐を自覚するということは、怨嗟以外の感情を捨て去る。これを仮定して初雪の言葉「もう綾と恋なんて出来ないんだよ……」を見ると、とても納得できそうな気がする。

復讐に囚われていると、誰かを好きになんてなれない―――そう言いたいんじゃないだろうか。

 

 

 

 

なんぼのもんだい

 


「あぁ、健全健全。男も女も、相応の歳になったら、オナニーしてなんぼだ」

 

「ただい……?」

「前も言ったが、俺も浪人でオナニーしたことがあるし」

「……」

「けっこうな回数になるし。かなりとんでもない格好させてるからな」

~~~

「……いや、まぁ、いいんじゃない」

「男の子、なんだしねぇ?」

「まったくそういう対象外と言われるよりは、私も、ねぇ」

 

―――初雪、綾

 

ね、ねぇ?……。気まずい気まずい気まずすぎるぞw 好きな人に性的な目線で観られるのはいい。でももし好きでもなんでもない相手からの、性的な直視は怖気がたつと思うんですはい。

 

よくわからん奴から性的な目線で観られるのってもーただただ不愉快ですからね……。


綾はなんかまんざらでもない……ような氣もしないでもない感じだが果たして。
 

 

 

 

ラン登場

 


「ごめんね。もう、ダメなの」

「たとえ、さめても、あなたの悪夢は終わらないんだよ」

「あなたは、やり通すしかなかったんだよ」

~~~

「俺は、逃れられないんだな」

「生まれた時から今まで、ずっと籠の中だったってわけか」

「ごめん。ごめんね……ごめん……」

 

「とんだ箱入りだ。クマガキのことも笑えねぇ」

「なるほど、世間に馴染めないはずだ」

―――ラン、初雪

 

 
ランがとうとう初雪に姿が表した。それもおそらく霊体ではなく、肉体のほうで。そしてどういった経緯で初雪と一緒にいたのかも……すべてさらけ出したんだろう。

自分がどうしてランと暮らしていたのか?
ランはどうして自分を育ててくれていたのか?
ランの目的は?


そういった様々なことを。そして自嘲気味に「クマガキと一緒じゃねえか笑えねえ」と初雪はごちる。

―――

しかしランが真実をさらけ出したことで、疑問が生じる。

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1、なぜこの時にランは姿を表したのか?

 

ランが本当の姿をさらしてしまえば、初雪の「復讐」という動機はなくなってしまう。初雪は魂を討たれたランを取り戻すべく、復讐を成そうとしてきたのだから。


ランが初雪の前に登場することで、ランとゴースト達の悲願「佐々木を殺す」ことが困難になってしまうんじゃないか?


初雪的にはランさえいれば、復讐なんてどうでもいいはず。

 

この時期に、ランが姿を表さなくてはいけない理由?ねえ……。

 

1つは、「シロクマが告白」したことを思い出す。そして初雪がシロクマと約束したことが重要なんじゃないかなと私は思う。


「あの……」

「あのね。ありがとう」
「いっぱい、お世話になりました」
~~
「受かってたら、キスくらいしてやるよ」

―――シロクマ、初雪 

 
別にそんな重要な約束ってわけではないんだけどね。

ここから想像し飛躍してく。

ランは「初雪が復讐しなくなってしまう為の要素」を、ちゃんと把握しているんだと思う。つまり初雪は「ラン以外の誰かを愛してしまえば」復讐は起こさなくなるということを。

もし初雪がこのまま順調に、シロクマもしくは綾と気持ちを重ね大事な存在へとなっていってしまったら、ランの悲願は達成されなくなってしまう。

そしてランからすれば、もうそれは起こりえる未来だと判断したんじゃないだろうか?


「ごめんね。もう、ダメなの」

「たとえ、さめても、あなたの悪夢は終わらないんだよ」

「あなたは、やり通すしかなかったんだよ」

―――ラン

 

これはランからの「復讐をやり通せ」という強い意志を感じられる。ランは何が何でも初雪に佐々木のじっちゃんを殺して欲しいらしい。

だからこそ、パレードの日まで、初雪を部屋に監禁しようとしたんだろう。

 

 

 

 

 

シロクマに伝えたいこと

 


「なぁ、ラン。今日だけ、行かせてくれないか」

「決して、顔を出すことはない。ただ、死者としてあいつに伝えたいことがあるから……」

「だから、一度だけ行かせてくれ」

 

―――初雪

 
顔を出すことはないと言っているが、初雪はこの日一度シロクマに面と向かって話しているよね? どういう意味なんだ。

 

このとき。


「シロクマ、柳公園の、一番、桜が綺麗に咲いた樹のもとで、待っているからな」

―――初雪

 

 


「店長っ」

「店長!」

「店長?」

「いるの?」

「あの、あのねっ」

「受かったよ!」

「桜咲いたよ」

 

 


「おめでとう」

 


「そこに、いるんだよね」

「顔見せてくれないの?」

「ダメなんだ……」

「なん、で?」

「幽霊だからな」

「悪夢みたいな顔をしてるんだ」

「それでもいいよ」 

「よくねぇよ。俺だって、男としての矜持がある」

「好きだと言ってくれた女に、別れ際にこんなツラ見せたくない

 

―――シロクマ、初雪

 

さっきのランとの会話もそうだけど、この日の初雪はやたらと「顔」を気にしている?

最初はシロクマと別れるのが辛くて、泣き顔を見せるのが嫌だったと思っていた。でももしかして違う可能性もあるんだろうか。

顔がなくなってしまったとか。
初雪としての顔が別物になってしまったとか。
ゴースト化するということは、顔が……???

 

 


「店長はどこへ行くの」

「また会える?」

「言っただろ。俺は、桜の精霊なんだ」

「咲いて、散って……いなくなる」

「そんな……」

 

「桜が咲いているうちは、ここにいるからな」

「辛くなったら、来ればいい」

背中蹴りつけるぐらい、してやるよ

―――初雪、シロクマ

 

 

初雪が自分のことを「桜の精霊なんだ」と言っている部分はとてもほっこりする。……そっかそっか……って。

もう初雪からしてみれば、「冬を越していた」んじゃないか? だってランが生きていると別れば、復讐なんてなんの価値もないのだから。


彼が「復讐なんてこんなもんか……」と思ってしまえば、それだけで冬を通り越し春へと到れるのではないか? あずま夜のときのように。

自分の復讐をバニッシュしてしまえば―――。
ただ彼のこの後の結末を見ると、なにがあったのか分からないが、この時の「俺は桜の精霊なんだ」という「誰かを応援したい」っていう気持ちを失くしてしまったようだった。

 


「背中蹴りつけるぐらい、してやるよ」

 

初雪らしくとても不器用な言葉だけれど、これにはシロクマ頑張れよ、応援しているからなという気持ちがめちゃくちゃに詰まっている。



 

 

醒めている。

 


「あなた……」

「少し、醒めてるみたい」

「ぼんやりと、ぼんやりとな……」

「それでもここに来たの?」

「来る意外にないんだよ」

「ランや、俺や……あるいは、いろんな奴のことを考えれば、来る以外になかった」

 

「今のあなたにゴーストを率いることが出来るかしら」 

「そうだな……あのガキに付き合ってるうちに、いろいろと忘れかけていたが……」

 

「それでも」

「この日が来れば、嫌でも思い出すさ」

「俺はゴーストチャイルドになるために、育てられたんだから」

「それ以外にはなれない」

「人にはなれない」

「だから、お前を討つ―――」

 

「コノハサクヤァァァァ!!!」

 

一周目のとき、サクヤがなにを言っているのか分からなかった。醒めている?えなにがアルコール? みたいな感じだった。

でもそうじゃない。


サクヤが言っているのは、「夢から醒めた?」と聞いているのだ。「夢から少し醒めた?」と。

初雪は答える「ぼんやりと、ぼんやりとな……」と。


つまり、
「ランの真実を知ったのか?」
「少しづつ少しづつな」
「それでも来たの?(=復讐しに来たの)」
「来る以外になかった」

この2人の会話は、そういう会話なんだろう。

 

私はさっき初雪は復讐の気持ち忘れてたから、自分を桜の精霊と呼称したのかなと言いました。

でもどうも違う?


「ランや、俺や……あるいは、いろんな奴のことを考えれば、来る以外になかった」

―――初雪

 

ランが現実に生きることが分かった! でもランは復讐を望んでいることも分かってしまった! それ以外のゴーストも復讐しろと叫んでいる! 


となると、初雪の願いは書き換えられてしまって「ラン達の願いを叶えること」になってしまったんじゃないだろうか?……。

なんというかこれは……心の中で叫び続けるゴーストみたいな感じじゃないか……。

 

 

 

サクヤと初雪と春

 


「ごめんね。ゴーストチャイルド。あなただって、生きたかったでしょうに」

「俺は生きたかったのか……?」

「卒業して、その先の季節へ至りたかったのか……」

「いつからか、分からなくなっていた」

「シロクマ……」

「あのガキほど、誰かを希み、愛しもしなかった」

「頑張らなかった」

「気づいた時には、全部遅かった」

 

「あぁ、そうだ」

「誰も悪く無い」

「ただ……」

「俺もまた、ガキだったんだろう」

 

―――初雪、サクヤ

 

ここなー……ここの問題すごい複雑だよねえ……。


初雪には主体性というものが無い。自分でこうしたいから、こうしているわけではない。

全部「誰か」の願いや気持ちに突き動かされて、自分の行動を決めてしまっている。ランを取り戻そうと願うも、ゴースト達に「佐々木に復讐をすれば彼女は戻ってきます」そう言われ復讐するのが彼なのだ。

そして、初雪が「春に至りたい」と思うのも、ランとの約束だからそう願っているのではないか?

 


「学園、きっと卒業しよう」

―――ラン 

 

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いやだからといって責めているわけではない。外発的要因ばかりで動いているのはさすがに危なかっしいが、初雪にだって内発的な動機はちょこちょこあったりする。(今は関係ないので割愛)

問題なのは、


ランの「悲願」「約束」どっちを取るか? ということ。
そしてランは初雪に「自分の悲願を達成して欲しいのか」・「彼との約束(=卒業)を貫いて欲しいのか」が分からない。


ランが一番に願っているのはなんだ?
もしかしたら、ラン自身さえも分からないことなのかもしれないが……。


復讐はしたい、でも初雪に卒業もしてほしいと。でもこの2つは相容れない……。冬にずっとい続けることを選ぶのか、冬と乗り越え春に至るのかという問題だからだ。


……。

 

 

 

学園行きたくない……

 


「なんかね。皆、シロクマよりずっと大人みたい」

「テレビのこととか、オシャレのこととか。話してること、全然ついていいけないの」

 

「学園行きたくない……」

「あずま先輩とかが声かけてくれるんだけど……」

「それじゃぁダメなんだよね」

「全部、店長がくれたものばかりで、残してくれたもので。それにしがみついてたら、きっと立派になれないんだよね」

~~

「今日ね、学園でね。クラブの仮入部があってテニス部に行ってみたよっ」

「立派になるからね」

「そしたらいつかまた、会えるよね」

―――シロクマ

 

シロクマの中では「立派になる=初雪と会える」と信じているみたいだった。
けど立派になることと、初雪にあえることはもちろん無関係だと思う。

なぜシロクマは、この二つを関係していると見做したんだろうか?


店長に告白して振られ、合格発表のとき別れ、今に至る。桜の木の下で初雪が言った言葉が大きく解釈されているのかもしれない。


「桜が咲いているうちは、ここにいるからな」

「辛くなったら、来ればいい」

 

「背中蹴りつけるぐらい、してやるよ」

―――初雪

 

(どう大きく解釈すればいいのだ?!)

桜が咲くうちはここにいる。(春が終わっても春はまたやってくる。また春に至ることで初雪に会える。)

かなあどうだろう。

 

 

 

 

桜の精

 


「あのね、桜の精霊って知ってる?」

 

「桜の樹には、精霊がいてね。樹の上の方から、春に、新しい生活に出発する人達を応援してくれてるの」

 

「だから、あんなにいっぱい花を散らしてくれるんだよ」

 

「元気が無いときはこうして、桜の樹にじっともたれかかると良いんだって」

 

―――シロクマ


みんなみんな誰かのことを応援している。辛いときに励ましてくれたり、投げ出しそうになったときに声をかけてくれたり。苦しいときに力を貸してくれたり。

桜が初雪に。初雪がシロクマや綾に。そうやってみんな誰かの卒業の幽霊がいる…。

 

 

 

 

初雪のゆくえ

 


3月20日。内田川邊をあげてのパレードにおいて、要人殺害未遂事件が発生する。犯人は、パレードの中に紛れ、仮装姿で佐々木議員に接近。手にしていた刃物で襲いかかる。

抵抗と妨害にあい、身につけていた爆薬にて自爆テロに及ぼうとするも、失敗。そのまま逃走。

警備員が後を追うが、見失った。

翌日未明、2キロほど離れた旧内田市街の一画において、不審火が発生。焼け跡から少年の焼死体が見つかる。

検死の結果、白崎学園3年制、河野初雪という少年であることが判明。奇しくもその日は、彼の卒業式の日だった。

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シロクマの物語だけが、「初雪の復讐のあと」を描いている。厳密には「失敗した復讐のあと」だが。

それでもこれは大きな道標になる。



この一文が正しいとするなら、初雪は佐々木を殺しにかかった。けれども「抵抗と妨害」にあう。おそらくサクヤか、宮棟一派の行動だろう。(サクヤにつっこんでいく初雪の場面ありましたし)

そして「Prologue」と同じく、廃墟ホテルは火に包まれる。誰が火を放ったのか? 初雪か?宮棟一派か?それとも自暴自棄になったランか?

ホテルが火に包まれることで「Prologue」は終わるが、その先があるのがシロクマ編である。

どうも焼け落ちたホテルからは「初雪の死体」とおぼしきものが発見されるとのこと。現代の科学技術でも死体は彼のものだと裏付けられている。


しかし初雪は生きている。

これはどういうことだ?何を指し示している?


 

1、初雪が本当に死んだ


初雪は本当に死んだと仮定してみよう。となると彼は肉をもたないゴーストになっているんじゃないだろうか?

肉体は焼き尽くされるも、魂だけは怨嗟によって取り残された魂のみで稼働しているのかもしれない。

しかしここで疑問が湧いてくる。それは「魂だけの存在が現実に干渉できるのか」というもの。


今ままでのゴーストと肉をもった人間の事象を観てみる。

a 初雪とゴーストの関係→ゴーストが初雪に復讐を託すのは、自分たちじゃ佐々木を殺せない(=現実に干渉しにくい)からではないだろうか。

b 桜とサクヤの関係 →桜のゴースト。反魂香が焚かれたエリアのみ顕現。そしてより強く現実に顕現するには「サクヤとの契約」が必要。

c あずま夜とナイトメアの関係→ あずま夜の生霊がナイトメア。反魂香によって呼び出される。ナイトメアは現実に干渉できていたかは不明。(カエルの合唱を起こしたりすることはできるみたいだが、自分が直接手を下せるわけではない?)→だからこそゴーストチャイルドを呼びだそうとしたのなら納得できる。自分ではできなから、誰かに任せようとしたのだから。

d 綾とアキラの関係→ 綾が反魂香によってアキラを呼び出す。アキラは綾の身体を使い現実に干渉していた。(初雪がアキラに出逢ったとき、あのときも綾の身体を使っていたのかは不明)


いろいろ不明な点が多すぎるが、1つだけ分かるものがある。それは「非力なゴーストでは現実に干渉できない」と観ていいんじゃないだろうか。

初雪が非力ではなく強力な例外としてのゴーストに変わり果てたというのなら、シロクマとエッチしたり(=現実に干渉)することも可能なんだろうなと。とりあえずここ保留。

 

 

 

 

一年後の冬

 


河野初雪という少年には身内もなく、幾人かの友人が真相を究明しようと奔走したらしいが、彼の生も死も、この大きな街の中で、ひっそりと葬られた。

その記憶も存在も、跡形もなくこの街から消え去った。葬儀も行われるこなく、ただ静かに、彼の痕跡は失われた。

 

それから一年後。

彼が所属していた学園で、ある噂が広まる。

旧市街の近くで、焼死した河野初雪少年の姿を確かに見たというのだ。

証言したのは、彼と親交があったとある少女だ。
~~~

彼はぼろぼろの黒いマントをまとい、街灯の下に佇んでいた。

【我はゴーストなり、ついに生者にも死者にもなりきれず、永遠に境をさまよい続ける】

【愛する者の魂を復活させるため、再び蘇り、災いをもたらすだろう】

 

佐々木を殺すという復讐は失敗した。けれども初雪はまたこの季節が巡ってくるのを待ち続けていたように思う。

この「冬」という季節に、復讐を完了させたいんじゃないか? じゃなければなぜわざわざ一年後の冬というタイミングを狙ったのか。


 

 

 

綾のゆくえと玉樹先輩

 


「おはよう、シロちゃん」

玉樹先輩だ。

「あの事件の後、店長が失踪し、あややも、大学に通うようになったのか店に現れなくなり、近況も知らせてくれない

いつの間にか、居候だった私一人が取り残される格好となり、店を閉めるしかないという話しになった時、玉樹先輩が現れ、続けようと言ってくれた。

 

~~~

「ここで、河野君を待とう」

「もし河野君が戻ってきたとき、訪れるのは、学園ではなくこのお店のはずだから……」

 

―――シロクマ、玉樹先輩(サクヤ)

 

 

え? 綾はどこ行ってしまったんだ?…。なんでシロクマに連絡をよこさないんだ?…。

最悪の事柄を想像してしまうんだが……。え?

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綾はなにも特別なことが起きなければ、その実力から大学に入ることは楽ちんだっただろう。大学に進学し、勉強し喫茶店に通い詰める未来は想像しやすい。
でもそうはなっていない。だとすれば綾に「なにか」があったんだろう。まず最悪の結末から考えてみる。

初雪はもう肉を持っていないと仮定する。つまり人ではなく本当の霊としてのゴーストとなってしまった。しかし彼は現実に干渉できるほどの力を持っている。

もしかしてこれは、綾とアキラときのように、綾の肉体を、初雪が借り受けている状態なんじゃないか?……。オーラス「Graduation」で綾が初雪のために奔走した。それがシロクマ編でも起こっているとしたらどうだろう。

 

パレード前に綾に電話がかかってくる。相手はオーナーである。オーナーは綾が失った二年前の冬の出来事を告げる。そして初雪の復讐を手助けしてとも言うのだ。

綾は了承するだろう。初雪との2年前の記憶を思い出したのなら、彼女は初雪のために初雪を応援することだけに必死になる。

彼の復讐を手助けすることになる。


そうして初雪の復讐は―――満たすことが出来なかった。様々な妨害にあい、復讐を完了することができなかった。

ホテルで焼死し、ゴーストとなった初雪。彼にそれでも復讐を成し遂げさせる為に、綾が自身の肉体を差し出したとしても……不思議ではない。



もしくはこういうのも考えられる。


一年前初雪はパレードで佐々木を殺そうとした事件。

全てが終わったあとに綾もまたそのニュースを知ることになった。初雪がテロを起こし、挙句の果てに焼死したということを。

綾がこれ以降、2年前の初雪の冬の出来事を思い出したのかは分からない。でもどっちにしても、すごいショックだったんだろうなとは想像できる。

…………もしかしたら何かしらの罪悪感を抱えて1人で自棄になっている浪人の姿を想起した。



 

 

 

 

罪悪の設定方法

 


「あれは初雪じゃない」

「と言いたいけど、分からない。結局、俺だって初雪のことをちゃんと知っていたわけじゃないんだ」

 

「今思えば、単にぐれてるとかじゃなくて。どうしようもない事情を一人で抱え込んで、苦しんでいたんだと思う」

 

あの時の俺がもう少し、配慮できていたら。何に苦しみ、何のために失踪したのか……

―――希


希が初雪の事情を知らないからといって、もちろんそれは悪いことでもなんでもない。けれども、そのことに罪悪感を抱いてしまう。関係ない2つを、関係あるように思ってしまう。

自分の中に罪悪感を設定してしまうことがある。

あの時ああすれば、あの時初雪になにかをしてあげていれば……と。
こうなってしまった時、それは「自分と相手を繋げたい」と思っているからそうなってしまうのかもね? と思っている。

つまり、希の「初雪と関係していたい」という気持ちが、希に罪悪感をもたらす結果になっているんじゃないだろうか。

 

 

偶然?それとも必然?

 


2年前の冬……私は唐突に、祖父から家を出て九州の別荘で暮らすように言われた。理由を聞いても、お前のためだ……と言うばかりで教えてくれなかった。

だけど、昔からろくに学園に通わせてもらえずに、家に閉じ込められて暮らしていた私はそんな勝手な命令にとうとう爆発した。

そうして、家を出た。

推測するに、祖父は……自分が命を狙われていることを知っていたのだろう。そして、その累が、家族である私に及ぶことも。

自宅すら、安心は出来なかったのかも知れない。それで私だけでも、遠い場所に非難させておこうと思ったのかも知れない。

私はそれが嫌で家を出て……あの喫茶店にたどりついた。

でもあの店で、私の面倒をみてくれてた店長は、まさに祖父の命を狙っていた張本人だった。

あれは偶然だろうか。
……

―――シロクマ

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偶然なんだろうか……分からない。

シロクマがどういう経緯で喫茶店「カンテラ」に辿り着いたのかが別れば、偶然か必然かの答えも見付けられそうだが。

考えてみよう。

おそらくシロクマを喫茶店に手引したのはオーナー(以下ラン)だ。佐々木が復讐の相手だというのなら、佐々木の身辺を洗い家がどこにあるのかを探しだしていても不思議ではない。

つまり、ランは佐々木の自宅を見張っていた。(他ゴーストに監視を任せていたのかもしれない)。そしてその家から家出をする少女を発見する。

交渉のカード。もしくは佐々木を確実に殺すために使える道具として、シロクマを喫茶店まで誘導した……と私は考える。

どうせシロクマのことだから、「帰るところがないのかい? ちょっとお仕事するだけで食べ物と寝る場所を与えよう」なんて言われればぐるるるしろ!と唸りながら付いていくに違いない。(あまりにアホの子だがありえるだろうとは思ってしまう)


ならば、初雪と出逢ったのは必然だろう。

 

 

 

 

今度こそ討つよコノハサクヤが

 


「ねぇさっきも言ったけど、もしかしたら……もしかしたら……、河野君がシロちゃんの前に現れるかもしれない」

 

「けれど……絶対に近寄ってはいけない」

「あなたの知ってる河野君ではないから」

「それはゴーストだから」

「ゴースト……」

「どうなるんですか」

「うん?」

 

「その、ゴーストは」

今度こそ……」

コノハサクヤが討つよ

 

―――シロクマ、玉樹先輩(サクヤ)

 

 

サクヤは言う。"今度こそ" 初雪を討つと。

一年前、サクヤと初雪は対峙した。そして初雪は負けた。でも―――サクヤは討たなかったのか。

討つことができない状況になったのか、討つことに躊躇いがあったのかは分からないが、少なくともサクヤは初雪を殺しはしなかった。

ゆえに今度こそは……か。


実際のところ、サクヤに初雪は討てるんだろうか? 力のランクという意味ではなく、サクヤの心情的にさ。

サクヤは顔にもそぶりにも全然出さないが、それでも初雪になにかしらの好意を抱いているのはかすかに分かる。シロクマの物語ではあまり顕著ではながい、あずまの物語ではいやというくらいにサクヤは初雪に親切だからだ。

 

 

 

 

二回目の告白

 


「ずっと……」

「ずっと好きだったんだよ」

 

「おい。シロクマ」

「いつか、お前に告白されてきっぱりと断ったな」

「……うん」

 

「悪いが、今はそんな場合じゃないんだ。そういうことに関わってる場合じゃないんだよ」

 

「……」

「そっか」

 

 


「あ、あのねっ。私……っ。それでも―――」

「それでも店長に関わりたいと思っても、店長は受け入れてくれないのかな」

「私じゃだめかな」

―――シロクマ

 

告白なあ……それも初恋だもんね……諦めたくなんてないよね……。その想いが成就しなくなったとき実を腐らせてしまうかどうかは……まだ分からない。

でも、……。……。。。。

 

 

 

 

揺れる心


俺は何をしようってんだろう。

あのガキが警察を連れて来ないとも限らない。

このままここにいるのも、危険かもしれない。

それでも、もし。
奴がここを一人で訪れたなら。

 

「奴の思いが続いているのなら」

「俺の復讐が続いてたっていいだろう」

「……」

「俺は……どっちだ」

奴に来て欲しいのか。来てほしくないのか。

どっちにしろ、もうすぐ終わる。

2年後しの冬が、終わる。

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もう初雪にも何が何なのか、どれがいいのか正しいのかよく分からなくなっているんじゃないか……。

この良いとか悪いというのは、初雪がそれを「良い」「悪い」と価値付けること。彼が復讐を是として、それが正しいものだと思って突き進んでいるなら、初雪はシロクマのことで悩まないとは思う。

だって復讐が正しいとしているのならば、シロクマは"来る"ほうがいいに決まっている。佐々木との交渉に使える大事なカードになるからだ。

でも初雪は「来て欲しいのか。来てほしくないのか」分からないという。


分からなくなっている……か。



一年前のパレードの事件。あれから初雪がどういった心境で生活してきたのかは分からない。

なぜ未だに、なお、復讐を続行させているのかも不可解である。(ランの悲願を達成させたいといってもその動機はあまりにも弱い。長期間続けられる動機ではないように思える)

だから、たぶんね。もう初雪は「なぜ」復讐をするのかという理由について思考を停止している。考えていない。

復讐はなされるべきだ―――それ以上の気持ちはないんじゃないか?





 

 

暗闇

 


「暗闇ってのはいいもんだ」

「暗闇?」

「いろんなことが気にならなくなる。何も見えなければ、何も憎まなくていいもんだ」

―――初雪、シロクマ


うんそうだね、そうだと思う。
復讐する相手だとか、それを囁く声とか、そういうのが全部全部"見えなく"なれば怨嗟の気持ちはなくなってしまうと。



「自首しようと思うんだ」

「え……」

「どんな理由にせよ、罪をおかした。このままじゃぁ、一生俺は、こうして闇の中でこそこそ、都合の良い幻想ばかりにすがって過ごしていかんきゃならん」

「そういうのは、もうごめんだ」

「真っ当に生きたい。やり直したい。まだ、人生。長いんだから」

―――初雪、シロクマ


初雪のこの言葉は、シロクマを騙そうとして言ったことなんだろうか。
シロクマを懐柔するために?
よりよく信頼してもらおうとするために?

私には初雪の心の囁きに聞こえる。本心とか本音とかそういった類の声に聞こえる。根拠はやっぱり無い。ただそう思うのだ。


初雪はいつだって、そう焼け死ぬときまで「立派になりたい」「春に至りたい」とそう望んでいた。きっとそれは彼の根幹に値する感情なんだと思うから。

だからゴーストに成り果てたとしても、初雪はいつだって心のどこかで「冬から抜け出したい」とそう願っているように見える。

 

 

 

 

繋がり合わずにはいられない

 


「2年前、店長が死んじゃったって聞かされて…でも、この冬にいきなり現れて…」

「うれしかったけど、どこか現実感が無くて、信じられなくて。もしかしたら、幽霊なんじゃないかって思って……」

 

「でもこうして、シロクマの中で店長を感じることが出来て。店長はちゃんと生きてたんだ。夢じゃないんだって、思えて」

「えへへ。それで、うれしいの」


「あ、あ、あっ。いっちゃう、いっちゃう。ばーんって、いっちゃいしそうだよっ」

「店長、店長、店長ぉぉぉ―――」

「ぐるるるしろぉぉぉぉぉ!!!」

 

―――シロクマ

 

現実感がないことは、おそらく観念的な領域に移行してしまっていることを指すんじゃないだろうか。

現れて消えて現れてを繰り返せば、そこには「もしかして存在しないんじゃないか?」という疑問を抱かずに入られない。それが実際にあることを実感するには「触れる」という五感での接触でしかない。

これ以外に人間ちゃんは、相手の存在が"あ"ることを実感できないのだ。


例え店長がシロクマとえっちしても、それで生きていることにはならない?……(なにがいいたいのかさっぱりだよわたし)

 

 

 

 

 

やっぱり人ではない

 


「河野初雪。あなたはやっぱり、人でなくなっている」

「以前のあなたは、いくら目的のためとは言え、もっと手段を選んでいた」

「放火をしたり、彼女を……利用したりなんて、えげつないことはしなかった」

 

「ハハハハハハハハハハ!!!」

「人ではなくなっている? 昔の俺はもっと手段を選んだ? 知ったようなこと言いやがって」

 

「昔の俺を美化しているだけだ。俺は最初からこんな感じだ」

「最初から、人の心を持たないゴーストだ」

「てめぇこそどのツラ下げて俺の前に現れた」

 

―――初雪、サクヤ

 

初雪は昔を美化していただけだ、俺のことなんか何も知らないくせにというが、やっぱり「一年前の初雪」と異なっているように思える。

だってガキを利用することにとても怒っていたじゃないか。

 

 

 

 

辛辣な言葉・サクヤ

 


「2年前。てめぇ、玉樹を利用して、何をしていた」

「あげく、今は何食わぬ顔で、奴の名前をなのっているというのか」

「今だから言うが、俺はあいつのことを気に入っていた」 

「それだけに、てめぇらのやり口には、ほとほと怒りがこみあげるよ」

あの子の気持ちに気づけなかったあなたには、もう私のことも、あの子のことも語る資格なんてない

 

―――サクヤ、初雪

 

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そんなこと言われると……もう何も言えないじゃんか……。何かをするのに、なにかの「資格」を持ちだしてきた時点で、それは「黙れ」と言っているのと等しい。

それも命令という形式ではなく、相手自ら自粛させる方向に向かわす。自分から黙るようにする。それが「なにかしらの資格を求める」ことだと私は思う。

~~
サクヤもサクヤで怒っているんだろう……。桜の名前を騙るなんてふざけんなと言われ、じゃああんたはどうなんだよ? と。

桜は愛しい人に忘れたまま討滅されてしまった。サクヤがこのことに酷く胸を痛めていても不思議じゃない。だってサクヤは桜のことが好きだったから。



「この2年の間に……ゴーストになりきってしまっている」

 


「ミルがいい反魂香によって、彼の本当の姿を」

 


「あの冬が終わったとき、彼は……結局、春に至れず。永遠の冬を生きるゴーストとなった

 

「Prologue編」と「シロクマ編」の大きな違いはここだ!

Prologueの最後、初雪は思ったんだ。「立派になれなかったなあ」って。「針に至れなかったな」って。そしてランを桜を追い求めるかのように、観念の世界ですべてを昇華した。

反対に「シロクマのEpisode」では、初雪は「立派になれなかったな」「春に至れなかった」と "思っていない" 。そう思っていないんだこんなこと。

だから復讐を続けるという、永遠の冬を過ごさなくてはならなくなってしまう。初雪自身が復讐の価値と意義を見つめなおさなければ、彼は春には至れない。

春に至れないってことは、復讐を続けるゴーストになるしかないということ。

 

 

 

シロクマの本当の名前。本名?

 


「おい! ち。ドジをしやがって」

「宝!」

「下がってください。佐々木さん。ひとまず、外へ。」

「しかし、宝が」

「すぐに、私が助けに戻りますから。とにかく外へ」

―――初雪、佐々木、サクヤ

 

佐々木のじっちゃんは、シロクマにむかって「宝」と連呼する。ふつうに捉えると佐々木のじっちゃんからすれば「シロクマは宝のような存在」ということだろうか。 

でもこれって、シロクマの名前なのでは? 「望月宝」という名前かも?

もちづきたからかー

 

 

 

 

ならば同罪だろう

 


「私ではない。あの事件は……」

「が、関係ないとも言わないよ」

「おそらく、いつかはそうなることを知っていた。私は止めなかった」

「ならば同罪だろう」

「……」

「何を言ったところで、君は納得しないだろう。私を殺すまで、君を突き動かす憎しみは、消え去らない」

 

―――老人(佐々木)、初雪


そうだね……初雪の憎しみを取ってあげるには、復讐を完了させるかもしくはランより大事な人を見付けなければいけないから。


ゆえにサクヤは問う。初雪が復讐を復讐として終わらせるのではなく、もっともっと気づいて欲しいことの為に。

 


「あなたは、そもそも誰のためにゴーストとなろうとしたのかさえ、忘れてしまっている」

 

「今夜が最後のチャンスだよ」

思い出すんだ。河野初雪」

~~

「今、このホールに、ゴーストが蘇っていると言うのなら」

あなたには、会うべきゴーストがいるはずよ

 

―――サクヤ

 

初雪が「桜」というゴーストを認識できるようになるためには、何が必要なんだろう?

きっと今まで通りではいけないんだ。桜を "見る" ために必要なことがきっとある。それは―――

 

それは?

 

 

 

 

桜を見るということ

 


奴が逃げる。

「待てっ」

「う、ぁ……痛い、ょ」

「ち」

 

この機会を逃したら、二度と……

 

「河野君」

……

「なに?」

「……」

「お前は……」

「玉樹か?」

「……」

「いや、お前は。そうだ」

 

「外はもう、春だよ」
……

 

「くそ……って」

「手を伸ばせ」

「シロクマ」

 

 

―――初雪、シロクマ、???

 

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初雪がシロクマを助けるか、佐々木を殺すかという2つを天秤にかけたとき、桜の声がした。

「外はもう春だよ」と。

 


あずま夜のときも、最後には初雪は「桜の存在」をちゃんと感じ取ることができたのだ。風が桜の花びらを持ってくるあのときに。

(綾と希はまだ読み解いていないのでどうだったけな……)


あずまとシロクマのEpisodeで共通してそうなのが、「初雪が春に至れた/至りそう担った時」、ようやく桜の声が届くんじゃないだろうか? 

桜はたぶんずーっと呼びかけていたんだ思う。「Graduation」の初雪が高校入学したときのように。応援して声かけて励ましていたんだとおもう。


でもその声が届くには、初雪が「冬から春へ」と移行しなければ "聴く"ことも"見る"ことも出来ないんじゃないか?

 


「お前だったのか。ずっと、このホテルで、俺を見ていたのは」

 

 ずっとこのホテルで―――という言葉は、この年に初雪が帰ってきてからずっと? それとも初雪がランと暮らしていたあの時からのずっと?

おそらく後者だろう。初雪はようやく「桜の真実」に気づいたように思えるからだ。

 

 

 

親の呪い

 


忘れていたのは、誰だったか。

俺は、なんで復讐をしようと思ったんだっけ?

ランのため……。皆のために。

 

シロクマのじじぃなんて、なんでこうまで手にかけようとしたんだっけ。そうだあいつが……このホテルで、皆を、俺の大切な人たちを殺したから。

しかし俺はあの頃、まだ物心つくかつかないかで、強く恨むほどの記憶なんて無いはずじゃないか。

佐々木恭吾などという男の仕業だと、どこで俺は知ったのか。そう思うようになったのか。

 

この焦がれるような復讐心は一体誰のものだったんだ。

俺は……

どこかで、俺はなにかに、屈していたのか。

心の中に巣くい、俺を駆り立てていた、暗い何かに。

―――初雪

 
初雪の心の中に巣食っているのは、彼の父親の情念だろうか。

それを解くにはどうすればいいんだっけ?「Graduation」でそれがあったように思うが忘却の彼方。


たぶん具体的にあるはず。初雪の心の暗いなにかを打ち払うやり方が。そのやり方が知らず知らずのうちに、ここでも起きていたんだろうと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 ガキを利用するな

 


俺が淋しいガキで、淋しい人間に成長してしまったように。だからこそ。

誰も、ガキを利用したり、騙したりしちゃいけない。

俺はそれを一番分かってるはずじゃないか。

俺こそ、そうやって育てられたんだから。

そうして、こんな風になってしまったんだから。

 

それが……どうして。

「俺は何かに負けてしまったんだろうか」

 

復讐とか、世間とか、自分とか……

この2年で何かに膝を屈していたんだろうか。

ふらりと、この街に戻ってきたことがあった。

 

そこで、大学生になったり、予備校にかよっている同級生の連中を見かけることがあった。取り残されてしまったと、らしくなく感傷的になった。

進むためには、復讐を果たすしか無いのだろうか。そんな思いだけが、慰めだった。

 

好きだと言ってくれた少女の姿を見かけた。

ずいぶんと、様変わりしているようで……まぶしかった

あの冬に取り残されていく寂しさに、俺は、負けてしまったんだろうか。そうして、誰のためでもない。自分のために、こんな愚かな復讐を、果たそうとしているのではないか。

 

―――初雪

 
初雪は自分の為に、と言っているがやっぱりここは「父親のせい」だろう。初雪が復讐を強く思うのも、彼や他のゴースト達のせいだよ。

もしかしたら、後に引けなくなったこともあるかもしれない。無駄だと無意味だと分かっても、その為に様々なものを投げ打ってきたんだ。自分がしてきたことの果てを望んでしまうのは人の情としてよく分かる。

 


「いつかお前に、俺は、桜の精霊だと言ったな……」

「あるいは、俺は、そういうものになりたかったのかもしれない

「どうせ、ゴーストになるなら、そういうものになれたら良かったって思ったよ」

「だから……」

「最後にらしいことをさせてくれ」

 

―――初雪

 

 


「がんばれ」

「苦しいよ。店長」

「がんばれ」

「はぁ、はぁ……」

「俺が背中押してやるから」

「うんっ」

「走りぬけよ、シロクマ」

「うん―――」

 

初雪がシロクマに「がんばれ」「背中を押してやるから」というのは、間違いなく彼が卒業の幽霊と同じ役割を持った、からだろう。

誰かを応援するための存在に。
それこそが桜の精かなと思った。

応援、立派、桜の精、卒業の幽霊、卒業、Graduation。

 

 

 

これしか無かったのかなあ

 

 


「こうするしか無かったのか。俺は」

「こんな終わり方しか、用意されていなかったのかなぁ」

「……」

「お前は……」

「……」

「桜か」

「すまなかった。お前のこと、ちゃんと見えていたら、こんなことにはならなかったのかもな」

 

「俺はお前のところに、行けるのかなぁ」 

「あなたが地獄へ行くなら」

「私も行くよ」

 

「……」

「やっと冬が終わる」

「長い冬が終わるんだ」

―――初雪、ゴーストプリンセス

 

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初雪は最後の最後に「シロクマを愛した」んじゃないかな……。シロクマを助けたのは、自身の矜持のためというよりはシロクマを応援したかっただけなんじゃないのかなって思う。

Prologueで「彼は世界を愛さなかった」と桜は言った。世界を愛す? それは誰かを愛することと同一のものだ。

誰かを愛するからこそ、復讐という行為を振り返られるのかもしれない。自分が今まで行なってきたことを振り返られるのかもしれない。


初雪が自身の復讐の価値を問うたように。そしてそこから立ち上がりシロクマを応援したように。

 


「シロクマ……」

「奴には悪いことをしたが、良い夢も見られた」

「ごめんな」 

 

一年前の冬、初雪は復讐に失敗した。一年後初雪は憎しみに囚われ、ふたたび復讐を成し遂げようとした。しかし失敗におわった。

でも初雪は言う「良い夢を見られた」と。


つまり、初雪にとってこの冬たった一瞬のシロクマとの思い出、シロクマを応援したことそれがとってもとっても素敵なものだったんじゃないだろうか。

……。…………。

 

 

 

ゴーストは見ることができない不安

 


「ゴーストというのは闇の中にしか生まれないのです」

「しかし、闇の中にいる以上、人には見えない。つまり、どうやっても人の目に映るはずのないもの達です」

 

「光で闇を照らしたならば、その時、闇は消え、ゴーストもまた消えるのだから」 

「あるとしても、決して見る事はない。ゴーストとは、そして人の不安の正体というものは、存外、そういうものです」

 

「不安な人間は、自身の不安の正体が分からないからこそ、いつまでも不安だ。対処のしようもない」 

「不安の正体を見付けようと、光で照らしてみれば、存外、そこには何も無かったりする。ただからっぽの、穏やかな部屋の様子が見つかるくらいです」

「己の杞憂に苦笑いをして、再び灯りを消して扉を閉じて彼は外へ出て行く……」 

「が、ほどなく聞こえてくる。扉の向こうで誰かがささやく声が、とんとんとあちら側からノックする音が。カリカリと、何かをかきむしる音が」

 

「不安が、そこにある」

「皆様はこれから、いくつもの正体不明のゴーストにでくわし続けることでしょう」

「つかんでもつかめない。見えないけども、確かにどこかにいるゴースト達が、あなたの失敗を不幸を、闇の向こうからクスクスとあざ笑う」

 

「そんな時は、どこかにいるゴーストを捜そうとするよりも、己を見つめ、心のうちを照らしてみることです」 

胸に確かに残る、明るい記憶で……

 

「どうか今日という日を忘れないで下さい。皆様の門出を祝福するために、空が晴れ、多くの方が集まり、こうして厳かに式が執り行われたことを」 

「そこには確かに、『おめでとう』の一言が捧げられるだけの理由があるのです」 

「その祝福を、忘れないでください」 

「卒業おめでとう」

 

 

―――校長

 

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ゴーストとは不安である。不安は闇の中にしか生まれない。しかし闇の中にいる以上、自分で見ることはできない。

光で闇を照らしても、そのとき闇は消え、不安もまた消える。存在しても決して見ることはできないそれが不安。

 

不安の正体が分からないと、いつまでたっても不安な状態になる。そこから抜け出せない。

不安というのは自身の内側になるもの。どこかを捜すよりも、己を見つめ、己の心のうちを『胸に確かに残る明るい記憶』で照らしてみること。

祝福されたその日を、その思い出で強く強く照らしてみる―――きっとそれは大事なことなんだろう。

 

校長先生が言っていたことを、初雪に当てはめてみる。

復讐すべき相手などいない。復讐する動機もない。どこかにあると捜してみてもどこにもいないのだ。

捜すべきは自身の心のうちである。そこに巣食う闇。その闇を照らすには、胸に残る明るい記憶で照らしてあげればいい。一時的なことかもしれない。でもそれでも―――。

 

 

 

 

シロクマ卒業す

  


「また来ちゃった」

「ダメだね。私はいつまでたっても、自立できないみたい」

 

「店長のことも忘れられなくて。ここに来ればって、今でも思うんだ」 

「卒業したのに。何も成長してないね。私」

……

「でもね。来週から、ロシアに行くんだ。ロシアだよすごいよね」

「一人で、行くんだよ……」

 

 

 

 


あややも、玉樹さんも、どこか行っちゃったし」

 

「お店には、もう誰もいないよ」

「結局全部、嘘で……幻みたいな時間だったけど、変なの。あの時の思い出ばかり、今でもはっきりと私の中には残ってる」

 

「それでね、私。ロシアに行けば……」

嘘が本当になるような気がして。変なの

「それでも、何も本当にならなくて。遠い土地に行って、やっといろんなことを冷静に眺めることができたなら

 

その時こそ、バイバイ

「……」

でもそれまでは、私はロシアから来た子で、店長は、桜の精霊で……」

そうして、またいつか会えるって」

「思ってもいいよね」

 

「じゃぁ……ね」

……

 

卒業おめでとう

 

「……え」

「あ……」

「行ってきます!」

 

―――シロクマ

 

 

初雪のことが大好きで忘れられなくて、だから、初雪がとの思い出である「シロクマ」を縁にロシアに旅立とうとするシロクマ。

シロクマは言う。


「嘘が本当になるような気がして。変なの」

「それでも、何も本当にならなくて。遠い土地に行って、

 

 

好きな人が隣にいない。大事な人がどこにもいない。でも諦めきれない。諦めるなんて無理だよ。そういった想い。初恋をずっと抱える気持ち。

 

これって本当にただただキツい。恋が結ばれることも、叶うこともないんだと分かっていても、それでもなお求め続けるにはいられない。

 

―――だってほんとうに大事だから、大好きだから。

 

 

でもそんな叶わない願いを持ち続けることは、いずれは心を腐らせてしまう。だって本当にこれは辛いと思うよ。

 

初雪がいないことを認めるのは嫌だけれど、初雪のことを想い続けるのもつらい。そんな感情の板挟みは、シロクマをゴースト(亡者)にさせかねない。

 

……。

 

おそらくシロクマもこのことは分かっているんだろうだから。

 


「やっといろんなことを冷静に眺めることができたなら」 

「その時こそ、バイバイ」

 

 

"好き"って気持ちを持ち続けることは……なんつーか……純愛って綺麗なものじゃなくてもっともっとキツくて悲しいものなんだよね……と感じる。

 


たとえ幽霊だとしても。

化物だとしても……

私はあなたに会いたい。

店長……

―――シロクマ

 

誰かを一途に思い続けられるって、とても素敵なことだと思う。

 

でも初雪がこの世に存在しないのだとしたら……それはもう届かない願いとなり行き場をなくしてしまって…………あああ;;

 


「でもそれまでは、私はロシアから来た子で、店長は、桜の精霊で……」

「そうして、またいつか会えるって」

「思ってもいいよね」 

「じゃぁ……ね」

……

 

卒業おめでとう

 

「……え」

「あ……」

「行ってきます!」

 

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それでも最後までシロクマを応援する初雪は、ほんとイイヤツ。卒業おめでとううう><!!!シロクマ!!!

 

たぶんもう初雪は現世に「人」としては存在できないんだと思う。ゴーストでも人でも無くなった彼は、ほんとうの「桜の精」として(ゴーストプリンセス・桜のように誰かを応援する)形となって存在しているんじゃないだろうか。

 

だから……たぶんシロクマは初雪に会えない。でも初雪はずっと彼女を見守っている。そういう未来なんじゃないかな……。……。

 

頑張っているやつの前に、卒業の幽霊は現れる―――ね。綾の言葉を思い出す。

 

<シロクマEpisode 感想 終>