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『明日の君と逢うために』 月野舞 感想 (5238文字)

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評価:★★★★(4.3)

 

「あたしは、奇跡を望んでないから」

 

「もしも神様が本当にいるなら、みんなの願いを叶えてくれるべきじゃない?」

 

 

 

 

 

 

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奇跡を望まない舞

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「あたしは、奇跡を望んでないから」

「もしも神様が本当にいるなら、みんなの願いを叶えてくれるべきじゃない?」

きっと、舞は神様を必要としてない。だから、舞にとって『神様はいない』んだ。


奇跡を望まない、神の祈らない。それはとても幸いなこと。本当に悲劇にみまわれた人は、祈ってしまう。「かみさまおねがいします」と。

昔に比べて今は致命的なものに遭遇することが減ってきているんだと思う。自然災害や、飢餓など。世界を見渡せば今でもそれは当たり前のように起こっている。だから御風島に”限って"は少なくなったんだ。

奇跡を望まない人は、神様を必要としていない。だから神様を見える人が少なくなってきているだろうね。

 

 

 

 

状況に合わせないと辛いだけ

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ここも、色んなことが変わっちゃってるの。状況に合わせて自分も変わらないと―――辛いだけよ

止まったままの時計を持っていることは、それだけで苦痛……なんだろう。本当なら動かすべき、状況に合わせて適応するべき、現実に即して生きるべきなんだ。

でも、これは一人じゃ厳しいと思うんだよ。

 

 

 

 

もしもあーちゃんが、あーちゃんとして帰ってきてくれてたら

 

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取り戻すために戻ってきた俺と、すべてを失って帰ってきた明日香。

「ねえ、シュウ君」
「もし、あたしが記憶を無くさずに戻ってきてたら――」

やはり、明日香は気にしてしまうのか。
失われた可能性のことを。
今の明日香は、俺の知っている”あーちゃん"じゃない。

それでもいいと思う。人は変わってゆく。同じままではいられない。けれど―――思ってしまう。考えてしまう。

「今頃、あたしとシュウ君はどうなってたかな?」

 
きっと現実だけを、未来だけを見ていたら、「もし」とか「たら」とか考えないなだろうね。もしああだったら、もし明日香の記憶が損失していなかったら―――そう考えてしまうのは、過去によるせいだ。

過去に囚われていると、過去ばかり見つめていると、そういうことばかり考えてしまう。どうなっていたんだろうねほんとうに。

きっと幸せだったんじゃないかなって思うよ。シュウにとっては7年間分の想いをやっと取り戻せる。あーちゃんはシュウを覚えていて、シュウはあーちゃんを覚えている。

それが哀しいことなんてあるわけがないんだ。

 

 

きっと会ってどうしようかなんて

 

「うん。あたしが戻ってきたのは―――」
「きっとシュウ君に会うためだったんだよ」

「でも……毎日会えるのに、どうしたらいいのかわからないの」
「きっと会ってどうしようかなんて考えてなかったんだね」


子どもの頃の純粋な気持ちを抱えたまま、俺たちはここまできた。

 
シュウもあーちゃんも純度が高い。純粋な好意をいだいて、今日までやってきた。あーちゃんは向こうの世界から、帰りたいと望んだ。
それはシュウがここの世界にいるから。大好きなシュウちゃんがここにいるから。あーちゃんにとって唯一の居場所だった彼がここにいるから。

その代償が、シュウと過ごしてきた記憶すべてだなんて、皮肉にもほどがあるんだよ。

 

 

 

 

好きになる理由

 

「八代ちんはさ、人が人を好きになるのに理由は必要だと思うか?」

「でもさ、純粋に人を好きになる、そんなときに特別な理由なんていらない」

俺があーちゃんに抱いていた感情は、純粋な好意だった。

好きに理由はいらない。好きだなーって思って好きかなーって感じて、好きだって分かる。この言葉私は大好きだ。

 

「八代ちんがどうして島へ戻ってきたのかはわかってる」

「でも……人は過去だけじゃ生きていけない」
「過去っていう寄る辺がなきゃ、現在も未来もない」

「それは、明日香が自分で取り戻すことで、八代ちんの役割じゃない」

「でも、過去にこだわっていた自分をかいほうしてあげてもいいんじゃないかな」

明日香のことは大切だ。けれど、それは恋や愛じゃない。それを認めるのは、あの日からの自分のすべてがウソだったと言うのと同じだと思ってた。

 

 

 

リボン

 

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「森の奥に落ちてたんだ。それ以来、東京に行ってからも、こうっちに戻ってからもずっと持ってた」

「……どうして?」
「どうしてかな。ただ、そうだな―――」

不意に、舞の顔が脳裏をよぎった。そして、自分がなにをするべきかも唐突に理解できてしまう。

「これは、明日香に返すよ」「えっ……」

「もう明日香には会えたんだし、昔の思い出にすがってる必要なんてもうないよな」

「だから今は―――明日香が持っているべきだと思う」
「これは、明日香のリボンなんだから」
「そっか」

 

シュウにとって黄色いリボンは、あーちゃんとの絆だった。あーちゃんがここに生きていたという証拠でもあり、あーちゃんとの思い出がウソじゃなかったっていう大事な品物だったんだ。

7年間もずっとずっと持ち続けてきたんだ。ひたすらにあーちゃんが帰ってくるのを待ってきた。7年だよ。7年間も一人の女の子を想って、身につけていたものを過多見放さず持ち続けてきたんだよ。

それはもうどれくらいにシュウが哀しい想いをしてきたかわかることの証なんだと思う。
そしてそれを、明日香に”返す"ってことは、あーちゃんとの思い出をふっきったってことでもある。過去じゃなくて明日を見つめているってことでもある。

 

でもね……やっぱり、あたしはシュウ君に持っていてもらたいな

お願い、シュウ君。そのリボンはね、きっと昔のあたしがシュウ君に残したものだから

もしも、シュウ君が本当にこれが必要ないと思っているなら、返してあげて
そうだなあ……そのリボンは、ちっちゃかったあたしがこの世界にいた証拠だよね

だから、この世界に返してあげてよ

 

 

 

ばいばい、シュウ君

 

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まだ、舞と付き合ってることは、明日香にははっきり告げてないのに。……なんで俺、言えないんだろう?

「ちょっと寂しいけど……でも、あたしも嬉しいよ。シュウ君が楽しそうだから」

「待ってくれよ。なんでいきなりそんなこと言い出すんだ?」
「気にしない、気にしない」

明日香は、顔の前で軽く手を振って。それから、ぴょんと一歩飛んだかと思うと。

「―――!」
軽く背伸びをして、俺の頬にキスをした。

「お、おい明日香……」
舞ちゃんに怒られちゃうかな?」
でも、ほっぺだけだから許してほしいな」
「あ、そうか。秘密にすればいいんだね


バイバイ、シュウ君

 

そうして明日香はこの世界へいなくなった。そうだったんだよそうだった。明日香はシュウに会うために戻ってきた。けれど、その肝心のシュウは舞のほうばかり向いていた。

だから明日香は消えた。そうだったんだよ。これは7年前、あーちゃんが消えたときと同じなんだよ。あーちゃんは言った。この世界だと私の居場所がないと。

今回もきっと同じだ。明日香は一年前に、記憶を全損失してこちら側へ戻ってきた。それがどれほどの恐怖なのか、想像するだけでも恐ろしい。

自分が誰だかわからない。自分に話かけてくる人が誰だかわからない。優しさも好意も全部怖い。そんな中彼女は「明日」の約束だけを胸に今日まで生きてきたんじゃないか。

シュウと出逢うまで、毎日頑張って勉強して、頑張って社会に適応しようとしてきた。

そんなシュウが、舞しか見なくなった。明日香はどれほどの寂しさを抱えていたんだろう。なんでこんな想いを抱くんだろう?とか脳天気に考えていたのかもしれない。

明日香にも孤独感や寂寥感や悲しさの原因はわからないけれど、感じていたように思える。そうなったらもう7年前と同じだよ。彼女はそもそもこっち側に、シュウ以外の未練なんてないんだよ。

だったら消えちゃうよいなくなっちゃうよ。明日香の居場所は、シュウだけだったんだよ。あああくっそ。

小夜もリコも、あさひもそして舞も、どの娘を選んでも、明日香は消えてしまうんじゃないか? シュウは明日香の方をむかないんだもの。それともタイミングが悪かっただけなのか?

リコのENDで明日香がいたのは、途方もない奇跡の上に成り立っている未来だったのか? ふざけんなふざけんなふざけんな。

 

 

 

 

 

 

 

明日へ

 

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そう、俺は諦めたりしない。
だから、もう一度掴むんだ。
彼女の手を。

それは神に奇跡を願う気持ちに似ていたかもしれない。
けれど、俺は……俺も、もう奇跡を望まない。
舞と同じように、現実と向き合って生きていく。

「俺は、舞のことが好きだ。他の誰よりも」

舞を失うことを恐れるんじゃなく、舞とともにいられることを喜ぼう。

 
シュウが神様に奇跡を望まないと言ったのは、それは自分で解決できるということが一つ。もう一つは、現実で生きるってことなんだろうね。

「奇跡」なんていう万能機は、この世界には本来なら存在しない。哀しいことも辛いことも苦しいことも、いつだって神様なしでやっていかなくちゃいけない。

自分たちだけで乗り越えていかなくちゃいけない。それは一人って意味じゃない。もう一人含めてで。

 

 

 

ごくごく普通に生きてきた

 

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あたしは、今までごく普通に生きてきたんだと思う。


少しの失敗はするけど、大きな挫折もない。
放任主義だけど優しい両親がいて、友だちもいるし、学校も楽しいわ

哀しいことや辛いことが何もなかったわけじゃないけど…… あたしは心から大切にしているものを奪われたことなんてない 

明日香のことは忘れない。けれど、俺は……舞と生きていく。

明日香と過ごした記憶も、想いも抱えたまま、前を向いて生きていく。

 

舞の物語は、7年前のあの日のリフレインだったんだ。あの時と同じ失った痛みを耐えてなお、奇跡を望まず、明日香が帰ってくることを求めず、ひたすら現実だけを、未来を明日を見つめる。

それが出来たのは、月野舞っていう女の子のおかげ。彼女は、奇跡を求めなかった。普通の人生を歩んできて、普通に暮らしてきた。前を向いてきた。現実に、地に足をつけてたから、シュウを向こう側へと行かせないことができたんだと思う。

 

「シュウ君に会いたい、ただそれだけだったんだと思う」
「だけど―――」
会って、話をして、でも、それからどうしていいのかわからなかった
でも、気づいたんだよ」
「あたしは、あたしの居場所を見つけていないことに

きっと、明日香と俺はよく似ていた。
お互いを求め、お互いに居場所を失い、探していた。

シュウ君に会いたかったけど、その隣があたしのいたい場所なのかわからなかった。ねえ、シュウ君。シュウ君は、自分の居場所を見つけたんだよね?

「…………」
そう、俺は自分のいるべき場所を見つけた。

それがあたしの隣じゃなかったのは残念だけど……
でも良かった。
シュウ君が、ずっと”昔のあたし"を見ているのは嫌だったから

だから、神様と……りんと一緒に行くよ
自分の居場所を見つけるために
だけどもう、あたしを追いかけたりしちゃダメだよ

 

なんて悲しいお別れなんだろう。明日香があっちにいくのを引き止めたくて仕方がなかった。だって、きっと、もう会えないよ。そんなふうに想ってしまう。

 

「舞……俺は……」
「本当は明日香を追いかけたかったんだ」

凝れ落ちて行く涙をそのままに、俺は言った。

「世界のすべてを捨てても、それでも明日香と一緒に行きたかった」

「でも……俺には、大切な人がいるから……舞と一緒にいるために、できなかった」

「それは、今までの俺への裏切りだと、信じてくれた明日香への拒絶だと思ってたんだ」

「俺は、自分勝手で、鈍くて、いつだって大切なことは失ってから気づいて……」

 
もう泣くしかないんだよ。

なあ、舞。俺は……この島に戻ってきてよかったよ」

あーちゃんを取り戻すことはできず、明日香を失った。それでも、今はそう思える。

「あーちゃんじゃなく、明日香に会えてよかった」


7年の悔恨を払拭するために、どれかの痛みと覚悟が必要だったんだろう。きっと舞がいなければ思えなかった気持ちなんだろうけれど、それでもシュウはいっぱい傷を負ってきた。

 

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「……これを」「明日香も俺も過去に縛られていたんだ」
「だから、リボンをこの世界に返して―――」
「終わりにするよ」

きっと永遠に忘れない。明日香とすごした夏の日を。

 

 

 

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